・PDF版はこちら


5次のトリセツ
─FATF第5次対日相互審査で示す官民のチカラ─
─第4回:IO3(金融機関等の監督・予防措置)─

国際局 資金移転対策室 課長補佐 土屋 淳史

資金移転対策係長 茅根 光洋

目次

掲載号・内容

(掲載号・内容は変更される場合があります)

1.はじめに*1

前回はIO2(国際協力)について、FATFが各国に求める国際協力の概要、第5次相互審査における各国への指摘事項、及び第4次対日相互審査での指摘事項と日本政府の取組みをご説明した。本稿では、IO3(金融機関等の監督・予防措置)について取り上げたい。

なぜ、マネー・ローンダリング対策等において、金融機関等による予防措置や監督当局による監督が重要となるのか。近年、SNSを通じて投資を勧誘し、金銭をだまし取る「SNS型投資詐欺」が急増している。こうした詐欺によって得られた犯罪収益が、金融システムを通じてマネー・ローンダリングされようとする場面を想定してみたい。

ある大手銀行の取引モニタリングシステムが、設立間もない広告・マーケティング業者名義の法人口座において、不自然な資金移動を検知した。当該口座には、短期間のうちに全国各地の個人名義口座から多数の入金があり、その大部分が入金直後に別の金融機関の口座へ送金されていたのである。金融機関が顧客情報を確認したところ、口座開設時には「企業向けインターネット広告運用業務」と説明されていたにもかかわらず、実際の取引内容は事業活動から想定される資金の流れと大きく異なっていた。また、顧客から合理的な説明も得られなかったことから、金融機関は「疑わしい取引」として当局に届け出た。その後の捜査の結果、この口座が、SNS型投資詐欺により得られた資金を集約するための受け皿口座として利用されていたことが判明した。

この事例は、IO3が評価しようとしている内容を端的に示している。ここで注目すべきは、犯罪の端緒を最初につかんだのが捜査機関ではなく、金融機関の顧客管理、取引モニタリングといった内部管理態勢であったという点である。もちろん、最終的な捜査・訴追は捜査機関等の役割であるが、その前段階において、金融機関等が顧客や取引のリスクを把握し、不審な動きを検知し、必要な届出を行うことは、マネロン等対策全体の有効性を支える重要な機能である。IO3では、まさにこのような場面を念頭に、金融機関等がリスクに応じた予防措置を実際に機能させているか、また監督当局がその態勢をリスクに応じて確認し、必要な改善につなげているかが問われる。

 この早期察知を可能にしたのは、以下の一連の予防措置が適切に機能していたからである。

・口座開設時の顧客確認(CDD:Customer Due Diligence)

・取引目的の確認

・継続的な顧客管理

・取引モニタリングシステムによる異常検知

これらの予防措置は、顧客情報と実際の取引内容を照合し、通常の取引からの乖離を把握するための基盤となる。特に、顧客の属性、取引目的、取引頻度、送金先、取引金額等を踏まえて、通常の取引からの乖離を把握することは、リスクベース・アプローチの実務上の表れといえる。

もっとも、こうした予防措置は、金融機関等の自律的な取組みのみで完結するものではない。各金融機関等がリスクに応じた態勢を整備し、それを継続的に見直していくためには、監督当局によるモニタリング、検査、対話、必要な是正措置等を通じて、取組みの水準を維持・向上させていくことが不可欠である。

IO3は、まさにこの「監督」と「予防措置」の両面の有効性を評価する審査項目である。すなわち、監督当局が金融機関及び暗号資産交換業者等(VASPs:Virtual Asset Service Providers)に対して、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(以下「AML/CFT」という。)に関する要件の遵守を適切に監督しているか、また、金融機関及びVASPsがAML/CFTに係る予防措置を適切に実施しているかが問われる。

