1.令和8年度農林水産関係予算の基本的考え方
(1)総論
我が国の農林水産業については、人口減少・高齢化による農業の担い手の急減、気候変動の影響等、食料安全保障を取り巻く情勢の変化や課題に直面している。
この点、財政制度等審議会の「令和8年度予算の編成等に関する建議」(令和7年12月。以下、「建議」という。)においても、「今後、農業従事者が急減することが見込まれており、食料安全保障を将来にわたって確保していくためにも、農業の在り方を大きく変えていかなければならない」との危機感が示され、「これからの日本の農政では、法人経営体を含めた新たな担い手の参画を促しつつ、農地の大区画・集約化、デジタル技術の活用やスマート農業の推進、単位面積当たりの収量の増加、輸出の促進などを進め、強い経営体の下で稼げる農業を創り出していくよう、政策を再構築する必要がある」との指摘がなされた。
令和8年度予算は、建議の指摘を基本的な方針としつつ、中長期的な農政の構造転換等に資する所要の予算を計上したところである。
以下、令和8年度予算編成に際しての主な課題と対応の方向性について解説する。
(2)農業構造転換集中対策
昨年4月に策定された「食料・農業・農村基本計画」(令和7年4月11日閣議決定)では、「平時からの食料安全保障を実現する観点から・・初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進める」とされた。そして、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(令和7年6月13日閣議決定)では、「新たな基本法に基づく初動5年間(令和7年~11年度)の農業構造転換集中対策期間において、・・・コストの徹底的な低減に向けた農地の大区画化や共同利用施設の再編・集約化、スマート技術の開発と生産方式の転換・実装、輸出産地の育成を集中的・計画的に推進できるよう、機動的・弾力的な対応により別枠で必要・十分な予算を確保し、施策の充実強化・見直しを行う」とされた*1。
上記を踏まえ、令和7年度補正予算及び令和8年度予算の編成に当たっては、(1)農地の大区画化等、(2)共同利用施設の再編・集約化、(3)スマート農業の開発・導入、(4)輸出産地の育成の推進の4分野において、生産性や収益力の向上につながる事業に重点的に予算措置を講じることとした。
また、農業構造転換集中対策に係る当初予算の増額分については、令和8年度以降の4年間について、日本中央競馬会(JRA)の特別積立金から毎年度250億円(総額1,000億円)を国庫納付することで財源を確保することとした*2。なお、農林水産省は、第221回国会(令和8年特別会)に国庫納付のための法案を提出した*3。
資料1 「食料・農業・農村基本計画」(令和7年4月閣議決定)の抜粋

資料2 「経済財政運営と改革の基本方針2025」(令和7年6月閣議決定)の抜粋

(3)米価高騰を踏まえた対応
一昨年来、米が品薄になる中で、産地における集荷競争が激化し、米の価格が大きく上昇した。これに対し、農林水産省は、昨年3月以降、集荷業者に対して入札による政府備蓄米の売渡しを行った。さらに、昨年5月下旬以降、小売事業者等に対して随意契約による政府備蓄米の売渡しを行った。なお、今回の米価高騰について、農林水産省は、(1)インバウンド需要や精米歩留まりの悪化等を考慮せず、需給見通しを誤ったこと、(2)結果として生産量が需要量に対して不足したこと、(3)こうした実態に気づかず、備蓄米放出の判断が遅れたこと等が要因であると分析している*4。
こうした状況の中、米の需給の安定に向けて、高温耐性品種をはじめとした種子の安定供給、米の生産コストの低減を含めた生産性向上などを図ることが喫緊の課題となった。また、米価が高止まりし、主食用米の作付けが増加する中で、日本酒の原料となる酒造好適米の作付減少が懸念された。
