
著者プロフィール
東京大学卒。イエール大学修士。1992年に大蔵省に入省し、アジア開発銀行理事代理、AMRO次長、アジア開発銀行予算人事局長、財務省国際局次長等を経て、2025年5月から現職。
はじめに
先月号では、AMROの国際機関化10周年を機に、その歩みと役割についてご紹介しました。
私自身、2025年5月末にAMROへ着任してから1年を迎えました。先般、この1年間の取組と今後の方向性について、ビデオメッセージを発信したところです。
(参考)ビデオメッセージ:https://amro-asia.org/watch-amro-director/ceos-first-year-in-amro
AMRO事務局長は加盟国による選挙を経て選任されます。私は立候補に際して、(1)チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)及び地域金融協力への貢献、(2)サーベイランス機能の強化、(3)技術支援の充実、(4)組織能力の強化、に向けた重点方針を掲げました。加盟国や職員の皆様のご支援・ご協力のおかげで、これらの方針は着実に具体化してきています。
本稿では、この重点方針を実現するため、この1年間に特に力を入れてきた取組をご紹介します。
新たな取組の推進
─これまでと同じことを続けているのなら、何かが間違っている。
この1年間、私は職員に対し、こう繰り返し伝えてきました。ASEAN+3地域の経済・金融を取り巻く環境は、中東情勢をはじめとする地政学的な不確実性の高まりに加え、AIなどの急速な技術革新によって大きく変化しています。こうした転換期において、AMROも従来の業務の延長線上だけでは加盟国の期待に十分応えることはできません。
このため、この1年間は、既存業務の見直しと新たな業務分野の開拓に積極的に取り組むよう職員に呼びかけるとともに、人事評価制度も見直しました。従来の業務を着実に遂行することに加え、小さなことでも新たな取組や改善につながる挑戦を積極的に評価する仕組みを導入しています。
具体的な成果として、ASEAN+3では、共同議長である日本とも連携しながら、これまでAMROが十分に関与してこなかった災害リスクファイナンスについて、加盟国の要請を受け、持続可能な事務局体制のあり方に関するレビューを取りまとめました。また、先月号でもご紹介したクロスボーダー・デジタルペイメントについても、ASEAN+3協力の新たな分野としてAMROが支援することとなりました。
さらに今後は、貿易決済などにおける域内通貨の利用状況を定期的に分析・発信する新たな取組や、日本を含む域内外の大学・研究機関との連携強化も進めていく予定です。
サーベイランス機能の強化
─AMROは、加盟国のホームドクター、さらにはジムトレーナー。
これは、私が組織の内外で繰り返し発信してきたAMROのあるべき姿です。AMROは、ASEAN+3地域に本拠を置き、ASEAN+3の国・地域のみが加盟する唯一の地域機関です。だからこそ、加盟国それぞれの実情や政策課題に寄り添い、各国の置かれた状況を踏まえた実効性のある政策提言を行うことが求められます。それが、加盟国にとって身近で信頼できる「ホームドクター」であり、さらに一歩進んで、平時から経済・金融の強靱性を高める「ジムトレーナー」としての役割です。
こうした考え方は、2025年11月に改訂した国別サーベイランス・ガイダンスノートにも反映しました。同ガイダンスノートは、AMROのサーベイランスの基本的な考え方を示すものです。近年の世界・地域経済・金融情勢の変化を踏まえ、経済・金融分析の枠組みを充実させるとともに、加盟国当局からのフィードバックも取り入れ、より実践的で加盟国のニーズに応えるサーベイランスを目指すこととしています。
また、2026年5月のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議に提出したCMIMに関するポリシーペーパーにおいても、AMROを地域の「ホームドクター」と明確に位置付ける方針が明記されました。同ペーパーは共同議長である日本とフィリピンのリーダーシップの下、加盟国間の議論を経て提出したものであり、こうしたAMROの役割について加盟国の共通理解を形成できたことは、大きな前進であったと考えています。
技術支援の強化
─サーベイランスと技術支援は表裏一体。
私はサーベイランス部門と技術支援部門の双方に対し、この考え方を繰り返し伝えてきました。サーベイランスを通じて加盟国の課題やニーズを把握し、それを技術支援につなげる。そして、技術支援の現場で得られた知見を再びサーベイランスに反映する。この好循環の実現が、AMROの付加価値を高めることになります。
この考え方の下、技術支援をより加盟国に寄り添ったものとするための体制整備を進めました。例えば、技術支援の主要な対象国であるラオスやカンボジアなどにおいては、財務省や中央銀行の局長級をはじめとする幹部とも日常的に対話できる経験豊富な専門家を現地で採用することとしました。これにより、加盟国のニーズをより的確に把握し、より機動的で実効性の高い技術支援を提供できる体制を目指しています。
また、AMROの技術支援の中核となる加盟国からのセコンドメント・プログラムについても、私自身がセコンディとのランチミーティングを定期的に開催し、率直な意見交換を重ねてきました。現場の声を直接聞くことで、加盟国のニーズをより深く理解するとともに、プログラムの改善に取り組んでいます。
さらに、ASEAN+3で新たに議論するクロスボーダー・デジタルペイメント分野でも、技術支援は重要な役割を果たします。これまで決済システムは専門性が高く、国際協力の中でも十分に光が当たってこなかった分野でした。しかし、今後はASEAN+3での議論を通じて各国の制度や能力のギャップを把握し、その解消に向けた技術支援が重要になります。このため、各国中央銀行などで決済業務に精通した専門家の採用も進め、AMROとして新たな分野で加盟国への貢献を強化していきます。
組織能力と対外発信の強化
─AMROを、真に自立した国際機関へ
この1年間は、AMROの知見や政策提言を加盟国や市場、国際社会に積極的に発信するとともに、加盟国との対話を一層深めることにも力を入れてきました。
例えば、これまでAMROでは十分に取り組んでこなかった加盟国の首脳、財務大臣、中央銀行総裁との対話を積極的に進めています。香港を含む14の加盟国・地域のうち、既に11の国・地域でこうした機会を実現しており、首脳レベルでは、日本の高市総理、シンガポールのローレンス・ウォン首相、ラオスのソーンサイ首相との面会を行いました。AMROへの期待や各国の政策課題を直接伺うとともに、AMROの分析や政策提言について率直な議論を重ねています。こうした直接の意見交換は、AMROのサーベイランスや技術支援を、より加盟国のニーズに即したものとする上でも重要です。
写真1 高市総理と著者の面会

