巻頭文
2026年4月13日から4月18日にかけて、米・ワシントンにおいて、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催された。これらの会議は、第81回世界銀行・IMFグループ春会合(以下、「春会合」)に合わせて開催されたものである。以下本稿では、各会議での議論と、春会合に合わせて実施された日米財務大臣会談をはじめとするバイ会談の概要を紹介したい。
1 G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2026年4月15日)
今回のG7は、中東情勢を含む世界経済や重要鉱物、ウクライナについて議論が行われた。日本からは片山財務大臣、植田日銀総裁が出席した。
世界経済については、日本から、中東情勢を受け原油・金融市場では引き続き大きな変動が見られ、特に、原油先物市場の変動が為替市場にも波及し、国民生活や経済に影響を与え得ることから、極めて高い緊張感を持って市場動向を注視していることなどを発言した。また、原油・天然ガスの中東依存度が高いアジア各国の経済には特に注視が必要であることを指摘した上で、同日に高市総理大臣より発表された「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「POWERR Asia」について説明を行い、こうした支援を通じて各国の安定と成長を支えることが、巡り巡って日本を含む世界経済の強化にもつながる旨、発言した。各国からは、現下の状況では経済の見通しが立てにくいこと、また、ホルムズ海峡の航行の安全を含め、事態の沈静化は世界経済の安定に不可欠との意見が多数あった。
重要鉱物のセッションでは、日本から、中国産の重要鉱物への過度な依存に対応する際は、民間部門と協働しつつ、税・金融インセンティブや最低価格など、様々な政策措置を具体的に検討する必要があること、代替品のより高いコストを「保険料」として受容する覚悟も必要であること、世銀のRISEに加え、ADB、IDBといった多国間金融機関(MDBs)の取組の連携強化も重要であること、等を主張した。
なお、17日には、片山大臣、仏レスキュール財務大臣、世銀バンガ総裁の共催で、G7に加えMDBsや新興国等を招いて、重要鉱物サプライチェーンの強靱化につき意見交換を行うG7アウトリーチ会合が開催された。片山大臣は共同議長として冒頭及び締め括りの発言を担当し、世銀が2023年のG7日本議長下で立ち上げたRISEパートナーシップなどに言及しつつ、重要鉱物サプライチェーンの多様化にあたってMDBsが果たす役割の重要性や、MDBs間の連携強化の必要性などについて発言した。
2 G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2026年4月16日)
米国議長下で初の大臣・総裁級会合である今回のG20では、日本からは片山財務大臣、植田日銀総裁が出席し、世界経済と世界の成長強化、及びグローバル・インバランスについて議論が行われた。
世界経済のセッションでは、日本から、中東情勢を受けて原油・金融市場では引き続き大きな変動が見られ、特に、原油先物市場の変動が為替市場にも波及し、国民生活や経済に影響を与え得ることから、極めて高い緊張感を持って市場動向を注視していること、ホルムズ海峡の航行の安全や同地域のインフラの保護は、人道上の観点だけでなく、世界経済の安定に不可欠であることなどを指摘した。また、前日のG7に引き続き、アジア諸国が参加するG20においても「POWERR Asia」について説明し、こうした支援を着実に実施することで、アジア、ひいては世界経済の安定確保に貢献していく旨を発言した。これに対して世銀とIMFからは、良い取組みであり、各地域でこのような取組みを行っていくべきとの評価があった。
世界の成長強化に関するセッションでは、日本から、成長促進の上で特に重要な取組みとして、政府による戦略的な投資、及び規制の明確化によるイノベーションの促進について発言した。具体的には、日本は高市内閣の「責任ある積極財政」の考えの下、様々なリスクや社会課題に対し、官民が手を携え、重点分野への戦略的な投資を行っていること等を紹介した。その上で、成長を促進する上では、単なる規制緩和のみならず、イノベーション促進に向け規制の明確化に取り組むことが重要であること等を指摘した。
