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5次のトリセツ
─FATF第5次対日相互審査で示す官民のチカラ─
─第3回:IO2(国際協力)─

国際局 資金移転対策室 課長補佐 高橋 幸裕

国際対策係長 三代 健太

目次

掲載号・内容

(掲載号・内容は変更される場合があります)

1.はじめに*1

前回はIO1(リスク認識・協調)について、FATFが各国に求めるリスク評価とリスクベース・アプローチの概要、第5次相互審査における各国への指摘事項、及び第4次対日相互審査での指摘事項と日本政府の取組みを説明した。今回は、IO2(国際協力)について取り上げたい。

なぜ、マネー・ローンダリング対策などにおいて「国際協力」が必要となるのか。それを考えるにあたり、ナイジェリアでの摘発事例をご紹介したい。

2025年2月、日本人を標的としたSNS型投資・ロマンス詐欺の収益がナイジェリアに流れていた事案に関し、警察庁は現地警察がナイジェリア国籍の11人を逮捕したと発表した。この捜査は国際刑事警察機構(ICPO:International Criminal Police Organization)の枠組みの一環として行われ、警察庁サイバー特別捜査部が詐取金の流れを解析し、その追跡結果をナイジェリア警察に情報提供したことで逮捕にこぎ着けた。詐取金は暗号資産に交換され、現地での不動産購入に充てられていたという。日本のSNS型投資・ロマンス詐欺と特殊詐欺を合わせた被害額は2025年に約3,240億円に上り、前年の1.6倍を超える深刻な状況にある。

報道にある「SNS型投資・ロマンス詐欺」とは、SNS等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ、投資金名目やその利益の出金手数料名目等で金銭等をだまし取ったり、恋愛感情や親近感を抱かせて金銭等をだまし取ったりする詐欺である*2。「SNS型投資・ロマンス詐欺」の捜査の難しさの1つとして、匿名性の高い通信アプリで指示を飛ばし、拠点を日本の捜査権が及ばない海外に構えているケースが挙げられる。IT(情報技術)が高度に発達し、グローバル化した現代社会において、テクノロジーを巧みに悪用した犯罪であり、一国の捜査機関だけでは対処に限界がある。犯罪者たちは国境を「盾」として利用する一方、捜査機関は国境を「壁」として乗り越えなければならないという構図である。ICPOを通じたナイジェリアでの摘発も、国際協力なくしては実現しえなかった成果である。こうした「国境を越える犯罪」に「国境を越える協力」で立ち向かうための枠組みの実効性を評価・検証するのが、今回取り上げるIO2(国際協力)である。

上記のとおり、マネー・ローンダリング、テロ資金供与や大量破壊兵器の拡散活動への資金供与といった犯罪は、往々にして国境を越えるものであり、その対策にあたっては、各国間の協力・連携が必要になる。現代の金融システムや暗号資産といった金融技術の発展により、犯罪グループは詐欺等で得た不正な資金を世界中に移動させることが可能であり、彼らは、自国の捜査の手が届かない海外の銀行口座や、規制が緩い国を意図的に利用する。実際、近年では暗号資産を含む多様な送金手段により海外への資金移転が行われている。どれだけ自国内の規制を厳しくしたとしても、他国との迅速な情報共有や捜査協力ができなければ、国境を越えた瞬間に資金の追跡がほぼ途絶えてしまうため、二国間・多国間の国際協力は不可欠である。

国境を越えるマネロン等に対処するためには、捜査機関は外国の銀行口座の取引記録などを入手する必要があるが、「執行管轄権については,原則として属地主義であり,他国領域内での執行管轄権は相手国の同意がないと行使できない*3」とされるため、外国に所在する証拠を直接収集することはできず、いかに重大な犯罪であっても一方的に他国の領域内で捜査活動を行うことは許されない。そこで、相手国当局に「刑事共助要請」(MLA:Mutual Legal Assistance)を行い、証拠の収集や犯罪人の引渡しを求めることになる。MLAの法的基盤としては、二国間の刑事共助条約・協定のほか、国連国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)*4や国連腐敗防止条約(メリダ条約)*5等の多数国間条約が挙げられる。また、犯罪収益が海外に移転されている場合には、相手国に対して当該資産の凍結・押収・没収を要請し、被害者への返還を含む「財産回復」(IO8の章で詳述)を促進する必要がある。

