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指定金融機関の未来

金融財政事情研究会 2025年7月 定価 本体3,500円+税

指定金融機関の未来

藤木 秀明 著

評者
日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員
政策研究大学院大学博士課程(政策プロフェッショナルプログラム)在籍

渡部 晶

本書は、地域の金融・財政や公民連携についての気鋭の研究者である藤木秀明氏が神戸大学に提出した博士論文(経済学)をもとに世に問うた初めての単著である。

藤木氏は、2002年早稲田大学商学部卒で、三菱東京UFJ銀行、浜銀総合研究所、内閣府公共サービス改革推進室、東洋大学大学院客員教授、日本大学理工学部助教等を経て、本年9月に小樽商科大学に金融論を担当する准教授として着任している。

本書の帯には「指定金融機関は、地方公共団体の『メインバンク』なのか?」と大書され、「北海道夕張市の財政危機に際して金融機関が果たした役割を詳細に追跡し、地方公共団体と金融機関との関係が地方債金利にどのような影響を与えているかをデータに基づいて検証する」とある。ここで、指定金融機関とは、地方自治法第235条及び同法施行令第168条に基づき、公共団体が、会計管理者に代わって公金の収納、支払の事務を取り扱わせるために指定する金融機関のことである。議会の議決を経て1つの金融機関が指定される。国において日本銀行が担当する「政府の銀行」に相当すると解することができるという。

本書の構成は、序章 指定金融機関を論ずる現代的意義、第1章 指定金融機関とは、第2章 地方公共団体に対する融資取引、第3章 メインバンク理論の概況整理、第4章 メインバンク理論の地方公共団体取引への応用、第5章 夕張市財政破綻への取引金融機関の対応、第6章 銀行等引受債の決定要因とリレーションシップに関する分析、第7章 指定金融機関の今後、である。第1章から第6章には「小括」が置かれており、懇切な形となっている。

第5章の事例研究を含め、詳細な注入りの各章は極めて有意義である。著者は本書の中核は第6章とする。すなわち、「地方公共団体と指定金融機関の関係性について多面的に論点を整理してきた第5章までの議論をふまえ、地方公共団体の指定金融機関の関係性について、融資取引(銀行等引受債)の金利データを被説明変数とし、借り手の信用力や競争度、案件効率性に関する説明変数に加えて関係性(リレーションシップ)変数を含めて最小二乗法(OLS)による多変量回帰分析を試み」ている。これにより「金融機関が地方公共団体への地方債の金利条件をどのように考えているかを洞察し、今後の地方公共団体の指定金融機関の関係性改善に向けたインプリケーション(含意)を得ることを目指す」とした。なお、ここで分析対象には、都道府県、政令市、町村が入っていないことに留意する必要がある。評者の経験からは、指定金融機関の本店所在地の自治体と単なる支店があるにとどまる自治体とではリレーションに質的に違いが出るように思われるのだ。

推定結果として、調達方式(相対方式と入札)の違いにより銀行等引受債金利の決まり方が異なるなど主な7点の分析結果が得られたとする。それを踏まえた政策的含意として、(1)健全財政は低利調達に寄与する、(2)指定金融機関との長期安定的な関係が資金調達コストの低廉化に寄与する、(3)資金調達の大規模化は低利調達に寄与する、(4)異なる調達方式の適切な活用が求められる、をあげる。その上で、本研究の貢献を「メインバンクとの長期・安定的な関係が地方公共団体の円滑な資金調達に資することを示したこと」と著者は結論する。

指定金融機関制度については、近年は指定金融機関業務や公金の収納手数料についての金融機関と地方公共団体の手数料交渉が課題になっているなど「良好な関係」といえるかどうかは必ずしも明らかではないという。著者は手数料交渉を乗り越えた上での、地方公共団体と指定金融機関の新たな関係を模索し、自治体が指定金融機関を「業者扱い」するのではなく、「共創のパートナー」となる成熟した関係性への移行へ期待を示す。

評者は、2001年から2003年に福岡市に出向した経験を持つが、たまたま博多湾の埋め立てを実施する市の3セク博多港開発への融資問題に直面した。事業を不安視する地元金融機関との交渉はかなりハードであった。市役所の中では「指定金融機関」に対する疑問の声も横溢し、当時の山﨑広太郎市長(故人)と、1対1で指定金融機関に関して話し合ったことを思い出す。しかし、妥結後の地元金融機関の事業への貢献は大きかった。まさに危機を乗り越えて、著者のいう「腹を割って」の意思疎通が地元金融機関と市役所の間に構築できたのだろう。