日本の金融セクターは国際的に見ても大きな規模を有しており、銀行・信用金庫・信用組合等の預金取扱金融機関のみならず、保険会社、証券会社、資金移動業者、VASPs等、多種多様な事業者がマネロン等対策の義務を負っている。この広範な金融セクター全体にわたって、監督と予防措置の有効性をいかに確保するかは、日本にとって極めて重要な課題である。

第2回で採り上げたIO1(リスクの理解及び国内協調)におけるリスク理解は、IO3においても改めて重要となる。IO1において特定・評価されたリスクを踏まえ、IO3では、金融機関等は自社を取り巻くリスクを特定・評価し、具体的な予防措置を講じる。そして監督当局はそれをリスクに応じてモニタリングし、必要に応じて改善につなげていくことが問われる。IO3は、こうしたリスク認識を金融機関等の具体的な行動に結びつける結節点であり、マネロン等対策の有効性を左右する中核的な審査項目である。本稿では、金融機関等の監督・予防措置について、FATF基準の要請、各国の審査結果、日本の課題を説明したい。

2.FATF基準の要請(IO3)

(1)IO3の位置づけ

IO3は、FATFの11の有効性評価項目(IO:Immediate Outcomes)のうち、金融機関及びVASPsに対する監督並びに予防措置の実施状況を評価する項目である。前述のように、IO3では、これらの取組みについて、制度や枠組みの有無にとどまらず、実際にリスク低減につながっているかという有効性が問われる。

前回ご覧いただいたマネロン等対策の概要図(IO・TCの相関図、以下再掲)のとおり、IO3は主に予防措置及び監督に関する勧告群に関係している。また、IO3は独立した評価項目であると同時に、他のIOを支える基盤的な要素でもある。例えば、マネロンの捜査・訴追(IO7)や財産回復(IO8)においては、金融機関による適切なCDDや疑わしい取引の届出(STR:Suspicious Transaction Report)が不可欠であり、その有効性が成果に直結する。また、テロ資金供与対策(IO9・IO10)においても、金融機関及びVASPsによるリスクベース・アプローチの適用及び監督の適切性が重要となる。具体的には、金融機関及びVASPsについて、法令・ガイドライン・監督権限が整備されているかにとどまらず、それらを通じて監督当局がリスクを的確に把握し、リスクに応じた検査・監督を実施し、金融機関及びVASPsのリスク理解や予防措置の改善につなげているか、すなわち、登録・市場参入管理、無登録業者への対応、STR等を通じて、有効的なリスク低減が図られているかが重要な評価ポイントとなる。

なお、第4次相互審査では、金融機関及び特定非金融業者・職業専門家(DNFBPs*2:不動産業者、宝石金属取扱業者、弁護士、司法書士など)について、監督当局による監督の有効性はIO3の下で、金融機関及びDNFBPs自身による予防措置の実施状況はIO4の下で評価されていた。その後の基準・メソドロジーの見直しを踏まえ、第5次相互審査では、金融機関及びVASPsに関する監督・予防措置がIO3、DNFBPsに関する監督・予防措置がIO4の評価項目として整理された。

(2)IO3:金融機関等の監督及び予防措置

IO3の有効性は以下の6つの主要な課題(Core Issue)に基づき評価される*3

Core Issue 3.1:市場参入管理(マーケットエントリー)

当該国の監督当局による免許、登録、その他の管理が、犯罪者及びその関係者が金融機関やVASPsの重要な支配権を保有したり、経営機能を担当したりすることを効果的に防止しているか。さらに、免許・登録要件の違反がどの程度検出され、適切に対処されているか。

Core Issue 3.2:監督当局によるリスク理解と促進

当該国の監督当局は、金融機関及びVASPsのマネロン・テロ資金供与リスク(以下「ML/TFリスク」という。)をどの程度理解し、また、金融機関等によるAML/CFT上の義務の理解をどの程度促しているか。これには、セクターや業態ごとのリスクに加え、個別の金融機関及びVASPsのリスクを継続的に把握しているかも問われる。