加えて、刑事共助等の「公式」チャネルだけでなく、資金情報機関(FIU:Financial Intelligence Unit)間のエグモント・グループを通じた情報交換や、法執行機関間の覚書(MOU:Memorandum of understanding)・ICPOチャネル、さらにはCARIN(Camden Assets Recovery Inter-Agency Network)やARIN-AP(Asset Recovery Inter-Agency Network for Asia and the Pacific)等の財産回収ネットワークに基づく「非公式」な情報共有・協力も、国際協力の重要な実務ツールである。実際、非公式な協力は公式な協力の成功を根底から支える不可欠な要素であることが多い。例えば、FIU間の迅速な情報交換によって犯罪収益の所在を早期に特定し、正式なMLA要請に先行して相手国に資産の保全を働きかけるといった実務が、世界各国で広がっている。これらの公式・非公式双方の国際協力がどの程度効果的に行われているかを評価するのが、IO2の役割である。

先述のとおり、マネロン・テロ資金供与・拡散金融は本質的に国境を越える犯罪であり、一国の法執行機関だけでは対処に限界がある。このような国際的なマネロン等に対処する上で重要となるのが、単に国内制度の整備にとどまらず、「いかに他国と連携し、実効的に証拠や資産を確保できるか」という観点である。すなわち、国際協力の質と量こそが、マネロン等対策の実効性を左右する鍵となる。とりわけ、アジアにおける国際金融センターとしての地位を有している日本にとって、国際協力の実効性は重要な審査項目の一つである。

本稿では、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に取り組む際、必要となる「国際協力」を説明したい。

2.FATF基準の要請(IO2)

(1)IO2の位置づけ

IO2は、FATFの11の有効性評価項目(IO:Immediate Outcomes)のうち、国際協力に関する分野を扱う。FATFのメソドロジーにおいて、IO2は「国際協力を通じて、適切な情報、金融インテリジェンス、証拠を提供し、犯罪者とその財産に対する措置を促進する」ことを目的とする評価項目と定義されている*6。IO1が全てのIOの前提となるのに対し、IO2はマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の実効性について、国境を越えた協力の観点から評価する重要な審査項目である。

前回の第2回目で掲載したマネロン等対策の概要図(IO・TCの相関図、以下再掲)のとおり、IO2は主にFATF勧告36~40*7に対応しており、これらの勧告が実際にどの程度効果的に機能しているかが審査される。また、IO2は独立した評価項目であると同時に、他のIOを支える横断的な要素でもある。例えば、マネロンの捜査・訴追(IO7)や財産回復(IO8)においては、国外に所在する証拠や資産へのアクセスが不可欠であり、国際協力の実効性が成果に直結する。また、テロ資金供与対策(IO9・IO10)や拡散金融対策(IO11)においても、国境を越えた資金の流れを把握する上で、迅速かつ的確な国際協力が不可欠となる。

【マネロン等対策の概要:IOとTCの相関図(FATF基準及びFATF作成資料を基に作成)】

【マネロン等対策の概要:IOとTCの相関図(FATF基準及びFATF作成資料を基に作成)】

(2)IO2の評価ポイント(4つの主要な課題)

IO2の有効性は以下の4つの主要な課題(Core Issue)に基づき評価される*8

Core Issue 2.1:刑事共助等要請への対応

当該国は、マネロン、関連前提犯罪、テロ資金供与に関して、証拠の提供や犯罪人の所在の特定、引渡しの実施といった外国からの要請へ対応するため、また外国からの資産凍結・押収・没収命令の執行を含めた財産回復を促進するために、どの程度建設的かつ適時に刑事共助及び犯罪人の引渡しを行ったか。供与した支援の質はどうか。

Core Issue 2.2:刑事共助等の要請

当該国は、マネロン、関連前提犯罪、テロ資金供与に関連して、証拠の提供や犯罪人の捜査、引渡しを実施するために、若しくは外国からの資産凍結・押収・没収命令の執行を含めた財産回復を促進するために、外国に対して、適切かつ適時に、刑事共助及び犯罪人引渡しをどの程度求めてきたか。

Core Issue 2.3:外国への情報・援助の非公式な要請

権限ある各当局は、財産回復を含めた、マネロン及びテロ資金供与対策を目的として、外国当局からの情報又は援助を適時・適切な方法で求めるために、他の形での国際協力をどの程度活用しているか。これには、関連するあらゆる種類の情報(犯罪経歴や被疑者の特定に関するその他の情報、財務情報、特定金融情報、基本情報又は実質的支配者情報等)を含め、また、権限ある当局(監督当局、FIU、法執行機関、財産回復や財産管理を担当する当局、税関及び税務当局等)からの情報及び援助を含む。

