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証券決済と証券保管振替機構
─基礎編─

東京大学 服部 孝洋*1

1.はじめに

国債の決済に関しては「日本国債決済入門」で包括的に解説を行いました。国債の決済は主に日銀が担っていますが、上場株式など、その他の有価証券に関しては、証券保管振替機構(保振)がその役割を果たしています。その意味で、保振は証券決済の基盤を支えている重要な機関です。もっとも、筆者の理解ではその役割を説明した文献は希少です。最近では、決済そのもののデジタル化が議論されているものの、証券決済の基盤である保振の理解が十分に進まないことが建設的な議論を阻害していると感じることも少なくありません。

しばしば保振の機能が理解しにくいといわれますが、その一因として、そもそも証券決済の仕組みが難しいことが挙げられます。そこで本稿では証券決済を説明しながら保振の役割もセットで説明することで、保振がどのような役割を果たしているかを具体的に描きます。

本稿のもう一つの特徴は、まずは社債の決済から議論をスタートする点です。保振の事業をみると実際には上場株式が最も大きなシェアを占めており、上場株式をベースに保振について説明されることも少なくありません*2。しかし、上場株式の場合、(1)取引所取引(ストリートサイド・カスタマーサイドの区分)、(2)中央清算(クリアリング)、さらに、(3)総株主通知などの観点で複雑性が高いといえます。その点、社債は店頭取引であり、クリアリングもなく、議決権などもありません。したがって、まずはシンプルな社債から議論し、次回以降の論文で、上場株式をベースに説明するという流れをとります。

なお、「日本国債決済入門」で説明したときのように、実際には証券は電子化されていますが、物理的な証券(紙ベースの証書)をイメージした説明をしたほうがわかりやすいため、紙をベースに説明していきます(あくまでわかりやすさの観点である点に注意してください)。また、本稿では有価証券に関する基本的な知識を前提にしますが、必要に応じ、「日本国債決済入門」や「マネー・マーケット入門」、さらに、筆者のウェブサイトに掲載されている文献*3をご参照いただければ幸いです。

2.証券決済と保振の役割

2.1 証券決済とは

例えば、読者がトヨタが発行する債券(社債)を購入したいとしましょう。話を簡単にするため、筆者がトヨタの社債をもっており、読者が100円を払って、トヨタの社債を購入するという事例を考えます*4。この際の証券決済のイメージは、読者は100円を筆者に支払い、その代わりに、社債と呼ばれる証書を受け取るというものです。

このようにお金を渡すと同時に債券などの有価証券を受け取る決済をDVP(Delivery Versus Payment)決済といいます。このように証券とお金の動きを連動させている理由は、お金を渡したのにトヨタの社債を受け取れないといったとりっぱぐれのリスクを防ぐためです。

図表1 証券決済のイメージ

図表1 証券決済のイメージ

服部(2026a)で説明したとおり、厳密には、決済とは約定の結果生まれた債権・債務関係を解消することです。さきほどの例にもどりましょう。読者が筆者から本日、トヨタの社債を100円で買うと決めたとします(これを「約定」といいます)。実際の受渡は、2営業日後に、筆者がトヨタの社債を渡す一方、読者は100円を筆者に渡します(これを「T+2決済」*5といいます)*6。約定することにより、2営業日後、読者は100円を支払う義務を負うと同時に、トヨタの社債を受け取る権利を有することを意味します。このように約定することにより発生した債権・債務関係を、実際に、読者が100円を支払い、筆者がトヨタの社債を渡すという形で、それを解消することができます。このような債権・債務関係の解消が決済というわけです。

2.2 有価証券の保管をする保振:振替機関

社債を売買するのに、読者が筆者のところまできて、証券とお金を実際に受け渡すというのは非効率です。また、実際に社債を受け渡すとなると紛失などのリスクもあります。そのため、実際には、トヨタの社債(紙)を保振に置くという形で管理されています。保振に社債を置いておけば、読者が筆者からトヨタの社債を買った場合でも、保振に置いてある社債を筆者のものから、読者のものに振り替えてください、とお願いすることで決済を行うことができます(紛失などの事故も防ぐことができます)。このように保振で管理している有価証券の所有権を帳簿に記録し、権利移転の際には帳簿上で売り方から買い方に記録を振り替ることで決済する制度を「振替決済制度(振替制度)」*7といいます。また、このように有価証券を保管し、振り替える機能を有する機関を「証券決済機関(Central Securities Depository, CSD)」あるいは「振替機関」といいます(日本国債については日銀が振替機関です)。

