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【PRI Open Campus】~財務総研の研究・交流活動紹介~
「人材マネジメントと組織開発に関するワークショップ」座談会1
~変わる働き方、変わる組織~

一橋大学経済研究所 教授 宮本 弘曉/神戸大学法学研究科 教授 大内 伸哉

政策研究大学院大学 教授 安田 洋祐/財務総合政策研究所 副所長 上田 淳二


「人材マネジメントと組織開発に関するワークショップ」座談会2
~人材マネジメントを“自分ごと”に 若手職員による座談会~

財務総合政策研究所 総務研究部 研究員 酒井 花野/研究員 別所 範優

研究員 宇津野 翔大/研究企画係員 後藤 可那子/係員 篠原 裕晶*1

2025年10月~2026年3月にわたって、財務省財務総合政策研究所が開催した「人材マネジメントと組織開発に関するワークショップ(以下、WS)*2」。経済学、法学、経営論など多様な分野の有識者が集まり、人口減少・AI時代における働き方や組織の在り方について議論を重ねてきました。

今回、その議論を振り返りながら実施した座談会の内容をお届けします。なお、本文の内容は全て発言者個人の意見であり、所属機関等の見解を表すものではありません。

宮本弘曉

[プロフィール]

宮本 弘曉

一橋大学経済研究所 教授/前・財務総合政策研究所 総括主任研究官/本WS座長

0.本座談会の狙い

上田)今回のWSでは、本当に多様な委員とゲストの方をお迎えし、「働き方」や「労働市場」について、これらが誰しもに関係する大きなイシューであるという認識を共有することができました。改めて、本座談会での議論を通じて、読者の皆様にもその課題意識を共有できればと思います。

今回議論する上で、特に意識したいことは二点です。一つは、普段あまり「マネジメント」を自分ごととして考える機会が少ない財務省職員に、その重要性を認識してもらうこと。もう一つは、従来型の審議会や勉強会とは異なる、熟議的なワークショップという形式そのものの有用性を伝えることです。

そのため、本日は大きく三つのテーマについて議論したいと思います。第一に、なぜ今、人材マネジメントや労働市場を考えなければならないのか。第二に、個人、組織、政府はどのように行動すべきか。第三に、今回のWSのような「場」は、これからどのような意味を持つのか、についてです。

1.なぜ今、人材マネジメントを考える必要があるのか

宮本)まずマクロ経済学者の立場から申し上げると、日本経済を取り巻く前提条件そのものが大きく変化しています。人口構造の変化、AIの発展、GX(グリーントランスフォーメーション)など、これまでのトレンドが大きく変わる時代に入っています。雇用というのは、生産活動から派生する需要です。よりマイクロなレベルで言えば、マネジメントの在り方も経済のトレンドに従属して変化せざるを得ない。高度成長期に合理的だった仕組みが、そのまま現在も合理的とは限りません。もちろん、日本型雇用慣行──年功序列や終身雇用など──が悪い仕組みだったと単純に言うつもりはありません。こうした仕組みは、ある時代には非常に合理的だった。しかし、生産活動を取り巻く環境が変われば、制度も変わらなければなりません。

大内)法学者の立場から補足すると、日本型雇用慣行というのは、解雇規制など法制度とも密接に結びついて形成されてきたものですが、これがうまく機能しなくなってきました。

たしかに、人口増加時代には、新卒採用を大量に行うことで組織内の新陳代謝が自然に起きていました。しかし、人口減少時代になると、新しく入ってくる人が減り、内部の循環も弱くなる。従来型組織の前提が崩れてきているわけです。

また、1990年代以降のコーポレートガバナンス改革も重要です。高度成長期には、会社はある意味で「経営者と社員の共同体」でした。中長期的利益を追求する中で、社員教育に投資するインセンティブも強かった。しかし、近年は、法の原則どおりの「企業は株主のもの」という考え方が強まり、各種の改革もあって短期利益の追求への圧力が強まってきた。その結果、長期雇用を前提にした人材育成へのインセンティブが弱まっているのではないかと思います。こうした大きな潮流の中で、人材マネジメントや組織開発が重要な課題と捉えられていると考えています。

