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コラム 経済トレンド 147
獣害から資源へ-ジビエが拓く地域循環

大臣官房総合政策課 調査員 日比野 聡太/大関 雄太郎

本稿では、近年拡大している鳥獣被害の現状と対策、特にジビエをめぐる活用に関する考察を行う。

拡大する鳥獣被害ついて

・近年、鳥獣による被害の拡大が顕著となってきている。農林水産省によれば、令和6年度の農作物被害額は約188億円と足元増加基調にあり、金銭的な被害のほか、耕作放棄地の増加や営農意欲の低下など、地域社会の持続性という観点からも無視できないものとなりつつある(図表1)。

・農作物への被害だけでなく、クマをはじめ人的被害についても拡大傾向である。環境省によると、国内のクマ被害者数とそのうちの死亡者数は、ともに2025年度に過去最高を更新している。その他、クマの出没・被害件数の多い東北地方を中心に様々な企業・業種にて業務上の影響を訴える声もあり、拡大する鳥獣被害への対策が求められている(図表2、3)。

・本稿では、拡大する鳥獣被害の現状と対策を整理し、その取組の一つとして特にジビエによる活用に関して考察を行いたい。

(図表1)農作物被害額の推移

(図表1)農作物被害額の推移

(図表2)クマによる被害者数と死亡者数

(図表2)クマによる被害者数と死亡者数

(図表3)クマにより業務に影響が出たと感じる企業の割合(左)とクマの被害数・出没件数

(図表3)クマにより業務に影響が出たと感じる企業の割合(左)とクマの被害数・出没件数

(出所)農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」、東京商工リサーチ「2025年「クマリスク」高まる、企業の6.5%が「影響あり」地区別では東北が28.9%と突出、全国に影響広がる」、環境省HP

ジビエ利活用の現状

・野生鳥獣の利活用の現状について確認していく。環境省のデータによれば、長期で見ると、イノシシやニホンジカといった野生鳥獣の捕獲数は右肩上がりで推移しており、その他の野生鳥獣も含めた総数としては、年間で100万頭を超える水準となっている(図表4)。

・一方、捕獲個体の処分については処分費が発生する廃棄物扱いでの処理となり、運搬から解体、埋没・焼却に係る各種コストが発生しており、捕獲頭数の増加に伴い、各種コストの増加についても懸念される(図表5)。

・この課題を解決するために、現状処分されている鳥獣の活用が注目されており、その代表的なものがジビエによる活用である。足元、捕獲された有害鳥獣のジビエ活用については増加傾向であり、学校給食への展開や狩猟体験ツアー、ペットフードへの転用、地域と連携した新しいブランド化、など幅広いジャンルで利用拡大に向けた取組が広がりつつある(図表6)。

・各種被害低減の対策も重要な一方、これまで廃棄していた捕獲鳥獣のジビエ利用の拡大により、捕獲・処理等に要するコストの一部を回収し、従来は主として費用負担として認識されていた鳥獣被害対策の負担軽減に繋がる可能性がある。

(図表4)イノシシ(上)とニホンジカ(下)の捕獲頭数

(図表4)イノシシ(上)とニホンジカ(下)の捕獲頭数

(図表5)捕獲個体の処理方法とコスト例

(図表5)捕獲個体の処理方法とコスト例

(図表6)捕獲された有害鳥獣のジビエ利用の実態

(図表6)捕獲された有害鳥獣のジビエ利用の実態

(注)図表5は平成29年当時の試算であり、あくまでも一例であることに留意。処理コストは捕獲現場からの搬出・運搬にかかる費用から処理施設での人件費や維持管理にかかる光熱費、処理産物の一般廃棄物処理費などを指す。
(出所)環境省HP、農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」、国立環境研究所「改訂版 有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブック~自治体向け~」

