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【PRI Open Campus】~財務総研の研究・交流活動紹介~
「平成財政史」の編纂
-研究員の視点から

愛知大学経済学部教授・財務総合政策研究所客員研究員 早川 大介

東北学院大学経済学部准教授・財務総合政策研究所客員研究員 谷 達彦

はじめに

今月のPRI Open Campusでは、財務総合政策研究所の資料情報部が、多くの有識者と協力して作成している「財政史」について、「ファイナンス」の読者の皆様にご紹介します。

1.「平成財政史」とは

財務省では、大蔵省時代より組織が正式な記録として作成する財政史の編纂事業をおこなっています。「財政史」は、財務省の行政の事績を政策の分野別に期間を区切って編纂した史録です。これまで、『明治財政史』シリーズから『平成財政史-平成元~12年度』シリーズまでが刊行されました。『平成財政史』の編纂事業は、平成18(2006)年度にスタートし、平成24(2012)年から令和2(2020)年までに全12巻(叙述巻7・資料巻5)が刊行されました。*1資料収集期間・執筆期間を含めて足掛け14年に亘る事業でした。

平成財政史の事務局は、財務総合政策研究所資料情報部財政史室に置かれ、執筆は主として大学教員を中心とした各分野の専門家が行いました。編纂の作業には、財政史室の職員のほか、編集協力委員の財務省OBや研究員・編集協力者など多くの人が関わりました。

財政史室には2006年から19年まで延べ10名ほどの大学院生の研究員が在籍しました。早川大介(現在、愛知大学経済学部教授)と谷達彦(現在、東北学院大学経済学部准教授)は、研究員として平成財政史の編纂に関わりました。早川は、編纂がスタートした2006年に着任し、2010年度末まで資料収集・整理等を行いながら、『平成財政史─平成元~12年度』第3巻の「政府関係機関」パートの執筆を担当しました。谷は、早川の後任として2011年度に着任し、原稿チェックなど刊行に向けた業務を行いました。

以下では、2006年から10年度を早川が、2011年度について谷が「平成財政史」編纂に関わった思い出を述べたいと思います。

【図表1】 刊行スケジュール

【図表1】 刊行スケジュール

【図表2】 『平成財政史』巻別構成・担当者一覧

【図表2】 『平成財政史』巻別構成・担当者一覧

2.2006-2010年度の業務

早川は、2006年7月から2011年3月まで、編集協力者・研究員として財政史室に在籍しました。2006年当時、東京大学大学院経済学研究科博士課程三年に在籍し、伊藤正直教授(現名誉教授)の下で近現代の日本金融史を勉強していました。当時は、両大戦間期の金融危機について関心を持っており、日本銀行と地方銀行・地方金融市場に焦点を当てながら研究をしていました。

財政史編纂に関わることになったきっかけは、研究でお世話になっていた浅井良夫成城大学教授(現名誉教授)からの紹介でした。平成財政史の編纂がスタートするにあたり資料収集や整理などの編纂の補助を行う大学院生が必要ということでした。

戦前期の歴史研究をしていたので、『明治財政史』・『明治大正財政史』・『昭和財政史』の金融に関連する箇所に目を通したことはありましたが、財政史室についての具体的な知識は全くありませんでした。しかも、業務内容は平成初期の財政史の編纂であり、戦前の歴史を中心に勉強していた自分にできるのかと思いました。

当初は、編集協力者として、大学院の演習や他の研究機関でのアルバイト等をしながら、週に1、2回程度出勤してその都度依頼のあった業務を行いました。編纂の準備期間でしたので、基礎となる財政・金融関係の法改正の確認、平成期の財政統計の作成などを行いました。また、並行して国立国会図書館や全国銀行協会・証券業協会等の業界団体の図書館などを回って審議会の答申や資料などを収集しました。

2007年度にはオーバードクターになったこともあり、基本的に月曜日から金曜日まで毎日出勤するようになりました。当時、情報システム部の部屋の一角の「研究室」にデスクを置かせていただき、資料の閲覧に来室された先生方の依頼を受けて、資料収集や統計の作成などを行いました。金融史の勉強をしていたので金融に関してはある程度土地勘がありましたが、予算や租税については全く不勉強で『国の予算』や『決算の説明』などの基礎資料について全く知りませんでした。頻繁に来室していた林健久先生や宮島洋先生に色々と教えていただきながら、過去の『昭和財政史』や財政学や財政法等の概説書に目を通してその都度わからないことを勉強する日々でした。財務省図書館の蔵書が充実していたので、気になったら文献にあたってすぐに調べることができました。「財政投融資」の担当で残念ながら執筆途中の2009年に急逝されましたが、横浜国立大学の学部時代に地方財政を教わった金澤史男先生とお話しできたのは今となっては良い思い出です。