安田)ミクロ経済学者の視点で言うと、労働市場は本来、情報の非対称性が大きい市場ですが、ITはそれを緩和しつつあります。マッチング精度が向上すれば、外部労働市場だけでなく、組織内部の人材配置の在り方も変わっていくはずです。くわえて、人口減少に伴う売り手市場の進行によって、日本でも雇用流動化が進みつつあります。適切なマネジメントや待遇がなければ、人は辞めていく時代になりました。そうなれば、組織のインセンティブ設計も当然変わらざるを得ません。

また、ITの進歩は働き方そのものを変えることも可能にしました。それにともなって、評価の仕方も柔軟に変えていくことが必要です。従来は、長時間職場にいて、上司の近くで働く人が、評価される傾向にありました。WSでは「その場にいないペナルティ」という言葉に象徴されていましたね。しかし、ITやデジタル技術の発展によって、その前提自体が崩れつつあります。フルリモートやダブルアサインメント(通常1名で行う業務をあえて2名体制にする手法)の仕組みを整えれば、従来は物理的制約によって十分に働けなかった人たち──育児や介護を担う人、高齢者など──も、その能力をいかんなく発揮できるようになります。多様な人材にどう心理的安全性やモチベーションを提供するか、という点で、従来の方法は通用しなくなっている面もあります。

1-1.AI時代のマネジメントをどう再設計するか

宮本)ITの進歩は「評価」の在り方を変える、というのはおっしゃるとおりだと思います。同時に見逃せないのは、ITやAIによってマッチングコスト同様、「評価」のコストも大きく下がる可能性がある、という点です。これまでは、一人ひとり、一つひとつのジョブやタスク、スキルとその成果について精緻に評価することが、コスト面で難しかった。だからこそ、年功序列がある種の納得感を持つ制度として機能していたわけです。しかし、今は違う。技術的には、より精緻な評価が可能になりつつある。新しい技術を前提に、より良い評価制度を設計していく必要があると思います。

大内)現時点ではHR(Human Resources)テックやAIで解決できる領域には限りがある点にも留意が必要です。人間による評価でないと納得感が得られないという側面も確かにあるのです。AI裁判官に判決を下されて納得できるか、という話と同じです。技術の進歩だけでなく、人間側の意識変化も必要なのだと思います。

そこで課題になるのは、上司世代と若手世代のデジタルギャップです。これはWSを通じて強く感じたことです。効率化の必要性は理解していても、デジタル技術への感覚には世代差がある。AIの方が得意なタスクと、人間が担うべき感情労働をどう切り分けるか、すりあわせていくべきでしょう。例えば、医療においても、診断というタスクはAI、患者への告知というタスクは人間、といった役割分担が進むかもしれません。このように、ジョブをタスク別・スキル別に再定義していく必要があります。AIによって必要なスキルセット自体が変化していくからです。

宮本)技術的にはAIに代替可能かもしれないが、あえて人間が担うべき、とされるジョブをアントン・コリネック氏*3は「ノスタルジック・ジョブ」と呼んでいます。先に挙げていただいたような、倫理に関わるジョブがそれにあたりますが、その境界線は人間が時代の価値観に合わせて不断に決めていかねばなりません。そこでは、責任をもち判断を行う、「ボス*4」としての人間の役割も期待されるでしょう。AI時代は、むしろそうしたジョブこそ価値が高まる可能性があります。

大内)評価の問題は非常に難しいものです。評価基準が曖昧で適切に評価ができないという問題は、「その場にいないペナルティ」とも関係しています。結局、ジョブが不明確なことが根本原因なのだと思います。ジョブで評価できないからこそ、「長時間職場にいて、上司の指示を待てる人」が評価される。良い評価を得るために、年休を返上して忠誠心を示すような文化も、そこから生まれてきます。