冒頭で強調したとおり、本稿では実際に社債という証書(紙)があると想定した説明をしますが、実際には、保振に紙の社債が置いてあるわけではありません。また、ペーパーレス化以前の決済制度では、多くの投資家が実際に紙ベースの株式や社債を保有していたため、保振で管理されていない有価証券が数多く存在しました。もっとも、2000年代の決済改革により株式などが完全にペーパーレス化され、現在に至っています。

イメージとしては実際に紙の社債や株式があるわけではなく、保振のシステムに登録する形で、社債や株式を保有することを可能にし、そのシステムで所有者を振り替えることにより、物理的な証券を用いなくても証券決済ができているというものです。以前の保振は、実際の紙ベースで株式や社債などを管理していたため、有価証券の預託や交付がありましたが、現在ではこのような機能はなく、ペーパーレスでの登録・振替が保振の究極的な機能といえます*8

歴史的には1980年に国債振替決済制度が確立し、その後、「株券等の保管及び振替に関する法律」(旧振替法)が成立しました*9。それを受けて、1991年に保振が事業を開始しました。日本では1990年代から2000年代に有価証券のペーパーレス化の議論が進み、「社債、株式等の振替に関する法律」(現行振替法)が成立しました。これにより、それまで紙ベースであった株式を保振に登録するという形で、ペーパーレス化を進めました。株式に先行して2006年1月に一般債振替制度が開始され、従来の社債等登録制度から、社債、株式等の振替に関する法律に基づく電子的な振替制度へ移行しました。それにより、現在では(日本国債を除く)ほぼすべての有価証券について保振での管理が実現しています*10(非上場株については基本的には、保振で管理されていないのでその点には注意してください*11)。

図表2 保振の株主

図表2 保振の株主

2.3 直接参加者と間接参加者

先ほど筆者が保振にトヨタの社債を置いておくという説明をしましたが、実際には、個人が保振に社債を直接、管理してもらうことはできません。大量にいる投資家が保振に有価証券を管理してもらうのは効率的とはいえないからです。そこで、筆者がある証券会社で証券口座を開き、その証券会社を経由して、証券会社が持っている保振のスペースを間借りさせてもらう形で、筆者は保振に社債を管理してもらうことになります。この意味で、筆者は、保振に間接的に参加している「間接参加者」です。その一方、証券会社は、保振に直接参加している「直接参加者」といえます(「日本国債決済入門」ではこのように間接参加者が生まれてくるので、振替決済制度は階層構造になるという話をしましたが、その詳細は後述します)。なお、保振において直接参加者や間接参加者がどのような主体であるかは保振のウェブサイトで開示されています(詳細はBOX1を参照してください)。

2.4 株式会社化とその背景

歴史的には、保振は、1984年に財団法人として設立されました。もっとも、2002年に株式会社化に移行しました。その背景には、株式会社化し、利用者が株主になることにより、利用者の利便性を向上するという意図がありました*12。図表2が保振の株主一覧ですが、日本取引所グループや日本証券業協会に加え、証券会社や銀行が株主になっていることがわかります。

また、2000年代にペーパーレス化のためシステム投資が必要であり、資金調達を多様化する必要があったという事情もありました。株式会社化により株式による調達だけでなく、銀行借入も容易になるなどの判断があったわけです。

このような問題意識を受け、2000年に日本証券業協会で「証券保管振替機構の組織・運営の在り方に関するワーキング・グループ」が立ち上げられ、保振の組織の在り方について議論がなされました*13。それを受け、2001年6月に「株券等の保管及び振替に関する法律」が改正されて、2002年に保振の組織形態が株式会社化されました。

その一方、保振は株式会社とはいえ、利益を直接追求していると言い切れない点に注意が必要です。前述のとおり、歴史的には財団法人であり、資金調達等のため株式会社化した経緯がありますし、保振は国債以外の有価証券を管理する唯一の機関でもあります。保振の利益だけを考えれば利用料金をあげるということも考えられますが、保振の利用者が株主になっているため、利用者の利益も考えた運営がなされています。

