はじめに
和田広報室長 本企画は、財政や税の役割等について読者の皆さまにわかりやすくお伝えするために、様々な分野でご活躍されている方々をお招きして、日本の未来やイマについて対談をする企画です。
今回は、日本総合研究所調査部長を務め、様々な場面でご活躍されている石川智久さんをお迎えし、財務省の坂本総合政策課長、主税局の谷企画官、国際局の恵﨑投資企画審査室長と対談していただきます。

写真1 左から三人目が石川智久さん
インフレや金利のある世界
石川智久さん 日本総研の石川です。本日はよろしくお願いします。
早速ですが、経済動向の調査などをしていると足元の大きな変化として「インフレの時代」になったことを感じます。多くの国民がデフレに慣れ、金利の存在を忘れてしまっています。足元では長期金利が上昇しており、今後は金利変動を前提として様々なことをやっていかなければいけないと思います。長期債の売買では金利変動を想定したオペレーションが大事になりますし、財政運営においてはインフレの中で税収がどうなるのかも考慮が必要です。
坂本総合政策課長 総合政策課長の坂本です。総合政策課は、マクロ経済の動きを分析し、それをベースに財務省内の各局とコミュニケーションを取っています。その際、その時々のトピックが経済情勢に与える影響等を調べたりしています。最近のホットイシューは「物価高」ですが、インフレが続く中で、政府としてどうしていくべきか、ご意見を伺いたいと思います。
石川智久さん 過去に学ぶことでしょうか。第一次オイルショックでは大規模な財政出動により狂乱物価になってしまいました。その反省を踏まえ、第二次オイルショックでは金融を引き締め、財政も抑制的に運営されました。現在の事象は円安や人手不足などの供給ショックに起因するものが多いと思いますが、影響を見通すことが難しい場合は慎重に財政運営をすることが大事だと考えます。それは、お金を使わないということではなく、EBPMに基づき政策の優先順位を決めたうえで、重要分野に優先してお金を使っていくということです。

写真2 石川智久さん
坂本総合政策課長 インフレが続く中、今後イラン情勢等が長期化した場合、どのように向き合っていくべきでしょうか。
石川智久さん インフレになると本当に困るのは国民生活です。また、例えば、原油の供給不足の時に、価格を下げるのが本当にいいのかなとも考えてしまいます。原油がなくなったらどうしようもないからです。供給の物量を抑えていくということも場合によっては大事なのではないでしょうか。その意味でも過去の事例をうまく発信していくことも大事だと思います。
坂本総合政策課長 せっかくなので、マーケットのお話もお聞きしたいと思います。石川さんは『「金利のある世界」の歩き方』という本も書かれていますが、そもそも金利の変動を抑えることができるのかできないのかという議論もありますが、どのようにお考えですか。
石川智久さん 金利は「経済の体温」と言われるように変動するものです。過去の金融政策で短期金利が低く抑えられてきたのも事実ですが、本来はその国の経済状況が反映され、最終的に市場で決められていくものだと思います。足元では、金利と実効為替レートが数十年ぶりに大きく動いています。住宅ローン金利など、国民生活にも影響し始めたものもあり、国民自身も金利の存在を再認識する必要が生じていますよね。
インフレもですが、ハイパーインフレになると困るのは低所得者です。高所得者は金や株、暗号資産などに投資している人が多いので値上がりの恩恵を受けています。インフレによって更に所得格差が拡大していることも忘れてはなりません。
財政に関するコミュニケーションのあり方
谷企画官 主税局総務課で税収見積もりを担当している谷です。足元では、企業収益の改善や物価上昇・賃上げを背景に、税収が過去最高を更新しています。また、「金利のある世界」に戻る中で、利子にかかる源泉所得税収も大幅に伸びてきています。
ただ、金利の上昇に伴い、国債の利払費も急増していることに注意が必要です。利払費の増加は直接目に見える形で国民生活に影響を及ぼすわけではないですし、兆円単位の数字は肌感覚では実感が湧きづらい面もあります。こうした中、税収が伸びているとは言っても、持続可能性を意識しながら、どのように財政運営をしていくかというのは悩ましいところです。
石川智久さん 難しいですね。世界を見ても実際に公的サービスが止まってから表面化するということが多いように思います。例えば、火事になっても消防車が来ないとか、警察もお金持ちしか守らないなど。このようなことは政府自身が言い出しにくいと思うので、本当は民間エコノミストがちゃんと説明すべきですね。
ほかに、国民感情として感じるのが、「自分だけ税金を払って損をしているんじゃないか。許せない」という不公平感です。この場合、税金の捕捉率を上げていくことは大事ですし、預かった税金を大事に使うというメッセージも重要です。
谷企画官 現在、社会保障国民会議で議論されている給付付き税額控除についても担当していますが、不公平感の解消という観点では、予算の約三分の一を占める社会保障制度においても、「高齢世代を支えるために、現役世代は取られてばかりだ」ということにならないよう、「全世代型で、年齢に関係なく、負担できる人が負担をし、支えられる必要がある人がちゃんと支えられていくのだ」というメッセージをしっかり発信していく必要があると感じています。