宮本)上司が「その場にいる人」しか評価できない、という問題の原因には、日本型組織では長時間労働への報酬が、賃金ではなく「昇進」という形で支払われていることにもあると思います。結果として、長時間労働を続けてきた人ばかりが管理職になり、旧来型の構造が再生産されていくのです。

もう一つ大きいのが属人化の問題です。「その人がいないと仕事が回らない」状態を防ぐ仕組みをつくることこそ、本来マネジメント層の役割でしょう。これが解決されない限り、「その場にいる」ことが求められ続けることになります。

本来、マネジメントは専門技能です。海外では、マネジメントを学び、トレーニングを受けた人が管理職になるのが一般的です。働き方が変わる今こそ、「マネジメントのプロ」を育てることについて真剣に考えた方が良いと思います。

安田洋祐

[プロフィール]

安田 洋祐

政策研究大学院大学 教授/株式会社エコノミクスデザイン 共同創業者/本WS委員

1-2.「軍事的世界観」から「冒険的世界観」へ

安田)先日手に取った、安斎勇樹氏の『冒険する組織のつくりかた*5』が非常に示唆に富んでいたので紹介させてください。本書では、従来型組織は「軍事的世界観」を持つ組織、これから必要な組織は「冒険的世界観」を持つ組織と呼びます。単一の目標に向かって、上からの命令に従って組織を動かす──そういう軍事型組織が合理的な時代は確かにありました。戦後日本には「キャッチアップ」という明確な目標と先行事例が存在していたからです。しかし、キャッチアップが終わり、不確実性が高まり、正解が見えない時代には、それでは対応できない。むしろ、大きな方針を定め、周囲のモチベーションを高めるリーダーのもと、メンバーが自律的に判断し、自分の価値観や問題意識から新しいものを生み出していく「冒険型」の組織が必要になる、というわけです。

大内)非常に面白い視点です。戦後の日本の経営には、従軍経験者の影響もあり、戦中からの軍隊式の指揮命令が残っていました。「上長の命令は絶対」という管理スタイルが、目標が明確で人材も豊富だった高度成長期にはうまく機能した。しかし、今は、まず目標を具体的に設定し、そのためにどんな組織・人材が必要かを逆算する時代です。「プロジェクト」ごとに、IoTやAIを使いながら、専門的な情報を結集させていく業務形態へ移行しなければならない。そのためには、まず、今あるジョブ・タスク・スキルが具体的に記述されていなくてはなりませんし、彼らを束ねる管理職の役割も、ほんとうの意味での管理ができる人でなければなりません。海外では、そういったことのできる管理職は最初から専門的知識を持っている前提で採用されることも多い。日本もその方向を考える必要があると思います。

上田)霞ヶ関には、総合職という「幹部候補生」を採用する制度がありますが、ではマネジメントのための教育が行われているかというと、そうではないようにも思います。幅広い経験をすれば能力が向上するということが前提となっていましたが、技術や環境が大きく変化する中で、そうした前提が異なってきている可能性があります。

ジョブやタスクを再構成する必要がある中で、ある特定の歴史的条件のもとで合理的だった制度を、長く続けるだけではなく、時代にあった形に見直していく必要があるように思います。

安田)「軍事的世界観」のアナロジーで言えば、軍隊には士官学校のように「管理職を育成する仕組み」があります。下士官兵は年を重ねれば組織を離脱するからこそ、棲み分けができていました。一方、日本型組織は軍事型であるにもかかわらず長期雇用を前提としたため、幹部人材の大半が生え抜きになるような歪な構造になってしまった。こうした制度の見直しは必然でしょう。

繰り返しになりますが、不確実性が高い時代においては、専門性を持ったマネージャーが一人ひとりの価値観・夢・偶然の発見を重視する「冒険的世界観」へ転換する。これこそが、新しい働き方や組織のデザインが求められる時代には必要なのだと思います。

2.個人、組織、政府はどのように行動すべきか

2-1.霞ヶ関の組織開発はどう変わるべきか

上田)では、次に、こうした前提のもとで、個人、組織、政府はどのように行動すべきかを伺いたいと思います。特に、「外部ステークホルダーの直接的な影響が限定的となりがちな霞ヶ関において、どのような組織開発が必要なのか」について、お考えを伺えれば幸いです。

