財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月のPRI Open Campusでは、2025年12月16日(火)に公益財団法人東京財団政策研究部マネージャーの吉原祥子様にご講演いただいた内容を、「ファイナンス」の読者の方々にご紹介します。

「所有者不明土地問題と政策動向-新たな土地制度の普及へ-」
吉原 祥子
公益財団法人東京財団政策研究部マネージャー
研究分野・主な関心領域は、国土資源、土地制度、所有者不明土地。
東京外国語大学卒業。タイ国立シーナカリンウィロート大学へ国費留学。米レズリー大学大学院(文化間関係論)修了。米Institute of International Education(IIE)バンコク支部を経て、1998年より東京財団勤務。現在、国土審議会土地政策分科会企画部会専門委員、内閣府土地等利用状況審議会委員、財政制度等審議会国有財産分科会臨時委員等を務める。
主な著書等に、「多主体協働と土地ガバナンスの課題─所有者不明土地問題からの検討」(中島弘貴・城山英明・浅見泰司編著『不動産ガバナンス─権利調整と合意形成からみる持続的な地域のあり方』東京大学出版会、2025年)、『人口減少時代の土地問題─「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(中公新書、2017年)など。
1.所有者不明土地問題とは
近年、日本では土地制度の見直しが進められていますが、その契機となったこととして所有者不明土地問題が挙げられます。
所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、あるいは、所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかない土地を指します。
所有者不明土地問題に対する関心の高まりの契機となったのは、2011年に発生した東日本大震災です。復興に向けた高台移転のための土地収用に際し、現在の所有者が判明しない、あるいは所在が把握できず連絡を取ることが困難な土地が多数存在したことで復興事業の円滑な実施の支障となったことを背景に、制度見直しを求める機運が高まっていきました。
2.問題の所在
(1)相続登記の在り方
こうした問題が生じる制度的要因として、最も大きな問題が相続登記の在り方です。不動産登記制度において、相続が発生した場合の不動産の登記申請は明治時代以来長らく任意とされ、申請するか否かは所有者の意思に委ねられてきました。登記簿上に既に亡くなった人の氏名が残っていたとしても、民法上、土地所有に関する権利自体は保護されており、所有者自身が特段の不便を感じなければ相続登記を行わなくても差し支えありませんでした。
特に地方部においては、人口減少が進み、土地取引も沈静化する中で、適切に相続登記がなされていなくても、当面は実質的な問題が発生しないケースや、相続人が地元に居住しておらず、自分が相続した土地がどこにあるのか把握していないというケースも増加しています。そうした相続によって所有した土地について、売却の見込みや利用の目途が立たない一方で、固定資産税の負担のみが毎年生じることから、相続人の負担感が高まっているということも近年顕在化し、一連の土地制度見直しが行われるに至りました。
(2)所有者探索にかかるコスト
所有者不明土地が実際どのくらい存在するかについて、国土交通省の資料によると、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない、広い意味での所有者不明土地は25.6%、そのうち、探索の結果、最終的に所有者や相続人が一人も判明しない最狭義の所有者不明土地は0.26%にすぎません。探索を行えば多くの場合、所有者や相続人の誰かは判明するため、過度に問題視すべきではないという意見もありますが、所有者や相続人の探索には相当の行政コストや社会的コストがかかり、その負担は無視できないものとなっています。
