序に代えて
地域協力課長 津田 夏樹
世界経済を取り巻く環境は、大きな構造変化の只中にある。地政学的緊張の高まり、貿易・サプライチェーンの再編、そして国際秩序を支えてきた多国間協調の枠組みの動揺。分断という言葉が、現実味をもって語られる時代に我々は生きている。国境を越えてヒト・モノ・カネをつなぐ連結性は、もはや当然の前提ではなくなりつつある。
しかし、視点をアジアに転じると、いくぶん異なる風景が見えてくる。ASEAN+3における金融協力は、四半世紀前のアジア通貨危機を出発点とする。危機の連鎖を断つ通貨の相互融通の仕組みであるチェンマイ・イニシアティブ(CMIM)と、それを支える地域サーベイランス機関であるASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)、これらの当初の主眼は「危機への対応」にあった。だが、その歩みは一点に留まらなかった。域内の貯蓄を域内の投資へ向ける債券市場の育成(ABMI)や、激甚化する災害に備える災害リスクファイナンス(DRF)といった「危機の予防」の取組が重なった。そして、本年、新たに取り上げたクロスボーダー・デジタル決済に象徴されるように、域内経済の「連結・統合」を見据えた議論へと、その重心は静かに移ってきた。対応の上に予防を、予防の上に統合を。ASEAN+3は、果たすべき役割を一つずつ積み増しながら、地域金融協力の枠組みを着実に深化させてきたのである。
分断の圧力が強まる世界にあって、コンセンサスを重んじつつ粘り強く公共財を築いてきたこの営みは、国際協調の一つの範となり得るのではないか。そして、その流れを内側から牽引してきたのが、ほかならぬ日本である。
本年、財務省はこの地域金融協力において、二つの共同議長を同時に担った。三年に一度巡るASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁プロセスの共同議長と、毎年務める日・太平洋島嶼国財務大臣会議の共同議長である。前者では各分野の枠組みを次の段階へ進める「深化」に、後者ではアジアで培った協力の作法と道具立てを新たな地域へ携える「外延」に取り組む一年となった。
この二つは、見かけほど隔たってはいない。太平洋島嶼国が直面するコルレス銀行関係(CBR)の喪失とは、小国が国際金融ネットワークから切り離されていく現象、すなわち「分断」が最も先鋭に現れた姿にほかならない。ASEAN+3で連結性を内に深め、太平洋でその連結性を最も脆弱な縁において守る──遠く離れて見えるこの二つの取組は、分断に抗して連結性を編むという、同じ営みの両面なのである。
そしてこの一年を振り返るとき、筆者の脳裏にはもう一つの議長国としての経験が重なる。2019年、日本がG20の議長国を務めた年のことである。
あの年、財務トラックの準備は2018年央から本格化した。様々な国際会議の機会をとらえ、各国の代理級のカウンターパートに優先課題を一つひとつ事前に説明し、その反応を踏まえて表現を微修正していく。地道な作業の連続であった。議長国の務めは、優先課題を掲げることだけでは終わらない。最も難しく、腕の見せ所であったのは、大臣・総裁レベルでの合意・成果物を見据え、意見が対立する論点や、いずれかの国の琴線に触れる論点を、会議を重ねながら現実的な落としどころへと収れんさせていく作業であった。例えば「質の高いインフラ投資」をめぐる原則は、開発金融への考え方を大きく異にする国々を含め、粘り強い多国間交渉の末に、誰もが否定し得ない共通の基準として結実した。立場の違いを正面から否定するのではなく、皆が乗れる土俵を少しずつ広げていく──この感覚は、本年のASEAN+3や太平洋島嶼国支援における一つひとつの取組と、驚くほど通じ合っている。
もう一つ、当時を思い起こすたびに確信を深める点がある。客観的な分析こそが、合意の土俵を形づくるということだ。グローバル・インバランスの議論では、これを通商上の措置で是正しようとする見方もあった中で、IMFの分析を手がかりに、不均衡をマクロ経済政策というレンズで捉え直す重要性を示した。分析は、立場の異なる国々が同じ事実の上に立つための共通言語となる。
もっともG20の経験と本年の取組は共通点ばかりではない。議長国の任期がいずれも一年である点は変わらないが、その巡ってくる周期はG20がおよそ二十年に一度の機会であるのに対し、ASEAN+3の+3側(日中韓)の共同議長は三年に一度巡ってくる。担い手の構図も異なる。G20は単独議長国なので、時の議長国が先進国か新興国かで優先課題や力点は相当異なる。一方ASEAN+3は、ASEAN側との共同議長制であり、立場の違いを超えて、前年度までの議論を引き継いで地域金融協力の取組を進めていくことが求められる。そして象徴的なのが、事務局の存在である。G20は事務局を持たず、IMFや世界銀行といった国際機関にタスクアウトするのに対し、ASEAN+3では、事務局を担う地域固有の国際機関AMROを育てながら議論に貢献してもらう。ここに、地域協力ならではの奥行きがある。
