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【PRI Open Campus】~財務総研の研究・交流活動紹介~ 60
英米の財政部局によるEBPM(エビデンスに基づく政策形成)へのかかわり方

財務総合政策研究所 総括主任研究官 小林 庸平

(編集)財務総合政策研究所 総務研究部 研究員 伊東 直樹

財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月のPRI Open Campusでは、2026年6月1日(月)に行われた、財務総合政策研究所の小林庸平総括主任研究官による講演内容を「ファイナンス」の読者の方々にご紹介します。

小林 庸平

「英米の財政部局によるEBPMへのかかわり方」

小林 庸平 財務総合政策研究所 総括主任研究官

専門は、公共経済学、計量経済分析、EBPM(制度設計および効果測定)、子どもの貧困、ナッジの政策活用。
一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。経済産業省産業構造課課長補佐や独立行政法人経済産業研究所研究員、米国戦略国際問題研究所客員研究員、三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員 兼 EBPM・行動科学チーム(MERIT)リーダー等を経て、2026年4月より現職。
関連書籍に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞出版、共編著)、『政策評価のための因果関係の見つけ方 ランダム化比較試験入門』(日本評論社 監訳・解説)。

1.EBPMにおける財政部局の役割

財政制約の高まりや社会課題の複雑化を受けて、「エビデンスに基づく政策形成(Evidence-Based Policy Making、EBPM)」の取り組みが世界中で進められています。日本でもEBPMが本格的にスタートして約10年経過しています。

多くの国でEBPMの中心的な担い手となっているのが政府の中の財政部局です。今回は、イギリスの財務省・内閣府とアメリカの行政管理予算局などが、EBPMにおいてどのような役割を果たしているかを紹介します。

2.イギリス財務省・内閣府

(1)EBPMの始まり

イギリスにおけるEBPMの始まりはブレア政権(1997-2007)に求められ、1998年7月に歳出見直し(Spending Review、SR)が初めて導入、実施されました。これは、数年に一度政府全体の歳出を見直し、優先順位付けを行い、今後数年間にわたる資源配分を決める仕組みです。

1999年3月には「政策形成におけるエビデンスと調査のよりよい利用」(EBPMのコンセプト)を主張する「政府の近代化(Modernising Government)」白書が公表され、以降、行政においてEBPMの概念が浸透・進展しました。

(2)政策マネジメントの枠組み

ア.SRと業績管理

イギリスでは歳出が裁量的支出/義務的支出、経常経費/資本的支出のマトリックスに分かれていますが(図表1)、SRは裁量的支出に対して政府歳出の大枠を決めるものです。

併せてブレア政権では、内閣府や財務省が各省庁と3年間の目標設定をする公共サービス合意(Public Service Agreement、PSA)を導入しました。これは歳出の細かい使い方は各省庁に委ねる一方、成果に対して責任を求められる仕組みです。PSAはその後、名称が変わり続けていますが、SRで予算の大まかな配分を行い、目標設定して成果の進捗を管理するというのが、イギリスにおける政策マネジメントの大きな枠組みです。

図表1 歳出見直しの対象

図表1 歳出見直しの対象

イ.ROAMEFサイクルと政策の事前評価

具体的なイギリスの政策プロセスは「目標→事前評価→モニタリング→事後評価→フィードバック→論拠付け」という6つの段階に区分・整理されており、それぞれの頭文字をとりROAMEFサイクルと呼ばれています(図表2)。

その中のAppraisal(事前評価)では、グリーンブックと呼ばれるガイダンスのもとに政策の費用対効果が計算され、政策検討がなされます。これらは特に規模の大きなものや新規性の高いものが対象であり、この事前評価をもとに財務省が査定を行っています。

図表2 ROAMEFサイクル

図表2 ROAMEFサイクル

ウ.Government Major Projects Portfolio(GMPP)によるモニタリング

さらに、最も複雑で戦略的に重要なプロジェクトを政府全体で管理し、透明性を確保しながら進捗管理するためのシステムとして、GMPPが導入されました。

対象には鉄道、道路、学校、病院などの分野におけるプロジェクトが含まれており、2023~2024年では、227プロジェクト、総額8,340億ポンドが対象(図表3)となっています。

進捗状況はDelivery Confidence Assessmentで評価され、予定通りの成果が期待できるかどうかが赤・黄・青で示されます(図表4)。

図表3 GMPPのプロジェクト数・総額

図表3 GMPPのプロジェクト数・総額

図表4 プロジェクトの進捗状況

図表4 プロジェクトの進捗状況

(3)EBPMと政策評価タスクフォース(Evaluation Task Force、ETF)