Core Issue 3.3:金融機関等によるリスク理解

金融機関及びVASPsは、ML/TFリスクの水準や内容をどの程度理解しているか。また、リスクが時間の経過とともにどのように変化しているかを把握し、それに応じて対応を見直しているか。

Core Issue 3.4:金融機関等による予防措置の実施

金融機関及びVASPsは、AML/CFT上の義務及びリスク低減措置をどの程度理解し、適用しているか。具体的には、CDDと記録保管措置(実質的支配者(BO:Beneficial Ownership)情報を含む)及び継続的な顧客管理、STRその他の予防措置を、リスクに応じて適切に実施しているかが問われる。

Core Issue 3.5:監督当局による検査・監督

当該国の監督当局は、金融機関及びVASPsに対し、リスクに応じたモニタリング、検査その他の監督措置を適切に実施しているか。

Core Issue 3.6:是正措置及び制裁の有効性

当該国の監督当局は、金融機関及びVASPsによる法令違反や管理体制上の不備に対し、効果的で比例的かつ抑止力のある是正措置及び制裁を適時に講じているか。

【マネロン等対策の概要:IOとTCの相関図(FATF基準及びFATF作成資料を基に室内にて作成)】

【マネロン等対策の概要:IOとTCの相関図(FATF基準及びFATF作成資料を基に室内にて作成)】

(3)第5次相互審査からの評価ポイントの変更点

第5次相互審査では、前述のとおり、金融機関及びVASPsに関する監督・予防措置がIO3、DNFBPsに関する監督・予防措置がIO4として、それぞれ分けて評価されることになった。IO3では、金融セクターにおけるリスクベースの監督と、金融機関等による予防措置の実施状況について、より明確な評価対象となる。

また、制度の有無から有効性の審査へと、評価の重心が移っている点も大きな特徴である。従来のように「監督の枠組みが整備されているか」といった制度面の確認にとどまらず、「実際にリスクベースで監督が行われ、金融機関及びVASPsの行動変容やコンプライアンス水準の向上につながっているか」がより重視される。したがって、免許・登録等による市場参入管理、無許可業者への対応、監督当局によるリスク理解、リスクに応じた検査・監督、是正措置・制裁、金融機関及びVASPsによるCDD、継続的な顧客管理、取引モニタリング、STR等について、制度説明にとどまらず、実際にリスク低減につながっていることを示す必要がある。

その中でも、昨今のFATFの議論を踏まえると、取引規模の面では銀行等の伝統的な金融機関が引き続き中心であるとしても、VASPsに対するFATF審査上の注目度は高まっている。このため、VASPsについても、登録・免許等による市場参入管理、無許可業者への対応に加え、事業者ごとのリスク理解、トラベルルールへの対応、取引モニタリング、STR、違反事業者に対する是正措置・制裁等について、制度として存在するだけでなく、実際にリスク低減につながっていることを示すことが重要となる。

3.FATF第5次相互審査での各国への指摘事項

2025年10月のFATF全体会合から第5次相互審査の結果が順次公表されている。ここでは、本稿執筆時点で公表済みの初期事例として、マレーシア、ベルギー、イタリア、オーストリア及びシンガポールの審査結果を取り上げる。これらの事例は、第5次審査における評価の傾向や着眼点を把握する上で重要な示唆を与えるものである。

(1)マレーシア(2025年12月公表)

マレーシアは、IO3について4段階中の上から2番目の評価であるSE評価*4を得た。

マレーシアは、強固な免許・登録枠組みにより犯罪者の市場参入を効果的に防止しており、監督当局はML/TFリスクを適切に理解していると評価された。大規模金融機関やVASPsにおいてはリスク理解が進んでおり、監督当局は重大な違反に対しては比例的な制裁を適用し、業界全体のコンプライアンス水準の向上に寄与している。

一方、小規模金融機関においてはリスク理解や法人顧客のBOの特定に課題が残るほか、非銀行セクターからのSTRが著しく少ない点が指摘された。また、高リスク分野のオンサイト検査における監督当局の専門性についても、改善の余地があるとされている。

