・PDF版はこちら


公共施設の統廃合を合意する

有斐閣 2025年12月 定価 本体3,900円+税

公共施設の統廃合を合意する

柳 至 著

評者
日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員
政策研究大学院大学博士課程(政策プロフェッショナルプログラム)在籍

渡部 晶

人口減少社会において、自治体が既存の公共施設をどのように取り扱うかは大きな「難問」である。東京都清瀬市では、市内に6つある図書館を2026年にかけて3つに再編したが、3月29日に投開票が行われた市長選挙で、廃止された図書館の再開を訴えた新人が現職を破り当選したことが大きく報じられた。

本書は、人口減少や財政難により多くの自治体が直面している公共施設の統廃合を対象として、地方自治体がどのような取組みを行ってきたのか、また、それらが住民の公正認知や統廃合の受容にどのような影響を及ぼしているのかを、サーベイ実験や事例研究を通じて検討したもので、とりわけ住民参加の取組みといった「手続き」に着目し、合意形成を支える条件とその課題を明らかにすることを試みた。著者は、立命館大学法学部教授で、行政学・地方自治論を専門とする。初の単著『不利益分配の政治学─地方自治体における政策廃止』(2018年)は、本誌2019年6月号で紹介した。

本書の構成は、序章 本書の目的~いかにして公共施設の統廃合を合意するか、第1章 公共施設の統廃合をめぐる状況、第2章 人々はどのような意思決定を公正とみなすのか~理論的枠組みと仮説、第3章 基準と手続きの効果~公民館シナリオによる検証、第4章 手続きの効果の確認~保育所と公民館の別シナリオによる検証、第5章 現実の政治過程における手続きの効果~小平市と京都市の事例研究による検証、第6章 住民参加はどのように取り組まれているか~現状・課題・工夫、終章 縮減社会における合意形成に向けて、補論 各種調査の概要(全国市区町村調査等著者が行った調査概要の説明)である。

本書の問いは、ずばり、「地方自治体がどのような取組を行った場合に統廃合に住民が同意するか」である。

まず、第1章で、地方自治体における公共施設の統廃合の検討・実施状況と、統廃合に対する住民の態度、態度に影響を与える要因を論じる。重要な分析結果として、「財政難が進んでいると認識しているほど、統廃合に否定的となる施設が多かった」という点がある。著者は「財政状況が良くない地方自治体に居住する住民としては、ただでさえ地域に十分にない施設が、統廃合によってさらに削減されることに否定的になるのであろう」としている。

第2章はまさに社会科学の学術書として、先行研究を踏まえた理論的枠組みと仮説が提示される。(1)統廃合の判断基準として平等性よりも必要性や効率性のほうが公正と認知されやすいという仮説、(2)統廃合の検討過程において、住民参加の手続きがあるほうが公正と認知されやすいという仮説、(3)分配的および手続き的公正要素が、公正認知を媒介にして統廃合の受容に正の効果を及ぼすという仮説である。第3章~第4章は、これらの仮説を検証するための実証分析が示される。淡々とした記述の裏に、仮説を検証する難しさ、大変さをぜひ感じ取っていただきたい。第5章は、住民参加の取組みをした小平市としなかった京都市の事例研究が示される。第6章は、著者が行った「全国市区町村調査」の成果が示される。住民参加の取組みとして、住民説明会、懇談会・意見交換会、住民アンケート、パブリックコメントの実施割合が高いが、住民同士の議論を行う取組みの実施割合は低い。また、公共施設マネジメント担当職員の数が多い自治体ほど取組みを実施する傾向があるとする。

終章では、住民の公正認知をもたらす要素として、住民参加に効果があることを様々な実証手段を駆使して示したことを明らかにする。しかし、自治体の実務において、住民が自治体の取組みを認知していないことも判明した。合意形成の条件として、行政の体制を整えること、参加者を募ること、民意に対して応答すること、取組を共有すること、をあげる。ここに示された条件に実務者はやはりそうかと思いつつ、実現のために費やさなければならない労力などに溜息をつくことだろう。

評者としては、地域に地域メディアや地道に地域活動を行う「中間団体」がどれだけ存在して、自治体と「協働」できる関係性が構築できているかが、回り道ではあるが、重要なのではないかとの感想を持った。また、図書館のような無料で一般向けに広く開放された施設は司書の問題も含め、別途の考慮も要するように思われた。

いずれにしても、避けては通れないこの「難問」を考えるために、関係者にぜひ一読をお勧めしたい1冊である。