Core Issue 2.4:外国への情報・援助の非公式な提供

権限ある各当局は、マネロン及びテロ資金供与対策を目的として、外国当局に対して、情報及び援助を建設的かつ適時の方法(自発的なものを含む)で提供するために、他の形での国際協力をどの程度活用しているか。これには、関連するあらゆる種類の情報(犯罪経歴や被疑者の特定に関するその他の情報、財務情報、特定金融情報、基本情報又は実質的支配者情報等)を含め、また、関連する権限ある当局(監督当局、FIU、法執行機関、財産回復や財産管理を担当する当局、税関及び税務当局等)からの情報及び援助を含む。

(3)第5次相互審査からの評価ポイントの変更点

前回の第4次相互審査を受けた対象43カ国のIO2の評価を確認すると、4段階中最も高い評価であるHE(High level of Effectiveness)*9評価が6カ国、上から2番目のSE(Substantial level of Effectiveness)評価が29カ国に上った。これは11あるIO項目の中でHE評価の数が最多、SE評価の数も2番目に多いという結果であり、国際協力の有効性が極めて高く評価されていた。しかしながら、他のIO項目、特にIO7(マネロンの捜査・訴追)やIO8(財産回復)については、大半の国が下から2番目のME(Moderate level of Effectiveness)評価にとどまっており、越境的なマネロン・リスクを抱える国を含め、IO2の高評価と他のIO項目の評価との間に整合性の欠如が見られた。

こうした背景を踏まえ、第5次相互審査に向けて、2025年2月に開催されたFATF全体会合にて、IO2に関する評価ポイントに関する重要な見直しの議論が行われた。特に第4次相互審査でのIO2の課題として、(1)IO2の評価が定性的な記述に偏り、定量データによる裏付けが不十分であったこと、(2)財産回復を支援するための対象国の国際協力に関する詳細な情報が記載された報告書はごくわずかであったこと、(3)評価対象国における国際協力の実務経験について、グローバルネットワークからの十分なフィードバックが得られなかったこと、が指摘された。

FATF全体会合での議論や2024年6月のメソドロジー改訂も踏まえ、第4次相互審査時から以下のポイントが変更となった。

第一に、「評価者は、リスクプロファイルに照らして、国際協力の質と影響力、および協力要請の件数の双方に適切な重み付けを行うべきである*10」とメソドロジーに記載されているように、第5次相互審査では定性的・定量的情報の両方を適切に重み付けして評価される。

第二に、IO2に「財産回復促進」が明確化された。外国資産の回復命令および資産の流出を防ぐための暫定措置などの特定要素を追加し、評価では財産回復のデータ・事例を重視することになった。

第三に、国際協力に関するフィードバック収集方法が拡充され、評価チームが選定国に直接連絡して、被評価国との協力経験やリスクに関する一般的・具体的な意見を求める方式に変更された。メソドロジーにおいても、「評価者は、事例研究、他国からのフィードバック、入手可能な統計など、利用可能なあらゆる情報を活用すべきである」と明記されている。

第四に、評価チームに対し、国ごとのリスクや状況に照らして国際協力の重要性を明確に示し、その取り組みがリスクに見合っているかを評価することが求められる。また、公式協力と非公式協力の関係や、非公式協力が公式協力をどのように補完しているかも考慮されることになった。メソドロジーにも以下の通り定められている。「Core Issuesを評価する際、評価者は、国際協力の取り組みがリスクと整合しているかどうかを検討すべきである。(中略)Core Issuesは、「公式の」国際協力(中略)と、その他のより「非公式の」協力(中略)に分けられる。評価者は、評価対象国におけるこれら2種類の協力の関連性、および非公式の協力が公式の協力を支援するためにどのように活用されているかを検討すべきである。」

これらの見直しにより、第5次相互審査では、従来のように「国際協力の枠組みが整備されているか」といった観点のみならず、「実際にどの程度活用され、成果につながっているか」がより厳格に問われることとなった。すなわち、制度の有無から実効性の証明へと評価の重心が明確にシフトしている点が大きな特徴である。