ア.ETFの設立

ROAMEFサイクルに基づく政策マネジメントを進める中で、近年の大きな変化の一つが、評価の専門組織である政策評価タスクフォース(Evaluation Task Force、ETF)の設立です。ETFは、ROAMEFの枠組みに沿った政策評価の実施や各省庁の評価能力の向上を政府横断的に支援しています。

ETFは内閣府と財務省の共管による組織で、約15名のスタッフが在籍しています。対象省庁ごとに担当者が分かれており、財務省のスペンディングチーム(日本の主計局に近い組織)と連携して各省庁の歳出をチェックします。加えて、ETFは各省庁に対してエビデンスや評価計画についてのアドバイスも行っています。

設立から約5年経過し、ETFはイギリスのEBPMにおける中心的な存在となっています。

イ.ETFの取り組み

ETFは、良いエビデンスおよび評価計画が備えるべき要件として図表5の7つを整理し、これらのレビュー・改善を推進しています。

2021年に実施されたSRでは、ETFは86件、総額100億ボンド超の歳出レビューを行い、(ア)エビデンスの質や効果検証設計等の検討、(イ)評価計画・実施を歳出条件に付与、(ウ)評価の実施状況のモニタリングを行いました。

また、ETFはGMPPに含まれる大規模なプロジェクトについて、進捗状況に加え評価計画が策定されているかについてもレビューをおこなっています。

ETFができる前の2019年には評価計画のあるプロジェクトが36.1%だったのに対し、2023~2024年には約2倍の63.4%となっています。そのうち「頑健である」と判断された評価計画は増加しているものの、全体の約1/3にとどまるため、プロジェクトの承認プロセスに評価計画を組み込むことや、プロジェクト責任者に評価の価値を浸透させることを提案しています(図表6)。

一方、EBPMにおいて最大のネックとなるのが、評価を行うためのデータやエビデンスの不足です。ETFは、政策に有用なエビデンスを生み出すため、Evaluation Acceleration Fund(EAF)による補助金を実施し、エビデンスの創出をサポートしています。2026~2027年度では総額350万ボンド・21プロジェクトが採択されており、予防的な政策介入や公共サービス提供改革、AI・デジタルなどが重視されています。

図表5 エビデンス・評価レビューの視点

図表5 エビデンス・評価レビューの視点

図表6 プロジェクトの評価状況

図表6 プロジェクトの評価状況

(4)具体的な事例
~低所得・若年妊婦への看護師家庭訪問プログラム~

EBPMの好例として有名なのが、看護師家庭訪問プログラムです。これは低所得・若年妊婦へ、看護師が2年間家庭訪問し、子どもの接し方改善支援や虐待防止などを教育するという政策で、アメリカでは、約7,000ドルの費用に対し、便益が約40,000ドルと大きな効果が確認されました。

アメリカでの結果を受けて、イギリス保健省の資金によって1,645人の10代の妊婦を対象に同様のプログラムが実施され、効果検証を行いました。それによると、短期的にはポジティブな影響がみられず、中長期的な子供の学力に若干のプラスの効果が確認されたのみでした。

イギリスでは、アメリカと比較し社会保険が整備されていることから、家庭訪問による追加的な介入効果は限定的であったと考えられます。期待した効果が確認されなかったため、この政策は見直す判断がなされ、結果的に不要な支出を防ぐことができた事例です。

3.アメリカ行政管理予算局

続いて、アメリカにおける政策マネジメントの枠組みと行政部局のかかわりについてお話しします。

(1)政策目標の設定
~GPRAMA(政府業績成果近代化法)

連邦政府の目標設定と業績管理を行う枠組みとして2010年に政府業績成果近代化法(Government Performance and Results Act Modernization Act、GPRAMA)が定められました。各省庁は、戦略計画を4年毎に作成し目標を設定します。また短期に達成すべき目標についても優先目標として設定され、四半期ごとの進捗レビューを反映しながら政策運営を行っていきます(図表7)。

図表7 業績・政策マネジメントの仕組み

図表7 業績・政策マネジメントの仕組み

一方で、この枠組みだけでは、「目標は管理しているけれど、その政策が本当に効果的であるのかまでは分からない」という限界がありました。

(2)EBPMの導入と政策マネジメント

ア.本格化のきっかけ

そのような中、アメリカでEBPM導入の契機となったのは、2013年のPaul Ryan共和党下院議員とPatty Murray民主党上院議員による予算交渉です。オバマ政権下、2010年の中間選挙によってねじれ議会となり、政府閉鎖を背景に行われたこの交渉で、両者は次の2点に合意しました:

(ア)政府運営上どのような戦略が最も効果的か、税金を慎重に使うことを国民に保証するためにどうすればよいか、調査する必要があること。

(イ)政府は行政活動や統計調査を通じた大量の情報を集めている一方、それらは意思決定者のニーズを常に満たしているわけではなく、政府データをより効果的に使うための戦略が必要であること。

