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齋藤通雄氏に聞く、国債の非居住者向け税制と決済制度改革(後編)

野村資本市場研究所 研究理事 齋藤 通雄

東京大学 特任准教授 服部 孝洋

本稿は2000年代になされた決済改革に関し、当時、財務省側からその制度改正に携わっていた齋藤通雄氏にヒアリングすることで2000年代の決済制度改革の歴史を残すことを目的としています。なお、本稿は「齋藤通雄氏に聞く、国債の非居住者向け税制と決済制度改革(前編)」の後編であるため、前編もご一読いただければ幸いです。

新しい振替法

齋藤 これまでの話は全部、旧振替決済制度の時代の話です。階層構造は旧振決制度の時からあり、そうした点も含めて振決制度全体に関する規定を日銀が作っていました。日銀に昔の規定を見せてといえば見せてもらえると思います。

服部 そのうえで、振替法の改正という流れになるわけですね。

齋藤 振替法の制度ができたことにより、現物債との行き来のない完全ペーパーレス化となり、マーケットで売買する人はみんな振決制度で売買をするようになりました。振決債へのシフトは税制を主たる要因として2001年までにほぼ終わっています。そこまでできている状態で、今度、その社債等振替法という新しい法律の下での振替決済制度に切り替わっていく話になっていきます。

服部 日銀の資料では新振替法の意義として、(1)国債証券(券面)が不要になり、保有・決済の効率化が図れるというメリットがあること、(2)振替決済の法律構成がより分かりやすくなるということ、(3)当時のシステムもそのまま活用できること、という3点を挙げています*1

振決制度の法制度改正時、国債課にいらっしゃったと思いますが、具体的に、どういう関わり方をされていたのでしょうか。

齋藤 2001年の段階で、今の振替法の原点となるCPのペーパーレス化の取り組みがスタートします。最初にCPの振替法としてスタートする時点では、私は国債課の補佐として関わっていました。金融庁は実は最初から、CP限定ではなく、社債や国債まで含めた債券全体の振替決済の法律として作ろうとしていました。そのため、国債のパートの原案作成に私自身も関わりましたし、法制局に相談に行ったりもしていました。

2001年の夏の人事異動で私は国債課から離れるのですが、その後、CP限定でスタートしていた振替法を改正し、社債や国債に拡大するという話が出てきました。国債課を離れていたとはいえ理財局の中にいたので、振替法の対象に国債を取り込むという改正の段階で、もともとのオリジナルの法律の検討時に私が関わっていたこともあり、有識者として国債課兼務になりました。そのため、改めて振決法制化のお手伝いをしたという感じです。

服部 CPのペーパーレス化の流れに関し、当時、国債課にいらっしゃったときは、将来国債にも議論が及ぶという観点で見ていたということでしょうか。

齋藤 もとから金融庁はCP限定にするつもりはなく、考えられていたのは、まずはCP、社債、国債までのペーパーレス化法案でした。一方、株式はまだ先だという印象でした。株券になると、様々な株主権など論点が増えるので、株式は後回しにして、債券が最初に議論されました。しかし、債券についてはCPだけでなく、社債、国債まで一気にできると金融庁は当初考えており、そのつもりで財務省も一緒に作業していたわけです。

しかし、結局、なぜ最初はCPだけになったかというと、社債の場合、社債権者集会などの論点がありました。具体的には、帳簿上誤った記載が行われ、本来あるべき数よりも議決権の数が多くなってしまった場合にどう解決するのか、という問題です。

社債権者集会や、株式の株主権も同様ですが、制度設計上の最大の課題は、振替決済制度の中で誤記載が発生した時に、どうやってそれを解決するのかということでした。間違った記載がなされた時、例えば、本当は100しか発行していないのに、帳簿への誤記載によって権利があるとされている金額が100ではなく110になってしまった場合にどうするのかということです。もちろん、その誤記載がなぜ発生したかの経緯を解明して、110を100に戻すのが王道ですし、そうするのが原則です。

しかし、それが間に合わないタイミングで、例えば利払いの期日が到来したらどうするのか。帳簿上は、110のすべてが同じ平等な権利者として記載されているわけです。

お金の問題だけであれば比較的簡単です。例えば利払いなら、仕方ないので110分の利子を一旦払う。ただ、発行体には110を払う義務はないので、発行体は100を支払い、誤記載を発生させてしまった振替制度の運用側で10を補填して110とりあえず一旦払うのです。そして、この場合、誰かが不当利得を得ているので、後でその人から返してもらうという形で解決できるわけです。