議長国・共同議長に求められる技法──優先課題を定め、粘り強い対話を通じて合意を編み上げ、分析によって共通の土俵を築くこと──の本質は、グローバルな舞台でも、地域の機構を育てる営みでも、そして太平洋という新たな地平でも、変わらない。変わるのは、その技法を活かす舞台と、築こうとする連結性の射程である。2019年に学んだことを、本年は「深化」と「外延」という二つの方向で活かす一年であった。
以下に続く各論は、これらの取組を第一線で担った担当者が、それぞれの視点から綴ったものである。立場を異にするメンバーの間で粘り強く合意を紡ぎ、幾多の困難を越えてきた記録であり、幅広く知見として共有されるに値すると考える。
地域金融協力の積み重ねは、自由で開かれ、かつ強靱な地域秩序を、経済の足下から下支えするものでもある。分断が進む世界にあって、地域が、そして複層的な協力の重なりが果たし得る役割は、これからも静かに、しかし確かに広がっていくと確信している。

本年4月ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁代理会議の様子。当初マニラでの対面開催が予定されていたが、フィリピンのエネルギー国家緊急事態宣言が発出されたことを受け、バーチャル開催に変更。
会議の共同議長は、日本からは三村財務官が務めた。(写真中央左下)
ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議
チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)、ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)
1.CMIM、AMROの設立経緯
前述のとおり、アジア通貨危機を契機にASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議が立ち上げられ、CMIMは金融協力の柱として、地域金融の自助的支援メカニズムとして構築された。外貨の資金繰り困難に陥った域内の通貨と、各国の保有する外貨資金を交換・融通し合うことで(通貨スワップ)、危機の連鎖・拡大を防ぐ仕組みである。現在の資金規模総額は2,400億ドルとなっている。
AMROの設立もまた、同危機の教訓とその後の地域金融協力の深化の中で位置づけられる。CMIMの実効性を確保するためには、加盟国のマクロ経済・金融状況を平時から把握し、リスクを早期に検知するサーベイランス機能が不可欠との考えから、2011年にシンガポールにAMROが設立され、その後2016年に国際機関化された。AMROは本年で国際機関化から10周年を迎えたが、この間、職員数は40名弱から120名超へと拡充し、サーベイランス機能も大きく強化されてきた。現在では、地域経済への深い知見や強い信頼関係を基盤に、質の高い経済分析や実践的な政策提言を行っている。

タスクフォース会合の共同議長として発言を行う西方副財務官(中央)と筆者(右)。
CMIMはその発効後、地域金融セーフティネットとして、市場の信認の補強や金融混乱の緩和において重要な役割を果たしてきたと評価できる一方で、これまで発動実績はない。これは、域内各国がアジア通貨危機の経験を踏まえ、健全なマクロ経済運営を継続するとともに外貨準備を着実に積み上げてきたことにより、危機への耐性が相対的に高まっていたことが背景にあるとも考えられる。他方で、パンデミック危機時においても利用に至らなかったことを踏まえ、CMIMの機能・資金基盤の強化が必要との認識が共有され、2024年には前年2023年の日本共同議長下で議論を主導した、自然災害やパンデミックなどの外生ショックを起因として突発的に外貨不足に陥った場合に緊急融資にアクセス可能な新しい仕組みである「緊急融資ファシリティ」の設立に合意した。また、現行のCMIMではメンバー国による事前の資本の払込はなく、危機発生時にメンバー国が直接外貨を提供する仕組みとなっているが、CMIMの財務基盤を強化する観点から、メンバーが事前に資本の払込を行う方式への移行に向けた議論が行われている。
2.2026年共同議長下での取組
CMIMの機能強化の観点では、前述の新ファシリティの設立や払込資本方式への移行に加え、実際の危機発生時にメンバーが適時にアクセスできるよう、利便性の向上も重要である。翌年の共同議長を見据えた準備を開始した2025年後半は、世界経済の構造変化と不確実性が高まる中で、危機時の資金供給を通じて世界金融の安定を支えるグローバル・セーフティネット(GFSN)の重要性が一層高まっていた。GFSNは、(1)各国の外貨準備、(2)二国間スワップ、(3)CMIMを含む地域金融取極(RFA)、(4)IMFで構成される。GFSNの一翼を担うCMIMの実効性や利便性の向上に取り組むことは、GFSNの強化にも資するとの考えの下、議論を開始することとした。