令和8年度予算では、こうした新しい課題に対応していくため、米の生産から消費までの各取組を総合的に支援していくという考えの下、予算措置を講じることとした。
(4)農地の集約化と地域計画*5
今後、農業従事者が急減していくことが見込まれる中、農地の集約化を進めることが喫緊の課題となっている。このため、各地域の農業の将来像や10年後の農地利用を明確化した「地域計画」を真に実効性のあるものにしていくことが重要である。
残念ながら、建議で指摘されたように「現時点で策定された「地域計画」のうち、約半数は現在の農地利用の状況を把握しただけにとどまるものになっており、また、約3割の農地において将来の受け手が位置付けられていない状況」となっており、各地域において早急に見直しを行うことが求められている。
令和8年度予算では、農地の集約化、地域計画の早期実現・見直しに向けて、引き続き、農地中間管理機構(農地バンク)や農業委員会による取組等に対する予算措置を講じることとした。
2.令和8年度農林水産関係予算のポイント
(1)農林水産関係予算の全体像
令和8年度の農林水産関係予算については、上記1の考え方に沿って、食料安全保障の強化等に関する施策を充実・強化し、特に農業構造転換集中対策に関する予算を重点的に措置するなど、所要の予算を計上した結果、総額で2兆2,956億円(対前年度+250億円)となった。なお、令和7年度補正予算についても、上記の考え方も踏まえながら、緊要性のある事業に対して総額で9,602億円の予算を計上した。
資料3 各ブロックにおける地域計画の策定状況

資料4 農林水産関係予算の推移

(2)主な施策の概要
主な施策の概要は以下のとおり(括弧内の金額は対前年度当初予算増減額)。
ア 食料安全保障の強化
農業構造転換集中対策として、「農地の大区画化等」「共同利用施設の再編・集約化」「スマート農業技術の開発・導入等」「輸出産地の育成」を集中的・計画的に推進。
・ 農地の大区画化等 166億円(+40億円)、[令和7年度補正予算]574億円
・ 共同利用施設の再編・集約化 238億円(+169億円)、[令和7年度補正予算]811億円
・ スマート農業技術の開発・導入等 54億円(+27億円)、[令和7年度補正予算]897億円
・ 輸出産地の育成 37億円(+15億円)、[令和7年度補正予算]129億円
水田活用の直接支払交付金について、一昨年来の米価高騰を受けて主食用米以外の作付が減少すると見込まれることに加え、畑地化の進展に伴い、令和8年産における交付対象水田が減少すること、飼料用米の一般品種の支援単価が令和6・7年度に引き続いて段階的に引き下げられること等を適切に予算額に反映。
コメ新市場開拓等促進事業については、従来の加工用米・米粉用米等に加え、一昨年来の米価高騰を受けて作付減少が懸念される酒造好適米を新たに対象に追加。
水田を畑地化して野菜や麦・大豆等の畑作物の生産に取り組む農業者を支援(畑作物の定着までの一定期間の支援や、土地改良区の地区除外決済金の支援等)。
・ 水田活用の直接支払交付金等 2,612億円(▲148億円)
うち畑地化促進助成 2億円(±0億円)
・ コメ新市場開拓等促進事業 140億円(+30億円)
・ 畑作等促進整備事業 29億円(+7億円)
・ 畑地化促進事業 [令和7年度補正予算]195億円
・ 畑作物産地形成促進事業 [令和7年度補正予算]135億円
・ 畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業 [令和7年度補正予算]58億円
米の需給及び価格の安定に向けて、安定的な種子の生産・供給体制の構築、節水型乾田直播などの低コスト生産技術の確立、米・米加工品の輸出拡大推進など、生産から消費までの各取組を総合的に支援。
・ 米穀等安定生産・需要開拓総合対策事業 15億円(皆増)
うち持続的種子生産総合対策事業 2億円(皆増)
うち生産力強化に向けた稲作経営モデル確立支援事業 6億円(皆増)
うち米・米加工品輸出拡大推進事業 2億円(皆増)
