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コラム 経済トレンド 142
自動車市場の構造変化と中古車シフトの進展

大臣官房総合政策課 調査員 齊之平 大致/伊藤 祐嗣

中古車市場の動向を分析し、中古車を中心とした自動車市場の先行きについて展望した。

我が国の自動車販売

・我が国の新車販売市場は、コロナ禍前と比べて力強さを欠く(図表1)。

・背景として、供給要因が大きく影響しているものとみられる。近年、部品不足や不正への対応のために生産停止や減産を余儀なくされるケースが相次いでおり、自動車生産は冴えない状況が続く(図表2、3)。こういった供給不足は、流通する新車の数を減少させたほか、納期遅れなどを引き起こしていたようだ。また供給不足への対応により、モデルチェンジや新車投入にかかる研究開発や投資が遅れた可能性も考えられるところだ。

・需要面では、消費者が新車購入以外の選択を拡大している可能性もある。とくに近年、自動車市場において、中古車が一定の存在感を示している。このところ、その年に所有権移転がなされた中古車の台数が、同年の新車登録台数を上回る状況が続く(図表4)。

・本稿では、中古車市場の足元動向について、新車を代替し得る特性を踏まえて分析し、自動車市場の先行きを展望した。

(図表1)新車販売の動向

(図表1)新車販売の動向

(図表2)自動車生産に影響のあった近年の主な事象

(図表2)自動車生産に影響のあった近年の主な事象

(図表3)乗用車の生産動向

(図表3)乗用車の生産動向

(図表4)乗用車の登録状況

(図表4)乗用車の登録状況

(出所)内閣府「月例経済報告」、日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会、経済産業省「鉱工業指数」、各種報道

中古車市場の現況

・昨今の中古車市場の動向について整理したい。

・中古車競売市場における価格動向は需給を知る手がかりとなるが、足元の平均落札価格は上昇基調だ(図表5)。国内外における需要増のほか、供給の不安定性など複合的な要因が影響したものとみられる(図表6)。

・需要面では、低価格志向を反映した国内需要の堅調ぶりに加え、旺盛な海外需要が影響している模様だ。また中古車市場には買い換え時に下取りに出された自動車が流通するため(図表7)、足元の新車販売の低迷が、中古車供給を不安定化させる要因になっていたと考えられる。

・なお価格上昇局面にあっても、新車と比べた割安感は維持されているとみられ、中古車需要の堅調ぶりを支えているようだ。また中古車市場にはすでに存在するストックが流通するため、供給ショックが生じた際の影響は新車と比べると緩やかなものとなる。実際、近年供給不足が生じた時期において、中古車販売の落ち込みは新車と比べて限定的であった(図表8)。

・こういった事象は、少なくとも短期的には中古車シフトが発生し得ることを示唆する。

(図表5)中古車競売価格の動向

(図表5)中古車競売価格の動向

(図表6)中古車価格の上昇要因

(図表6)中古車価格の上昇要因

(図表7)自動車購入の模式図

(図表7)自動車購入の模式図

(図表8)乗用車の登録状況(前年比)

(図表8)乗用車の登録状況(前年比)

(出所)株式会社ユー・エス・エス、総務省「消費者物価指数」、日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会、各種報道

中古車シフトの分析

・中古車シフトは構造的な要因を背景に、中長期的にも拡大する可能性がある。

・車の平均使用年数は長期化傾向にある(図表9)。これは自動車が廃車されるまでの寿命が延びていることを表しており、下取りに出された車はこれまで以上に長期間、市場で流通する傾向にあることが示唆される。結果として中古車市場におけるストック供給はいっそう安定し、消費者が中古車を選択できる機会は拡大していくと考えられる。

・平均使用年数が長期化している背景として、自動車性能の発展が挙げられる。安全性能や耐久性の向上などを背景に、交通事故の発生件数や死傷者数は減少傾向にあり、廃車に至るリスクが低下している(図表10)。

・消費者の目線に立っても、中古車需要の拡大は今後も続きそうだ。前述の通り、中古車価格は新車に比べて急速に上昇しているが、現状の平均購入価格では乖離があり、中古車の価格優位はまだまだ覆りそうにない(図表11、12)。

・相対的に供給が不安定である新車需要の受け皿としてのみならず、コスパ重視の消費スタイルが浸透しているなかでの純粋な中古車人気が下支えし、中古車シフトの傾向が急激に腰折れする可能性は低いだろう。

(図表9)乗用車の平均使用年数

(図表9)乗用車の平均使用年数

(図表10)交通事故の発生件数、死傷者数

(図表10)交通事故の発生件数、死傷者数

(図表11)自動車の平均購入価格

(図表11)自動車の平均購入価格

(図表12)直近で購入した車の支払総額推移

(図表12)直近で購入した車の支払総額推移

(出所)自動車検査登録情報協会「わが国の自動車保有動向」、警察庁「交通事故統計」、カーセンサー自動車総研「自動車購入実態調査2024」

中古車市場の展望

・ここまで、新車市場が供給不足などに伴い安定性を欠くなか、中古車シフトが生じる可能性について論じてきた(図表13)。

・中古車は、単に価格優位性だけではなく、環境へのポジティブな影響からも評価される。中古車シフトにより新車製造が控えられれば、環境負荷の発生を抑える効果(資源消費の削減等)が期待されるためだ。新たな付加価値を生まない中古車取引がGDP統計へ計上されることはない()が、国民経済計算体系(SNA)に環境価値を取り込んだ「SEEA」と呼ばれる勘定の枠組みにおいて、中古車シフトは「グリーンGDP」(環境要因を考慮したGDP)の押し上げに寄与する可能性があろう(図表14)。

・こういった中古車シフトが自動車メーカーへ与える影響についても言及したい。一義的には、中古車シフトは新車販売の下押しにつながるため、自動車の生産機会を奪っていくものと解釈される。他方で別の見方をすれば、中古車市場が主流となれば、下取りに出されて以降も評価され続ける、耐久性に優れた高品質な自動車が求められる時代へと移行していくのかもしれない(図表15)。こうした動きは、自動車生産の質を高めよう。

・中古車シフトの動きは、価格優位性にも裏付けされた消費者満足度の向上、環境へのプラス影響、より付加価値を重視した自動車生産、といった前向きな側面が期待される。今後の自動車市場における中古車の動向から目が離せない。

(図表13)中古車シフトの主な経路

(図表13)中古車シフトの主な経路

(図表14)SEEAの概念図

(図表14)SEEAの概念図

(図表15)消費者が中古車購入時に重視する点

(図表15)消費者が中古車購入時に重視する点

(注)中古車消費は、既に過去時点で生産された自動車を消費者間で移転するものであり、新たな付加価値を生むものではないため、中古車販売額そのものはGDPの個人消費には計上されない。他方、中古車売買に伴うマージン分は、付加価値としてGDPに計上される。
(出所)国際連合「System of Environmental Economic Accounting |、農林水産省「環境勘定の構築に向けた世界的な潮流と国内外における研究動向」、株式会社ネクステージ「中古車オーナーの意識調査2025」、各種報道

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。