CMIMの強みは、最短2週間以内に資金供給が可能な迅速性にあり、これを活かして将来の危機時に影響の拡大を抑制することが重要である。他方、CMIMはGFSNの一部として「最後の貸し手」であるIMFの支援と関連付けられているため、その迅速性を十分に発揮できるのは、IMFプログラムを伴わない部分(IMFデリンク、現行40%)に限られる。さらに、ASEAN各国にはアジア通貨危機時の経験等を背景にIMFに対するスティグマがあると指摘されており、現状ではCMIMの活用は実質的にIMFデリンク部分が中心と見込まれる。このため、IMFデリンク部分の利便性向上を中心に議論を行った。もっとも、ASEAN+3のメンバー間では経済・金融状況に差があることから、スタンスにも違いが見られる。地域の自助機能を強化する観点からIMFデリンク比率の引上げを主張する意見がある一方、CMIMは各国が直接資金を供与する仕組みであることを踏まえ、資金保護の観点から発動要件の厳格化を重視する意見もあり、様々な立場からの意見が示された。ASEAN+3はコンセンサスによる意思決定を原則としているため、こうした異なる立場を丁寧に踏まえつつ、コミュニケーションを重ねながら議論を進めた。
また、CMIMの機能強化にあたっては、その実施を支えるAMROの更なる機能強化が不可欠である。AMROが地域の「ホームドクター」として、各メンバーの状況や制度的文脈を踏まえた深い分析と政策提言を行えるよう、一層の機能強化に取り組むことは、危機の予防に加え、危機時のCMIM発動に際し、適切なコンディショナリティを付加することにより危機拡大を抑制し、早期回復を促すことに繋がる。さらに、AMROがGFSNの最後の貸し手であるIMFとの連携を強化し、サーベイランスや危機対応における連携を深めることは、GFSNの一層の強化に資することから、その重要性についても認識が共有された。
こうした議論を踏まえ、CMIMの実効性強化およびAMROの機能強化に向けた今後の取組の方向性について、AMROがポリシーペーパーとしてとりまとめた。なお、本議論を進めていた本年2月末には、中東情勢が緊迫化し、地域経済への影響が懸念される状況となったことにより、危機対応の必要性がより現実のリスクとして認識され、4月の代理級会議(財務次官・中央銀行副総裁級)や5月の財務大臣・中央銀行総裁会議では、多くのメンバーから日本議長下でのCMIM・AMROの強化に向けた取組への歓迎の意が示され、議論を主導した担当者としても意義深いものであった。
2026年後半以降は、CMIMの実効性強化およびAMROの機能強化に向け、具体的な提言やワークプランの策定に取り組む予定である。
3.今後の取組への期待
今後の取組に当たっては、CMIMがその活用を前提とするものではなく、まずは危機の発生を未然に防ぐための各国の政策対応が重要であることを踏まえつつも、必要が生じた際には適時に活用され得るような制度や運用の整備を進めることが重要である。さらに、こうした実効性の強化を通じて、市場の信認が高まり、経済・金融の安定につながることが期待される。
長期的には、払込資本方式への移行を含めCMIMの機能・資金基盤が一層強化され、AMROのサーベイランス等の機能強化と合わせて、地域金融セーフティネットとしての実効性が高まることで、IMFを代替するものではなく、あくまでも相互補完的に機能するとの前提は維持しつつ、実質的にはかつて構想されたアジア通貨基金(AMF)*2に近い機能を備える姿へと発展していくことも考えられる。今後の議論と発展の帰趨、そして次の10年における姿が注目される。

タスクフォース会合後の集合写真。
共同声明ドラフティングセッション
共同議長の最も重要な役割の一つが、共同声明のとりまとめである。わずか6ページの声明であるが、その裏側では緻密かつ粘り強いやり取りが積み重ねられており、合意に至るまでには、まさに一つの「ドラマ」が展開されている。
全メンバーの合意を得るため、会議の約2か月前から共同議長のフィリピンと草案を調整し、その後メールベースで全メンバーにドラフトを回付し、コメントを取りまとめるプロセスを進めた。過去の経験に基づくと、ドラフティングセッションでの議論は、書面プロセスでの議論が蒸し返され、議論が長時間化しがちであり、共同議長としてはできればドラフティングセッションは回避したいという考えがあった。3回にわたる書面での調整を経てもなお一部に合意に至らない箇所が残り、全メンバーがギリギリ受け入れられそうな文言案を検討し、この文言案で合意できないとドラフティングセッションをすることとなると、メンバーにも明示したうえで最終ドラフト案を回付したものの、残念ながら1機関が文言案に合意せず、大臣・総裁会議前日にドラフティングセッションを実施することとなった。ドラフティングセッションの共同議長は、日本からは西方副財務官が務めることとなり、筆者らとともに大臣会合より一日早く現地サマルカンドに到着した。
ドラフティングセッションの時点で未合意であったのは、CMIMとクロスボーダー・デジタル決済の2つのパラグラフであった。共同議長には翌日の本番会合までに最終案をまとめる責任があり、その重圧の中、どの論点から議論を開始するか慎重に判断した結果、より揉めそうなCMIMから議論し、メンバーが疲れ切った状態でクロスボーダー・デジタル決済のパラグラフの議論を行う作戦に出ることとした。さらにCMIMについては、議論がまとまらない場合には、一旦休憩を挟み、共同議長から反対しているメンバーを直接説得することを考えていた。