先生方の依頼で、編集協力委員経由で各局から借り受けた資料のコピーとファイリングも担当しました。膨大な資料を連日コピーして、穴を開けてファイリングしてラベルを貼り付けるという作業を行いました。単純作業ではありましたが、脱落の無いようにコピーする必要があり、神経を使う作業でした。それでもキャビネットが日に日にファイルで埋まって行くので達成感はありました。

研究員としての業務と並行して、最初に刊行される第3巻の「政府関係機関」のパートを執筆することになりました。「政府関係機関」とは、「特別の法律により設立された全額政府出資の法人であり、法律に基づいてその予算及び決算の国会への提出が義務付けられた機関」で、平成元年時点には、日本開発銀行、日本輸出入銀行の2銀行と国民金融公庫・住宅金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫・北海道東北開発公庫・公営企業金融公庫・中小企業信用保険公庫・環境衛生金融公庫・沖縄振興開発金融公庫の9公庫の計11機関がありました。その後、平成11年7月に中小企業信用保険公庫が中小企業事業団に統合され中小企業総合事業団となり、同年10月には、日本開発銀行と北海道東北開発公庫が合併し日本政策投資銀行、国民金融公庫と環境衛生金融公庫が合併し国民生活金融公庫、日本輸出入銀行と海外経済協力基金が合併し国際協力銀行が設立され、平成12年度末時点では、2銀行7公庫等の計9機関となりました。各銀行・公庫等の概要を確認しながら、経済対策時の予算措置や政府関係機関の再編過程について叙述しました。

同じ第3巻の「特別会計」・「国有財産」を担当された柴田善雅先生(大東文化大学)は、以前財政史室に長く勤務されており、植民地経済史に関して多くの研究書を刊行されていました。来室された際には、財政史資料について様々なことを教えていただきました。また、論文の抜刷を頂戴したり、合間にご専門の植民地研究や史料の話も伺いました。毎日財務省に出勤し、歴史研究の世界から少し遠ざかっていた時期でしたので貴重な時間でした。

最終的に財政史室に4年半ほど在籍した後、当時愛知県豊橋市にあった愛知大学経済学部に日本経済史の担当の専任教員として赴任することになり、2010年度末で財政史室を離れることになりました。東京を離れる直前の2011年3月11日には、勤務中に東日本大震災に遭遇しました。ものすごい揺れで作業中の原稿や書籍が雪崩を起こし、急いで机の下に潜りました。当日は、電車が止まり帰宅が困難となったため、財務省庁舎で夜を明かしました。

2002年に修士課程に進学して足掛け9年間大学院に在籍しましたが、そのうちの約半分は財政史室で過ごしたことになります。思い返して見ると、将来の展望が見えず不安定な時期でしたが、全く社会人経験のなかった自分には貴重な経験になりました。それまでは、夜中に論文を書いて昼前まで寝るなど、かなり不規則な生活をしていましたので、朝に満員電車に乗って毎日同じ場所に通勤することは初めての経験でした。職員の方と昼食をご一緒したり、懇親会に誘っていただいたりしたのは良い思い出です。早いもので現在の大学に勤務して15年になりました。大学教員の業務も多岐に亘りますので、財務省での経験は、様々な局面で生かされていると思います。

3.2011年度の業務を振り返って

2011年3月から2012年3月まで、早川氏の後を継いで、谷が研究員として財政史室に在籍しました。研究員を務めることが決まった時は、立教大学大学院経済学研究科博士課程後期課程5年に在籍していました。財政学・地方財政論を専攻し、池上岳彦教授(『昭和財政史─昭和49~63年度』第2巻「予算」、『平成財政史─平成元~12年度』第2巻「予算」を執筆)にご指導いただいて、アメリカの大都市税制を博士論文のテーマとして研究していました。そして2011年度からは聖学院大学で非常勤講師として授業を担当することになっていました。

『明治財政史』から続く「財政史」編纂事業に携わることのできる貴重な機会でしたが、博士論文の見通しはほとんど立っておりませんでしたし、授業を担当するのは初めてのことでしたので、研究員として勤務しながら研究や授業準備を進められるだろうかという不安もありました。