3.FATF第5次相互審査での各国への指摘事項

2025年10月のFATF全体会合から第5次相互審査の議論が開始された。その後、マレーシア、ベルギー、イタリア、オーストリア、シンガポールの5か国が審査対象となり、最終報告書が公表されている。これら5か国は、第5次相互審査における評価の傾向や着眼点を示す初期事例であり、国際協力に関する評価の方向性を把握する上で重要な示唆を与えるものである。

(1)マレーシア(2025年12月公表)

マレーシアは、IO2について4段階中の下から2番目の評価であるME評価となった。

マレーシアは、第4次相互審査以降、条約・MOU数の増加やMLA関連研修の実施等を通じて、国際協力を強化し、外国へのMLA要請件数も36件から109件へ大幅に増加した点は評価された。しかし、緊急性や資産散逸リスクに基づく優先順位付けの明確な指針の欠如が指摘されたほか、外国から受領した要請のタイムリーな執行に課題があると指摘された。

また、外国に対して、汚職及び詐欺関連の要請が最も多かった点は国のリスク評価(NRA:National Risk Assessment)と一致してたが、テロ資金供与(TF:Terrorist Financing)・組織犯罪・麻薬等に関連する外国への要請件数が、自国のリスクプロファイルに見合っていない点や、海外移転された不正収益の体系的な追跡も不十分である点も課題として挙げられた。

このように、マレーシアは国際協力の枠組みや件数の面では一定の改善が見られたものの、要請の優先順位付けやリスクとの整合性といった「戦略的な活用」の面で課題が残ると評価された。

(2)ベルギー(2025年12月公表)

ベルギーは、IO2についてマレーシア同様、4段階中の下から2番目の評価であるME評価となった。

ベルギーはMLA・犯罪人引渡しの包括的枠組みを有し、外国からの要請に対して、提供される支援の質・迅速性はFATFメンバーから高く評価された。他方、外国からの資産凍結・没収の要請件数は少なく、外国への要請数も、自国のリスクプロファイルに比して全般的に低いと指摘された。

また、非公式な国際協力も広範に展開しているが、自国のマネロン事案・前提犯罪の包括的データマッピングが未整備であり、国際協力活動がリスクプロファイルと整合しているかの評価が困難な点が課題として挙げられた。

すなわち、ベルギーは個別の対応の質は高い一方で、国全体としての国際協力活動がどの程度リスクに見合ったものとなっているかを示すためのデータ基盤の整備に課題があると評価された。

(3)イタリア(2026年4月公表)

イタリアは、IO2について、4段階中の上から2番目の評価であるSE評価を得た。

イタリアはEU域内・域外の二重構造を有し、2020~2025年に計3,400件超の要請を海外に発出するなど、自国の主要リスク(組織犯罪・マネロン・財産回復)に沿った積極的な国際協力を展開しており、FIU等による多層的な協力提供も量・迅速性ともに高水準と評価された。

一方、要請の質・処理期間・成功率を中央で一元管理する体系的モニタリング制度の欠如や、特定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs*11:不動産業者、宝石貴金属業者、弁護士、司法書士など)を所管する監督当局の国際協力への関与が必要と指摘された。

このように、イタリアはリスクに対応した積極的な国際協力の実績が高く評価された一方で、その成果を体系的に把握・評価する仕組みの更なる高度化が今後の課題とされた。

(4)オーストリア(2026年4月公表)

オーストリアは、IO2についてマレーシア及びベルギー同様、4段階中の下から2番目の評価であるME評価となった。

オーストリアは包括的な法的枠組みと効率的な中央当局体制を有し、EU域内を中心に質の高い迅速なMLAを提供していると評価された。しかし、マネロン事件の約9割で国際協力が未活用であり、非EU諸国とのMLA・引渡し件数は自国のリスクプロファイルに比して著しく少ないと指摘された。

FIUの外国への発出要請は2021年の945件から2024年に40件へ急減し、財産回復支援の実績も極めて限定的(非EUとの資産共有はほぼゼロ)であるなど、制度の堅牢さに比して実際の協力量と成果が自国のリスクに見合っていない点が課題として挙げられた。

したがって、オーストリアにおいては、制度や体制の整備にもかかわらず、実際の活用や成果が伴っていない点が大きな課題として認識された。

(5)シンガポール(2026年5月公表)

シンガポールは、イタリア同様、IO2は4段階中の上から2番目の評価であるSE評価を得た。

シンガポールは体系的な法的枠組みを有しており、外国から受領したMLA要請に対して、タイムリーかつ建設的な国際協力を提供できていると評価された。また、財産回復支援についても、体制を整えており、高い実績を示した。