しかし、社債権者集会や株主の権利の場合、例えば、本来100のはずの議決権が110ありますとなったらどうするのかというのは大きな問題です。内閣法制局での議論では、金融庁だけではなく法務省民事局も交え、有価証券法理との関係でどのように整理すべきか、毎晩深夜まで議論が続きましたが、なかなか結論は出ませんでした。

最初にCP限定で振替法がスタートした背景には、CPであればそうした議決権の問題を伴わず、誤記載があってもお金の問題だけで解決できること、そして、CPをペーパーレス化したいというニーズがマーケットサイドに強く、法整備の緊急性が高かったことがありました。その結果、議決権の問題を伴わないCPだけ、第1弾の法律として出すことになりました。それが2001年です。

国債もCPと同様に議決権の問題がないので、CPと国債の法案にする、ということも論理的にはあり得ましたし、理財局としてはそれでも良かったのですが、金融庁側が、社債抜きにするのはやめて欲しいということでした。また、国債については、旧振決制度ですけど、振替決済制度は一応問題なく動いていて、国債の側でどうしても急いで新しい法律を作る必要性もありませんでした。

結局、第1弾はCPだけとし、議決権問題にケリがついたところで社債を法律に書き加えに行くので、その段階で国債も一緒に処理する、ということになりました。今の振替法の原点のCPペーパーレス化が2001年にスタートするとお話ししましたが、翌年2002年に、その社債・国債を対象に新たに加えるという法律改正が行われました。実際に振替法の下で社債と国債の制度運用がスタートするのは2003年からです。

服部 CPや社債のところは全て金融庁の人がやっていたわけですね。

齋藤 その通りです。

ここまで振替決済制度関連のいろいろな制度改正を説明してきましたが、流れは別なのですよね。もともと非居住者非課税制度、税制というものを動機として動いていた話と、様々な有価証券のペーパーレス化を促進したいという、金融庁が主として持っていた動機があります。ペーパーレス化に法務省民事局がどの程度積極的に関与していたのかはよくわかりませんが、そういう動きの中で、議決権というような問題を処理する必要もあって、振替法の中でまったく新しい権利として規定をするということになりました。

旧振替決済制度は、現物債を預けた上で一括登録するという法律構成だったわけです。しかし、新しい振替法では口座に記載されたものがすなわち権利であるという、新しい世界がそこに作られて、国債に関する法律の現物債・登録債とはまた別の第3の類型となりました。

振決制度の法的意味合い

服部 さきほど実際法律を書いたという話をされていましたが、このあたりの経験についてもう少しお聞きしたいです。

齋藤 元々はCP(短期社債)だけが対象だったものを国債・社債にまで拡大をしようという話になりました。法律の構成としては、CPや社債など、民間の経済主体が発行する有価証券に関する規定がベースとしてあり、その上で、国債については特別扱いする必要がある事柄について、国債に関する章を作って規定を設けるという考え方で整理されています。

例えば、振替機関については、国債の場合には日銀という特殊な存在があるので、日銀を念頭に置いた規定を設けるとか、民間の債券にはないストリップス債があるので、ストリップス債のための条文があったりとか、国債だけの特別な規定が設けられています。

繰り返しになってしまいますが、法律的には、旧振決債が、現物があることを前提に、現物を預けて、それを階層構造の上の人に預けて、最後、日銀が一括で登録をするという立て付けになっていました。

それに対して、新しい振替法の下では、国債に限らずすべての有価証券について、帳簿にそれぞれの名義人の持ち分として書かれている金額そのものがその権利を表しているという整理に変わりました。現物債もなければ登録債もない、単にその口座管理機関で誰がいくら持っているかが書いてある帳簿管理だけという世界を作ったということです。

これが現在の「社債、株式等の振替に関する法律」ですね。2001年に成立したときには「短期社債等の振替に関する法律」です。最初は、CP(短期社債)の名前で法律が成立したわけですが、2002年に法律の名前自体も「社債等の振替に関する法律」という形で修正されました。

服部 かなり大きな制度改正だったということですね。

齋藤 もともと以前から社債登録制度があって、そこに登録してあればペーパーレスになっていたわけですよね。国債の登録債と同じように、社債も登録してペーパーレスの形にした上で売買もできたわけですから。そういう意味では部分的なペーパーレスはできていたわけですけども、国債に限らず、有価証券を基本的に完全ペーパーレスにしましょうという改革です。

