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都市における空間経営の財政学
─コンパクトシティがもたらす持続可能な自治体運営─

有斐閣 2025年2月 定価 本体3,000円+税

都市における空間経営の財政学─コンパクトシティがもたらす持続可能な自治体運営─

赤井伸郎・沓澤隆司・竹本亨 著

評者
日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員
政策研究大学院大学博士課程(政策プロフェッショナルプログラム)在籍

渡部 晶

本書は、「コンパクトシティの財政効果と促進要因の多面的分析」を行う。すなわち「都市のコンパクト化こそが、人口減少に直面する自治体の財政を改善する方策である。コンパクトシティを財政という視点から捉え、その効果や要因について、歳出や税収、住民の介護・医療費、土地利用規制、市町村合併といった多様な論点から実証的に解明する」ものである。

著者は、赤井伸郎・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授、沓澤隆司・武蔵野大学経済学部経済学科教授、竹本亨・日本大学法学部政治経済学科教授である。赤井教授らは、このプロジェクトを2018年に始め、毎年の学会で研究成果を発表し、本書を構成する9本の論文を学会誌などに発表してきた。その取組みを通じ、「実際にそれぞれの都市がどの程度コンパクトな都市になっているのか、そのコンパクト化に向かっているのかどうかを評価するための客観的な指標の構築が欠かせない」とし、このコンパクト化の指標として、「NSD」指標を提案する。

序章で詳しく解説されている、この指標は、「近接性」(都市の中心部に人口がどの程度集中しているのか)と「密度」(集中化した市街地の中で人口がどの程度の厚みを持っているか)の2つの要素を兼ね備えたものだ。

先行研究で都市のコンパクト度を示す指標として提案されたのが「標準距離」(standard distance:SD)である。この指標は、まず、各市町村を約1km四方でメュシュ化する。次に、ある地域の各メッシュ内の地理上の重心の座標(緯度と経度)を、各メッシュ内に居住する人口で重みづけし、その地域の重心(人口重心)を決める。最後に、その人口重心から各メッシュまでの地表面距離の2乗を人口で加重平均して平方根を取った値である。これで「近接性」は認識できる。しかし、コンパクトシティのもう1つの要素である「密度」を反映するために、「標準距離」(SD)を各市町村の人口の平方根で割ったものが、「基準化された標準距離」(normalized standard distance:NSD)である。この指標は数値が小さいほど、都市のコンパクト化が高いことを表すことになる。著者らはできるだけ簡素な1つの指標でコンパクト度を捉えて政策評価へつなげることを念頭においたとし、都市のコンパクト度の指標については更なる検討が必要で今後の課題とする。

第1章以下では、このNSDを用いた分析結果を示す。第1章では、都市のコンパクト化が自治体歳出、とくに目的別歳出の衛生費や土木費、消防費、教育費を低下させることを示唆しているとする。第2章は、コンパクト化によって地価が上がり歳入が増加する可能性のあることを明らかにしている。第1章と第2章を踏まえると、コンパクト化は財政の改善と都市住民の効用増大を両立させるシナリオの成立を示唆するのだ。

第3章と第4章では、都市のコンパクト化は住民の健康を増進し、介護や医療にかかる負担を軽減させることが示唆されるという。ここでは、要介護認定が重要な要素であるが、この際、人口移動も考慮した検討がなされる。

第5章では、土地利用規制を厳しく運用した自治体ほど都市のコンパクト度は高い傾向にあること、第6章では、市町村合併を行った自治体のうち、較差が大きい自治体間の合併後に新しい中心部が形成されて都市のコンパクト化が促進されているという。

第7章では、感染症の流行によってもコンパクトシティが持つ経済的価値は揺らいでないことを示唆し、第8章では、都市構造がそのままでも人口が減少すると、都市のコンパクト度は悪化し、財政は悪化するとする。

評者としては、21世紀を目前にして、小渕内閣のときに、堺屋太一・経企庁長官が「住、職、商、文化の混在した歩いて暮らせる街づくり」を熱心に提唱したことを思い出す。先達の卓越した構想に学びつつ、本書の分析も踏まえて具体的な取組みをいまこそ進める必要があるのだ。