戸籍や住民票といった情報は、個人情報保護の観点から一般の人が容易に取得できるものではありません。そのため、行政書士や司法書士といった専門家への依頼や、自治体の職権に基づく公用請求を通じて必要な情報を収集し、所有者や相続人を特定していくことになりますが、その過程において生じる時間的・金銭的負担が、耕作放棄地の再利用や空き家対策推進の足かせとなる場合があります。更に重要なのは、これらの探索コストは所有者が不明になっている土地を有効活用し、適正な状態に戻そうとする側が負担しなければならないという点です。そのため、解決によって見込める便益よりも、こうした負担のほうが大きければ、問題の解決が先送りされてしまう側面があります。
(3)社会の変化と土地制度の乖離
加えて、より大きな視点から捉えると、日本の従来の土地制度と近年進行する社会構造の変化との乖離に起因する問題とも言えます。
人口減少と高齢化に伴い、相続件数が増加していることに加え、土地や住宅への需要の減少により、地域において空き地・空き家が目立つようになってきました。その結果、相続はしたものの利用予定のない土地や建物を手放したいというニーズが高まっています*1。また、経済活動のグローバル化により、資産価値の高い不動産について海外の富裕層による国際的な不動産投資も進んでおり、地域外のみならず国外に居住する不在地主の増加という現象も見られます*2。
このような社会変化に対して、従来の日本の土地制度が十分に対応できているかを考えると、様々な課題が浮かび上がってきます。
明治時代以来、日本の土地制度は人口が増加することを前提に整備されてきました。土地は資産であるとの意識が強く、高度経済成長期やバブル期には、土地を投機の対象として利ざやを得る動きも見られ、「土地神話」と呼ばれるように、土地は値下がりしない資産であるとの認識が広く共有されていました。また、地域社会の繋がりが強かった時代には、登記簿上の名義人が亡くなっていたとしても、地域の人的ネットワークを通じて所有者や相続人の所在を把握できる場合が少なくありませんでした。
さらに、日本は諸外国と比較して土地所有権が強いという特徴があり、農地法などの罰則適用の実効性の課題もあります。農地以外の土地取引については、転用や売買に関しての規制がなく、水源地や国境離島であっても原則として売主と買主の間の合意だけで所有権は移転します。また、土地の利用計画についても、国土利用計画法に基づく市町村計画を策定している自治体は全国の半数程度に留まっています。
加えて、土地に関する基礎的情報の整備という点では、1951年の地籍調査制度開始以来、その進捗率は約53%と、依然として十分とは言えません。国の政策対応も、主として過剰な開発の抑制や地価高騰の抑制といった観点からの政策が中心であり、安全保障や低未利用の土地の管理など、市場原理では解決が難しい課題については、近年まで十分な対応がなされてきたとはいえない状況でした。
このように、社会構造の変化と従来の土地制度との間にギャップが生じる中で、近年、所有者不明土地の問題、安全保障上の土地利用に対する懸念、更には災害時の復興の遅れにおいて空き地・空き家が障害となるといった課題が顕在化してきました。これらはいずれも構造的な課題であり、市場メカニズムのみに委ねるだけでは解決が難しく、国による制度の見直しが不可欠な課題です。
3.日本の土地制度見直し
(1)制度見直しの流れ
こうした背景を踏まえ、近年、土地に関する諸制度の見直しが進んできました。
大きな流れとして、2010年代前半は、東日本大震災や空き家問題の顕在化を契機とする「問題認識の時期」であり、2010年代後半には、これを受け国土交通省と法務省が連携し、土地政策と民事基本法制の両面から制度見直しを進めた「政策決定の時期」に移行しました。そして、2020年代は、これらの新制度を周知し適切に運用するとともに、次なる改革につなげていく「政策実施の時期」に入っています。
具体的な制度見直しとしては、大きく三つの柱があります。一つ目は、2018年に制定され、2022年に改正された、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(以下、所有者不明土地法)、二つ目は、2020年の理念法である土地基本法の改正、三つ目は、2021年の民事基本法制の見直しです。
(2)所有者不明土地法の制定・改正