写真3 主税局 総務課 企画官 谷雅彰
石川智久さん とても大事なことですね。“現役世代”に対して“手厚い”ということは共感を得られやすい状況にあると思います。団塊ジュニア世代(50代前半~半ば)がボリュームゾーンとなっており、「現役世代を大事にする」という政策への関心が高いと感じています。
坂本総合政策課長 そういう点では、「財政健全化」も現役世代にメリットがあるという考え方もできますが、多くの方はそのように受け止めていないような気もしています。
石川智久さん どうでしょうか。目立つ書き込みだけが世論というわけではないので、声を上げていない多くの人の声(サイレントマジョリティー)がどのようなものであり、どう寄り添うのかということも大事だと思います。
恵﨑投資企画審査室長 恵﨑です。私はかつて広報室の業務にも携わっており、各地域で双方向の意見交換を実施したことがありました。そうした意見交換ではご自身の問題意識を持った方に来ていただいたことが多かったように感じますが、逆にそうした場所に来ないような方々にどうアプローチをし、関心を持っていただくかということも課題だと感じました。
石川智久さん 私自身、各地域での講演会で意見交換の機会も多いのですが、目の前でお話すると聞いている方の反応もわかりますし、いろんな職業の方がおられますが、丁寧に説明するとわかってくださるので、やはり車座のような形で丁寧に説明していくということは非常に大事だと感じています。
あとは、一つの意見ではなく、両論併記のような形で議論をお示しするというやり方の方が納得感を得られやすいかもしれません。最近では、世界のことでも不思議に感じたら更にご自身で調べる方も多いですので、一見違った見解があっても、それをいったん受け止めて考えていくというプロセスも大事であるように思います。
そのほか、発信力のある方がきちんと理解したうえで発言をすることができるよう、これまでの経緯なども含めながら丁寧に説明していくということも大事かなと思います。
恵﨑投資企画審査室長 そういう点では、学校教育においても、様々な意見があるというのを体験してもらうことも大事であるように思います。
財務省では財政教育プログラムというものを中高生向けなどでやっていたりしていますが、そこではグループワークの中で子供たちがお金の使い道として良いと思う意見を言い合います。例えば、公園一つとっても、滑り台がいい、ブランコがいいといった意見のほか、防火槽も必要ではないかといった意見も出たりします。そうした議論を通じて、どのように社会が成り立っているかということを身をもって経験することで、自分事として捉えていただく機会を増やすことも必要かなと思います。