2.5 保振が提供する統計サービス

保振が提供する重要なサービスとして統計情報の提供も指摘できます。株式や社債などが発行された場合、発行体は保振にその情報を登録するため、保振はそれをベースに統計を作成しています。

最もよく用いられる統計は、「年齢別株式保有金額分布状況」です。これは年齢別に株式保有の分布をみた統計ですが、保振が識別の観点で保有者の生年月日を把握していることから構築可能な統計といえます。これ以外にも、例えば、コマーシャル・ペーパー(CP)についてはその発行に伴い保振に登録する必要があることから、保振はそのデータを集計し、発行額や発行金利などのデータを提供しています。

保振が統計を構築することに関し、発行体などが必ずしも賛成しないという意見を聞くこともあります。もっとも、健全な資本市場を作るために基礎的な統計の整備は必須ですし、透明性の高い市場を築くことは最終的に発行体や投資家に資すると考えています。

3.社債を事例にした振替決済制度と保振の役割

3.1 自己口と顧客口

ここから社債の決済と振替決済制度を用いて保振の役割について考えていきます。以下では、証券決済のイメージを高めるため、できるだけ多く図を活用して説明します(図表を多く用いる意図は、証券決済は特にイメージしにくいといわれる分野であることから、直観的な理解を意識した説明をしたいためです)。ここでは保振の役割に焦点を当てるため、最初に証券の動きを説明します(資金の動きについて後ほど説明するという形をとります)。

まず、筆者が証券会社Aからソニーの社債を買うケースを考えます。服部(2023, 2025)で説明したとおり、証券会社は社債などを在庫に有することでマーケットメイクをしています。

ここでは証券会社Aが社債を持っている事例を考えたいのですが、社債に関し、具体的な証券(紙)があることを想定し、保振では図表3のように管理されているとします。証券会社Aは、保振の直接参加者であり、保振の1Fに社債を置くスペースを有しているとイメージしてください。同様に、証券会社Bは2Fに社債を置くスペースを有しているとイメージしてください(繰り返すようですが、実際にはペーパーレスであるため、物理的な証券はありません)。

図表3 保振が有価証券を管理するイメージ(1)

図表3 保振が有価証券を管理するイメージ(1)

保振の口座には、自分の資産を置くスペースと顧客の資産を置くスペースがあります*14。自分の資産を置くスペースを「自己口」といいます。その一方、顧客の資産を置くスペースを「顧客口」といいます。図表4がそのイメージですが、証券会社Aは1Fに証券を置くスペースがありますが、1Fの左側は自分の資産を置くスペース(自己口)であり、右側は顧客の資産を置くスペース(顧客口)であるというイメージをもってください。ここでは証券会社Aがマーケットメイクのためにソニーの社債を持っているというケースなので、自己口にソニーの社債が置かれています。

図表4 保振が有価証券を管理するイメージ(2)

図表4 保振が有価証券を管理するイメージ(2)

筆者が証券会社Aから社債を買うケース

上記を前提に、筆者が証券会社Aに証券口座を持っており、証券会社Aからソニーの社債を買うケースを考えます。筆者が証券会社Aに電話をかけ、現在のソニーの社債の値段をきき、100円という価格が提示されたとします。筆者はそれに合意して約定(Done)します。

約定したあと、2営業日後に、証券会社に100円を渡して、ソニーの社債を受け取るという形で決済をしますが*15、証券会社Aの自己口に管理されていたものが、顧客口にある筆者の口座にソニーの社債が置き換えられる(振り替えられる)という形で決済がなされます。

イメージとしては、図表5のとおり、証券会社Aの1階の左側のスペースが証券会社Aの社債を管理する場所(自己口)である一方、筆者の社債を管理する場所が1Fの右側にあるとすれば、ソニーの社債を左から右へと移しているとイメージしてください。

図表5 保振が有価証券を管理するイメージ(3)

図表5 保振が有価証券を管理するイメージ(3)