CMIMのパラグラフでは、多くのメンバーが文言案に賛同する一方で、予想どおり1機関が強く反対し、議論は平行線を辿った。作戦通り休憩を挟み、共同議長から同メンバーを説得しようとしていたところ、その他の関心の高いメンバーもスクリーンの前に集まり、そのまま立ったまま議論が始まった。各メンバーが様々な代案を示し、ああでもないこうでもないと議論を続けた結果、最終的に全員が受け入れ可能な文言案にまとめることができた。もしそのまま着席の状態で議論を続けていたら、文言案はまとまらなかったかもしれない。対面の国際会議ならではの醍醐味を実感した瞬間であった。
なお、CMIMの合意後にクロスボーダー・デジタル決済の議論に移った際には、それまでの疲れもあったのか特段の異論は示されず、そのまま合意に至った。結果として、議論の順序を含めた作戦が功を奏した形となった。

サマルカンドでのドラフティングセッションにて、スクリーン前で議論する様子。手前で指さしながら発言しているのが、西方副財務官。
アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)
1.ABMIの設立経緯及びこれまでの成果
アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)は、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場を育成する取組である。アジア通貨危機以前、アジア経済において生じていた通貨と期間のダブル・ミスマッチ(ドル等の外貨を海外から短期で借り入れ、自国内において現地通貨によって長期の融資を実施)により、域内経済が為替変動や外貨流動性に脆弱な構造に陥っていたことが、アジア通貨危機の一因になったと指摘された。この経済構造から脱却すべく、ダブル・ミスマッチの問題を解消し、アジアにおける貯蓄をアジアに対する投資へと活用するため、2002年にABMIは設立された。ABMIが目指すのは、現地通貨の域内資金循環を通じて、長期安定的な地域金融の基盤を構築することである。
ABMIは域内の現地通貨建て債券市場発展に大きく貢献してきた。日本は資金拠出等を通じて、官民専門家からなるフォーラム(ABMF)の設置、域内債券市場情報等を発信するプラットフォーム(ABO)の開設、債券市場が未発達な国向けの技術支援(TACT)等の取組を主導している。20年以上にわたる各種取組の結果、ASEAN及びASEAN+2(ASEAN、中国及び韓国)の現地通貨建て債券市場規模はそれぞれ、約8.4倍(約2.43兆ドル*3)及び約25.7倍(約30.6兆ドル*4)に拡大した。このように、債券市場の育成、特に発行市場育成においては大きな進展が見られる。一方、債券流通市場の育成等は、域内資金循環促進に向けて残された課題である。
2.2026年共同議長下での取組
上述の状況を踏まえ、アジア通貨危機時に比べダブル・ミスマッチが大幅に緩和してきたとのADBの評価に基づき、域内貯蓄の域内投資への更なる活用に向け、債券に留まらない地域金融協力枠組みへの発展を共同議長として打ち出すこととした。
1月の会議では、債券(Bond)市場から広く(直接)金融(Financial)市場等を包含する枠組みとして、Asian Financial Markets Initiative(AFMI)への転換をメンバーに提起した。しかし、各国債券市場の発展段階に差異があり進展途上の国もある中で、AFMIへ転換し拙速に広く金融市場育成を進めることへの懸念が、一部のメンバーから寄せられた。
コンセンサスベースのASEAN+3の枠組みにおいて、AFMIへの転換を進めようとしても一部のメンバーの反対により、枠組みの転換ひいてはASEAN+3地域の金融協力進展の機会が失われてしまうことが予想された。そこで生まれたのが、債券が取組の中心である点を第一に示しつつ、債券に留まらず幅広い金融仲介手法を通じた金融協力を進めて行く、アジア債券・金融市場育成イニシアティブ(Asian Bond and Financial Markets Initiative:ABFMI)であった。
3月の会議の前に、懸念を示したメンバーに対して個別に事前説明の機会を設け、ABMIの成果及び残された課題等を踏まえて、ABFMIへの発展趣旨を丁寧に説明した。これらの国への説得が功を奏し、3月及び4月の会議においては、むしろ懸念を示したメンバーから発展への支持を受け、ABFMIに向けた合意に道筋がついた。最終的に、5月の財務大臣・中央銀行総裁会議にて、2027年から始まる次期ロードマップよりABFMIへと発展させる合意に至った。同時に、20年以上にわたるABMIの取組を新しい方向に進めた達成感と責任を、担当として実感した。
3.今後の取組への期待
ABFMIへの発展に当たり、債券を取組の中心に流通市場といった改善余地のある分野にもフォーカスしつつ、債券に留まらずより幅広い金融仲介手法の検討を進めていく。2026年の後半は共同議長として、次期ロードマップ策定に向けて、メンバーのニーズに応じた継続的な技術支援、深刻化する環境問題を念頭に地域の関心が強いサステナブルファイナンスの一層の促進、加速するデジタル化を踏まえた市場インフラ整備へのDLT技術の活用といった、各国の金融市場の発展段階に応じた各種取組の検討を進めていく。