『平成財政史─平成元~12年度』の編纂期間6年目となる2011年度は、執筆と並行して刊行の始まる時期でした。2011年3月当時の進捗状況は、2011年度中の刊行を予定している第3巻「特別会計・政府関係機関・国有財産」と第4巻「租税」については、原稿の校閲が進められていました。また、2012年度中の刊行を予定している第2巻「予算」については、資料・情報の収集や執筆構想の整理などの執筆準備が進められていました。さらに、2012年度以降に刊行を予定している巻については、執筆者の先生がご登庁するなどして編纂資料の閲覧・確認等が行われていました。

このように複数の巻の作業が並行して行われていましたので、第1巻「総説・財政会計制度」、第2巻「予算」、第3巻「特別会計・政府関係機関・国有財産」、第4巻「租税」について、その進捗に応じて原稿の校閲、資料・情報の収集、図表の作成などの業務を担当しました。

特に長い時間をかけて取り組んだのは原稿の校閲でした。誤字脱字や表記の仕方だけでなく、数値や日付、法律番号、引用箇所のページ数などに誤りがないかを逐一資料にあたって確認するのは神経を使う作業でしたが、文章を注意深く読むことのよい訓練になりました。原稿をじっくりと繰り返し読むことで、財政の知識を広げ、理解を深めることもできました。

資料を収集し、執筆者の先生に提供することも主要な業務でした。前節で述べられているように、各巻の基礎資料の収集、整理はすでに行われていましたが、その後も必要に応じて資料を集めました。資料収集では財務省図書館を主に利用しましたが、そこで入手できない資料については国立国会図書館や各府省庁の図書館を利用しました。初めて利用する図書館での資料収集は楽しかったですし、様々な資料にふれて資料に関する知識を広げられたことは、その後の研究教育に役立ちました。

先生方から依頼され、図の作成も担当しました。経済状況に関する様々な統計データを収集し、グラフを作成することは楽しい作業でした。日本経済の基礎を勉強するうえでもよい作業だったと思います。

これらの業務を行っていてわからないことがある場合は、職員の方々に些細なことでも質問できましたし、丁寧に教えていただきました。風通しのよい環境で、率直に意見を出すこともできました。

2012年度から立教大学経済学部に助教として就職することとなり、研究員を退任しました。振り返ってみると、授業を担当する日を除く週4日、9時30分から18時15分まで勤務しながら、研究や授業準備をするのはやはり大変でした。研究員になる前は夜型の生活をしておりましたので、朝から起きて通勤するのも苦労しました。しかし、執筆者の先生方や編集協力者の方々に色々と教えていただきながら財政史を勉強できたことは貴重な経験でした。職員の方々との昼食や時折の会合は楽しい思い出です。

2016年度からは東北学院大学経済学部で財政学担当の専任教員として研究教育に取り組んでいます。一年間という短い間でしたが、研究員を務めて得られた経験は、大学教員になってから研究教育だけでなく学内業務においても生かされているように思います。

【図表3】『平成財政史─平成元~12年度』全12巻

【図表3】『平成財政史─平成元~12年度』全12巻

おわりに

15年から20年も前のことですが、『平成財政史─平成元~12年度』の編纂に携わった思い出を述べました。当時の研究員の具体的な業務内容や思いを知っていただけたならば幸いです。

財務省が正式な記録として編纂する「財政史」は、財政金融の歴史を後世に伝える役割を果たしていますが、それは財務行政の企画・立案のみならず、一般の学術研究の参考に利用されることも目的としています。そうした社会的意義のある「財政史」の編纂に携われたことは、財政金融を研究する大学院生にとって得難い経験でした。

『平成財政史─平成元~12年度』の編纂・刊行において研究員の果たした役割は不可欠であった、そのように考えて本稿を執筆いたしました。

【プロフィール】

早川 大介
愛知大学経済学部教授・財務省財務総合政策研究所客員研究員

2011年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。修士(経済学)。
2006年から2011年まで財務省財務総合政策研究所編集協力者・研究員。2011年から愛知大学経済学部勤務。専門分野は、日本経済史(金融史・財政史)。

谷 達彦
東北学院大学経済学部准教授・財務省財務総合政策研究所客員研究員

2012年立教大学大学院経済学研究科博士課程後期課程単位取得退学。博士(経済学)。
2011年から2012年まで財務省財務総合政策研究所研究員。立教大学経済学部助教等を経て、2016年から東北学院大学経済学部勤務。専門分野は財政学・地方財政論。

財務総合政策研究所

過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

*1)https://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/zaisei05.htm