写真2 シンガポールのローレンス・ウォン首相と著者の面会

写真3 ラオスのソーンサイ首相と著者の面会

メディア対応についても、私自身、新聞や専門誌への寄稿に加え、ブルームバーグやCNBCなどの欧米メディア、中国を含む域内メディアからのインタビューにも積極的に対応し、AMROの見方やASEAN+3地域の経済・金融情勢について幅広く発信してきました。LinkedInをはじめとするソーシャルメディアも積極的に活用しています。
国際的な場での発信にも積極的に取り組みました。2026年3月に中国で開催されたボアオ・フォーラムでは、AIIBのゾウ総裁や周小川・元中国人民銀行総裁と並んでパネルディスカッションに参加しました。また、2026年6月に東京で開催された日経フォーラムでは、マレーシアとカンボジアの中央銀行総裁を招いたパネルのモデレーターを務め、地域金融協力の重要性について議論しました。
また、日本からの提案も踏まえ、各国での年次協議後に記者会見を実施する取組も開始しました。AMROの分析結果や政策メッセージを各国のメディアに直接説明することで、サーベイランスの透明性を高めるとともに、AMROの役割への理解を広げることを目指しています。
こうした対外発信や各国トップとの対話は一過性の取組に終わらせることなく、組織として継続的に行う体制を整えることが重要です。AMROはこれまで、加盟国の要請を受け、サーベイランス機能を中心に人員・体制を拡充してきました。AMROが真に自立した国際機関としてさらに発展していくためには、対外発信、組織内外の知見の蓄積・共有、新たな取組を継続的に生み出す企画・調整など、組織運営を支える官房機能の充実が不可欠です。今後は、そのための体制強化を進めていきたいと考えています。