グローバル・インバランスについては、日本から、産業政策が経常収支に与える影響の分析は重要であり、特に、一部の国による「非市場的政策・慣行」の下で続いている過剰生産は、その国において過当競争を生み出し資源配分を歪める他、他国の物価や雇用等にも負の影響を与えることを指摘した。加えて、行動志向の議論を複数年に亘って進める必要があり、IMF及びOECDが連携して、マクロ・ミクロ両面から政策提言及びモニタリングを行うことが重要であることなどを指摘した。
また、17日には、ベッセント米財務長官主催のもと、金融リテラシー強化に関するG20サイドイベントが開催され、片山大臣が、オランダのマキシマ王妃や世銀バンガ総裁とともに登壇した。
3 国際通貨金融委員会(IMFC)(2026年4月16日~17日)
春会合の終盤となる4月16日から17日にかけて、第53回国際通貨金融委員会(IMFC)*2が開催され、日本から片山財務大臣・植田日銀総裁が出席した。会合では、世界経済の動向やIMFの各種政策、IMFの今後のあり方等について議論が行われた。
日本は、会合に合わせて発出したステートメントにおいて、世界経済への認識や日本の経済財政運営についての考え方を表明するとともに、サーベイランス・融資・能力開発といったIMFの主要業務において重視する点を述べた。IMFの組織基盤強化の文脈では、今後のクォータ・ガバナンス改革の議論において、低所得国・脆弱国支援の位置付けや財務基盤強化の方法を中核的な論点の一つとして扱うべきであるとした上で、こうした業務を支える「自発的資金貢献(Voluntary Financial Contribution:VFC)」をクォータ調整の際に考慮する必要性を主張した。
制限朝食会におけるステーブルコインに関する議論では、日本で円建てステーブルコインの実用段階が見えてきた旨を紹介しつつ、クロスボーダー送金での活用を視野に、ステーブルコインの健全な相互流通に向けた取組推進の必要性や、複数法域で流通するステーブルコインに対する国際的に一貫した規制・監督の枠組みに向けた議論の必要性等について発言した。また、本会合では、中東情勢を受け、世界経済の不確実性が一層高まっていることを述べた上で、世界経済の更なる悪化を防ぐ観点から、各国は、レアアース等への不当な輸出制限を控えるべき、と指摘した。さらに、日本からは、IMFが直近の「世界経済見通し」で、レアアースの輸出管理が世界経済に与える深刻な影響を定量的に示したことを歓迎する旨を述べた。
IMFCにおける議論の成果は、会合の後に議長国のサウジアラビアから「地政学以外の事柄については全メンバーで合意した」旨を記した『議長声明』として発出された。
地政学に関しては、世界経済が「中東における新たなものを含む、戦争及び紛争を含む度重なるショックに試されてき」ており、「これらの人道的影響に加え、経済的な影響は世界全体に及び、最も貧しく脆弱な人々にまたしても最も大きな打撃を与える」とした上で、「持続可能な成長及び長期的安定のためには、戦争と紛争を終結させ、世界における恒久的な平和を確保することが依然として不可欠である」との文言を明記した。
クォータについては、昨年10月に引き続き、「第16次クォータ一般見直し」の下でのクォータ増資への同意に係る国内承認を更なる遅滞なく完了することへの期待を表明した。その上で、クォータ・ガバナンス改革に関する将来の議論を導くための指針として、本年春会合までの策定に向けて作業を進めていた「IMFクォータ・ガバナンス改革に関するディリヤ指導原則」を承認し、『議長声明』の附属文書とした。本原則には、IMFにおける発言権と代表性は、権利と責任の双方を伴うものであることや、クォータ・シェアの調整は、2008年に合意された4つの原則*3に裏付けられたクォータ計算式に引き続き従いつつ、加盟国が妥当と考えるその他の考慮要素と組み合わせて行われるべきであること等が盛り込まれた。また、同原則の前文では、IMFにおけるクォータの役割等に関する記述に続く形で、日本が重視する「VFC」もIMFに資金基盤を提供する役割を果たすことが明記された。
4 世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)(2026年4月16日)