ジビエ普及のボトルネック

・一方で、ジビエ普及における課題も存在しており、中でも消費者の心理的な障壁の存在は大きい。消費者のジビエ受容についての研究はすでに行われており、長尾・廣政・井上(2023)では衛生上の懸念、Hu・Imoto(2026)では品質に対する認識や食習慣がないことによる新奇性への恐怖(フード・ネオフォビア)などが挙げられている。

・ジビエの流通コストが高いことも普及のボトルネックとなっている。消費者が日頃買い物をする際には安価であることが最も重視される一方で、牛・豚と比較した流通価格は高く、イノシシの部位別平均価格は和牛に準ずるものとなっている。(図表7、8)。

・供給面でも課題が残る。野生鳥獣の捕獲は大半が人的・農林業的な被害防止が目的であり、そのうちジビエ利用のために食肉加工施設に持ち込まれた数は2割にも満たない(図表9、10)。食肉活用のためには現場での適切な処理と迅速な施設への持ち込みが必要となることから、主たる捕獲目的に劣後し、資源利用が不十分とならざるを得ない、などといった背景もある。

(図表7)消費者が食に関して重視していること

(図表7)消費者が食に関して重視していること

(図表8)1kgあたりの流通価格の比較

(図表8)1kgあたりの流通価格の比較

(図表9)目的別野生鳥獣の捕獲数割合

(図表9)目的別野生鳥獣の捕獲数割合

(図表10)捕獲されたシカ、イノシシのうち食肉処理施設での解体された割合

(図表10)捕獲されたシカ、イノシシのうち食肉処理施設での解体された割合

(出所)長尾真弓・廣政幸生・井上賢哉(2023)「都市におけるジビエ消費の実態と消費以降に関する分析」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/29/4/29_4_11/_pdf/-char/ja、Xinyi Hu・Tomoko Imoto(2026)「Game meat acceptance in Japan:behavioral determinants and the role of food neophobia」
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S095032932500343X?__cf_chl_f_tk=k1H5xZb0yz.aIHyjP3VO6Hv2894zfEO1BG0FASIirME-1782976943-1.0.1.1-OS.t1YajIWvqe3qKLVCnIdv2T.RQIw9A5P7yC.5z75c、農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」、「畜産物流通統計」、「食生活・ライフスタイル調査」、公益財団法人日本食肉流通センター「業務月報」、環境省「鳥獣関係統計」、「野生鳥獣にかかる各種情報」

付加価値向上にむけた取組、展望

・ジビエ消費の浸透に向けて中央省庁・民間・地方自治体でそれぞれ主体的な取組が行われている。

・2018年5月には農林水産省にて「国産ジビエ認証」制度が創設された(図表11)。令和8年6月現在では全国43施設が登録されており、認証商品は大手スーパーや飲食店、大手企業主導のジビエイベント等での取扱実績がある。また、政府予算を活用した食肉利用促進や処理施設への支援など、供給面を強化する施策も行われている(図表12)。

・地域の取組として、民間企業ではジビエにまつわる体験に重きをおいた「コト」消費の観光プランを創出することで、経済合理性のみによらない付加価値を生み出している。地方自治体では食肉に適さない野生鳥獣肉の製品化など、未利用資源の有効活用策も模索されている。その他、県や市町村が中心となり学校給食へのジビエ提供を行うことで、食育・ジビエ食への理解度を深める活動も行われている(図表13)。

・今後は官・民・自治体の連携により、ジビエ振興が持続可能な地域社会・農林業の維持に貢献することを期待する。

(図表11)国産ジビエ認証における認証基準

(図表11)国産ジビエ認証における認証基準

(図表12)政府支援策の一例

(図表12)政府支援策の一例

(図表13)地域におけるジビエ振興の取組事例

(図表13)地域におけるジビエ振興の取組事例

(出所)農林水産省HP、一般社団法人国産ジビエ認証機構HP、MOMIJI株式会社HP、小諸市野生鳥獣商品化施設HP、農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。