ABFMIへの発展が、域内資金循環促進のための取組の多様化を通じたASEAN+3の連携強化を促進することで、更に安定的な地域金融エコシステムの構築に繋がることを期待している。
災害リスクファイナンス(DRF)
1.DRFの設立経緯及びこれまでの成果
近年の災害の激甚化を受け、アジアの災害被害額は年間800億米ドルに達する一方、そのうちの約9割が災害保険でカバーされておらず、各国財政の災害に対する脆弱性は喫緊の課題となっている。こうした中、長年にわたる地震や台風等の災害経験を踏まえ、地震保険を整備する等、従来から災害リスクファイナンス(DRF)を強く認識してきた日本は、国向けの災害保険を提供するSEADRIFの設立を主導する等、ASEAN+3財務プロセスにおいて、DRFの取組を立ち上げ、その取組は、2023年の日本共同議長下では、DRFは定例会議に格上げされた。
2.2026年共同議長下での取組
DRFの取組は、これまでラオスへの保険金支払い等、災害保険を中心に成果を挙げてきたが、今後より多くの国の災害リスクに幅広く対応すべく、CATボンドや気候変動に強靱な債務条項(CRDC)等の幅広い政策手段、減災・防災との連携を含む包括的な枠組みに発展させることを目指して、今般の共同議長国下では、今後3年間の行動計画の策定を主導した。
行動計画は、従来の取組からの発展に向けて段階的なアプローチを取りつつも野心的なものとなるよう、ASEAN各国の災害リスク分析を行い、その結果に基づき適切な政策手段を特定・実施する流れとした上で、3年間で着実に進展させるため、災害保険やCATボンドの導入国数に対するKPIを盛り込んだ。
当初、昨年9月の会議では、計画の実効性に対する懸念が多数表明されたが、ADBにマルチドナー信託基金を新設し、各国からの資金貢献を通じて実施する構想を各国に事前に根回しして進めた結果、3月の会議で、無事に合意を得ることができた。
また、こうした包括的な行動計画の実施には、より強固な事務局体制が必要との考えから、災害リスクマネジメントに知見があり、ASEAN各国との関係も深いADBを恒久事務局とする案を打ち出した。ADBへの事務局移管については、事務局と実施体制の利益相反への懸念も示されたが、事務局と実施機能の分離等の対応策を盛り込んだ事務局体制案を作成し、連日各国との事前の調整を重ねた結果、同じく3月の会議で合意に至ることができた。
更に、SEADRIFによる保険提供の拡大に向けては、SEADRIFと協議しながらその成長戦略を作成した。今後はそれに沿った資本基盤の強化が課題であり、ドナー参加や保険購入国の拡大を促す必要がある。そうしたインセンティブを確保しつつ、日本が引き続きDRFの取組を域内で主導する観点から、SEADRIFの意思決定メカニズムを「1国1票」から財政貢献や保険購入に応じた投票権制へと見直しを提案し、先般4月、関係国間で新たな投票構造の合意に至った。現在、具体的なルール改定を進めている。
3.今後の取組への期待
今後はロードマップを実行するフェーズに入るが、ADBには、恒久事務局としての役割に加え、国別戦略へのDRFの考慮や、インフラ融資と併せた災害保険付保等を通じて、DRF関連業務の知見を獲得して更なるDRFの主流化を進めることが期待される。またこうした多様な金融手法の導入が域内でのリスク分散のみならず災害リスク市場の育成にも貢献することを期待する。

タスクフォース会合で発言を行う筆者(中央)。
クロスボーダー・デジタル決済
1.クロスボーダー・デジタル決済の現状
世界の国際送金の市場規模が1000兆ドルに達する中、ステーブルコイン等の新たな決済手段の台頭や、決済の効率性や接続性を高める取組が国際的に進展しており、各国の経済や通貨政策に与える影響も大きくなっている。
決済の効率化を通じたアジアの地域統合は日本の経済にも裨益するものであり、また、価値観を共有しない域内国の通貨によるASEAN諸国の通貨代替を阻止する観点からも、日本がアジアにおけるクロスボーダー・デジタル決済の議論に積極的に関与することは重要である。
こうした背景を踏まえ、本年の日本共同議長下において、クロスボーダー・デジタル決済の議論を日本主導で新たに立ち上げた。
2.2026年共同議長下での取組
具体的には、日本としてリテール・ホールセール双方における利便性向上に加え、外貨建てのステーブルコイン・CBDCによる通貨代替が齎し得る金融システムの脆弱性への対応を重視し、大臣・総裁級で行う議論の土台としてこうした方向性を含む報告書の作成をASEAN+3のリサーチ機関であるAMROに依頼した。
そして、本件の重要性を関係国間で強調するとともに、忌憚のない意見交換の場を設けるべく、本年3月、ASEAN+3会合のマージンで、クロスボーダー・デジタル決済に関するAMRO・IMF主催のセミナーの開催を主導し、セミナーの議論で日本が重視する点が盛り込まれるよう、アジェンダ設定やスピーカー選定に積極的に関与した。本セミナーは、AMROによるライブストリームを通じて世界中の幅広い関係者に放映され、各国の関心を醸成するとともに、日本にとっても有益な議論を行うことができた。