証券会社Aに口座を持つ読者が社債を買うケース

次に、証券会社Aに口座をもつ読者がソニーの社債を買いたいとしましょう。読者が証券会社Aに電話をかけて、証券会社Aがソニーの社債のプライスとして101円を提示し、読者はこのプライスで約定したとしましょう。ちょうど、筆者もソニーの社債を売りたいと考えていて、証券会社Aは、筆者から101円で、ソニーの社債を購入しすぐに、読者に販売したとします。

この場合、図表6のとおり、保振の1Fの右側のスペース(顧客口)のさらに右側が読者の資産を管理するスペースだとすると、筆者の口座から読者の口座に移す(顧客口の左から右に移す)という形で決済をします。

図表6 保振が有価証券を管理するイメージ(4)

図表6 保振が有価証券を管理するイメージ(4)

保振は顧客口の中身が見えない

非常に大切な点は、保振から見ると、この取引はみえないということです。保振からは顧客口だけがみえており、顧客口の中は、証券会社Aの中のシステムによって管理されています(一方、自己口の動きは見えます)。

 保振が顧客口の中身が見れないという点は、保振が有する総株主の把握を考えるうえでも大切です。詳細は次回以降の論文で説明しますが、保振からすると、顧客口の中身はみえないため、誰が特定の株式を保有しているか把握できません(同様に社債の投資家がどのような投資家であるかはわかりません)。そのため、株主を把握するためには、保振がすべての証券会社から投資家をレポーティングしてもらってそれを集約して、発行体にその情報を提供することで、発行体は株主を特定しています。

違う証券会社と売買する場合

最後に、読者は、(証券会社Aではなく)証券会社Bに口座をもっており、証券会社を経由して、筆者と読者が社債を売買するケースを考えます。読者はソニーの社債を買いたいと考えており、証券会社Bに電話をかけます。一方、筆者は同じタイミングでソニーの社債を売りたいと考えており、証券会社Aにソニーの社債を売却し、101円で売ることに合意したとします。証券会社Bは、ソニーの社債の在庫がないため、証券会社Aに電話をかけて、101円で買ったとします*16

この場合、図表7のような形で、証券会社Aの(筆者の)顧客口から、証券会社Bの(読者の)顧客口へソニーの社債が振り替えられるという形で決済がなされます*17。イメージとしては、保振の2Fは証券会社Bが管理する社債を置いておく場所であり、証券会社を経由して、保振の1F(証券会社Aのスペース)の右側に置いてあったソニーの社債を2F(証券会社Bのスペース)の右側に移動させたというものです。

図表7 保振が有価証券を管理するイメージ(5)

図表7 保振が有価証券を管理するイメージ(5)

3.2 振替決済制度と保振を用いた説明

次に、ここまで説明した内容を振替決済制度の観点で整理しなおします。服部(2026)で議論したとおり、振替決済制度は階層構造を有しています。直接参加者についてこれを示したものが図表8のとおりです(証券会社Aと証券会社Bが保振の直接参加者であり、保振の下にぶら下がっています)。

図表8 振替決済制度と保振の役割のイメージ(1)

図表8 振替決済制度と保振の役割のイメージ(1)

上記を前提に証券会社Aの自己口にソニーの社債があるということでしたが、これを表したのが図表9です(自己口の下にソニーの社債がある状態です)。

図表9 振替決済制度と保振の役割のイメージ(2)

図表9 振替決済制度と保振の役割のイメージ(2)

そのうえで、証券会社Aから筆者がソニーの社債を買うことで筆者の顧客口の口座に振り替えられることで決済をします(図表10)。

図表10 振替決済制度と保振の役割のイメージ(3)

図表10 振替決済制度と保振の役割のイメージ(3)

図表10のように、筆者は証券会社Aの顧客口を経由して、保振にソニーの社債を管理してもらっていますが、この図のとおり、保振の下に証券会社Aがぶら下がり、さらに、証券会社Aの下に、筆者の口座がぶら下がるという形で、階層構造になっていることが確認できます。

筆者と同じ証券会社Aに顧客口を持つ読者が(筆者が持っている)ソニーの社債を購入することで、図表11のように証券会社Aの顧客口の中で、筆者の口座から読者の口座に振り替えられる形で決済がなされます(前述のとおり、この動きは証券会社Aの顧客口内での動きであるため保振から見えない点に注意してください)。

図表11 振替決済制度と保振の役割のイメージ(4)