一方、外国への要請発出件数は、自国のリスクプロファイル・背景・マネロン調査件数を考慮すると、控えめであると指摘された。また、犯罪類型も詐欺に偏重しており、詐欺以外のMLA要請は限定的であることが課題として挙げられた。

このように、シンガポールは受動的な国際協力の質と迅速性は高く評価されている一方で、リスクに見合った対外要請の積極性という観点では改善の余地が指摘された。

(6)まとめ

下表は上記5か国の相互審査報告書のうちIO2のCore Issuesの指摘をまとめたものである。肯定的な評価は太字・下線で、否定的な評価は斜体で示している。ご覧いただくと、4段階中上から2番目のSE評価を受けたイタリア(伊)及びシンガポール(星)には肯定的評価が多い一方、下から2番のME評価を受けたマレーシア(馬)、ベルギー(白)及びオーストリアには否定的評価が多いことが分かる。なお、5か国はいずれも第4次相互審査ではSE評価であったが、第5次相互審査ではイタリア・シンガポールのみがSE評価を維持し、残る3か国はME評価に引き下げとなった。この結果は、第5次相互審査の評価基準が大幅に精緻化されたことを如実に反映している。これら5か国に共通して見られる傾向として、国際協力の制度的枠組み自体は概ね整備されている一方で、(1)自国のリスクプロファイルに沿った要請の発出、(2)財産回復を含めた成果の蓄積、(3)これらを裏付ける統計・データの整備といった点に課題が見られる。このような評価結果は、第5次相互審査において、MLAなどの件数や枠組みの有無のみならず、それがリスクに応じて戦略的に活用され、具体的成果として示されているかが厳格に問われていることを示唆している。

IO2のCore Issuesの指摘

4.第4次相互審査での日本への指摘事項

(1)IO2に関する指摘事項

2021年8月に公表された第4次対日相互審査報告書において、IO2について4段階中の上から2番目の評価であるSE評価を得た*12。概ね効果的に国際協力を提供・活用していると評価されたが、その一方で、それぞれのCore Issuesにおいて以下の改善が勧告された(以下は第4次相互審査時の評価ポイントに基づくもの。第5次相互審査では評価ポイントが変更されている点は前記2の通り)。

第一に、刑事共助等要請への対応(2.1)について、引渡しについてのより多くの条約の交渉を行い、自国民引渡しの基盤を提供すること、双罰性を裁量的要件として法律に導入することを検討することが求められた。

第二に、刑事共助等の要請(2.2)について、リスクプロファイルに沿って、外国当局に対するマネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)に関する国際協力の要請の強化や、刑事共助、犯罪人引渡しと財産回復を追求することを強化・促進するために、関係省庁における研修、ガイダンス及び啓発活動の促進の必要性が指摘された。

第三に、外国への情報・援助の非公式な要請(2.3)について、監督当局がAML/CFT上の監督協力と情報交換などの国際協力の発展及び情報交換に関する包括的な統計を維持することが求められた。

第四に、外国への情報・援助の非公式な提供(2.4)について、海外パートナーに対して、JAFIC(Japanese Financial Intelligence Center:日本のFIU)及び警察庁の金融インテリジェンスと情報の自発的な提供の強化が求められた。

以上の第4次相互審査での指摘事項を総括すると、日本においては、国際協力の法的枠組みや協力チャネル自体は概ね整備されているものの、(1)リスクプロファイルに沿った戦略的な要請の発出、(2)非公式協力を含む実績の体系的な把握、(3)自発的な情報提供の強化といった点において改善の余地が指摘された。

5.第4次対日相互審査以降の日本政府の取組み

(1)日本政府の取組み

2022年5月に、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議(以下「政策会議」)が策定・公表した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」)*13において、国としてのマネロン・テロ資金供与・拡散金融政策を明確化した。基本方針では、「取り組むべき4つの柱」の1つとして「国際的な協調・連携の強化」が挙げられた。犯罪のグローバル化・複雑化、国際情勢の緊迫化に伴い、国際機関や諸外国との連携を強化し、グローバルなマネロン・テロ資金供与・拡散金融への対応を継続・強化していく必要性が明記されている。