マレーシアの事例からは、監督体制の枠組みや大規模金融機関への対応が評価される一方で、小規模金融機関や非銀行セクターの取組みの底上げが、今後の課題である。

(2)ベルギー(2025年12月公表)

ベルギーは、IO3について4段階中の下から2番目の評価であるME評価となった。

ベルギーは、金融機関の市場参入管理と適格性審査において強固な仕組みを有しており、金融機関における予防措置の実施は概ね良好と評価された。一方で、VASPsに対する免許付与及び監督を行う当局が指定されておらず、高リスクセクターにおける規制上の空白が課題である。

また、セクター全体にわたってSTRの遅延が見られるほか、非銀行セクターからの届出は極めて少ない状況にある。加えて、行政制裁よりも教育的アプローチを重視しているため、行政制裁の適用が限定的であり抑止力が十分に機能していないと指摘されている。

ベルギーについては、主要金融機関に対する監督体制は評価された一方、VASPsの監督当局が指定されていない点や行政制裁の有効性強化が今後の課題である。

(3)イタリア(2026年4月公表)

イタリアは、IO3について4段階中の上から2番目の評価であるSE評価を得た。

イタリアは、金融機関の市場参入管理が強固であり、犯罪者の関与防止において高い有効性を発揮していると評価された。監督体制はリスクベースで精緻に機能しており、特に銀行セクターにおいては、ML/TFリスク理解やAML/CFT義務の遵守水準が高いと評価された。

一方、VASPsや中小規模の金融機関ではリスク理解やAML/CFT義務の遵守水準にばらつきが見られ、制裁手続きに長い時間を要することから抑止力が不十分であると指摘されている。

イタリアについては、銀行セクターのリスクベースの監督体制とリスク理解・AML/CFT義務の高い遵守水準が評価された一方、VASPsや中小規模の金融機関の取組み改善と制裁手続きの迅速化が今後の課題である。

(4)オーストリア(2026年4月公表)

オーストリアは、IO3について4段階中の上から2番目の評価であるSE評価を得た。

オーストリアは、金融機関及びVASPsに対する市場参入管理が適切に整備されており、監督当局の体制も体系的であると評価された。銀行及びVASPsにおけるリスク理解は大幅に改善しており、リスク低減措置もおおむね適切である。

一方、STRは一部の金融機関及びVASPsに集中しており、全体としては不十分な水準である。また、無許可で営業する資金移動業者に対する制裁の適用が限定的であり、抑止力が不十分と指摘されている。

オーストリアについては、銀行セクター及びVASPsに対する監督体制や事業者の取組みが評価された一方、非銀行セクターにおける取組みの底上げや、無許可事業者への制裁強化が今後の課題である。

(5)シンガポール(2026年5月公表)

シンガポールは、IO3について4段階中の上から2番目の評価であるSE評価を得た。

シンガポールは、犯罪者が金融機関等のBOや経営に参画することを防止するための免許・適格性審査が有効に機能しており、監督当局は、セクター別のリスクを適切に把握し、リスクベースで専門性の高い監督を実施していると評価されている。金融機関及びVASPsは自社のリスクを十分に理解しており、リスク低減措置についても適切に履行されている。

一方、VASPsなどの一部の高リスクセクター事業者からのSTRがリスク度合いと比して少ない。また、無許可事業者への制裁措置の件数が依然として少なく、金銭的制裁の水準は不十分であると指摘されている。

シンガポールについては、主要金融機関に対する監督体制と事業者の取組みは高い評価を得ている一方、一部の高リスクセクター事業者の取組み改善と制裁の抑止力強化が今後の課題である。

(6)これまでのまとめ

下表は、上記5か国の相互審査報告書におけるIO3の主な指摘を、Core Issuesごとに整理したものである。肯定的な評価は太字・下線で、否定的な評価は細字で示している。