この合意がきっかけで超党派の議員立法が成立し、2016年のEBPM委員会設立につながりました。EBPM委員会では、政府の保有する機密データ活用やそのプライバシー保護、EBPM推進のための体制強化といった多くの提言が行われました。

イ.Evidence ActとEBPM推進体制

これらEBPM委員会の提言を実行するため、2019年にEvidence Actが制定されました。省庁間のデータ・エビデンス構築機能の連携を求めるとともに、各省庁に対して以下の点が義務付けられました。

(ア)Evaluation Officerの任命

(イ)エビデンス構築文書(ラーニングアジェンダ・年間評価計画含む)の策定・公表

(ウ)エビデンス構築のための能力・体制の自己評価

また、これらの各省の活動を管理・支援するため、行政管理予算局に社会科学や政策分析の専門家チーム(Evidence Team)が構成されています。

ウ.エビデンス構築文書

イギリスと同様、アメリカにおいても、EBPMにおけるデータやエビデンス構築が重視されています。

Evidence Actにより各省庁に作成が義務づけられた「エビデンス構築文書」では、政策担当者とのコミュニケーションを通じてエビデンスの需要を把握し、ギャップの解消に向けた計画を作成します(図表8)。また、各省庁は作成した計画に基づいて政策評価の分析を行っていきます。

図表8 エビデンス構築計画のイメージ

図表8 エビデンス構築計画のイメージ

エ.GPRAMAとEvidence Actによる政策マネジメント

前述のGPRAMAとEvidence Actは対応関係になっています。GPRAMAは政府の優先目標が示されており、その中で優先的に解消したいトピックを特定します。そして、それらと連動した政策の評価計画作成・エビデンス構築を、Evidence Actのもとで行っていきます。

政策は無数に存在し、すべてにEBPMで対応することは現実的ではありません。優先的で重要でかつエビデンスが足りないものをGPRAMAから特定し、Evidence Actのもとで取り組んでいくというのがアメリカのここ6~7年くらいの動向です。

(3)具体的な事例
~再就職・受給資格確認プログラム(Reemployment Services and Eligibility Assessment、RESEA)

RESEAは州に対する補助金プログラムで、失業保険受給者に対して、再就職計画の作成や職業訓練などを行うことによって、再就職を促進することを目的としています。

このプログラムの特徴は、補助金の最大10%を評価のために使用できること、またそれを踏まえた改善が義務づけられている点です。これらの評価に裏打ちされた事業への歳出は段階的に増加しており、2023~2024年にはプログラム全体の25%でしたが、2027年以降は50%となっています。残りの部分は効果的なプログラムを模索するため、パイロット的な新事業に使われます。

エビデンスを用いながら政策を改善した結果、失業給付期間は当初より1.82週間短縮し、必要な給付額は536ドル減少しました。受給者側も、早期の再就職により高い賃金を得られるようになりました。費用対効果についても、RESEAの1ドルの支出に対して、2.6ドルの効果が出ています。

4.まとめ

イギリス・アメリカともに、政策マネジメントにEBPMをどのように組み込むかについて、現在も試行錯誤を重ねています。その中で、両国の取組に共通する点をまとめます。

(1)政策マネジメントとEBPMの融合

イギリスとアメリカの双方において、財政部局(イギリス財務省、アメリカ行政管理予算局)が中心となって、政策マネジメントとEBPMの融合が図られています。

イギリスではSR、アメリカではGPRAMAを通じて、重点的に取り組む政策分野の優先順位付けや政策の進捗管理が行われています。EBPMはこれらの政策マネジメントと連動して運用され、重点分野を中心にエビデンスの構築や政策評価を実施する仕組みとなっています。

(2)専門家によるエビデンスおよび評価計画のレビュー

イギリス・アメリカともに、財政部局在籍の専門家が政策のエビデンスや評価計画の妥当性をチェックしています。

イギリスでは、SRを通じてETFがエビデンスの質を確認しており、アメリカでは行政管理予算局のEvidence Teamがエビデンス構築計画の作成を支援しています。

(3)エビデンスギャップの解消

両国に共通する特徴として、政策立案に必要なエビデンスの不足を重要視し、それを解消する仕組みを導入している点が挙げられます。イギリスではEAFによる補助金、アメリカではエビデンス構築文書などがそのツールになっています。イギリス・アメリカともに、財政部局がEBPMを推進する上で中心的な役割を担っています。日本とは政策形成の仕組みや行政制度が異なるものの、両国の取組は、日本におけるEBPMの在り方や、歳出の有効性を高めるための制度設計を考える上で、重要な示唆を与えるものと考えられます。

財務総合政策研究所

過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html