繰り返しになりますけど、現物債と登録債の間で行き来ができて、現物債で引き出すこともできるような世界だったものを、新しい振替法を作って、完全ペーパーレスで、もう現物は引き出せないということを前提に、その制度を作ったのです。しかもそれを、法律による新たな制度として、特定の有価証券だけではなく有価証券全体を、一つの統一した整理・考え方の下で仕組みを作りました。これは、有価証券のペーパーレス化、有価証券決済という観点で非常に大きな制度改正です。

服部 ここまで通常の国債の話をしてきましたが、個人向け国債も振決債でしょうか。

齋藤 個人向け国債も振決債です。個人向け国債は投資家間で売買できないのですが、振替決済制度の中にあります。日銀が定期的に発表している振決債の銘柄別一覧というデータを見ていただくと、個人向け10年何回債いくらとか個人向け5年何回債いくらというような形で載っています。

法律改正の実際

服部 実際に法律を作る上ではどのように進められたのでしょうか。

齋藤 私が関わっていた頃の立法作業でいうと、条文そのものを書くのは課長補佐プラス係長ぐらいのランクの人でした。法律となれば政治家への事前説明もありますし、当然省内の幹部まで制度面の説明をするわけですけども、制度の中身を具体的な条文に落とし込むのは、補佐や係長ぐらいの仕事でした。

振替法も私が自分で原案を書きましたが、振替法の場合、技術的なことが多い点が特徴です。売る人がいた場合、口座管理機関は売り手の口座から売った分を減らす。その上で、買い手も自分の顧客であれば買い手の持ち分を増やすし、そうでなければ顧客からの預かり分が減ったことを上位の口座管理機関に伝える、といったことを規定するわけです。

このような、売買時に帳簿の記載をどのように増減させるかという一番ベースになる部分は、CPでも社債でも同じです。

一方、先ほども触れたように、国債に関する特例規定が必要になる場合もあります。例えば振替法でいうと、振替機関は基本的に株式会社という前提で法律が書いてあります。しかし、国債の振替機関である日銀は株式会社ではないので、日銀のための特例規定を書いて対応する必要があります。また、ストリップス債については、一般的な債券なら元本の持ち分を有している人に対して利子を支払うわけですけど、ストリップスで元本と利子とを分けたら、帳簿上の元本保有者に利子が支払われてはまずいわけです。ストリップスの申請があった場合には、元本の部分と利子の部分の口座を切り分けて、各々の保有者を別々に記載して管理せよというようなことを全部法律の条文として書かないといけないわけです。

服部 そもそも役人人生において、最初に法律を書かれた経験はいつでしたか。

齋藤 係長の時代、主計局法務課の係長だったので、法律の条文を書く作業を経験しました。

服部 では、そういう経験もベースになっていたわけですね。先ほどの話だとすでにベースがあるため、それに修正履歴を加えていくみたいなイメージでしょうか。

齋藤 振替法に国債の規定を設けるところは、実は新規書き下ろしのような条文がほとんどでした。1章まるまる国債に関する特例のような部分があって、そこのパーツを全部書いていくイメージです。一番原則の部分、例えば、売った人の持ち分を減らして、買った人の持ち分を増やすみたいなのは、国債であろうが何だろうが同じなので、それをもう一回繰り返して書く必要はありません。ただ、今お話ししたように、ストリップスの場合は、違う手続きが必要なので、その場合、どういうふうにするのかという条文を特例規定として記載して、それをはめこむ感じです。

服部 法律を理解して、現実の証券取引を理解して、それらを整合的な形で文章を加えたということですね。

齋藤 そうです。

服部 少し話がそれてしまうのですが、そういう条文を書くスキルはどのようにして形成されるのでしょうか。財務省の中のトレーニングでできていくのでしょうか。

齋藤 国債の振替決済制度の場合には、比較的容易ともいえました。というのも、旧日銀の振決規定に、振替決済制度の下で口座を管理している人が何をすべきか細かな規定が設けられていたからです。国債の口座管理機関が行うべきことについて、旧振替決済制度の下での運用と基本的には同じようにしないと、現場の実務が混乱します。そこで、まず、日銀の振決規定がどうなっているかを読み込みました。新法の振替法の下で口座管理機関がやるべきことが基本的に同じであれば、別に国債に関する特例はいらないわけです。国債について少し違うことをやっている部分があれば、その部分を振替法に反映させるという形です。

服部 書いた条文を金融庁などにもチェックしてもらうんですよね。

齋藤 金融庁にも見せますし、内閣法制局に、条文をチェックをする法律の専門家の人たちがいるので、基本はその法制局の担当者と議論をして、法律の条文としての完成度を高めてもらいました。