宮本)まず必要なのは、現状維持バイアスを破るため、小さな変化から起こしてみることです。例えば、1~2年ごとの短期間での頻繁な異動が適さない部署については、その慣行を見直すべきではないでしょうか。AI時代には、専門性を獲得することがこれまで以上に重要になってきます。また、若く優秀な人材を年次に関係なく登用することも必要でしょう。少なくとも、待遇面で適切に報いるべきです。

大内)私は、かなり根本から考え直す必要があると思っています。民間企業であれば、社長が変わり、パーパスや評価制度を抜本的に変えることで、組織が大きく変わることがあります。財務省も、その存立理由──我々は何を目指して働いているのかというパーパス──を改めて問い直す必要があるのではないでしょうか。

高度成長期には、「国家の発展に貢献する」という明確な物語がありました。しかし、今は違う。財務省ありきではなく、国民が何を期待しているのか、そのために何をすべきなのかを、職員皆で共有する必要があると思います。給与によるインセンティブが限られる以上、なおさらです。

安田)一方で、財務省を見ていると、外部人材も含め、多様なバックグラウンドを持つ人が集まり始めており、組織は少しずつ変わっているとも感じます。宮本先生がおっしゃったような、一部の部署での異動スパン変更くらいであれば、比較的小さな改革として実行可能かもしれません。制度改革には時間がかかりますが、小さな変化が積み重なり、10年、20年かけて大きな変化につながっていくのではないかと感じています。

大内)小さな変化の前提として重要なのは、「デジタル技術優先」──デジタルをまず使ってみる──という意識です。例えば、税務行政でも、デジタル技術によって所得情報を正確に把握できるようになれば、税務署の仕事そのものが変わるはずです。

また、人材配置についても、AIによるスキルベースのマッチングはやはり有効でしょう。AIを利用して、本人の「やりたいこと」だけでなく、「できること」「組織として必要なこと」を総合的に考えながら、適材適所を実現していく。その方が、結果として労働者の幸福度も高まる可能性があると思います。

宮本)パーパスだけでは組織が動かないという現実も直視する必要があると思います。やはり、ある程度待遇面で報いる必要があります。例えば、類似する業種の平均給与に応じて俸給を設定するということも考えられるでしょう。

また、リボルビングドア──官民をまたぐ人材循環──ももっと増やした方が良い。異なるバックグラウンドを持つ人が入ることで、組織は変わっていきます。

くわえて、国際機関や民間企業のように、省内公募制を導入して内部労働市場を活性化することも重要でしょう。

2-2.個人と組織をどう成長させるか

安田)組織は、単に人を配置するだけではなく、本人が「自分は何ができるのか」「何をやりたいのか」を掘り下げられるように支援する必要があります。軍事型組織のように「駒」として人を動かしていては、ミスマッチが起き、モチベーションも生産性も上がりません。

大内)日本型雇用慣行の歴史は、企業組織が内部で人材育成を担ってきた歴史でもあります。しかし、今は、人間とAIの役割分担がどう変わるかも見通しづらく、組織にとっても人材育成が非常に難しい時代です。

上田)人間とAIの分業以前に、ジョブもタスクも評価基準も曖昧なままでは、人材育成と言われても、という問題があるように思います。霞ヶ関の中で、色々な部署で例えば10年間働く中で、暗黙知として仕事の進め方を学んでいくのは、もちろん有効ではあるのですが、非常に迂遠なプロセスでもあります。何が評価されているのか分からないまま、経験だけを積むというスタイルは、なかなか今の若い世代にとっては理解しにくくなってきている面があるのだろうと思います。