最終的にAMROの報告書は大臣会合で歓迎されたが、その合意形成に向けて最も困難を要したのは、金融安定の観点からステーブルコイン規制の議論を盛り込む点であった。各国で法制度が異なる中、国によってはステーブルコインの発行自体を禁じているため、こうした論点を盛り込むことがステーブルコインの発行の自由化を求められるのではないかと警戒する国もいた。この点については、「規制のアプローチ」へと焦点を変え、発行禁止を否定するものではない建付とする等の工夫を凝らすことで、反対国の理解を得ることができた。こうした各国との事前の根回しを経て、ASEAN各国が日本提案に賛同する形で、議論をまとめることができた。そして、こうした議論継続の場として作業部会(WG)の設立について本年後半に具体案を合意すべく検討を行うこととなった。
3.今後の取組への期待
今後は、WGのアジェンダやガバナンス構造について議論を継続していくこととなるが、引き続き、リテール、ホールセール決済の接続強化やステーブルコイン規制のアプローチについて、日本が議論を継続的に主導できる建付けとすべく、調整を進めている。
また、今般日本がクロスボーダー・デジタル決済の議論をASEAN+3で開始し、AMROとともに進展させたことは、AMROの新たな分野の開拓にも繋がった。今後、AMROの本分野への更なる知見強化と貢献に期待している。

第29回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁代理会議の大臣集合写真。
日・太平洋島嶼国財務大臣会議
太平洋島嶼国との金融協力の深化
── サマルカンド会合までの一年を振り返って ──
2026年5月4日、ウズベキスタン・サマルカンド。会議開始は午前7時30分。その前日、我々は夜11時過ぎまで会場に残っていた。ステージ上の大きな各国国旗をアルファベット順に並べ、リモート参加者が集合写真に収まるようモニターの位置を調整し、音響や接続を何度も確認する。事前のサマルカンド現地ロジ業者とのやり取りも容易ではなく、依頼していたはずの米国国旗が見当たらず関係者全員で慌てて探し回る一幕もあった。
翌朝は6時に起床し、最後の準備に向かった。最大の懸念は、共同議長国であるソロモン諸島だった。中東情勢の緊迫化に伴う航空便への影響もあり、一部参加国の渡航計画は直前まで流動的だった。特にソロモン諸島については、国内政治情勢の影響から会議10日前に現地参加が困難との連絡があり、急遽リモート参加への切り替えを進めていた。
会議開始時刻が迫る中、スクリーンにソロモン側の映像が映り、共同議長としての開会発言が始まる。その瞬間、担当者一同が胸をなで下ろした。
振り返れば、この数分間のために走り続けた一年だったように思う。
1.なぜ今、太平洋島嶼国なのか──「複層的な国際金融協力」としてのアウトリーチ
太平洋の太平洋島嶼国(PICs)は人口や経済規模では小国が多い。しかし、その広大な排他的経済水域(EEZ)は太平洋の広範囲に及び、インド太平洋地域のシーレーン上に位置するなど、戦略的重要性は極めて高い。近年、経済安全保障への関心が高まる中、各国は太平洋島嶼地域への関与を強化している。日本も例外ではない。財務省としては、開発支援のみならず、金融面から地域の強靱性を高めることを目的として、2024年に「日・太平洋島嶼国財務大臣会議」を立ち上げた。翌2025年には定例化に合意し、今回のサマルカンド会合は第3回目となる。
この一年間を振り返ると、会議そのものの開催以上に重要だったのはネットワークづくりだった。島嶼国との対話はもちろん、米国、豪州、ニュージーランドとの政策調整も頻繁に行った。ワシントンとの時差、キャンベラとの日程調整、そして島嶼国側の限られた人的リソース。電話会議を設定するだけでも一苦労だったが、だからこそ少しずつ信頼関係が築かれていった。
特に今回初めて実施した同盟国・同志国との「アウトリーチ会合」は象徴的だった。日本、米国、豪州、ニュージーランド、そして島嶼国が同じテーブルにつき、金融アクセスや決済インフラといった課題について率直に議論する。数年前には想像できなかった光景である。
この背景には、気候変動や金融アクセスといった複雑な課題に対し、「もはや一国だけで取り組むテーマではない」という共通認識があった。同時に、このアウトリーチにはより深い政策的問題意識も内包されている。昨今、グローバル経済の構造変化に伴い、国際金融協力を取り巻く環境は流動化している。G7やG20といった従来の多国間枠組みが引き続き中核であることは論を俟たないが、地域固有の緻密な課題に対しては、必ずしも機動的な議論が行き届かない側面もある。だからこそ、志を同じくする国々(Like-minded countries)が特定の地域やテーマに絞って柔軟に連携する、プルリラテラル(複数国間)の協調枠組みを複層的に構築していくことが、足元の国際金融外交において極めて重要な戦略となる。今回の広範なアウトリーチは、まさにその新たな道標を示す試みであった。

