本稿では、複数国で導入・検討が進む未成年のSNS利用禁止について考察する。
未成年のSNS利用禁止、世界的な動き
・2025年12月、オーストラリアにおいて、SNSでのいじめや性加害、有害コンテンツの視聴を防ぐ目的で、国家として初となる16歳未満のSNS利用を禁止する法律が施行された。
・未成年のSNS利用に係る規制は、オーストラリアだけでなく、複数国でも導入検討が加速している(図表1)。その背景には、オーストラリアのようないじめ防止の観点だけでなく、SNSが依存性の高いデザインとして設計されており、刺激的な動画とそれを閲覧したい衝動を利用者に与えることで、メンタルヘルスへの悪影響や自殺に追い込むリスクへの懸念もある(図表2)。
・OECD等の調査では、メンタルヘルスの悪化は医療費の増大だけでなく、社会的コストとして間接的に雇用率や生産性の低下に影響するとしている(図表3)。
・近年、プラットフォーマー任せでは現状を改善できないという認識が広まり、法的介入の必要性が議論されている。2026年3月には、米国カリフォルニア州でのSNS依存を巡る訴訟において、メタとグーグルは被害者に対し損害賠償の支払い義務があるとの評決が下されている(図表4)。こうした世界的潮流は、日本にとっても他人事ではなく、政策検討に向けた重要な示唆を含んでいると筆者は考える。




SNS利用と脳発達・依存・感情形成への影響
・未成年の脳は外部刺激の影響を最も受けやすい時期にある。SNSの無限スクロールが与えるの強い刺激や「即時的な承認」(いいね機能など)は、子どもの脳の発達に大きな影響を及ぼし、依存症的な使用パターンを形成しやすいという見方もある(図表5)。
・依存が進行すれば、注意力や衝動制御の発達に偏りが生じ、学習や社会性にも長期的な影響を及ぼす可能性がある。現時点では学術的に因果関係が確定してはいないものの、SNSを視聴することによる他者との比較や過剰な承認欲求が、慢性的な不安感や孤独感、自己肯定感の低下等の心理的リスクを増大させる懸念も指摘されている。また、全米経済研究所のワーキングペーパーでは、若者のメンタルヘルスとスクリーンタイム(スマホ・SNS)に強い関係があることが示されている(図表6・7)。



オーストラリアの事例と規制の実効性に関する議論
・世界に先駆けたオーストラリアにおける規制(図表8)は、年齢確認を法的義務とし、依存を生む設計そのものを問題視する観点から、SNS事業者に全面的に責任を課す。罰則が高額であることから、企業に対応を促すものと考えられる。
・だが、歴史を振り返ると、社会的需要が存在するものに対して禁止法令の制定、或いはそれに類した体制の構築を試みたことはあるが、実効性の担保という観点から形骸化していった事例は多い(図表9)。
・オーストラリアのような未成年のSNS利用規制を検討する際は、実効性の担保に加え、制限強度と範囲を考慮する必要がある。例えば、保護者の同意を条件とする場合、その同意をいかに確実に取得するかという手法の問題や、家庭の教育方針によって制限の度合いに大きな差が生じる点に留意すべきである。また、夜間利用や通知制限といった一部制限措置を講じる際も、年齢確認の精度をどう高めるか、あるいは限定的な制限で十分な効果が得られるのかといった多角的な視点での検討が不可欠である(図表10)。

(出所)eSafety Commissioner、OAIC、Michael & Associates、TECHINASIA


日本における議論の状況
・オーストラリアによる規制導入を始め、世界各国で未成年SNS利用に関して、因果の確定性に限界があっても、SNSの依存を促す設計やメンタルヘルスの悪化等を踏まえた、何かしらの規制導入が検討されている。イプソスによる調査では、未成年のSNS利用を禁止すべきか否かという問いに対し、日本の同意割合は各国平均よりも低く、慎重であることが見てとれる(図表11)。
・足元の日本における議論の状況を整理すると、2024年11月に子ども家庭庁で「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ」(WG)が設置され、同WG内においてオーストラリアにおける規制の評価を行っており、2026年1月の同WGに属した専門家会議においても、オーストラリアにおける規制に関し意見が交わされた。賛成反対意見は様々であるが、足元の状況を鑑みるに、法改正による規制導入の可能性は否定されていないものの、依然として慎重姿勢であると思料される(図表12)。
・メンタルヘルス等の健康被害の中でも特に睡眠障がいを例に見てみると、2016年にランド研究所が試算した結果によれば睡眠不足によって生じる経済損失は年間約1,380億ドルにも及ぶといわれている(図表13)。SNSの利用は睡眠不足の一つの要因となりうることから、検討を進めることでこのような経済損失を減少させることも期待できるのではないかと思われる。このような視点も含め、今後日本でも未成年のSNS利用にかかる議論が加速・拡大していく可能性がある。

(出所)Ipsos、子ども家庭庁、テレビ朝日、RAND Corporation


(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