図表11 振替決済制度と保振の役割のイメージ(4)

最後に、読者が証券会社Bに証券口座を持つ場合を考えます。筆者が持っているソニーの社債が売却されて、読者が購入する場合、図表12のとおり、証券会社Aの顧客口から証券会社Bの顧客口に振り替えられることで決済がなされます。

図表12 振替決済制度と保振の役割のイメージ(5)

図表12 振替決済制度と保振の役割のイメージ(5)

3.3 証券と資金の動き

ここまでは証券の動きを説明してきましたが、次に、資金の動きの観点からみます。まずは筆者が日銀の当座預金を持っているとしましょう。先ほど指摘したとおり、筆者が証券会社Aからソニーの社債を購入するという流れの場合、約定後、2営業日後に、決済がなされますが、まずは証券会社Aがソニーの社債を筆者の顧客口に振り替えると同時に、日銀当座預金を通じて筆者が証券会社Aに100円を振り込むという形で決済をします。このように資金の動きと証券の動きが一致している決済をDVP決済といいましたが、証券会社間など、金融機関同士の取引は原則、DVP決済が用いられています。

もっとも、筆者のような個人の投資家は日銀に当座預金を持っていません(日銀の当座先は限られています*18)。実際には、筆者が銀行振り込みなどを通じて、証券会社Aの中の証券口座に一定の資金を入れておきます。典型的には、既に入金された証券口座に、マネー・リザーブ・ファンド(MRF)のような形で買い付け余力があります。

例えば、すでに証券会社Aがソニーの社債を在庫として有しており、筆者がソニーの社債を購入したいとします。この場合、MRFのような買い付け余力がキャッシュ化され証券会社へ移り(資金が動き)、顧客口(筆者の口座)にソニーの社債が振り替えられるというプロセスを経ます(この場合、証券会社Aの自己口から顧客口を移すプロセスは決済と資金のタイミングがずれる(別々に行う)FOP(Free of Payment)が用いられる点に注意してください)。このように、DVP決済は金融機関同士の中では広く使われているものの、同一証券会社の自己口から顧客口への受け渡しなどはFOPが使われる傾向があることに注意してください。なお、日銀に口座を持たない場合、決済会社を利用して決済をすることもあります。

3.4 保振が有する利払いに関するサービス

保振は、これ以外に関し、社債の利払いを行うための情報提供も実施しています。社債は、当初、証券会社が投資家に販売することで発行されますが、債券市場は転売市場(流通市場)があるため、発行体からすると、利払い時点における社債の保有者がわからないということがあります。

前述のとおり、保振からすると、証券会社Aの顧客口の中身が見えないため、証券会社Aの顧客口において筆者と読者がどの程度、ソニーの社債をもっているかは把握できません。もっとも、証券会社Aの顧客口全体でどれくらいのソニーの社債が管理されているかはわかるので、証券会社Aがソニーの社債をどれくらい管理しているかは把握できます(保振のフロア1Fの顧客口のスペースにおいてソニーの社債がどれくらい置いてあるかは把握できます)。そのため、証券会社Aは利払いが○○億円必要であるといった形で、証券会社ごとにどれくらい利払いが必要になるかを保振が発行体に伝えたうえで、発行体が証券会社ごとに必要となる金利を支払います。その後、証券会社Aが筆者には○○円、読者には○○円という利払いの事務を行うという形で利払いの事務を行うことで、具体的な利払いがなされます(実際には、支払代理人(発行体の代わりに利払いの事務を行う受託銀行)がこの支払の実務を担っています)。配当の支払いについても同じように保振がサービスを提供していますが、この点は次回以降の論文で説明します。

4.社債と比較した他の有価証券の特徴

上記が社債をベースにした証券決済と保振の役割の概要です。上記では社債を事例にしましたが、社債を他の有価証券に置き換えることで、保振が他の有価証券をどのように管理しているかも理解することができます。すなわち、第3節ではソニーの社債の事例を考えましたが、「筆者がもっているNTTの株式を読者に売却する」「筆者がもっている三菱商事のCPを読者に売却する」「筆者がもっているETF(上場株式投資信託)を読者に売却する」などと読み替えることにより、社債以外の決済の大枠を理解することができます。