2018年に制定された所有者不明土地法は、所有者が分からなくなってしまった土地について、まずは地域のために再活用できるよう、利用の促進策を規定しています。
具体的には、例えば、農産物の直売所や公園、あるいは災害時の避難場所の整備といった、地域にとって必要な事業のためであれば、所有者不明土地に一定期間使用権を設定し利用できる「地域福利増進事業」制度が創設されました。所有権そのものを移転するのではなく、まずは利用を可能にするという点に特徴があります。
その他にも、公共事業における所有者不明土地の収用手続きの合理化、円滑化や、土地所有者の探索のために必要な公的情報について行政機関が利用できる制度が導入されました。また、長期間にわたり相続登記が行われていない土地について、地方公共団体や公共的な事業を行う民間事業者からの申出に基づき、法務局が職権で相続人調査を行い、その結果を登記簿に記録できる制度や、所有者不明土地の適切な管理のために必要と認める場合には、地方公共団体の長等が財産管理人選任の申立てを行うことが可能であるとする民法の特例も盛り込まれました。
さらに、制定から間もなく、2022年には改正が行われました。地域福利増進事業の対象範囲が広げられ、活用できる土地の類型や実施可能な事業内容が拡充、使用権の上限期間も民間事業者は10年から20年に延長されました。また、自然災害の激甚化・頻発化に対応するため、管理不全状態の所有者不明土地に対して、市町村長による勧告、命令、代執行を可能とする制度を新たに規定しました。さらに、所有者不明土地問題に対して、市町村だけでなく地域一体となって取り組む体制を構築し、そうした取り組みを行う法人を市町村長が推進法人として指定し、活動を支援・連携していく仕組みも創設されました。
(3)土地基本法の改正
土地基本法は、バブル経済の末期に社会問題となっていた地価の高騰や投機的な土地取引に対応するため、「適正な土地利用の確保」と「正常な需給関係と適正な地価の形成」を目的として1989年に制定された法律です。
しかし、制定から30年が経過し、現在直面しているのは地価の問題だけではなく、むしろ「使われない土地をどうするか」という課題や、災害の予防・復興などの持続可能な地域の形成といった課題であることから、全面的に改正されました。
特に重要な点として、土地の所有は、単に土地を利用する権利だけでなく適切に管理する責務を伴うものであるということが法律上明示され、具体的な責務として、登記等権利関係の明確化と所有権の境界の明確化に努めることが規定されました。
土地所有者の責務が土地基本法において明確に定められたことには大きな意義があり、この改正が理論的な基盤となってその後の民事基本法制の見直しへと繋がっていきました。
(4)民事基本法制の見直し
民事基本法制の見直しには大きく3点あります。
ア.不動産登記法の改正
先述のとおり、相続が発生した場合の不動産登記申請は明治時代以来長らく任意とされ、法的な義務ではありませんでしたが、2021年の不動産登記法改正で、相続登記・住所変更登記の申請が初めて義務化されることとなりました。併せて、申請義務化にあたり、手続き負担の軽減措置として、相続人間で遺産分割協議がすぐにまとまらない場合でも戸籍謄本等をもって自分が相続人の一人であることを申告すれば、その申告を行った相続人については義務を履行したものとみなされる、相続人申告登記制度も新設されました。
その他にも、転居が多い人の住所変更登記の負担軽減のため、住民基本台帳ネットワークの情報を活用し、法務局が住所変更を把握した上で本人の同意を得て職権で住所変更登記を行う仕組みの整備や、相続の際に不動産の登記漏れが生じないよう、該当の名義人がどこにどのような不動産を所有しているかをシステム上で集約し、相続人に提供できる所有不動産記録証明制度も新設されました。加えて、グローバル化の進展を踏まえ、日本国内に住所を有しない者が土地を取得した場合には、国内連絡先を登記事項として記録する制度も導入されました。
これまで、不動産登記制度は、主として個人の権利を第三者に公示し、取引の安全を確保する仕組みとして理解されてきました。しかし、今回の改正議論を通じて、不動産登記制度は私的権利保護の仕組みであると同時に、「誰がどこに土地を持っているのか」という国土の基本情報を公示する台帳としての役割を持つことが再確認されたことは重要な意義があります。
