本稿では、近年注目を集めている養殖ビジネスについて、現状及び展望を考察する。
世界で養殖業比率が上昇
・近年、漁業と養殖業を合わせた生産量における養殖業比率が世界的に上昇している。水産庁によると、世界の漁業と養殖業を合わせた生産量における養殖業比率は1960~1970年の4~5%程度から上昇を続け、2013年には51%を占め、初めて漁業を上回った。漁獲量についても、漁業が1980年代後半以降横ばい傾向となっている一方、養殖業の収穫量は急激に伸びている。(図表1)
・養殖業の収穫量(2023年)を国別にみると、中国の収穫量が突出している。中国は7,828万tで世界全体の約6割を占めており、世界の養殖生産をけん引している。魚種別にみると、主に中国で生産されているコイ・フナが最も多く、インドや東南アジアなどでは輸出用としてエビなどの生産が近年拡大している。(図表2・3)
・世界的に養殖業生産が拡大している中、日本の漁業および養殖業の生産量は1984年をピークに減少している。(図表4)




(出所)水産庁『令和6年度 水産白書』、FAO『Fishstat(Global capture production)』、農林水産省『漁業・養殖業生産統計』
天然漁業の現状
・国連食糧農業機関(FAO)によると、持続可能な水準で漁獲されている世界の海洋水産資源の割合は、1974年には90%だったが、2019年にはその割合が64.6%まで低下した。一方で、持続不可能な水準で漁獲されている世界の海洋水産資源の割合は1974年の10%から2019年には35.4%へ増加した。(図表5)
・日本の漁業生産量は1980年代半ばをピークに減少が続き、近年はピーク時の4分の1程度の水準となっている。(図表6)
・天然漁業の生産量の減少には、過剰漁獲に加えて、海水温上昇や海流変化など気候変動も影響を及ぼしている。水産庁によると、日本近海の海面水温の上昇の影響で、サンマやスルメイカの分布域の変化、サケの回帰率の低下等により、日本の水産業において主要魚種の漁獲量は安定せず、減少傾向にある。(図表7、8)
・漁獲量をより安定化するため、日本の水産業では先端技術を活用した次世代型養殖への期待が高まっている。




(出所)FAO『The status of fishery resources』、水産庁『令和6年度 水産白書 海洋環境の変化による水産資源および水産業への影響」、農林水産省『海面漁業生産統計調査』、気象庁『海面水温の長期変化傾向(日本近海)』
技術革新が支える次世代水産業
・水産業では、水処理、浄化技術、種苗生産、ゲノム育種、AI・IoTを活用した飼育管理などの技術革新が進展しており、生産性向上や安定供給を支える重要な基盤となっている。(図表9)
・中でも、陸上養殖は、これらの技術を集約したフードテック分野の代表例として注目されており、日本の成長戦略や官民ロードマップにおいても重点領域に位置づけられている。(図表10)
・一方で、種苗・飼料の安定確保や専門人材の不足、事業化までの長い投資回収期間などの課題も残されており、さらなる技術開発と事業環境の整備が求められている。(図表11、12)




(出所)内閣官房『戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民ロードマップ(案)』(2026年6月)、水産研究・教育機構『陸上養殖の現状と課題~サーモン陸上養殖を実証事例として~』(2018年8月)、農林水産省『養殖用飼料の安全性確保及び水産用医薬品の適正使用について』(2024年2月)、水産庁『令和4年度陸上養殖実態調査委託事業の結果概要』
今後の展望:日本の勝ち筋は技術にあり
・世界的な食料需要の拡大が見込まれるなか、気候変動にも耐えうる供給網を見据え、水産業では生産技術も競争軸となりつつある。日本は、水処理・浄化技術や最先端ゲノム関連技術による育種など様々な強みを有する。これら技術を組み合わせ、陸上養殖システムとしてパッケージ化することで、食料安全保障の強化も志向できる。また、日本食や加工技術における強みも組み合わせることで、陸上養殖で得た水産物を商品として販売し、海外市場の獲得も期待できよう。(図表13、14、15)
・また、安定した生産を実現するためには、生産技術の向上だけでなく、需要に応じた品目や利用形態の情報を能動的に入手し、生産・加工・流通・販売の各段階が密に連携したバリューチェーンの構築が必要であろう。(図表16)




(出所)内閣官房『戦略17分野における「主要な製品・技術等」の官民ロードマップ(案)』(2026年6月)、水産庁『養殖業成長産業化の推進』(2026年6月)、水産庁『養殖産業成長産業化総合戦略について』(2021年7月)
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