もっとも、有価証券ごとに異なる点もあります。制度的には、CPについては「短期社債振替制度」、社債については「一般債振替制度」、上場株式については「株式等振替制度」、投資信託については「投資信託振替制度」、国内の取引所に上場している外国籍の株式については「外国株券等保管振替決済制度」という形で別れています。また、保振が有するシステムもこれらの制度別に分かれています(照合についてもこれらのシステムとは別のシステムを有しています)。

以下では、振替決済制度という観点で社債とどのような違いがあるかを説明します(詳細を知りたい読者は保振のウェブサイトなどを参照してください)。その後、どの制度がどれくらい用いられているかを保振が計上している利益の観点で説明します。

4.1 各種有価証券との違い

コマーシャル・ペーパー(CP)

CPは、短期社債振替制度に基づきますが、そもそもCPとは短期の社債であるため基本的に社債の制度と同じです。CPの場合、(キャッシュ・フローに関しては)クーポンがない割引債の形で発行しているので利払いがない点が社債との違いです(厳密にいえば社債には社債権者集会があるなどの違いもあります)。その意味で社債よりシンプルな商品と整理することができます*19(CPについては服部(2026c)を参照してください)。

上場株式

上場株式は株式等振替制度に基づきます。上場株式の決済の場合、取引所取引やクリアリングといった論点があることに加え、配当の支払いおよび株主総会がある点などが異なります。上場株式については次回以降の論文で取り扱う予定です。

投資信託

投資信託は投資信託振替制度に基づきます。投資信託の場合、投資信託の受益証券が保振に登録されています。投資信託の場合、途中で売買するわけではなく、保有者が解約するという点に違いがあります。なお、ETF(上場投資信託)については上場株式の一種という整理になります(投資信託の受益証券の説明は次回以降の論文で議論する予定です)。

外国株式等

外国株式等は外国株券等保管振替決済制度に基づきます。これは東証に上場している海外の上場企業を保振に登録するための制度です。その多くは海外のETFになりますが、基本的には上場株式の制度と類似した制度です。

4.2 保振の利益

図表13が各種制度と保振の利益を比較したものです。これをみると株式に関係する利益が一番大きいことがわかります。また、2番目に大きな収益源が決済照合システムである点も特徴です。CPや社債については少ないですが、これは発行や売買がそれほど多くないことが背景にあります。投資信託は基本的には設定・解約であるため、取引量は限られますが、日本における投資信託が普及する中で拡大傾向にあります。

図表13 保振の制度別利益

図表13 保振の制度別利益

5.保振が提供する決済照合サービス

5.1 約定照合と決済照合

「日本国債決済入門」で説明したとおり、決済は、基本的に、「約定」→「照合」→「清算」→「決済」というプロセスを経ます。この際、「照合」とは約定した結果を確認するプロセスになります。先ほど、筆者と読者で社債の売買をする事例を考えましたが、例えば、読者が100円で買うと思っていたのに、筆者が101円で売ると考えている場合、事故になりえます。そのため、約定後に細かい条件が合っているかを確認するプロセスが必要となります。これが「照合」です。

照合のプロセスは、保振のシステムを用いることが少なくありません(保振のシステムを使わずメールや電話などで行うこともありますし、そもそも照合自体をしないこともあります*20)。保振が提供する照合サービスは、証券会社、運用会社、カストディアン*21など幅広い金融機関が用いています(それぞれの主体ごとに合わせた照合サービスを提供していることから照合には多くの種類がありますが、これについては次回以降の論文で議論します)。

照合には大きく分けて、約定照合と決済照合があります。その関係を示したものが図表14です。図表14のように、照合は、約定時になされる約定照合があります。例えば、筆者と読者がソニーの社債について100円で購入することの約定をした場合、保振のシステムを通じて、筆者と読者が「100円でソニーの社債を約定した」という情報を送信します。これが図表14における約定照合になります。

図表14 社債の振替のフロー(DVPの場合)

図表14 社債の振替のフロー(DVPの場合)

(出所)保振*22

約定照合が終わったら、保振内の決済照合システムに基づき、決済照合に移ります。約定照合が取引をした当事者間で行われる一方、決済照合については、実際に決済を行う主体で行います。実際の決済では、資金決済会社を利用するなど、約定と決済事務を担う主体がずれることが少なくないからです*23