第5次相互審査の事例を見ると、銀行セクターに対する監督体制や、大規模金融機関におけるリスク管理態勢は、おおむね肯定的に評価されている。他方で、VASPsを含む非銀行セクターへの監督の均質性、小規模事業者や非銀行セクターにおけるリスク理解、STR、制裁の有効性・抑止力といった点には、各国共通の課題が見られる。

これらの評価結果は、第5次相互審査において、制度や監督体制の有無にとどまらず、監督がリスクに見合った範囲と深度で実施され、その結果として金融機関及びVASPsの行動変容や遵守水準の向上につながっているかが重視されていることを示している。日本にとっても、これらの指摘は、大手金融機関に対する監督・予防措置の取組みを説明するだけでは足りず、預金取扱金融機関と同じく相対的にセクターリスクが高いと評価されているVASPsへの対応を含め、非銀行セクターや小規模事業者を含めたセクター全体について、リスクに応じた監督と予防措置の有効性を示す必要があることを示唆している。

IO3の主な指摘

4.第4次相互審査での日本への指摘事項

(1)金融機関等の監督・予防措置に関する主な指摘事項

2021年8月に公表された第4次対日相互審査報告書において、日本は、IO3及びIO4について、4段階中の下から2番目のME評価を受けた*5。本稿では、次回取り上げるDNFBPsに関する事項を除き、金融機関等に関する主な指摘を整理する。なお、日本は、2019年に改訂されたFATF勧告15(新技術の悪用防止)及び関連メソドロジーに基づいて評価された最初の審査対象国であり、VASPsに関する事項については、第4次相互審査の段階において既に一定の評価が行われている点に留意が必要である。

金融庁は2018年以降、AML/CFTを専門に扱うチームの設置や、監督上の着眼点を示すガイドラインの策定等を通じて、金融機関におけるML/TFリスク低減措置の実施を向上させた点が評価された。また、大手銀行及びVASPsを中心に、監督の重点化が図られている点も認められた。一方で、監督の有効性の観点からは、複数の課題が指摘された。

第一に、制裁措置の活用(3.6)について、金融庁を含む監督当局は、違反に対する制裁措置の適用が限定的であり、抑止力の観点からより効果的に活用する必要があるとされた。

第二に、リスクベース監督の強化(3.2・3.5)について、マネロン・テロ資金供与リスクに応じた監督上の措置の高度化が必要とされ、特にオンサイト検査の頻度やAML/CFTに重点を置いた検査の実施は限定的であることが課題として挙げられた。

第三に、監督カバレッジ(3.5)について、監督の重点が大手金融機関やVASPsに偏っており、金融セクター全体としてリスクに応じた監督資源の配分が十分でない点が指摘された。

以上の第4次相互審査での指摘事項を総括すると、日本においては、金融監督の制度的枠組みは整備されつつあるものの、(1)制裁措置の有効的な活用、(2)リスクベース監督の実施の深化、(3)オンサイト検査を含む監督手法の充実、(4)監督資源のリスクに応じた重点配分、(5)大手金融機関・VASPs以外も含めた監督カバレッジの確保といった点において、改善の余地が指摘された。

5.第4次対日相互審査以降の日本政府の取組み

(1)日本政府の取組み

第4次相互審査以降、日本政府は、金融機関及び関連分野に対する監督の有効性向上を目的として、制度整備及び監督運用の双方において取組みを進めている。

まず、2022年5月に、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議*6(以下「政策会議」)が策定・公表した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」において、国としてのマネロン等対策の方向性が示された。金融セクターについても、金融機関等によるリスクベース・アプローチに基づく対策の高度化や、監督当局による検査・監督の強化を通じて、官民双方で対策の有効性を高めていくことが求められている。