大内)しかも、その10年間で身につくスキルの多くが、「ファーム・スペシフィック・スキル」──組織特殊スキル──であることも問題です。これは、長期雇用が前提なら合理的でした。その組織に留まる方が企業にも労働者にも利益になっていたからです。しかし、リストラや早期退職のリスクもある流動化の時代には、労働者の市場価値を下げるデメリットの方が大きい。組織の都合で市場価値を失わせておきながら、終身雇用では守ってくれないとなれば、人が組織に忠誠心を持たなくなるのは当然です。

上田)長く組織の中で仕事をし、また、別の組織での仕事をする中で、「組織の明確な目標に合わせて人を育てる」という従来型モデルは、やや限界に来ているのかもしれないと感じることがあります。個人を特定の型にはめて育成するのではなく、普遍的な「タスク」と「スキル」の枠組みで、組織と個人を記述し、マッチングしていくという発想が必要になってきているのではないでしょうか。

安田)しかし、組織が汎用的なスキルの取得を支援すると、それは組織からの離脱を後押しすることに繋がってしまいます。WSの議論で挙がった、「スポーツ選手の移籍金」のように、組織間で労働移転が起こった際、教育訓練投資が補償されるような制度があれば、組織も積極的な人材投資を行いやすいですね。

大内)あるいは、大湾先生*6が指摘していたように、その組織でトレーニングを受ければ市場価値が上がるという評判に基づいて、そこへ高いポテンシャルをもった個人が自然と集まるようになる状態も、流動化が進めば実現しうると思います。

こうみると、汎用的なスキルの取得を組織が支援することは本来組織にとってもプラスになるはずなのですが、この点についてはまだまだ過渡期にあります。

安田)その意味でも、早い段階から組織外との交流や出向を経験させることが重要です。外を知れば、組織内でしか通用しない人材育成は自然と受け入れられなくなる。

また、副業・兼業も有効でしょう。日本型組織は上述の理由から、従業員が組織外に触れることを避けてきましたが、むしろ組織外を知る貴重な人材が、組織にダイナミズムをもたらすべきです。

大内)結局、組織外の情報に触れられない大きな理由は、長時間労働です。副業をするどころか、自らの市場価値や自業界の将来性を考える余裕もなく、残業で疲弊している。情報交換も組織内コミュニティに閉じている。だからこそ、組織自ら、働き方そのものを変えなければならないのだと思います。

大内伸哉

[プロフィール]

大内 伸哉

神戸大学法学研究科 教授/本WS委員

2-3.個人の時代に政府はどう向き合うか

宮本)とはいえ流動化が進む世界では、究極的にはスキル形成の主体が組織から個人へ移っていくと思います。ただ、自分でキャリアを設計できる人ばかりではない。だからこそ、職業訓練やセーフティネットとしての政府支援が必要になります。副業・兼業についても、外の世界を知る機会として非常に重要だと思います。

大内)個人の成長について、組織の支援が重要なのはもちろんですが、先ほども申し上げたとおり、今後の世界に備えてどのような人材を育成するべきか組織にも見通せない、難しい時代です。ここで、組織任せではない公的支援、特に教育の役割は見逃せません。早い段階から職業を意識させ、AI時代にも価値を失わないスキルや「考える力」を育て、個人個人が自ら成長する下地を整える必要があるでしょう。

小学生に職業やお金の話をするのは早いという意見もありますが、将来自立して生きていく以上、これくらいの年代から考えるべきテーマです。教育現場も、AIやアダプティブラーニングを活用しながら、先生の負担を軽減しつつ、未来志向で本当の意味での職業教育を行う必要があると思います。

安田)今の子どもたちは、長時間労働で疲弊した先生たちを見ながら育っている。ある意味で、日本社会の働き方の典型例を最も身近に見ている世代かもしれません。技術がここまで進歩した以上、それを用いて教育現場の働き方を改革しつつ、児童生徒に将来設計を促す教育へ変えていく必要があると思います。

また、組織から個人へのシフトという流れは、社会保障制度にも及ぶでしょう。いわゆる「年収の壁」や、「国民健康保険」と「社会保険」の差異などは、働き方の自由を歪めている面があります。企業組織単位ではなく、個人単位で社会保障を再設計する必要があるのではないでしょうか。