さらに、2024年4月には2024年度から2026年度を対象とする「マネロン・テロ資金供与・拡散金融に関する行動計画*14」を政策会議で決定し、国際協力に関する具体的な施策の実施スケジュールを明示した。「(1)国際機関等との連携強化」、「(2)効果的かつ時機を得た捜査共助・逃亡犯罪人引渡の実施」、「(3)外国のカウンターパートとの(2)以外の情報交換の促進」の3項目が掲げられ、警察庁や法務省をはじめとする担当府省庁が取り組んでいる。

また、第4次相互審査以降、新たにベトナムとの間で刑事共助条約を締結した(2022年8月)。その他、ブラジルやカナダとも刑事共助条約締結に向けて手続きを進めている。

締結済みの二国間の刑事共助条約/刑事共助協定及び犯罪人引渡条約

上記は締結済みの二国間の刑事共助条約/刑事共助協定及び犯罪人引渡条約であり、日本は二国間条約の他に、パレルモ条約やメリダ条約等の多国間条約も締結している。

6.第5次対日相互審査における課題と民間事業者の皆様にご留意いただきたい事項

(1)第5次対日相互審査における課題

日本が来たる第5次対日相互審査において相応の高い評価を得るためには、FATF基準の要請、第5次相互審査における各国への指摘事項、そして第4次対日相互審査における指摘事項を踏まえると、特定したリスクに見合った、外国への積極的な国際協力の要請が最重要となる。

高評価を目指すために、以下の4点について更なる取組みが必要である。

第一に、リスクプロファイルに整合的な要請の発出である。犯罪類型別の要請がリスクプロファイルと整合しているかが重要な評価ポイントとなる。例えば、日本が国として、匿名・流動型犯罪グループ(いわゆる「トクリュウ」)などによる詐欺について、リスクが高い前提犯罪と評価するのであれば、詐欺に関連した要請を積極的に発出していることを統計データ等で定量的に示すことが重要である。

第二に、積極的な情報・援助の提供である。外国から受領した要請への受動的対応のみではなく、自発的に外国に対して働きかけているかが評価対象となる。具体的には、JAFICによる自発的な情報提供、法執行機関間のICPO等を通じた非公式な情報交換等を積極的に活用し、その実績を記録・可視化していくことが求められる。第5次相互審査では、公式協力と非公式協力の関係や、非公式協力が公式協力をどのように補完しているかも評価の対象とされており、日本の各当局が実施している多様な非公式協力の枠組み(エグモント・グループ、ICPOネットワーク等)を体系的に整理し、効果が上がっていることを審査団に説明できるようにしておくことが肝要である。

第三に、他国からの要請に対する取り組みの更なる強化である。日本としても、MLA要請への処理期間の短縮や、他国から財産凍結の要請があった場合の迅速な口座等の凍結・差押え・没収の対応ができるよう、当局間及び官民での連携を一層強化する必要がある。

第四に、財産回復の実績の蓄積と体制整備である。第5次相互審査のメソドロジー改訂により財産回復の評価が強化された。外国からの資産凍結・没収命令の執行や海外に移転された不正収益の体系的な追跡について、対応できる体制の整備が急務である。

(2)民間事業者の皆様にご留意いただきたい事項

IO2は主に当局間の国際協力を評価する審査項目であるが、国際協力の実効性は民間事業者による取組みの質に支えられている。当局が外国当局からのMLA要請に迅速かつ的確に対応し、また自ら外国当局に協力を求める際にも、その端緒となる情報の多くは金融機関等の民間事業者から提供されるものである。以下の点について、特にご留意いただきたい。

第一に、国際協力を支える情報の質の確保である。金融機関等による疑わしい取引の届出(STR:Suspicious Transaction Report)や本人確認情報は、当局がMLA要請を行い、又は外国からの要請に対応する際の重要な端緒・裏付けとなる。第5次相互審査では、IO2の評価において定量的・定性的情報の両面が重視されることとなっており、STRの件数のみならず、その内容の的確性や、顧客の取引パターンを踏まえた分析の質が問われる。正確かつ網羅的な顧客情報の管理と、犯罪収益移転危険度調査書の内容を踏まえた適時適切な届出が基盤となる。特に、STRにおいて取引の国際的要素(送金先国・相手方属性等)を正確に記載することは、当局が国際協力の優先順位を判断し、リスクに見合った対応を行う上で不可欠である。