第3回 日・太平洋島嶼国財務大臣会議の集合写真。
2.CBR問題からPPMへ──「サマルカンド原則」の政策的意味
この一年間、最も多くの時間を費やしたテーマの一つが、コルレス銀行関係(Correspondent Banking Relationship:CBR)の喪失問題であった。CBRとは、各国の銀行が国境を越えた送金や決済を行うために構築する銀行間のネットワークである。例えば、ニュージーランドで働くサモア人労働者が母国の家族に送金する場合、送金を受け付けたニュージーランドの銀行とサモア側の受取銀行との間で資金決済を行う必要がある。しかし、両銀行が直接決済口座関係を持ち合っているとは限らない。このため、通常は国際的な大手銀行が中継銀行(コルレス銀行)として介在し、同行に開設された口座を通じて資金決済を行う。この資金決済を代行する契約が締結されている関係をコルレス銀行関係(CBR)と呼ぶ。太平洋島嶼国の場合、米国、豪州、ニュージーランド等の大手銀行がこうした役割を担うことが多い。国際送金、貿易決済、海外からの投資資金の受入れなど、ほぼ全ての国際金融取引は、何らかの形でCBRに依存しており、CBRは国境を越えた金融取引を支える基幹インフラとなっている。
しかし近年、太平洋島嶼国ではこうしたCBRの維持が大きな課題となっている。背景には、市場規模の小ささに加え、マネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)に関する国際的な規制強化がある。国際銀行にとっては、島嶼国との取引から得られる収益は限定的である一方、顧客管理やモニタリングに要するコストは年々増加している。その結果、採算性やリスク管理の観点から、コルレス銀行の撤退が進んできた。こうした現象は、しばしば「デリスキング(de-risking)」と呼ばれる。個々の金融機関から見れば合理的な経営判断である。しかし、その影響は小規模な島嶼国にとって極めて大きい。
海外送金が滞れば、まず影響を受けるのは海外で働く出稼ぎ労働者から郷里の家族への送金である。トンガやサモアでは、こうした送金額がGDPの2~3割に相当する規模に達しており、多くの家計にとって重要な所得源となっている。また、燃料や食料など生活に不可欠な物資の多くを輸入に依存しているため、貿易決済に支障が生じれば国内経済全体に影響が及ぶ。観光業が主要産業である国では、海外からの支払いの受取りや決済にも支障が生じ得る。
実際に島嶼国との議論では、「CBRは金融セクターの問題ではなく、国家経済そのものの問題だ」という発言を何度も耳にした。電気や通信と同様に、国際決済ネットワークもまた現代国家に不可欠な基盤インフラなのである。
さらに近年では、この問題は金融包摂や開発の文脈を超え、経済安全保障の観点からも注目されるようになっている。特定の国や地域が国際金融ネットワークから切り離されれば、その国の経済的な脆弱性は著しく高まる。太平洋島嶼国の強靱性向上を考える上で、CBRの維持は単なる金融規制上の論点ではなく、地域全体の経済的安定に関わる重要課題となっている。
こうした問題意識の下、日本は世界銀行が進めるCBR支援プロジェクトを、主要ドナー国である米国、豪州、ニュージーランドとともに後押ししてきた。しかし議論を重ねる中で見えてきたのは、各国とも必要性を共有しながらも、解決策に関する思想やアプローチが異なっているという事実だった。そこで注目したのが、域内決済を集約・効率化する「Pacific Payment Mechanism(PPM)」構想である。PPM構築に向けた主要ドナー国のスタンスを共通認識としてまとめることで、検討プロセスを加速させられるのではと考えた。
正直に言えば、筆者自身も着任当初は右も左も分からなかった。決済システムの専門家でもなければ、CBR問題を長年追いかけてきたわけでもない。一方で、直属の上司は決済分野の専門家であり、強い問題意識を持ってこのテーマを推進していた。会議のたびにAML/CFT、決済ハブ、為替交換機能、相互運用性といった新たな論点が浮上し、理解した前提が翌週には覆るプロセスの連続だった。上司やチームの助けを受けながら必死にイシューノートや議事要旨を作成し、各国との実務者協議を重ねた。
日本は経済安全保障上の重要性を念頭に太平洋島嶼国への支援を強化しており、基幹インフラであるCBRが特定国に牛耳られることを避けるべく、ユーザーが実際に利用することを通じて自律的で持続可能な仕組みの構築を目指した。そのために、デジタル技術の活用による効率化や、市場流動性の低さが課題である為替取引(特に先進国通貨と現地通貨間)の円滑化の重要性を再三主張した。一方、ある国は、太平洋島嶼国に自国の銀行が多く展開しているため、既存の民間金融機関をクラウドアウトしないことを重視し、他の国は「まずは動く最小限の仕組みを作るべきだ(Minimum Viable Product)」と現実路線を主張し、議論は白熱した。
こうした実務者間の緊迫した議論や、シドニー・フィジーへの出張、現地専門家との泥臭い意見交換の積み重ねを経て、今回のサマルカンド会合において、PPM構築に向けた「6つの基本原則」を取りまとめるに至った。