大内)その点は非常に重要です。年金、雇用保険、生活保護、新たな給付付き税額控除などと制度は分かれていても、本質的には「所得保障」という共通性があります。企業組織に属さない現代的な働き方もカバーするため、個人単位の制度へ一本化していく方向性も考えるべきだと思います。制度全体をゼロベースで見直し、個人を中心に据えた社会保障へ移行する。今は、そうした発想が必要な時代なのではないでしょうか。

上田淳二

[プロフィール]

上田 淳二

財務総合政策研究所 副所長

3.「問い」を生み出す場は、どうあるべきか

上田)最後に、今回のWSのような「場」の在り方について伺いたいと思います。

宮本)最終回で、櫻井委員*7から「大人のゼミみたいで楽しかった」と言っていただけたのが印象的でした。従来の政府の審議会や勉強会のようなフォーマルな場ももちろん重要ですが、正解がない時代だからこそ、多様な人が自由に意見を出し合える場が必要だと思っています。今回は、ハイブリッド形式やカジュアルな服装、お菓子やコーヒーなども用意し、参加者が話しやすい空間づくりにもこだわりました。

安田)私は今回のWSを、「両利きの経営*8」という経営学の考え方で捉えています。通常の役所の研究会は、ある程度方向性が決まった上で議論することが多く、どちらかというと「知の深化」に近い。しかし、今回のWSは、「知の探索」に近かった。毎回のゲストや議論のテーマが多様で、財務省の内部だけでは出てこない問いを意図的に引き出そうとしていた点が非常に新鮮でした。

また、重要なのは「誰からか与えられた問いに答えを出すこと」よりも「自ら問いを発見すること」だと思います。安斎氏の『問いのデザイン*9』という別の本に、上手く問いを引き出す技法が載っていました。例えば、「新しい休暇制度を考える」ではなく「霞ヶ関における『休む』を再定義する」と問い直す。「組織の10年後を考える」ではなく「10年後の私たちの働き方を考える」と言い換えてみる。問いの立て方を変えるだけで、参加者の当事者意識や発想の幅が大きく変わる。WSの場づくりも同様でしょう。そうした「問いをデザインする」技法自体が、今後の組織づくりに重要になっていくのではないでしょうか。

宮本)安田先生のおっしゃる「自分ごと化」は、本当に重要だと思います。今回のWSでも、参加者自身の経験や悩みを率直に話していただいた。それによって、単なる知識の交換ではなく、お互いの世界観に触れる場になった。また、さまざまなゲストをお呼びして改めて感じたのは、霞ヶ関の価値観は、世の中全体から見るとむしろ少数派なのかもしれないということです。だからこそ、外の声を取り込み、多様な感覚に触れることが重要なのだと思いました。

大内)私は、学者の研究会のように、もっと根源的な問いを自由に考えても良いと思っています。例えば、「なぜ休まなければならないのか」。あるいは、「仕事と家庭は本当に同じ価値なのか」。もちろん、一般的には「家庭を優先すべき」という答えになるのでしょう。しかし、それとは違う答えもあり得る。重要なのは、伝統的な価値も、またそれを批判する流行の議論も、自分自身で考えて評価することだと思います。枠組みを決め、その範囲で答えを探すだけではなく、そもそもその枠組みの前提は何であるのかを問い直す。そうした営みが、人の生き方を豊かにするのではないでしょうか。

上田)おそらく、大内先生が生成AIを非常に使いこなされているのも、「問いを立て続ける力」が強いからなのだと思います。組織の中にいると、どうしても「正解探し」をしがちです。しかし、生成AIが簡単に答えを返してくれる時代だからこそ、本当に重要なのは問いを更新し続けることなのかもしれません。個人がより良い問いを見つけられるようにすること。組織がそれを支えられるようになること。そして政府が、そうした個人や組織を後押しできる制度を整えること。今回のWSは、その方向性を考える一つのきっかけになったように思います。本日はありがとうございました。

図1 本WS委員(肩書はWS開催当時)