5.2 STPとSSI

証券決済に関し、約定照合から決済照合までの一連のプロセスを自動化するプロセスをSTP(Straight Through Processing)といいます*24。特に決済照合のプロセスにおいては、SSI(Standing Settlement Instruction)と呼ばれるデータベースを活用することで自動的にDVP決済が実施できるようになっています。

SSIについてはその利用の経験がないと直観的な理解が得られにくいものの一つです。例えば、私たちがメルカリなどで商品を売買する際、買い手と売り手が事前に、どのクレジットカードを用いるか、どの郵送会社を用いるかなどを事前に登録しておくことで、実際にある価格で取引が合意されたら、その後の資金およびモノの動きを自動化させることが可能になります。SSIは、証券決済に関し、このようなデータベースを保振のシステムの中に有することで、資金および証券の決済処理を自動化しているとイメージするのが直観的です。

6.おわりに

今回は、社債を用いた証券決済を軸に保振の役割について包括的に説明をしました。次回はカストディアンの役割について説明します。

BOX 1 制度参加者一覧

 保振は、自社のウェブサイトにおける「制度参加者一覧」において、株式や社債などの制度参加者を開示しています*25。図表15がその抜粋ですが、「制度選択」「参加者形態」「社名」「コード」を指定することで詳細をみることができます。図表15では制度選択として一般債振替制度を選んだうえで、参加者形態で選択できる部分を示していますが、機構加入者が「直接参加者」、間接口座管理機関が「間接参加者」になります。

図表15 一般債振替制度 利用者一覧

図表15 一般債振替制度 利用者一覧

上記には資金決済会社および代理人が記載されています。資金決済会社は、証券決済において資金の決済を担う主体です。預金取扱機関や証券会社など、日銀当座預金を持つ主体は自らが資金決済会社を担うことがあります。もっとも、日銀に当座預金を保有するには条件が必要であり、日銀当座預金を持たない場合、銀行などに資金決済会社に担ってもらうことになります(日銀当座預金の詳細は服部(2026c)を参照してください)*26

代理人は発行や支払いを行う代理人です。発行代理人とは、社債の場合、発行体に代わり、保振への銘柄情報登録などを代理する主体であり、銀行などが担います。支払代理人は利子や償還金を支払う主体です。発行代理人と支払代理人は銀行などが担い、同じ金融機関が兼ねる傾向があります*27

 図表16が日本たばこ産業のケースですが、発行代理人および支払代理人をみずほ銀行が担っていることがわかります。

図表16 日本たばこ産業の事例

図表16 日本たばこ産業の事例

BOX 2 証券会社がデフォルトしたケース

 3節ではソニーの社債を用いて保振の役割を説明しましたが、仮に、筆者が証券会社Aにソニーの社債を管理してもらっていたところ、証券会社Aが潰れたとします。通常時より財産の分別保管が適確になされていれば、破産管財人をつけて顧客資産の返還を行うなどの業務の結了に向けて適切な取り扱いがなされます(金融庁による適切な指導なども予測されます)。例えば、証券会社Aに預けてあるソニーの社債を、例えば、証券会社Bに振り替えるという形で、処理がなされます*28

図表17 振替決済制度と保振の役割のイメージ(6)

図表17 振替決済制度と保振の役割のイメージ(6)

なお、証券会社は自分の資産と顧客の資産を厳格に区別して管理しなければいけないことになっています。これを「分別管理」といいます。

参考文献

[1].齋藤通雄・服部孝洋(2026a)「齋藤通雄氏に聞く、国債の非居住者向け税制と決済制度改革(前編)」『ファイナンス』, 44-49.

[2].齋藤通雄・服部孝洋(2026b)「齋藤通雄氏に聞く、国債の非居住者向け税制と決済制度改革(後編)」『ファイナンス』, 35-40.

[3].中島真志・宿輪純一(2008)「証券決済システムのすべて」東洋経済新報社

[4].服部孝洋(2023)「日本国債入門」金融財政事情研究会

[5].服部孝洋(2025)「はじめての日本国債」集英社新書

[6].服部孝洋(2026a)「日本国債決済入門─基礎編─」『ファイナンス』, 30-37.