イ.民法の改正
2021年に行われた民法の改正では、特に物権法及び相続に関わる部分が抜本的に見直されました。
不明共有者がいる場合に金銭供託等により共有関係を解消する方策が整備された共有制度の見直しや、相続開始から長期間経過した遺産の分割方法の見直し、相続制度の見直し、水道、ガス等ライフライン設置のための隣地使用を可能とする相隣関係規定の見直しなどがありますが、中でも重要なのが、財産管理制度の見直しです。
従来の民法にも、不在者財産管理制度や相続財産管理制度(改正後は「相続財産清算制度」)といった制度は存在していました。しかし、相続人と連絡が取れない場合や相続人が存在しない場合に、あくまで「人」を単位として、その人の財産全体を管理する制度であったため、管理人の負担が重く、また、家庭裁判所に納める予納金も大きいという課題がありました。
こうした課題や東日本大震災での経験も踏まえ、特定の土地や建物だけを迅速に管理できる制度の必要性が認識されたことから、「人」単位ではなく「物」単位で管理できる新たな制度が求められ、所有者不明の土地・建物や管理不全の土地・建物に特化した財産管理制度が整備されました。
ウ.相続土地国庫帰属制度の創設
相続した土地について、利用予定もなく維持管理もできないため手放したいというニーズが高まっている状況を踏まえ、一定の要件を満たす土地については、国庫に帰属させることを可能とする制度が日本の土地制度の歴史の中で初めて創設されました。
もっとも、土地の国庫への帰属にあたっては、管理コストの国への不当な転嫁や所有者が通常の管理を怠るなどのモラルハザードを防ぐ観点から、建物がある土地や崖地、境界が明らかでない土地等、通常の管理・処分に過大な費用や労力が必要となる土地は不可であり、承認された場合にも10年分の管理費相当額を負担金として納めることが必要とされています。
このように厳格な要件はありますが、それでもなお、土地を相続した人が、一定の条件のもとで土地を適切に手放し、国庫に帰属させることができる制度が創設されたことは画期的なことと言えます。
(5)基底にある考え方
以上の一連の制度見直しの基底となる考え方として、国土審議会土地政策分科会特別部会における議論が重要な示唆を与えています。同部会では、「人口減少等に伴う社会経済状況の変化に伴い、適切に管理されない土地が増加する中で、上記のような課題に対応するため、土地の利用・管理に関する制度・施策を再構築する必要があり、その前提として、所有者、近隣住民・地域コミュニティ等、地方公共団体、国などの土地に関係する者の適切な役割分担を明らかにすべきである」*3との問題意識が共有され、所有者の責務を明確化するとともに、所有者を補完するアクターとして、国や地方公共団体、近隣住民、地域コミュニティ等の役割が導き出されました。
そして、土地の適正な「利用」と並んで「管理」の重要性が明示的に位置付けられたことで、土地政策の射程が「所有者による利用」から「所有者以外の者による管理」にまで拡大されたと言えます(図表1)。
図表1 土地の適正な利用・管理に向けた新たな方策

4.施行後の状況
では、これらの新しい土地制度が実際にどの程度活用され、どのような効果を上げているのかについて検討します。ここでは、特に顕著な例として、2点を取り上げます。
(1)地域福利増進事業
まず、制度運用を通じて改めて課題が見えてきているのが「地域福利増進事業」制度です。本制度は、所有者不明土地の利用の円滑化策として創設されたものですが、2025年12月現在、同制度に基づき実際に使用権が設定され、所有者不明土地の再利用に至った事例は4件に留まっています。モデル事業として取り組んでいる地域においても、5、6年にわたり地道に相続人調査を継続し、再利用に向けた準備を進めている件もあります。
地域福利増進事業による再利用がこれほど困難である理由について、制度の具体的な手続過程から整理します。