さらに、2024年4月には、政策会議において、2024年度から2026年度を対象とする「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画*7」が決定され、具体的な施策と実施スケジュールが示された。同行動計画では、IO3に関して、「(1)金融機関等によるリスクベース・アプローチに基づく取組みの促進等」、「(2)監督当局による金融機関等に対するリスクベース・アプローチに基づく検査監督の実践等」、「(3)取引モニタリング共同システムの充実・効率化、金融機関等の取引モニタリング等の強化」の3項目が掲げられている。これらを踏まえ、金融庁は業態ごとの金融セクター分析や、各業態内の個別事業者のリスク評価を行うCRR(Corporate Risk Rating)の結果を踏まえた、リスクベースでの検査・監督の運用を強化している。他方で、第4次相互審査で指摘された制裁措置の有効的な活用や、監督資源の更なるリスクに応じた配分については、引き続き対応が求められる。

6.第5次対日相互審査における課題と金融機関等にご留意いただきたい事項

(1)第5次対日相互審査における課題

FATF基準の要請、第5次相互審査における各国への指摘事項、そして第4次対日相互審査における指摘事項を踏まえると、日本が第5次対日相互審査において高評価を得るためには、監督当局によるリスクベースの有効的な監督と、金融機関等による予防措置の着実な実施の双方について、制度整備にとどまらず、具体的な成果として説明できることが重要であり、以下の4点について更なる取組みが求められるだろう。

第一に、全ての監督当局によるリスクベースの監督の有効性確保である。金融庁のみならず、業態ごとに監督を担う関係当局においても、非銀行金融機関や新興業態を含め、リスクに応じた検査頻度・検査深度で監督を行っていることを、統計データや具体的事例により示すことが重要である。第5次相互審査では、検査件数のみならず、検査の質、リスクとの整合性、及び検査結果に基づくフォローアップの実施状況が問われる。また、事業者ごとのリスク評価を踏まえた監督計画への反映が適切に行われていることも重要である。

第二に、FATFメソドロジーを踏まえた網羅的な確認の必要性である。FATFの審査はメソドロジーに沿う形で総花的に行われており、有効性の検証など、重要な評価項目を押さえていればよいというものでは必ずしもない。むしろ、BOや国内外の政府等で重要な公的地位を占める者(PEPs:Politically Exposed Persons)、STR等、幅広い論点を網羅的に取りこぼさないことが必要となる。

第三に、金融機関等における予防措置の実施状況の実証である。特に、CDD及び継続的顧客管理の有効性、取引モニタリングの高度化の成果、STRの届出の質と量の改善を、具体的なデータや事例をもって示すことが求められる。また、近年、監督当局においては、金融機関等のAML/CFTが実際にリスク低減に結びついているかを検証する「有効性検証」の取組みが進められている。有効性検証においては、各種措置がルールどおり実施されているかといった準拠性にとどまらず、それらがどの程度有効に機能しているかを、データや事例に基づき合理的かつ客観的に説明できることが求められる。また、単発の対応ではなく、検証と改善を継続的に繰り返していくことにより、有効性を不断に高度化していくことが重要とされている。

第四に、是正措置・制裁の抑止力の確保である。5か国の審査結果に共通して見られたように、制裁の有効性と抑止力は第5次相互審査の重要な評価ポイントである。不遵守の金融機関に対して効果的で比例的かつ抑止力のある制裁が適用されていることを示す必要がある。その際には、適用件数、公表状況、制裁の水準、適用までの迅速性に加え、これらの措置がコンプライアンス水準の向上につながっているかを、定性的・定量的に説明することが重要である。

(2)金融機関等にご留意いただきたい事項

IO3は監督当局の審査項目であると同時に、金融機関及びVASPs自身の予防措置の実施状況を直接評価する審査項目でもある。第5次対日相互審査のオンサイト審査では、審査団が金融機関等から直接説明を聴取する機会が設けられるため、制度や体制の整備状況にとどまらず、それらがどのように運用され、どのような成果につながっているかについて、具体的に説明できるよう準備を進めておくことが重要である。