[7].服部孝洋(2026b)「日本国債決済入門─応用編─」『ファイナンス』, 22-30.

[8].服部孝洋(2026c)「マネー・マーケット入門」日本評論社

[9].証券保管振替機構(2010)「証券決済制度改革10年史 株券電子化までの軌跡」

*1)本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。

*2)例えば、中島・宿輪(2008)などが挙げられます。

*3)https://sites.google.com/site/hattori0819/takahiro-hattoris-site

*4)厳密には100円では買えませんが、ここでは簡単化のため100円をベースに考えています。

*5)国債の場合は、T+1決済が普及しています(非居住者の場合、T+2決済がスタンダードです)。

*6)ここでは居住者の取引を想定しています。社債における非居住者取引はT+3決済がスタンダードです。

*7)国債の場合は、「国債振替決済制度」と呼ばれます。振替制度については、株式等振替制度、一般債振替制度等をまとめ「振替制度」や「振替決済制度」と呼ぶ傾向にあります。

*8)中島・宿輪(2008)は保振の役割として「預託」(自己の保有する株券等を保振に預託する機能)や「交付」(参加者や顧客が保振から株式等の交付(返還)を受けることができる機能)が言及されていますが(詳細は同書p.325を参照)、ペーパーレス化した現在ではこれらの機能はありません。

*9)これは改正前の振替決済制度であり、旧振替決済制度と呼ばれます。振替決済制度の改革については齋藤・服部(2026a,b)を参照してください。なお、旧保振法においては、社債は対象外でした(決済法制としては、社債等登録法で決済されています)。

*10)厳密に言えば、例えば高齢者がタンスに株券を置いたままであったなどの事例はありますが、執筆時点では希少であると理解しています。

*11)一定の条件を満たせば非上場株式も対象にしています。
https://www.jasdec.com/assets/download/ds/unlisted_youkou.pdf

*12)証券保管振替機構(2010)では株式会社形態のメリットとして、(1)ガバナンス、ディスクロージャーの改善、(2)業務の効率化、(3)新規業務への対応、(4)競争の確保、(5)資金調達の多様化・円滑化が指摘されています。

*13)その結果は報告書「証券保管振替機関の組織・運営のあり方について」にまとめられています。

*14)信託口などもありますが、ここでは捨象しています。

*15)資金と証券の動きが連動している場合、DVP決済であり、連動していない場合、FOP(Free of Payment)決済です(FOPについては後述します)。

*16)証券会社の手数料はないと想定しています。

*17)具体的には、(1)証券会社A・顧客口(筆者)→証券会社A・自己口、(2)証券会社A・自己口→証券会社B・顧客口(読者)という流れを経ます。

*18)日銀に当座預金を開設するには要件が定められていますが、その詳細は服部(2026c)を参照。

*19)シンプルという観点では、CPを最初の事例にすることもできましたが、そもそもCPは年限の短い社債ですし、社債のほうが馴染みがあると考えたため、本稿では社債を例に用いました。

*20)資金の動きと証券の動きが連動しないFOPの場合、照合は省かれることがあります。

*21)カストディアンとは証券取引のバックオフィス等のサービスを提供する金融機関ですが、カストディアンの詳細は次回以降の論文で議論します。

*22)https://www.jasdec.com/system/sb/outline/scheme/

*23)なお、非居住者決済では約定照合を海外で行うため決済照合から行っています。また、居住者・非居住者間の取引では保振の決済照合システムを利用できず電話照合を行っています。

*24)STPの概念は、約定照合から決済照合の自動化のみを指すとは限らず、より広い概念ともいえます。例えば、約定照合→決済照合→振替請求等といったように、照合後の振替指図までの自動化をSTPと整理されることがあります。

*25)https://www.jasdec.com/system-participants/search_html.html

*26)例えば、大手銀行は発行支払い代理に業務を実施しています。

*27)発行・支払代理人は、債券における概念です。株式名簿管理人(トランスファー・エージェント)などについては次回以降の論文で言及します。

*28)ちなみに、山一證券が潰れたときは、株式などの有価証券は紙だったので、山一證券の前に、他の証券会社が営業をかけて、証券の移管をするということがおこなわれていたようです。