まず、地域福利増進事業を活用して所有者不明と考えられる土地を地域のために再利用しようとする場合、事業主体は、まず当該土地が「所有者不明土地」に該当することを証明しなければなりません。すなわち、戸籍や住民票等の公的資料に基づき、可能な限りの所有者探索を尽くしたことを示す必要があります。探索の結果、相続人が一人も判明しなかった場合にはその旨を示し、一部の相続人が判明した場合には、その者との間で権利調整を行い、事業への同意を得ることが必要です。その上で、なお判明しない者について「所有者不明」であることを証明し、手続を進めることになります。さらに、事業計画を策定し、周辺住民に対する説明や合意形成を図ることに加え、測量をして境界を確定し、不動産鑑定を行った上で補償金額を算定しなければなりません。
これらの準備が整って初めて、都道府県知事に対し、裁定申請を行うことが可能となります。そして、使用権の設定について裁定を受けた後、算定された補償金を供託することで、事業の実施に至ります。所有者が不明であるとはいえ、財産権を一定程度制限することになるため、その制限に対する補償を行うという制度設計が採られています。
以上の過程を通じて明らかになるのは、一度所有者不明となった土地を再利用するには、多くの時間、費用、そして手続を要するということであり、制度の運用を通じて、問題の構造的な難しさが改めて浮き彫りになったと言えます。
(2)相続土地国庫帰属制度
他方で、比較的活用が進んでいるのが、相続土地国庫帰属制度です。本制度は、相続により取得した土地について、一定の要件を満たす場合に、相続人がこれを手放し、国庫に帰属させることを可能とする仕組みです。先述のとおり、建物や工作物が存在しないことなどの厳格な要件が設けられており、併せて負担金として10年分の管理費相当額を納付する必要があるといった、一定の負担を伴う制度であるにも関わらず、申請件数は2025年10月末現在で4,000件を超えており、審査を経て実際に国庫に帰属した土地も2,000件を超えています。審査期間は、おおむね8か月程度かかることから、審査中の案件も相当数存在すると考えられます。更に注目すべきは、相談件数の多さです。全国の50か所の法務局に寄せられた相談件数は2025年4月時点で延べ4万件を超えており、相続した土地を手放すことを希望する人が相当数存在するというニーズの大きさが読み取れます。
なお、申請のあった全ての土地が国庫帰属に至るわけではもちろんありません。審査の過程で却下や不承認となる事例も存在しますし、申請後に申請者自らが取り下げる事例も見られます。
法務省公表資料によれば、2025年4月時点で申請後に取り下げられた件数は604件であり、そのうち半数以上が、「有効活用の見込みが生じた」という積極的な理由によるものとなっています*4。すなわち、申請がなされ法務局において審査が進む過程で、近隣住民との間で境界に争いがないかの確認や、関係機関に当該土地について国庫帰属の申請がなされている旨の周知などが行われた際、「それならうちがタダで受け取りますよ」と名乗り出る近隣住民が現れたり、農地であれば農業委員会を通じた斡旋の見込みが立ったりする事例が生じています。
このことから、制度創設を契機として、地域内に潜在的な土地需要が存在している可能性が示され、適切なマッチングが図られれば、必ずしも国庫に帰属させることなく、地域内での権利移転が実現し得ることが示唆されます。
さらに、本制度の運用を通じて見えてきたもう一つの特徴は、法務局の役割です。登記官をはじめとする専門職員が常駐する全国50か所の法務局が窓口となって、相談対応、審査、市町村への情報照会等を担い、関係主体間との連携役を果たしています。言わば、省庁横断的な調整機能が制度運用の過程で実質的に確立されてきています。とりわけ、人員や予算が限られている市町村にとって、新制度の安定的運用は容易ではありません。その点、全国に配置された法務局が窓口となることで、地域差を一定程度抑制し、標準的かつ安定的な制度運用が可能となっていると考えられます。
もっとも、本制度は端緒についたばかりであり、今後の在り方についてまだ多くの課題があります。相談件数は延べ4万件を超えている一方で、厳格な要件や申請書類の作成等の負担を経て、実際に申請に至った件数はその1割程度に留まっています。申請に至らなかった残りの3万件超の相談案件が、そのまま放置され、やがて管理不全や所有者不明の土地にならないよう、どのような対応策が必要なのか、改めて検討する必要があります。
