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論点解説 日本の安全保障

日本経済新聞出版 2025年2月 定価 本体3,200円+税

論点解説 日本の安全保障

秋山 昌廣 編、小黒 一正 編

評者
日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員
政策研究大学院大学博士課程(政策プロフェッショナルプログラム)在籍

渡部 晶

本書は鹿島平和研究所で開催されている「国力研究会」(主査は編者・小黒一正・法政大学教授)、「安全保障外交政策研究会」(研究会代表は編者・秋山昌廣・元防衛事務次官)のメンバーなどが中心となり、日本の安全保障について議論を深めるために、17の論点について整理を行い、鹿島平和研究所「国力研究会」のプロジェクトとして世に問うたものだ

問題意識は表紙扉の裏書に記載されている。「ウクライナ侵攻、台湾有事の可能性、北朝鮮問題などもあり、日本の国防政策のあり方も再考を迫られている。政府は防衛費(対GDP比)倍増を決めたが、現在進行中の国際秩序の変容の先行きを考えた場合、防衛政策の問題は財源のみの問題ではない。急速な人口減少が進むなか、不足する自衛隊員の問題をどうするか、核の問題にどう向き合っていくか等の問題の整理も行う必要がある。」とある。

17の論点と執筆者は以下の通りである。

論点1 不足する自衛隊員の問題にどう対処するか(小黒一正、徳地秀士・平和・安全保障研究所理事長)、論点2 有事の財源調達をどうするか(小黒一正)、論点3 核抑止の問題や軍備管理・軍縮にどう対応すべきか(高見澤將林・元内閣官房副長官補)、論点4 核シェアリングと拡大抑止において日本の選択肢はどうあるべきか、論点5 台湾有事や尖閣占拠にどう対処するか、論点6 日米同盟はどのように強化すべきか(徳地秀士)、論点7 日欧、諸外国との安全保障協力の充実にどう対応するか(細谷雄一・慶應義塾大学教授)、論点8 平時や有事でのエネルギー資源・食料の調達をどうするか(関山健・京都大学教授)、論点9 核兵器攻撃と原子力施設への軍事攻撃にどう備えるか(岩本友則・日本核物質管理学会事務局長)、論点10 防衛産業をどう育成するか(日本版DARPA構想)、論点11 国家安全保障を支えるために、国民はどのような意識が必要か(松村五郎・元陸上自衛隊東北方面総監)、論点12 宇宙・サイバー・電磁波領域をどう防衛するか(土屋大洋・慶應義塾大学教授)、論点13 気候変動による施設・装備・運用への影響にどう対処するか(関山健)、論点14 先端技術を防衛にどう活かすか(森聡・慶應義塾大学教授)、論点15 日本のインテリジェンスは必要十分か(大澤淳・中曽根平和研究所主任研究員)、論点16 経済安全保障において経済と安全はどのようにバランスをとるべきか(関山健)、論点17 自衛隊をめぐる関連法制はどのように再構築されるべきか(徳地秀士)。

17の論点の貴重な考察を紙面の都合で全部紹介することはできないが、まず論点1の自衛隊の人員問題は深刻だ。日本では、公務員に関して人員がボトルネックになるという点を必ずしも重視してこなかった。それは公務員全体に通じる問題として顕在化した。できるだけ効率化・省力化するのは当然として、この論点が本書の冒頭にあげられた含意を重く受け止めるべきだろう。論点2で、小黒教授は財政も安全保障に含まれるとして「財政安全保障」(仮称)という概念を提唱しているが、真剣な検討に値すると考える。論点10で武器は民間が勝手に輸出できるものではなく、国家安全保障のために行う国家事業であるとの指摘にははっとさせられる。日本で平和国家のイメージが強いスウェーデンも武器輸出で知られた国だが、これはまさにその国の安全保障政策なのである。また、DARPAの基本的な考え方が「失敗からやってはいけないことを学ぶ」という真摯な態度であるとの指摘は、此処彼処の発想の違いを感じる。形式だけマネする弊に陥っていないか再考を要する。論点16で、関山教授が各種政策文書を調査し「経済安全保障」の定義が明確でないことを指摘し、自らの定義を明らかにした点には敬意を表したい。この言葉を、民間活動を不必要に制限するマジックワードにしないことは死活的に重要である

本書が出版されたのが昨年2月であり、それからほぼ1年を経た本年2月28日(日本時間)に米国及びイスラエルは、イランに対する攻撃を実施した。「現在の世界は最終的には武力によって統治されている」(大瀧雅之「序論」『ケインズとその時代を読む~危機の時代の経済学ブックガイド』(2017年))ことをあらためて噛み締める。「絶えざる情勢観望の要はいうまでもないが、世界情勢自体は与件・制約としたうえで、国のあり方を考えることが現実的で理にかなっている」(同)のだ。そのために一読をお勧めしたい。