第二に、クロスボーダー取引に対するリスク認識の深化である。第5次相互審査では、国ごとのリスクや状況に照らして国際協力の重要性を明確に示し、その取り組みがリスクに見合っているかを示すことが求められている。このことは、当局のみならず民間事業者にも影響する。外国との取引において疑わしい兆候を把握した場合の適時適切な当局への報告は、国際協力の実効性を高める上で不可欠である。加えて、自社が取り扱うクロスボーダー取引のリスクを犯罪類型別・地域別に把握し、リスクベース・アプローチに基づく管理体制を構築しておくことが重要である。特に、日本の『犯罪収益移転危険度調査書』において高リスクとされる詐欺や薬物犯罪等の前提犯罪に関連するクロスボーダー取引には、より一層の注意が求められる。

第三に、財産回復を支える情報・体制の整備である。第5次相互審査では、IO2の評価に「財産回復の促進」が明確に位置づけられ、外国の財産回復命令の承認・執行や暫定措置(凍結・差押え等)に関する実績が重視されることとなった。財産回復のプロセスにおいては、金融機関等が保有する取引記録や口座情報が、不正資産の追跡・特定において決定的な役割を果たす。当局から照会を受けた際に、関連する取引履歴や顧客情報を速やかに提供できる体制を平時から整備しておくことが重要である。

7.終わりに

IO2(国際協力)は、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の実効性を、国境を越えた協力の観点から評価する審査項目であり、第5次審査では財産回復の明確化やフィードバック収集方法の拡充、リスクベースの評価の強化など、評価基準が一層精緻化されている。

約2年後の2028年夏頃に実施される第5次対日相互審査のオンサイト審査に向けて準備が本格化している。当局間の国際協力はIO2にとどまらず、マネロンの捜査・訴追(IO7)や財産回復(IO8)、テロ資金供与対策(IO9・IO10)など複数のIOにまたがる横断的な要素でもある。関係当局が一丸となって国際協力の質と迅速性の向上に取り組むとともに、民間事業者の皆様にも、STRの質の向上やクロスボーダー取引のリスク管理の強化など、日々の業務を通じた貢献をお願いしたい。国際協力の実効性は、官と民の双方の力が合わさってこそ実現するものである。

(第4回に続く)

*1)本稿の意見にわたる部分は執筆者の個人的見解であり、執筆者の属する組織の公式見解を示すものではない。

*2)『犯罪収益移転危険度調査書』(令和7年11月公表)p.14。

*3)小寺彰ほか編『講義国際法(第2版)』(有斐閣,2010年)174頁[中川淳司]

*4)国連において、国際組織犯罪対策のための条約作成交渉が1999年に開始され、2000年11月に国連総会において「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(略称:国際組織犯罪防止条約)」が採択された。2000年12月に、イタリアのパレルモにおいて同条約の署名会議が行われ、同条約は2003年9月に発効した。この条約では、捜査、訴追、及び司法手続において最大限の法律上の援助を相互に与えることなどが規定されている。

*5)パレルモ条約に腐敗問題に対処するための簡潔な規定が盛り込まれたが、同規定の作成交渉において一層効果的に腐敗問題に対処するために、別途、包括的な国際文書の作成を検討することが提唱され、メリダ条約は2003年10月に国際連合総会において採択された。この条約では、犯罪収益の没収、財産の返還等に関する国際協力等につき規定されている。

*6)FATF “Methodology – For Assessing Technical Compliance with the FATF Recommendations and the Effectiveness of AML/CFT/CPF Systems (Updated December 2025)”, p.124

*7)勧告36(国連諸文書の批准)、勧告37(法律上の相互援助、国際協力)、勧告38(法律上の相互援助:凍結及び没収)、勧告39(犯人引渡)、勧告40(国際協力(外国当局との情報交換))

*8)FATF “Methodology – For Assessing Technical Compliance with the FATF Recommendations and the Effectiveness of AML/CFT/CPF Systems (Updated December 2025)”, p.125-126

*9)上位評価から順に、High, Substantial, Moderate, Low (level of Effectiveness)

*10)FATF “Methodology – For Assessing Technical Compliance with the FATF Recommendations and the Effectiveness of AML/CFT/CPF Systems (Updated December 2025)”, p.124-125

*11)“Designated Non-Financial Businesses and Professions”の略

*12)FATF Mutual Evaluation Report of Japan, p.165

*13)「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針(2022年5月)」https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20220519_1.pdf

*14)「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024年4月)」https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20240417.pdf