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AMRO事務局長兼CEOの視点(7)
国境を越えるお金-G20ロードマップの全体像

AMRO事務局長兼CEO 渡部 康人

渡部康人

著者プロフィール

東京大学卒。イエール大学修士。1992年に大蔵省に入省し、アジア開発銀行理事代理、AMRO次長、アジア開発銀行予算人事局長、財務省国際局次長等を経て、2025年5月から現職。

はじめに

前回は、G20におけるクロスボーダー決済をめぐる議論の歴史を振り返り、2020年に「クロスボーダー決済の改善に向けたG20ロードマップ」が策定されるまでをご紹介しました。

今回は、ロードマップに示された5つの重点分野と19の「Building Blocks(構成要素)」を見た上で、それに基づいて設定された具体的な目標についてご紹介します。G20は、クロスボーダー決済をどのように変えようとしているのでしょうか。

5つの重点分野

G20ロードマップでは、クロスボーダー決済が抱える主要な課題として、コスト、スピード、アクセス、透明性の4つを挙げ、その改善に向けた取組を5つの重点分野と19の「Building Blocks(構成要素)」に整理しています。まず、5つの重点分野を見てみましょう。

(1)官民共通のビジョンへのコミット

(2)規制・監督の枠組みの調和

(3)既存の決済インフラや仕組みの改善

(4)データの質の向上と処理の自動化

(5)新しい決済インフラ等の可能性

クロスボーダー決済は、民間の金融機関などが提供するサービスである一方、その基盤には各国の規制・監督や決済システムがあります。国ごとに異なるこれらの仕組みを調和・接続し、データを円滑にやり取りできるようにするためには、官民双方による幅広い取組と調整が必要です。

さらに、既存の仕組みだけでなく、ステーブルコインなど新しい決済の仕組みにも目を配る必要があります。5つの重点分野は、こうしたクロスボーダー決済の改善に必要な幅広い取組を整理したものです。

19の構成要素

19の構成要素は、5つの重点分野について、具体的に何に取り組むのかを示したものです。主なものを重点分野ごとに整理すると、以下の表のようになります。

表1 5つの重点分野と主な構成要素

表1 5つの重点分野と主な構成要素

このように、19の構成要素は、クロスボーダー決済を構成する様々な部分を個別に改善するだけでなく、国や制度、決済システムの違いを越えて、それらをより円滑につなげていくための取組から構成されています。一つの取組だけでクロスボーダー決済の課題を解決するのではなく、官民が幅広い分野で並行して改善を進めていくというのが、ロードマップの特徴です。

G20が目指すクロスボーダー決済

こうした取組を通じて、G20ではクロスボーダー決済を「どこまで改善すること」を目指しているのでしょうか。「決済を速くする」「コストを下げる」といっても、どの程度速く、安くなればよいのかが明確でなければ、取組がどこまで進んだのかを測ることはできません。

ロードマップでは、5つの重点分野のうち、最初の「官民共通のビジョンへのコミット」という分野において、その構成要素の一つとして、クロスボーダー決済について共通のビジョンと目標を設定することが掲げられています。これを具体化する形で、G20は2021年、コスト、スピード、アクセス、透明性とい4つの課題について、具体的な目標を設定しました。

G20の目標は、クロスボーダー決済を3つに分けて設定されています。現在、目標の進捗を測る上で、10万ドル以上の決済をホールセール決済、10万ドル未満の決済をリテール決済として区分しつつ、海外の家族や友人への送金など、小口で商取引を目的としない個人間の送金を、これらとは別の区分として扱っています。

表2 G20目標におけるクロスボーダー決済の3つの区分

表2 G20目標におけるクロスボーダー決済の3つの区分

それでは、G20はこれらの決済について、具体的にどの程度の改善を目指しているのでしょうか。以下では、コスト、スピード、アクセス、透明性の順に見ていきます。

コスト─より安く

まず、コストから見てみましょう。これまでご紹介したように、クロスボーダー決済では、複数の金融機関を経由することなどから、国内決済と比べてコストが高くなりやすいという課題があります。

G20は、リテール決済について、決済額に対するコストの世界平均を1%以下とし、3%を超える送金経路をなくすことを2027年末までの目標としています。ここでいうコストには、送金や受取にかかる手数料だけでなく、中継する金融機関の手数料や、通貨を交換する場合の為替レートに含まれるコストなども含まれます。また、「送金経路(corridor)」とは、例えば日本からシンガポール、シンガポールからタイといった、送金元の国と送金先の国の組み合わせを指します。世界平均を引き下げるだけでなく、コストが高い送金経路をなくすことも目標としている点が特徴です。

