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地域課題解決サポートセミナー
~人口減少時代の地域交通戦略~について

東北財務局理財部融資課 調査官 松尾 優美

調査官 橋本 康広

課員 安江 奏楽

1.はじめに

東北財務局(以下、「当局」)は、令和8年2月12日、仙台市において、東北地方の地方公共団体(以下、「地公体」)の交通・財政担当者等を対象に、地域交通の確保に向けた課題解決をテーマとしたセミナーを開催した(東北運輸局と共催)。

本セミナーでは、国、地域交通の課題解決に取り組む地公体や交通事業者から、国の施策や先進的な取組事例などについて説明があり、対面・Webで参加した東北地方の83の地公体等、142名に幅広く共有が図られた。

本稿では、本セミナー開催の背景や内容について紹介する。

本セミナーのチラシ

本セミナーのチラシ

2.セミナー開催の背景

当局は、住民生活に密着した社会資本整備や災害復旧などの地域のニーズに応えるため、地公体向けに財政融資資金の融資を行う中で、融資先である地公体の財務状況分析(財務状況把握)や実地監査等にも取り組み、地公体の様々な現場の実情を伺っている。

こうした中で、人口減少や高齢化が特に進んでいる東北地方では、バス路線の維持や移動手段の確保など、地域交通の維持が地公体の直面する大きな課題の1つとなっていることを把握した。

その一方で、各地公体が個別に自地域の実情に合った先進的な取組などを探し出すには限界があるため、持続可能な地域交通の確保に向けて課題や知見を共有し、共に考える場を持つことが有益と考え、本セミナーを企画することとした。

しかし、当局は、交通分野の専門性を持ち合わせていないため、全国的な情報を持つ財務省理財局の支援を受けつつ、地域公共交通の活性化に関する業務を行っている東北運輸局に協力を依頼し、連携して取り組むこととした。

3.セミナー開催まで

地公体からは、交通政策に関わる制度や財源、先進事例について紹介して欲しいとの要望が聞かれていたため、本セミナーは国の機関からの施策の説明と先進事例の紹介を内容とすることとした。

先進事例については、東北運輸局から3つの地公体の事例を紹介いただいた。本セミナーで紹介する事例については、日頃の地公体との接触機会を通じて、人口規模が比較的小さい地公体から職員や財源の不足などが構造的な課題であるとお聞きしていたため、比較的小規模な地公体の持続可能な取組を共有できればと考えた。

また、東北運輸局からは、地公体に加えて地域交通の担い手である交通事業者の視点も有益ではないかとの提案と共に、専門家を紹介いただいた。

その結果、約3時間という限られた時間の中で、7名の講師から、地域の課題解決に向けて第一線で取り組まれている地公体の担当者向けに、施策や取組に至った経緯、苦労している点や財源措置を含めた持続可能性を確保するための工夫などを紹介いただけることとなった。

本セミナーのプログラム

本セミナーのプログラム

こうして本セミナーの企画から開催に至るまで、私達の手で地域課題に関する情報を収集して、課題解決に向けた情報提供の場を作り上げていく面白さを感じた一方、私達の考えが企画内容を左右する分、地公体の皆様の共感を得る内容としなければという責任感と緊張があった。

プログラムを決定してからは、講師との講演内容や日程の調整、地公体をはじめとした関係者への周知など、短期間での作業となったが、皆様のご協力により無事にセミナー当日を迎えることができた。

4.セミナー当日の模様

冒頭、東北運輸局の木幡隆介氏から、交通空白の解消に向けた国の支援策や持続可能な移動手段を確保するための最新の取組が紹介されたほか、地域の実情に応じた交通ネットワークの再編や官民連携による体制強化の重要性が説明された。

続いて、財務省理財局の鳩間正也氏から、地域交通の課題解決に活用可能な地公体向け融資(地方債)及び事業者向け出融資((独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構、(株)日本政策投資銀行)の説明があった。また、(株)日本政策金融公庫による地域交通事業の承継支援が紹介された。

国の施策等の説明に続き、地公体や交通事業者の皆様から先進的な取組事例が紹介された。

始めに、山形県鶴岡市の下本敬己氏、庄内交通(株)の髙橋広司氏から、市と事業者が連携してバス路線を利用者視点で再編した結果、利用者数が約6倍に増加した事例が紹介された。バス利用者の減少が続く中で、全国的に路線廃止が増える状況とは対照的に、庄内交通(株)は高齢者が利用しやすい交通環境の実現を目指し、住宅地に入って行けるような小型車両を導入して「1時間に1本バスが来る環境」にこだわるなど、あえてルート・便数・バス停を増やして利便性の向上を図った。鶴岡市は、交通担当に限らず横断的に市の関係部署が連携し、バス停の配置位置など利用者視点の環境整備を支援した。この再編には、財政融資資金(過疎対策事業債)を活用した。