服部 内閣法制局のサポートなどもあり、法律として正確なものができるように担保されているわけですね。

齋藤 そういう意味では内閣法制局は優れた組織です。私も係長として、自分で条文を初めて書いて持っていった時は、法制局の参事官と議論をして、教えてもらいながら直しました。係長の時に一度そのような経験を積んでいるので、法律を書く時にはこういうことに気をつけないといけないといった予備知識をある程度持った状態で、振替法の条文を書きにいけました。

服部 内閣法制局の人たちはどういうバックグラウンドなのでしょうか。

齋藤 内閣法制局は、条文の審査を担当する人については基本的に新卒を採用しておらず、各省庁からの出向者で構成されています。各省庁から内閣法制局に送られる人は、自分自身が法制局の指導を受けながら法律改正や新法制定の経験を長年積んだ人たちです。その人たちが、今度は法制局に行って教える側に回る。基本的にそれぞれの役所の法律はそれぞれの役所の出向者が見ているという感じです。

服部 カウンターパートには財務省の先輩がいましたと。経験がある先輩がチェックするというイメージですね。

齋藤 そうですね。ちなみに、振替法制定時の法制局の担当者とは、その後一緒に郵政民営化の法案作りをすることになりました。一方、振替法を金融庁で一緒にやっていたのは、今の山梨県知事の長崎幸太郎氏です。彼が金融庁サイドのカウンターパートでした。その後、役所を辞めて政治家に転身しました。

服部 当時は、金融庁といっても、財務省から独立したばかりで、実際中で働いていた人は財務省出身者が多かったですよね。

齋藤 そうです。長崎幸太郎氏が金融庁の担当補佐で、有価証券のペーパーレス化の法案をやりたいということで、国債課も一緒にやってほしいということで、内閣法制局にも一緒に足を運びました。株や社債、手形や小切手は、商法の世界であり、法務省民事局の所管です。そういう手形とか小切手とか社債のようなものの、全体に通底する有価証券に関する法理論が、法務省民事局の中で整理されていました。先ほど話した通り、ペーパーレス化して帳簿管理にすると、紙があることを前提にした有価証券法理ではなかなか説明しきれない事態が起きる可能性がある。権利が本当は100のはずなのに110あることになってしまったらどうするのか。長崎氏と一緒に苦労したところです。

交付国債

服部 ここまでペーパーレスの国債について主に議論してきましたが、現在も一定程度、紙ベースの国債が残っています。その代表例が、戦没者等の遺族等に対して発行される記名国債です(図表1)。これは交付国債と分類されますが、交付国債は債務管理リポートにおいて「国が金銭の給付に代えて交付するために発行する債券で、債券の発行による発行収入金が発生しないものの総称」と説明されています。

図表1 第十二回特別弔慰金国庫債券
(表面)

図表1 第十二回特別弔慰金国庫債券(表面)

(裏面)

(裏面))

いま記名国債といいましたが、これは国債証券の裏面に「保有者の氏名」と「支払い場所」が記載されているためです。なぜ今でも紙で続けているかというと、紙でもらえると非常に喜ばれるという話をよく聞きます。

齋藤 これは国債ではあるのですが、少し特殊な国債です。ここまでの話で出てきた物理的な国債(名前が書いてない無記名証券)あるいは登録債や振決債は、基本的に資金調達のための国債です。つまり、一般にイメージされる国債は借金の証書である国債なのですが、交付国債は、資金調達をするために発行するものではありません。お話しされたように、交付国債は、将来の資金交付の約束として戦没者遺族に渡しているもの(交付しているもの)というイメージです。

服部 債務管理リポートでは、戦没者等の遺族に対する特別弔慰金のための国債を「狭義」の交付国債と整理しています。一方、広義の意味では、出資・拠出国債も交付国債です。「出資・拠出国債とは、交付国債の一種で、我が国が国際機関へ加盟する際に出資又は拠出する現金に代えて、その全部又は一部を払い込むために発行される国債」と説明されています。

齋藤 交付国債の代表例は、戦没者等の遺族に対する特別弔慰金のための国債ですが、出資国債も交付国債です。国際機関に対して出すものも、広義の「国債」となっています。交付国債や出資国債は、お金を借りるためのものではなく、将来的な支払いを単に約束しているだけのものです。将来の支払いを約束している約束手形のようなものです。