図1 本WS委員(肩書はWS開催当時)

図2 本WSゲストスピーカー

図2 本WSゲストスピーカー

*1)執筆者の肩書は、令和8年6月30日現在

*2)https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2025/jinzai.html

*3)バージニア大学経済学部 教授

*4)冨山和彦氏(日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役会長、WS第9回ゲスト)は、従来ホワイトカラーのタスクの大半を占めていた「情報の伝達・整理」業務はAIが代替し、人間のジョブとして残るのは、答えがない中で長期方針や基本方針を決める「ボス稼業」と、リアルな現場での行動・意思決定を行う「現場エキスパート業」の二つであると予測している。(冨山和彦著、松尾豊監修『日本経済AI成長戦略』文藝春秋、2026年)

*5)安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』テオリア、2025年

*6)早稲田大学政治経済学術院 教授、WS第6回ゲスト

*7)一般社団法人GENCOURAGE代表理事/本WS委員

*8)チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著、入山章栄監訳、渡部典子訳『両利きの経営(増補改訂版):「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』東洋経済新報社、2022年

*9)安斎勇樹、塩瀬隆之『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』学芸出版社、2020年

委員座談会に引き続き、ファシリテーターを務めた民間からの派遣研究員を中心として、「若手からみた財務省」をテーマに実施した座談会の内容をお届けします。なお、本文の内容は全て発言者個人の意見であり、所属機関等の見解を表すものではありません。

登壇者

写真左から順に篠原 裕晶 係員(令和4年本省入省。)【司会】 宇津野翔大 研究員(令和5年明治安田(相)入社。) 酒井 花野 研究員(令和3年(株)NTTデータ入社。) 別所 範優 研究員(令和5年西日本旅客鉄道(株)入社。) 後藤可那子 係員(令和2年福岡財務支局入局。)

写真左から順に
篠原 裕晶 係員(令和4年本省入省。)【司会】
宇津野翔大 研究員(令和5年明治安田(相)入社。)
酒井 花野 研究員(令和3年(株)NTTデータ入社。)
別所 範優 研究員(令和5年西日本旅客鉄道(株)入社。)
後藤可那子 係員(令和2年福岡財務支局入局。)

1.WSを終えて

篠原)ワークショップ(以下、WS)の詳しい内容は委員座談会やHP掲載資料に譲り、まずは若手の目線から振り返ってみましょう。財務省としても新しい試みでしたが、実際にやってみていかがでしたか。

宇津野)豪華なゲストの方々のお話を伺うだけでなく、霞ヶ関や自身の経験に引き付けて自由に議論できたのは貴重な経験でした。特に印象に残ったのは「スキルの可視化」の重要性です。OJT(On-the-Job Training)でスキルを育てる日本型雇用の良さはありますが、それを個人が説明できなければキャリアにつながりませんし、組織としても各業務に必要なスキルを明文化できなければ適切な人材配置は難しい。資格のような分かりやすい指標もありますが、ソフトスキルにはそれがない点が難しいですね。

別所)率直に言って、とても楽しかったです。民間出身で官庁の風土が分からない中、手探りで場づくりをしましたが、茶菓を用意するなど自由にやらせてもらい、それが「霞ヶ関らしからぬ」雰囲気につながったのなら嬉しいですね。内容面では、労働市場改革が個人にも組織にもプラスになり得るという点が新鮮でした。近年、スキル獲得・キャリア構築と、個人の負担が増えているという印象があり、この話題は苦手だったのですが、それによって個人は多様な働き方が可能になり、しかも組織・社会の生産性向上にもつながるというのは希望の持てる結論でした。

酒井)むしろ若いうちから全員がマネジメントを見据えた経験を積む必要があるという議論が多かったですね。働く人誰しもに関係するテーマなので、参加しやすい場にしたいという思いで、HR(Human Resources)に詳しくない者の目線から司会を務めました。スキルやキャリアの言語化の必要性には納得しつつも、いざ改革となると労働はあらゆる分野に関わるため難しい。個人のキャリアも多様な要素に左右され、何から手をつけるべきか悩ましい時代だと感じました。