第一に、自社のリスク評価の精緻化と低減措置の有効性の実証である。各金融機関は、国のリスク評価(犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書、犯罪収益移転危険度調査書、拡散金融リスク評価書等)を踏まえつつ、自社の業務特性(取り扱う商品・サービス、顧客基盤、取引形態、地理的特性等)に即したリスク評価を策定し、そのリスクに見合った低減措置を実施していることを、具体的な根拠に基づいて説明できるよう準備することが重要である。形式的なリスク評価にとどまらず、自社のビジネスモデルや実際の取引事例に即した実質的なリスク理解が問われる。

第二に、CDDや取引モニタリング等の低減措置の有効的な実施である。口座開設時のCDDにとどまらず、既存顧客の情報の定期的な更新、取引パターンの変化の検知、リスクの変動に応じた措置の見直しを含む継続的な顧客管理が、有効に運用されていることが重要である。特に、CDDデータと取引モニタリングが統合的に運用され、異常な取引パターンが適時に検出される態勢が整備されているかに加え、それらの取組みが具体的なリスク低減につながっていることを説明できることが求められる。また、実質的支配者の確認や複雑な所有・支配構造を有する顧客への対応が適切に行われているかに加え、これらの取組みがどの程度有効に機能しているかを、事例やデータにより示すことが求められる。

第三に、STRの質の向上である。第5次相互審査では、件数のみならず、その内容の的確性と適時性が重視される。取引の背景や疑わしいと判断した根拠を具体的かつ正確に記載し、当局が事案の優先順位を判断し、適切な対応を行う上で有用な情報を提供することが求められる。特にクロスボーダー取引に関するSTRにおいては、送金先国・相手方属性等の国際的要素を正確に記載することが不可欠である。

7.終わりに

IO3(金融機関等の監督・予防措置)は、監督当局による金融機関及びVASPsへの監督と、金融機関及びVASPs自身による予防措置の実施という、官民双方の取組みの有効性を評価する審査項目である。第5次相互審査では、金融機関及びVASPsに対する監督及び予防措置について、制度や枠組みの整備状況にとどまらず、それらが実際にリスク低減や行動変容につながっているかという有効性がより精緻に審査されるとともに、リスクベース・アプローチの実施状況、予防措置の具体的な成果等が重要な評価ポイントとなる。

また、これまでの第5次相互審査における各国の評価結果を踏まえると、VASPsへの対応は、金融セクターにおける評価を左右し得る重要な論点となっている。日本においても、VASPsに対する監督及び予防措置について、制度の整備状況に加え、それらが実際にどの程度機能しているかを具体的な実績により示すことが求められる。

第4次対日相互審査で指摘された課題を踏まえると、第5次対日相互審査においては、監督当局がリスクに応じた有効的な検査・監督を行い、その結果として金融機関等のコンプライアンス水準が向上していることを、具体的なデータと事例により示すことが重要である。同時に、金融機関及びVASPsにおいても、リスク評価の精緻化、継続的顧客管理の有効的な実施、STRの質の向上など、日々の業務を通じた予防措置の着実な実行が求められる。

IO3の成果は、金融機関等の「門番(ゲートキーパー)」としての役割が有効的に機能しているかを示すものであり、AML/CFTの根幹をなすものである。官民がそれぞれの役割を果たしつつ、リスクに見合った有効的な取組みを着実に進めていくことが、第5次対日相互審査における評価の向上につながる。

(第5回に続く)

*1)本稿の意見にわたる部分は執筆者の個人的見解であり、執筆者の属する組織の公式見解を示すものではない。

*2)“Designated Non-Financial Businesses and Professions”の略

*3)FATF “Methodology – For Assessing Technical Compliance with the FATF Recommendations and the Effectiveness of AML/CFT/CPF Systems (Updated December 2025)”, p.131-132.

*4)上位評価から順に、High, Substantial, Moderate, Low (level of Effectiveness)

*5)FATF, Anti-money laundering and counter-terrorist financing measures – Japan, Fourth Round Mutual Evaluation Report, August 2021, p.14

*6)「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針(2022年5月)」https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20220519_1.pdf

*7)「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024年4月)」https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/aml_cft_policy/20240417.pdf