世界銀行・IMF合同開発委員会では、「より多くの所得の高い雇用を可能とする環境整備」をテーマに議論が行われた。日本からは片山財務大臣が出席した。バンガ世銀総裁は、雇用創出に向けて、インフラ整備、ビジネス環境整備、民間セクター支援の三つの柱から構成されるアプローチを示している。2025年の春会合以降、この雇用創出の取組が開発委のテーマに設定されており、本会合のテーマはこのうちの二つ目の柱に焦点を当てた。なお、世銀は、エネルギー・インフラ、アグリビジネス、保健、観光、重要鉱物やクリエイティブ産業を含む高付加価値製造業を最も雇用創出に貢献するセクターとして特定している。本会合でも多くの参加国によって世銀グループによる雇用創出への重点化や、その取組方針が歓迎された。
開発委員会における議論の結果は、会合の後に議長国のスウェーデンが「議長声明」として発出した。危機対応の規模と速度に関する世銀とIMFの取組が称賛されるとともに、雇用創出への取組、社会的セーフティネット、質の高い保健サービス等の2030年目標、民間セクターにおける取組等が言及された。
本会合の開催にあたり、今回も、日本からステートメントを発出し、途上国の開発に世銀グループが果たす役割への日本の期待、及び日本が果たす貢献を述べた。世銀の機能強化の文脈では、本年1月からの機構再編により世銀グループのナレッジ部局が統合されたことを歓迎し、ソヴリン・ノンソヴリン業務のシナジーが一層醸成されることへの期待を示した。
日本が特に重要視する地球規模課題については、重要鉱物、国際保健、防災・インフラ・デジタル、債務問題、太平洋島嶼国等に関する取組を述べた。重要鉱物に関しては、今回の春会合のマージンで、フランスと世銀とイベントを共催したことを紹介しつつ、世銀が地域開発金融機関や開発金融機関と連携しながら重要鉱物サプライチェーン関連の支援を強化していくことへの期待を述べた。国際保健の文脈では、昨年12月のバンガ総裁来日時のUHCハイレベルフォーラムで正式に立ち上げたUHCナレッジハブが進める対面研修を紹介した。
会議中、バンガ総裁から日本の保健及び債務分野での取組が、明示的に言及される場面もあった。他の会議出席者からは「POWERR Asia」を称賛するコメントもあった。別途、片山財務大臣とバンガ総裁の面会も執り行われ、今回の春会合は、世界経済の不確実性が高まる中でも世銀と緊密な協力を続ける日本のプレゼンスが色濃く発揮される機会となった。
5 日米財務大臣会談(2026年4月15日)
令和8年4月15日(水)(現地時間)午前11:40(米国東部時間)から約20分間、片山大臣は、スコット・ベッセント米国財務長官と会談を行った。両大臣は、中東情勢を受けた原油市場や為替等の金融市場の動向をはじめ、世界経済の幅広い課題に関して意見交換を行うとともに、二国間や多数国間の諸課題に対処するため、両国間の協力をさらに強化していくことを再確認した。また、重要鉱物サプライチェーン等についても意見交換を行った。
為替については、昨年9月に公表した「日米財務大臣共同声明」に沿って、引き続きしっかりと連携することを確認した。
日米財務大臣会合のほか、春会合期間中には、タイのエクニティ副首相兼財務大臣、カタールのアル・クワーリー財務大臣、オーストラリアのチャーマーズ財務大臣、EBRDのルノーバッソ総裁、ユーログループのピエラカキス議長、カナダのシャンパーニュ財務大臣、ウズベキスタンのクチカーロフ財務大臣、ウクライナのマルチェンコ財務大臣、世銀のバンガ総裁ともバイ面会を行った。
*1)執筆者の肩書は、令和8年6月30日現在
*2)国際通貨金融委員会(IMFC)は、国際通貨および金融システムに関する諸問題について、IMF総務会に助言および勧告を行うことを目的として、1999年に前身であるIMF暫定委員会を常設化・改編することで設置された。通常春と秋の年2回開催。各IMF理事選出国・母体を代表する大臣級の委員25名から構成される(現在の議長はサウジアラビアのアルジャドアーン財務大臣。日本からは片山財務大臣がIMFC委員として参加)。
*3)クォータ計算式は、簡潔かつ透明で、クォータが果たす複数の役割と整合的であり、加盟国にとって広く受け入れ可能な結果を生み出し、また、適時で、高品質かつ広範に利用可能なデータに基づき統計的に算出可能であるべきである。