さらに、国庫に帰属させるということは、当該土地の中長期的な維持管理は国の財源、すなわち国民全体の負担によって行われることになります。土地を手放して永続的に管理負担から免れる元所有者の負担の軽減と、国庫による継続的な管理負担との間で、実質的な公平性をどのように確保するのかという問題も慎重に検討すべき論点です。
その前提として、国が受け入れた土地を今後どのように管理していくのかが大きな課題となります。特に宅地や雑種地については、全国の財務局が管理庁となるため、その管理の在り方は喫緊の検討課題です。加えて、受け入れた土地を単に保有・管理するに留まらず、地域における円滑な利用に繋げていくために、土地情報の適切な共有の仕組みを整備するとともに、地域における潜在的なニーズを掘り起こす取組が必要となってきます。
5.今後の課題
ここまで、新たな諸制度とその運用状況について見てきましたが、最後に今後の課題として3点検討します。
(1)所有者不明土地問題の発生予防
一連の土地制度見直し自体は大きな意義を有するものであったものの、施行状況を踏まえると、一度所有者不明となった土地を地域において再活用することの困難さが改めて浮き彫りになったと言えます。
相続土地国庫帰属制度が創設され、月平均約140件程度の申請が堅調になされていることから、法務省の立場からは、制度としては一定の成果を上げていると評価されています。しかし、国有地を管理する財務局の立場から見れば、その分だけ管理対象が毎月増加しているということでもあります。国庫帰属制度を持続可能な制度にするためにも、土地を手放す手段の多様化を図るとともに、管理負担と法的責任の在り方についても一体的に検討していく必要があります。
土地の利用・管理にあたっては、所有者以外の者、すなわち地域コミュニティや市町村の役割への期待も大きいですが、地域社会自体の高齢化と人口減少による担い手不足や財源確保の問題、また、相続や不動産実務に関する専門知識を要する問題であることから、地域のみで担うことには限界があります。市町村は人員や財源の課題に加えて、本問題は複数の部署にかかわるため、担当課を決めること自体が難しいという問題もあります。また、住民の財産権に関わる問題であることから、具体的な不利益が顕在化していない段階で行政が予防的に介入することには慎重にならざるを得ない側面もある一方で、所有者が不明となり権利関係が複雑化した後では、解決にかかる時間的・経済的・人的コストが大きく、遅きに失することとなります。
したがって、所有者不明となる、あるいは管理不全に陥る前の段階での支援や制度的関与を強化し、問題の発生をいかに抑制するかということが、引き続き大きな課題であると言えます。
(2)更なる土地制度見直しの必要性
こうした状況を踏まえると、更なる制度見直しが必要であると考えられます。
具体的には、権利調整と合意形成を進める仕組みの整備、土地を手放す方策の多様化、相続放棄の在り方の見直しなどが挙げられます。
まず、権利調整と合意形成について、2024年4月から相続登記の申請が義務化されましたが、これまで長年にわたり任意とされてきたため、登記が行われないまま相続人が多数に上っている土地も少なくありません。このような場合、個人の力だけで相続人を探索し、合意形成を図ることは困難なケースもあることから、長期相続登記未了の場合の権利調整と合意形成の在り方についてより踏み込んだ見直しと実務上の支援の仕組みを検討する必要があります。
次に、土地を手放す方策の多様化について、近年、土地を有償で引き取る民間サービスも現れていますが、現行制度では特段の免許や資格を必要とせず、宅地建物取引業法の規制対象外となっています。そのため、費用のみを受け取って土地を適切に管理しないといった不適切な事業が生じる可能性もあり、健全な市場を形成するためにも、国によるルール整備や民間事業者の支援体制の整備が求められます。