この原則は、制度の細部を規定するものではなく、各国の異なる立場を踏まえつつ、今後の検討を可能な限り開いた形で進めるための出発点として位置付けられている。時には同志国の中でも意見が異なる中で、まさに「立場の違いを正面から否定するのではなく、皆が乗れる土俵を少しずつ広げていく」プロセスであった。そしてこの原則が、太平洋島嶼国・国際機関・ドナー国を導く羅針盤として機能し、今後の検討の中でPPM構想が具体化していくことが期待される。
第3回 日・太平洋島嶼国財務大臣会議
・太平洋島嶼国からは、13か国*が出席(ニウエが欠席)
*クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー共和国、キリバス共和国、マーシャル諸島共和国、ナウル共和国、パラオ共和国、パプアニューギニア独立国、サモア独立国、ソロモン諸島、トンガ王国、ツバル、バヌアツ
・会議では、中東情勢の地域経済への影響に加え、「コルレス銀行関係の維持」、「災害リスクファイナンスの推進」、「国内資金動員の強化」といった、太平洋島嶼国が直面する開発課題を議論。
集中決済機関に係る原則
原則 1:課題解決のための設計
・PPMは、コルレス銀行関係の喪失や、それに伴う送金コストの高騰などの具体的な課題を解決するために設計。
原則 2:選択肢を限定しないアプローチ
・あらゆる制度・運用モデルを体系的に評価し、デジタル技術(分散型台帳(DLT)など)も含めて柔軟に設計。
原則 3:必要最小限の機能で立ち上げ
・課題解決のための設計に基づき、迅速に市場導入可能な最小限の機能で立ち上げ。
原則 4:補完性及び民間セクターの関与
・PPMは可能な限り市場を歪めたり、民間セクターによる解決策を締め出したりすることのないよう設計。
・コンプライアンス上の負担低減及び透明性の向上を通じて、既存のコルレス銀行関係や現地の銀行を代替するのではなく、支援・強化することを企図。
原則 5:強固なガバナンス
・商業銀行による信認を維持し、コルレス銀行関係を持続するため、PPMの信頼性を確保すべく、強靭性及び健全性を重視。
原則 6:持続性
・PPMはコスト回収ベースで運営されるとともに、長期的な財政持続性の確保を目指す。
3.おわりに
太平洋島嶼国支援は、単なる開発協力ではない。金融アクセス、決済インフラ、エネルギー安全保障、経済安全保障──様々な政策課題が交差する最前線である。そして財務当局者の立場から見ると、経済の強靱性・持続可能性を高める支援が、外交・安全保障も含めた地域の安定につながるのだと実感する。CBR問題は金融包摂の問題であると同時に、国家の経済活動を支える基盤インフラの問題でもある。また、エネルギー安全保障やサプライチェーン強靱化といった課題も、最終的にはマクロ経済の安定と深く結びついている。
この一年を通じて実感したのは、太平洋島嶼国支援が決して周辺的な政策課題ではなく、インド太平洋地域全体の経済的安定を考える上で重要なテーマであるということだった。サマルカンドで形となったPPM原則も、何度もの会議、出張先での議論、そして国境を越えた実務者同士の対話の積み重ねによって生まれた。太平洋島嶼国との金融協力は、まだ始まったばかりである。

第3回 日・太平洋島嶼国財務大臣会議中の様子。
(コラム)
2025年9月、シドニーで開催されたデジタル決済関連イベントに参加した。着任からまだ2か月弱。PPMの日本提案概念図も、出張に合わせて慌てて作った粗削りなものだった。
幸運なことに、会場にはIMFの担当副専務理事に加え、普段はあまり海外出張をしないという決済分野の責任者も参加していた。東京からオンライン参加していた上司から、「いまプレゼンしている彼はこの分野のキーパーソンだから、捕まえてPPMの日本提案を議論しては」とメッセージが飛んでくる。
当時の自分は決済分野について勉強を始めたばかりで、概念図も完成には程遠く、むしろ専門家から見れば穴だらけだったと思う。躊躇したが、せっかくの機会を逃すわけにはいかなかった。
ランチ休憩の時間を見計らって声をかけ、日本が考えるPPMの構想を説明した。特に域内決済をつなぐ際の為替交換(FX conversion)の考え方だった。複数通貨をまたぐ仕組みをどのように設計し効率的に運用するかが、実務上の大きな論点であり、持続可能なスキームの要になると信じていたからである。
付け焼き刃の知識で作ったスキーム図を見せながら質問を重ねたが、IMFの責任者は非常に丁寧に応じてくれた。今振り返れば、そこで得た示唆の多くが、その後の日米豪NZとの議論やPPM Principlesの検討につながっている。
国際会議では、正式セッションの発言だけが成果ではない。コーヒーブレイクや昼食の合間の短い会話が、その後の政策形成に大きな影響を与えることも少なくない。シドニーでのこのやり取りは、そのことを強く実感した出来事だった。
*1)執筆者の肩書は令和8年6月30日現在
*2)中尾(2021)
*3)2024年末時点の発行残高(出典:ABO(ミャンマー、東ティモール除く))
*4)2025年末時点の発行残高(出典:ABO(一部未集計国を除く速報値))