写真4 大臣官房 総合政策課 課長 坂本成範
日本を取り巻く国際情勢や技術の変化
坂本総合政策課長 昨今、地政学的リスクの高まりや保護主義的な動きもみられる中で、日本はどのような戦略をとるべきでしょうか。
石川智久さん 非現実的ですが、例えば日本が鎖国して生きていけるかというと、1億人を養うのは難しいと思います。やはり貿易をして食べていくしかないです。
日本は島国で海を渡れば世界中が隣国です。だからこそ地球儀を見て貿易をしていくことが大事ではないでしょうか。特に、これから成長していくグローバルサウスを始め、世界中の国々と関係構築をしていくことが、激動の時代においては大事だと思います。日本に対する諸外国からの期待は非常に高いと思います。
恵﨑投資企画審査室長 現在、国際局調査課で対日直接投資の審査を行っています。日本に対する健全な投資を呼び込む一方で、重要な技術の流出や事業の途絶がおこらないように、海外資本による買収等に対し一定の制限をするものです。国際局にいると、諸外国の保護主義的な動きを強く感じますが、日本として、自由と規制のバランスを取りながらも世界経済を成長させていくためのルール作りを牽引していきたいと考えています。

写真5 国際局 調査課 投資企画審査室長 恵﨑恵
石川智久さん 私自身、銀行員時代に、バーゼル規制の対応をしましたが、その時の経験を踏まえると、ルールメイキングから関与していくことが大事だと実感しました。今の時代、絶対的な覇権国がなく、「力による支配」が明確化していくと見込まれる中、日本にとってメリットがある世界秩序を作っていくというのはすごく大事になってくると思います。安全保障の観点でも意義のあることです。
また、国内の在り方にも目を向けてみたいと思います。例えばアメリカは高いGDP成長率ですが、国内を見ると富裕層に恩恵がある一方、中間層に恩恵が少ない状況です。特に、マイノリティやLGBTなどと異なり、政策的優遇の対象にもなってこなかった白人男性が「自分たちは割を食っている」と反発し、そうした人たちがトランプ大統領を支持したともいわれています。
高度経済成長期の日本を思い出してほしいのですが、働いている中間層が幸せを感じられること、いかに豊かな中間層を復活させるかということが重要になってきます。
そして、公務員の皆さんは中間層や低所得者層を主に幸せにしたいと思って仕事をしていると思います。私は内閣府への出向経験もありますが、その時、公務員の皆さんと働く中で本当にそのように思いました。ただ、政策が独りよがりにならないことも重要ですので、例えば、民間企業人材が公務員として働く、その逆もしかりですが、そういったリボルビングドアの活用が増えるといいと思います。
坂本総合政策課長 国際関係だけでなく、AIの登場により産業構造も大きな変革を迎えています。AIの時代の公務員のあり方について、石川さんはどのようにお考えでしょうか。
石川智久さん 歴史を見ると、ゼネラリストが活躍する時代とスペシャリストが活躍する時代が交互に訪れています。AIの登場により、これからはゼネラリストとスペシャリストの両方の素質を持った人が重宝されると考えています。言い換えると「自分で手を動かせる教養人」といったところでしょうか。
AIは答え出すことは得意ですが質問をすることは苦手です。また深堀りするのではなく横につなげていくことも苦手です。逆にそのような仕事がAI時代にも残ると思います。財務省の予算査定の仕事は質問を突き詰めて、どのように国を回していくか徹底的に考える仕事ですので、まさにAI時代にも必要になってくる仕事だと思います。
また、財務省は各省庁のお金の流れを通じて、日本全体を見ることができます。内閣府で骨太の方針のとりまとめを担当したときにも思ったのですが、国全体を見ることができるというのは、仕事として面白いのではないでしょうか。財務省の皆さんには、是非ゼネラリストであってほしいなと思っています。

写真6 左から三人目が石川智久さん
先日、財政学会で「財政学は国の経営学だ」と言っていた方がいました。会社でも予算が厳しい時は経理部的に仕事をしてしまいがちですが、財政が厳しい中においても、財務省にはぜひ国の経営企画部であってほしいと期待しています。
その点、「責任ある積極財政」においては、人手不足への対応や新産業の創出など、優先順位をつけながら日本にとって必要なことを取り組んでいただくことを期待しています。
最後に
和田広報室長 まだまだ話が尽きないところではありますが、本日はここまでとさせていただきます。どうもありがとうございました。