次に、秋田県三種町の加藤登美子氏から、住民・事業者・行政が連携して交通体系を構築し、持続可能な仕組みを共創している事例が紹介された。

交通事業者でカバーしきれない地区においては、各自治会等の協力を得て、住民ドライバー(住民共助組織)による運行が実現したことが特徴的である。均一運賃の導入や時刻表の作成、停留所配置の見直しなど、利用者に分かりやすい仕組みを整備した結果、高齢者から学生やスポーツ少年団の需要にも繋がり、利用者数が着実に増加した事例である。また、高齢者が中心の住民ドライバーの生きがい創出になっていることも紹介された。三種町の人口は約1万4千人と、東北地方の地公体の人口中央値(約1万3千人:令和7年1月1日住民基本台帳人口)に近く、自地域に重ね合わせて聞くことができた参加者も多かったと考えられる。

続いて、山形県南陽市の舩山綾子氏から、乗用タクシーを活用した「おきタク」について、運行状況や財源について詳細な説明があり、地域のニーズに応じて制度を柔軟に設計した事例が紹介された。同市沖郷地区においては、地区長等が地域公共交通検討会を発足させるなど、住民の主体的な取組による課題解決が図られた。地区負担金として一戸200円を徴収する合意形成が図られたことが特徴的である。

最後に、地域公共交通東北仕事人((株)ミヤコーバス:宮城県仙台市)の奥山武信氏から、交通事業者側の現実的で率直な視点を提供いただいた。地域交通事業は補助制度があっても赤字に陥りやすく運転手不足が深刻である現状、路線バスの活用によるスクールバス運行や外国人運転手の採用などの対応策が紹介された。加えて、地公体に対しては、交通事業者への包括的な支援の必要性や公共交通に精通した職員配置・養成を求めたいとの意見が示された。

本セミナーについては、当局がホームページや公式SNS、地域のネットワークを活用して積極的に広報活動した結果、当日の模様は夕方のニュース番組で報道されたほか、事例を紹介した地公体の地元新聞等で取り上げられ、地域課題解決に向けた国・地公体・事業者の取組が広く報道された。

参加者からは「身近な地公体の取組内容を知ることができ、今後に活かせる」、「事例紹介には財政上の取組も含まれており参考になった」などの感想が寄せられた。

庄内交通(株) 専務取締役 髙橋 広司氏

庄内交通(株)
専務取締役 髙橋 広司氏

山形県鶴岡市 地域振興課 専門員 下本 敬己氏

山形県鶴岡市 地域振興課
専門員 下本 敬己氏

山形県南陽市 みらい戦略課 企画振興係長 舩山 綾子氏

山形県南陽市 みらい戦略課
企画振興係長 舩山 綾子氏

地域公共交通東北仕事人 (株)ミヤコーバス 奥山 武信氏

地域公共交通東北仕事人
(株)ミヤコーバス 奥山 武信氏

秋田県三種町 企画政策課長 加藤 登美子氏

秋田県三種町 企画政策課長 加藤 登美子氏

5.おわりに

本セミナーの開催にあたり、快く講演を引き受け自身の経験や知見を惜しみなく共有いただいた講師や関係者の皆様、本セミナーに参加いただいた皆様に、改めて御礼を申し上げる。

本セミナーで課題や先進事例を共有したことで、地域交通の将来を考え、課題解決のヒントを見つけるきっかけになれば幸いである。

財政融資資金業務に携わる中で、融資審査や実地監査などは利害関係が伴うため地公体との距離を感じることが少なくなかったが、本セミナーを通じて地公体の皆様の反応を間近で見て、私達が担う業務が地域貢献に結びついていることを実感できた。また、地公体参加者から「次のセミナーは〇〇を題材にしてほしい」といった要望があり、当局が単なる資金供給主体ではなく、地域の課題解決に向けて共に取り組む存在として期待されていると感じ、大きな励みとなった。

引き続き、財政融資資金業務を通じて地域の課題を把握するとともに、地域の皆様と一緒に課題の解決策を探りながら、東北地方の発展に貢献できるよう取り組みたいと思う。

本セミナーの様子

本セミナーの様子