また、相続放棄の在り方について、2024年には相続放棄の件数が過去最多の30万件を超えています。この中にどのくらい土地・建物が含まれているかはわかりませんが、相続した土地や建物を負担と捉え、手放す手段として相続放棄が濫用的に利用されることが懸念されます。こうした状況が生まれている背景には、日本の相続制度が抱える構造的課題もあります。高齢化・人口減少が進む中で土地の相続はもはや個人の問題だけではなく、社会として支え合っていくべき喫緊の課題であると言えるでしょう
これらの更なる制度見直しが必要である理由として、近年の社会状況との関係で二つの点を整理します。
一つは、災害対策としての重要性です。災害時、倒壊した家屋の公費解体を進める際には、相続人全員の同意が必要ですが、例えば2024年に発生した能登半島地震では、長期相続登記未了や未登記家屋の場合は手続きが複雑になり、公費解体の遅れの一因となりました。平時から権利関係を明確にしておくことの大切さが改めて認識されました。
もう一つは、取引のグローバル化への対応です。外国人による土地取得については、安全保障の観点から2021年に重要土地等調査法が制定されました。この法律により、安全保障上重要な機能を有する施設の周辺区域などについて、概ね1kmの範囲を対象として国が区域指定を行い、土地の所有者や利用状況に関する調査を実施することが可能となっており、必要に応じて勧告や命令を行う仕組みも整備されています。
また、土地が取得された際、それが外国人によるものかを把握できるかは制度ごとに異なっていたことから、2026年度から不動産登記法において国籍を登記事項とすることや、森林法においても森林取得時の届出書に国籍を追加することが予定されています。
もっとも、グローバルな土地取引については、安全保障の観点だけでなく、地域における土地利用の合意形成の観点からも考える必要があります。地域の土地利用における事前の情報共有や合意形成の在り方を条例等によって明確化するとともに、国としてもそうした地域の取組を支援していくことが求められます。なお、あくまで内外無差別が原則であり、「誰であっても守るべきルール」を明確化していくことが重要です。
(3)役割分担と相互補完
今後の課題としての3点目は、連携窓口の強化です。ここまで見てきたように、社会経済や人口構造の変化に伴い、土地を巡ってさまざまな課題が顕在化しています。複数の部署に関わり、かつ相続や不動産に関する専門性が必要なこれらの課題を一挙に解決できる策はなく、一つ一つ制度の見直しを積み重ねながら、ルールの整備と共有を進めていくしかありません。そうした中で、国や都道府県、市町村といった行政と、各士業団体、民間事業者との連携を円滑に進めるためには、制度と現場を繋ぐ連携窓口を強化することが重要です。現在、全国10地区において、国土交通省所管の土地政策推進連携協議会が設置され、行政と士業団体等が連携し、土地政策の推進に向けた情報共有や協力体制の構築が図られていますが、こうした機能を各都道府県レベルで設置していくことが必要であると言えるでしょう。
そして、関係機関の連携体制を構築していく中では、地域に根ざした財務局の役割が一層重要になります。土地は地域の資源であり、地域において適切に活用されることが基本です。それを支える専門性と継続性、そして、関係主体をつなぐコーディネート力が期待されます。
新たな諸制度を活用しつつ、人口減少時代に対応した土地の利用と管理のサイクル(循環)を構築していくことが求められています。
*1)「土地を所有することに負担を感じたことがある又は感じると思う」42%(出所:国土交通省「平成30年度版土地白書」P.121)。「土地を所有する世帯のうち、土地を国庫に帰属させる制度の利用を希望する世帯」20%(出所:法務省「土地所有権放棄制度の利用見込等に関する調査について」2020年)。
*2)「(東京23区では)外国に住所を有する納税義務者数は、ここ6年で8倍と飛躍的に増大」(平成25年2,162人→平成31年17,432人)(出所:資産評価システム研究センター「資産評価情報」234号別冊、P.34・P.53、2020年1月)。
*3)国土審議会土地政策分科会特別部会とりまとめ(2019年2月)。下線は筆者追加。
*4)所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議(第15回) 資料1-1 法務省提出資料(2025年6月6日)。