・ 米穀等安定生産・需要開拓総合対策事業 [令和7年度補正予算]24億円
うち米粉需要創出・利用促進対策事業 [令和7年度補正予算]20億円
うち米流通効率化支援事業 [令和7年度補正予算]2億円
農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする目標を達成するため、農業構造転換集中対策として、認定品目団体・ジェトロ・JFOODOが連携して行う新市場の開拓、生産から現地販売までの一気通貫した戦略的なサプライチェーンの構築に向けた取組等を行うことで、輸出産地の育成を支援するほか、輸出先国の規制への対応や知的財産の保護を推進。
・ 農林水産物輸出の拡大に向けた支援 140億円(+17億円)
畜産・酪農の生産基盤の維持・強化を図り、安定的な供給を確保するため、農業構造転換集中対策として食肉処理施設等の再編集約・合理化に取り組むほか、アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理や温室効果ガス排出削減に係る取組を推進。
・ 食肉流通構造高度化・輸出拡大事業 17億円(+5億円)、[令和7年度補正予算]167億円
・ 持続可能性配慮型畜産推進事業 0.6億円(+0億円)
持続的な食料の供給が可能となるよう、合理的な価格の形成に向けて、コスト構造や取引価格の調査、消費者等の理解醸成、フードGメン活動を推進。
・ 適正取引推進・消費者理解醸成対策事業等 2億円(+1億円)、[令和7年度補正予算]4億円
自然災害や高温等の環境が変化する中で安定的な食料生産を可能とするとともに、我が国の食の稼ぐ力を高めるため、植物工場や陸上養殖施設の整備、フードテックを活用したビジネスモデルの実証・実装等を支援。
・ フードテックへの投資促進 122億円の内数(▲9億円)、[令和7年度補正予算]168億円の内数
イ 環境と調和のとれた食料システム
環境と調和のとれた食料システムの確立に向け、有機農業をはじめとする環境負荷低減の取組や都道府県等のサポート体制づくり・活動を支援。
・ みどりの食料システム戦略推進総合対策 6億円(▲0億円)、[令和7年度補正予算]40億円
・ 環境保全型農業直接支払交付金 28億円(±0億円)
ウ 農業の持続的な発展
農業構造転換集中対策として、地域農業を支える老朽化した共同利用施設の再編集約・合理化を支援するとともに、担い手・サービス事業体の農業機械の導入や、産地におけるスマート農業技術を活用した農業機械の導入・栽培体系の転換を支援。
・ 新基本計画実装・農業構造転換支援事業 217億円(+137億円)、[令和7年度補正予算]617億円
・ 地域農業構造転換支援対策 29億円(+15億円)、[令和7年度補正予算]129億円
・ スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート事業 25億円(+25億円)、[令和7年度補正予算]157億円
生産性・収益性等の向上やスマート農業の導入に向けて、農業構造転換集中対策として農地の大区画化等を推進すべく、基盤整備を進めるとともに、国土強靱化のための農業水利施設の更新・長寿命化等を支援。
・ 農業農村整備事業関係 4,504億円(+40億円)、[令和7年度補正予算]2,439億円
農業者の急減が想定される中で、これからの農業を担う人材を確保していくため、就農にあたっての資金交付や初期投資支援、地域における新規就農者の誘致や就労条件等の労働環境の整備等を支援。
・ 新規就農者育成総合対策等 114億円(+7億円)
・ 雇用就農総合対策等 31億円(▲2億円)
・ 新規就農者確保緊急円滑化対策 [令和7年度補正予算]54億円
・ 雇用就農緊急対策 [令和7年度補正予算]13億円
将来像が明確化された地域計画の早期実現に向けて、農地の集約化を加速するため、農地中間管理機構(農地バンク)の事業運営、農業委員会における農地の出し手・受け手の意向確認などの取組を支援。