服部 例えばIMFに対して、国債を渡して、IMFが必要になれば円をファンディングできるという仕組みですね。

齋藤 そうです。交付国債は、資金調達をするために発行する国債ではありませんが、支払債務を負担するものではあるので、予算上の措置は必要です。それと同時に、その出資国債とか拠出国債とか、あるいは戦没者への交付国債を発行するための法律がそれぞれ別途個別にあります。誰に対して、あるいはどこの機関に対して政府はいくら国債を出す、渡すということが書いてある法律を別途制定しているわけです。憲法で、国が債務を負担するには国会の議決を必要とすると定められているので、交付国債や出資国債の発行の根拠法を制定しています。

服部 出資国債は券面がないという理解でよいでしょうか。

齋藤 覚書のようなものか何かを取り交わしているのかもしれませんが、そのお金をもらうために券面を持参して、その券面と引き換えにいくらお支払いしますというような使い方をするための券面は、出資国債や拠出国債の場合にはないですね*2。弔慰金の交付国債だけは、毎年一定額ずつ何年間お支払いしますというようなことが法律に書いてあり、それに基づいて交付国債の券面に支払い時期と金額が記載され、受取時に持参してもらう必要があります。

弔慰金の交付国債を紙でほしいというニーズは、戦没者等に対する感謝状という認識で受け取られているからだと聞いています。私は国債課の課長のとき、戦没者への交付国債についても関わりました。戦没者遺族で交付国債を受け取るような人は、高齢化が非常に進んでいるのですよね。お渡しした交付国債の券面を持って金融機関に行き、お金を受け取るのも、高齢者の場合には結構大変です。だからむしろペーパーレス化して、その対象者の人たちに期日が来たら、自動的に口座に振り込んであげるほうが良いのではという話をしました。ですが、戦没者遺族向けの交付国債の制度を所管する厚生労働省側から聞かされたのは、物理的な国債をもらうこと自体が、自分たちが感謝状を国からもらっているという、そういう気持ちにつながっているので、紙はなくせないということでした。

服部 それが今でも続いているわけですね。

齋藤 はい、今でも続いています。5年毎ぐらいに更新されていますね。新しい法律を作って、次の5年間はいくらずつというようなことをしています。戦没者の遺族会のような組織があり、その人たちといろいろやり取りをしながら厚生労働省が制度を作るわけですが、戦没者遺族の方々からお話を聞くと、やっぱり紙が大事ということのようです。

服部 交付国債として、その他に、「株式会社日本政策投資銀行危機対応業務国債」と「原子力損害賠償・廃炉等支援機構国債」がありますね。これもファンディングという意味ではなくて、国債を交付するというイメージなんですね。

齋藤 そうです。政府としてその必要なお金を渡すけれども、別に今すぐ現金で全額必要なわけではないので、国債という形で渡しておいて、お金が必要になった時に、その金額の範囲内で実際に現金化してお渡ししますよというものです*3

服部 実際、債務管理リポートに、「政投銀の財務基盤を強化することを目的に発行・交付している国債で、無利子、譲渡禁止、要求払い(政投銀が財務基盤の強化を必要とし、その現金化について要求があったときは、いつでも現金化することが約束されている。)」と説明されています。

齋藤 名宛人が決まっているという意味で、記名証券といえば、記名証券ですね。ただ、一般にイメージされる国債(資金調達のために発行される国債)とは性質が違うということは認識しておいていただいた方がよいと思います。

服部 本日はお忙しい中ありがとうございました。

齋藤 ありがとうございました。

参考文献

齋藤通雄・服部孝洋(2026)「齋藤通雄氏に聞く、国債の非居住者向け税制と決済制度改革(前編)」『ファイナンス』, 44-49.

服部孝洋(2026a)「日本国債決済入門─基礎編─」『ファイナンス』, 30-37.

服部孝洋(2026b)「日本国債決済入門─基礎編─」『ファイナンス』, 22-30.

*1)日本銀行(2002)「新しい法的枠組みに基づく国債振替決済制度への移行について」
https://www.boj.or.jp/paym/jgb_bes/set0206a.htm

*2)出資・拠出国債については、例えばIMFに対する出資国債であれば、「国際通貨基金通貨代用証券」という券面を発行しており、これと引き換えに現金を支払っています(寄託所として日本銀行が指定されていますので、相手方機関に券面が渡ることはありません)。

*3)株式会社日本政策投資銀行危機対応業務国債や原子力損害賠償・廃炉等支援機構国債は、券面を発行するものの、交付を受けると同時に登録の請求がなされるため、実態としては登録国債になります。