後藤)私は憧れの方の前で司会を務め、非常に緊張しましたが、「ロールモデルを見つけることの重要性」が印象に残りました。さまざまな人の経験やスキルに触れながら、自分なりのモデルを築いていく。その「憧れ」こそが、個人を前に進める原動力になるのではないでしょうか。

篠原)周囲の職員から学ぶべきところ、その断片を繋ぎ合わせて自分なりのロールモデルを構築する。ロールモデルを一つのゴールとして、描いていきたいキャリアを言語化する。そこでようやく、自分が獲得すべきスキルが見えてくる。スキルはキャリアに横たわっていて、「キャリアの言語化」によって「スキルの可視化」が一層意味を持ってくるように感じました。

2.霞ヶ関・財務省を見て

篠原)では次に、財務省の働き方について伺います。民間や地方支分部局から見て、霞ヶ関はどう映りましたか。

別所)着任前は「官僚制の逆機能」といった硬直的なイメージを持っていましたが、実際には若い課長補佐級でも裁量が大きく、意思決定のスピードも速いことに驚きました。国全体に影響する判断を担う環境で、責任ある意思決定を経験できる点は大きな魅力だと思います。

後藤)地方支分部局と比べても、業務の規模や影響力は桁違いですね。その一方で、地域に密着してその声を反映する役割の重要性も感じました。

宇津野)若いうちから任される仕事のスケールに驚きましたし、若手が企画し上司と議論しながら進めるボトムアップの側面も印象的でした。中長期的な視点から逆算して業務を組み立てる姿勢も特徴的だと感じます。

酒井)一方で、係員級の若手にとっては業務の全体像が見えにくく、意見を反映しづらい面もあると感じました。異動のローテーションスパンも短く、専門性を深めて大局的に物事を俯瞰する機会は、若いうちは限られるのかな、と。

篠原)人材配置の自由度は組織の複雑性に依存するように思います。AとBの二つの仕事しかなければ、それぞれの部署の方々の異動希望を汲むことは比較的容易です。しかし、多様なポストがある組織では、全員を希望する部署にフレキシブルに配属させることは実質的に困難です。だからこそ、配属された場所で各自が十分に力を発揮できるよう、しっかりとしたマネジメント体制を敷く必要があるのだと思います。今回のWSは、そうした問題意識を改めて喚起させてくれましたし、結論ありきではなく、和やかな雰囲気で率直に語り合う場にできたことにも意義があったと思います。

3.今後に向けて

篠原)今度は反対に、WSでやり残したことなどあればお伺いしたいのですがいかがでしょう?

宇津野)今回は大局的な議論が中心だったので、今後は企業の具体的な制度や事例をより深く知る機会があるとよいですね。実務にどう落とし込むかが次の課題だと思います。

別所)まずは規模が小さくても試してみることが重要だと思います。例えば、一定期間同じ部署で経験を積める仕組みがあれば、専門性を高める動機にもなるでしょう。現状では、個人にキャリア形成が求められる一方で、異動は組織任せというギャップも感じます。

酒井)私自身、そもそも同じ組織内にどんな仕事があるのかさえ分からない中で、キャリアを考えるのは難しいと感じています。WSのように利害関係のない場で、やってきたこと・やりたいことを自由に語り合える機会があれば、自分のキャリアの棚卸しにもつながると思います。

後藤)それはロールモデルを見つける場にもなりそうですね。例えば、管理職における女性の絶対数はまだまだ少なく、ロールモデルを構築するのも難しいという話がWSでありましたが、財務省は組織が大きい分、横断的に見れば多種多様な人材がいます。民間から来ている人もいますから、色々な知見が得られるのではないでしょうか。

篠原)次のWSにつながる、様々な論点をご提示いただきました。組織も個人も試行錯誤しながら一歩ずつ進んでいくことの重要性を再確認できたように存じます。本日はありがとうございました。

対談の様子

対談の様子

財務総合政策研究所

過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html