・ 農地中間管理機構事業 46億円(+4億円)
・ 農地利用最適化推進事業等 128億円(+6億円)
・ 農地集約化促進事業 [令和7年度補正予算]80億円
食品の安全や食料の安定供給等の確保に向けて、ワンヘルス・アプローチに基づく人獣共通感染症対策の推進の観点も含め、鳥インフルエンザや豚熱等の家畜の伝染病や農作物に対する病害虫の発生予防・まん延防止等に資する取組を支援。
・ 消費・安全対策交付金 19億円(±0億円)
エ 農村の振興
高齢化や人口減少による中山間地域等の機能低下、荒廃農地の増大、鳥獣被害の発生等の課題に対応するため、農林水産業に関わる地域のコミュニティの維持、農山漁村の活性化・自立化、鳥獣被害の防止に資する取組等を支援。
・ 農山漁村振興交付金 70億円(▲3億円)、[令和7年度補正予算]30億円(関連予算含む)
・ 鳥獣被害防止対策 99億円(±0億円)、[令和7年度補正予算]68億円
オ 力強い林業の推進
力強い林業の実現に向け、森林資源の循環利用と適正な管理を推進するとともに、森林の集積・集約化の推進、木材等の付加価値向上・需要拡大や花粉症対策等を支援。
・ 森林整備事業 1,271億円(+16億円)
・ 治山事業 628億円(+3億円)
・ 森林集約・循環成長対策 80億円(+10億円)
・ 林業・木材産業国際競争力強化総合対策 [令和7年度補正予算]450億円
・ 花粉の少ない森林への転換促進緊急総合対策 [令和7年度補正予算]56億円
カ 水産業の強靱化
水産業の強靱化を図るため、激変する海洋環境に対応した資源調査・評価の推進、新たな操業体制の構築や資源管理に取り組む漁業者に対する経営安定対策等を支援。
・ 水産資源調査・評価推進事業 87億円(+8億円)
・ 水産業成長産業化沿岸地域創出事業 30億円(±0億円)
・ 漁業収入安定対策事業 160億円(±0億円)、[令和7年度補正予算]183億円
・ 資源調査・管理体制構築事業 [令和7年度補正予算]11億円
・ 水産業競争力強化漁船導入緊急支援事業 [令和7年度補正予算]95億円
・ 漁業構造改革総合対策事業 [令和7年度補正予算]65億円
*1)自民党における議論において、5年間の事業規模について、(1)農業農村整備:おおむね8,000億円程度、(2)共同利用施設の再編・集約化等:おおむね9,000億円程度、(3)スマート農業技術・新品種の開発・スマート農業機械等の実装:おおむね7,000億円程度、(4)輸出産地の育成:おおむね2,000億円程度の計2.5兆円程度(うち、国費はおおむね1.3兆円程度)とするとされた。
*2)令和8年度予算編成における大臣折衝において、財務大臣と農林水産大臣の間で、「令和8年度から令和11年度までの当初予算については、当該期間においてJRAの特別積立金から毎年度250億円(総額1,000億円)を国庫に納付することを前提とした臨時・特例の措置として、毎年度250億円を追加的に予算措置する」「当該期間が終了する令和12年度以降については、真に必要な財政需要の増加に対応するためには、制度改革により恒久的な歳入増を確保するとの考えの下、農林水産省において、今回の国庫納付に代わる安定的な財源を確保するものとし、令和12年度当初予算の編成までに、具体的な財源確保策について結論を得た上で、追加的な予算措置を検討する」と合意された。
*3)農業構造転換の推進に必要な施策の集中的な実施の財源に充てるための日本中央競馬会の国庫納付金の納付に関する臨時措置法(令和8年法律第10号)。
*4)詳細については、「米の安定供給等実現関係閣僚会議」(第3回)(令和7年8月5日)資料参照。
*5)令和5年の「農業経営基盤強化促進法」(昭和55年法律第65号)の改正により、市町村は、地域における関係者の話合いを踏まえ、地域農業の将来像や10年後の農地利用を明確化した「地域計画」を策定することとされている。