商取引を目的としない個人間送金については、200ドルを送金する際のコストを世界平均で3%以下とし、5%を超える送金経路をなくすことが目標とされています。ここでいう200ドルは、個人間の少額送金を区分する金額基準ではなく、送金コストを測るための基準額です。これはG20ロードマップで新たに設定された目標ではなく、国連の持続可能な開発目標(SDGs)としてすでに掲げられ、G20も支持していた目標を改めて確認したものです。このため、リテール決済とは目標の水準や期限が異なり、2030年が目標年となっています。

なお、ホールセール決済については、コストの数値目標は設定されていません。金融機関間を中心とする大口の決済では、料金体系が取引量や取引金額などによって異なり、個々の決済ごとに価格が設定されているとも限らず、市場全体の平均的なコストを把握することが難しいためです。ただし、ロードマップに基づく取組を通じて、ホールセール決済についてもコストの低下が期待されています。

スピード─より速く

次に、スピードです。これまでご紹介したように、クロスボーダー決済では、複数の金融機関を経由することや、各国の決済システムの稼働時間が異なることなどから、決済に時間がかかることが課題となっています。

G20は、ホールセール決済、リテール決済、商取引を目的としない個人間送金のいずれについても、75%の決済を1時間以内、残りを1営業日以内とすることを2027年末までの目標としています。

アクセス─より多くの人へ

3つ目は、アクセスです。クロスボーダー決済を利用できる環境は、国や地域、金融機関、企業、個人によって異なり、必要な決済サービスを利用できないケースもあります。

G20は、ホールセール決済について、すべての金融機関が少なくとも一つのクロスボーダー決済の送受金手段を利用できることを2027年末までの目標としています。リテール決済については、すべてのエンドユーザーが少なくとも一つの電子的なクロスボーダー決済手段を利用できること、商取引を目的としない個人間送金については、送金サービスを希望する人の90%超が電子的な送金サービスを利用できることを目標としています。

透明性─よりわかりやすく

最後は、透明性です。クロスボーダー決済では、複数の金融機関などを経由することから、最終的にどの程度のコストがかかるのか、いつ資金が届くのか、送金がどこまで進んでいるのかが分かりにくいことが課題となっています。

G20は、ホールセール決済、リテール決済、商取引を目的としない個人間送金のいずれについても、2027年末までに、すべての決済サービス提供者が、総取引コスト、資金が届くまでの見込み時間、決済状況の追跡、取引条件に関する情報を支払人と受取人に提供することを目標としています。ここでいう総取引コストには、コストについての目標と同様に、送金・受取手数料のほか、中継する金融機関の手数料や、通貨交換に伴う費用も含まれます。

表3 クロスボーダー決済の改善に向けたG20の目標(達成期限:2027年末)

表3 クロスボーダー決済の改善に向けたG20の目標(達成期限:2027年末)

おわりに

今回は、2020年に策定されたG20ロードマップの全体像と、その後に設定された具体的な目標についてご紹介しました。G20は、5つの重点分野、19の構成要素に沿って様々な取組を進めるとともに、コスト、スピード、アクセス、透明性について具体的な目標を設定し、クロスボーダー決済の改善を進めています。

こうした世界的な取組が進む中、本年(2026年)、ASEAN+3(日中韓)でも、日本とフィリピンの共同議長のリーダーシップの下、クロスボーダー決済の改善に向けた議論が進められています。AMRO(ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス)は、本年5月、ASEAN+3地域におけるクロスボーダー決済の現状や各国の取組、地域の決済連結性、今後の方向性をまとめた報告書をASEAN+3財務大臣中銀総裁会合に提出し、公表しました。次回は、この報告書の内容を基に、ASEAN+3地域におけるクロスボーダー決済の取組についてご紹介します。

参考文献

・日本銀行(2024)「決済システムレポート(2024年9月)」

・AMRO (2026), “ASEAN+3 cross-border payments, regional connectivity, and way forward”

・Committee on Payments and Market Infrastructures (CPMI) (2020), “Enhancing cross-border payments:building blocks of a global roadmap”

・Financial Stability Board (FSB) (2020), “Enhancing Cross-border Payments Stage 3 roadmap”

・FSB (2021), “Targets for Addressing the Four Challenges of Cross-Border Payments”

・FSB (2022), “Developing the Implementation Approach for the Cross-Border Payments Targets”