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AMRO事務局長兼CEOの視点(5)
国境を越えるお金─クロスボーダー決済入門

AMRO事務局長兼CEO 渡部 康人

渡部康人

著者プロフィール

東京大学卒。イエール大学修士。1992年に大蔵省に入省し、アジア開発銀行理事代理、AMRO次長、アジア開発銀行予算人事局長、財務省国際局次長等を経て、2025年5月から現職。

はじめに

今回から数回にわたり、ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議において新たな協力分野となった、国境を越えたお金のやり取り、すなわちクロスボーダー決済についてご紹介します。

クロスボーダー決済は、これまで主に金融機関や中央銀行などの実務家や専門家の間で議論されてきました。しかし近年では、デジタル技術の急速な発展や国際金融を取り巻く環境の変化を背景に、G20などの国際的な政策協力の場でも重要なテーマとなっています。

日本財務省の主導により、クロスボーダー決済がASEAN+3財務プロセスの新たな議題に位置づけられたのと時を同じくして、私がAMRO事務局長兼CEOとして招待を受けるハイレベル会合でも、このテーマを扱うセッションが相次いで設けられています。こうした経験を通じて、この問題に対する関心が地域全体で急速に高まっていることを実感しています。

私自身も、この分野を専門としてきたわけではありません。AMRO事務局長兼CEOに就任して以来、ASEAN+3での議論や各国の中央銀行総裁との意見交換を通じて理解を深めてきました。その過程で、このテーマは専門家だけでなく、国際経済や金融政策に関心を持つ多くの方々にとっても重要なテーマであると実感しています。

一方で、クロスボーダー決済は専門用語が多く、難しい分野という印象を持たれがちです。本連載では、2026年5月のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議にAMROが提出したポリシーペーパーを基に、クロスボーダー決済の基本的な仕組みや現在の課題、ASEAN+3で進められている取組について、できるだけ分かりやすく解説していきます。

クロスボーダー決済とは何か

私たちは普段、どのような場面でクロスボーダー決済を利用しているのでしょうか。

私自身の経験を振り返ると、まず思い浮かぶのは、海外出張や旅行の際に、日本で発行されたクレジットカードを利用する場面です。また、アメリカへの留学やフィリピン・マニラへの赴任の際には、現地の銀行で口座を開設し、日本の銀行口座から生活資金を送金した経験があります。このような海外送金も、クロスボーダー決済の一つです。

しかし、クロスボーダー決済は、こうした個人による買い物や海外送金だけではありません。企業が海外から商品や部品を輸入して代金を支払う場合や、日本の企業が海外へ商品を輸出して代金を受け取る場合にも、クロスボーダー決済が行われます。

例えば、日本の企業がタイの企業から部品を輸入した場合、日本企業はその代金をタイへ支払う必要があります。その際、日本企業は日本円で支払いたい一方、タイ企業はタイバーツで受け取りたいかもしれません。このように、クロスボーダー決済では異なる通貨が関わることも大きな特徴です。

また、日本の銀行が米国国債を購入する場合を考えてみましょう。売買の合意が成立しただけでは取引は終わりません。買い手が代金を支払い、売り手が国債を引き渡して初めて取引が完了します。この際、代金の支払いは、通常、現地で保有する銀行口座の資金を利用し、現地の決済システムを通じて行われます。こうした現地口座の資金は継続的な補充や調整が必要であり、このような資金管理もクロスボーダー決済を支える重要な仕組みとなっています。

このように、クロスボーダー決済とは、個人による買い物や海外送金から、企業による貿易、海外投資に伴う代金の支払いまで、国境を越えて行われる資金の受渡しを総称したものです。

リテール決済とホールセール決済

国際的な議論では、クロスボーダー決済は、その性質に応じていくつかの分野に分けて考えられています。

個人や企業が商品やサービスの代金を支払ったり、送金を行ったりするための決済は、一般にリテール決済と呼ばれます。また、海外で働く人々が母国の家族へ生活費を送るような海外送金は、リテール決済の一類型ですが、その政策的重要性から、国際的な議論では独立したテーマとして扱われることがあります。

一方、金融機関同士で行われる資金、証券、外国為替などの金融取引に関する決済は、ホールセール決済と呼ばれます。

国内決済の仕組み

クロスボーダー決済は実際にどのような仕組みで行われているのでしょうか。これを理解するために、まず私たちが日常的に利用している国内送金の仕組みから見ていきましょう。国内送金とクロスボーダー決済は、支払情報を伝達し、銀行間で資金を決済するという共通の基本構造を持っています。したがって、国内送金の仕組みを理解することが、クロスボーダー決済を理解する近道になります。

全銀システムと日銀ネット

決済や送金には、「支払情報の伝達」と「銀行間の資金決済」という二つの機能が必要になります。日本では、支払情報の伝達は全銀システム(全国銀行データ通信システム)が、銀行間の資金決済は日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)が担っています。この二つの仕組みが連携することで、銀行間送金が安全かつ効率的に処理されています。

例えば、A銀行の口座からB銀行の口座へ10万円を振り込む場合を考えてみましょう。

まず、A銀行は全銀システムを通じて、「誰が、どの口座に、いくら振り込むのか」という支払情報をB銀行へ送ります。支払情報を受け取ったB銀行は、受取人の口座に10万円を入金します。

ここで重要なのは、この時点ではB銀行はまだA銀行から実際の資金を受け取っていないということです。つまり、B銀行はA銀行を信用して、受取人に先に10万円を支払っていることになります。

こうした1億円未満の小口決済では、全銀システムが営業日の取引を集計し、銀行ごとの支払総額と受取総額を差し引いた受払差額を計算します。ここでは説明を簡略化するため、A銀行とB銀行の二行間の取引のみを例に考えてみます。A銀行からB銀行への振込が合計5億円、B銀行からA銀行への振込が合計4億円であれば、日銀ネットで実際に決済されるのは差額の1億円だけです。このように、小口決済では、多数の送金を1件ずつ決済するのではなく、差額だけを決済することで効率化が図られています。

この差額は、日本銀行に各銀行が保有する当座預金口座を利用して日銀ネットで決済されます。A銀行の日本銀行当座預金から1億円が引き落とされ、B銀行の当座預金に1億円が入金されることで、一連の銀行間決済が完了します。

このように、国内の小口送金では、受取銀行が一時的に資金を立て替え、その後、銀行間の債権・債務を相殺した差額だけを日本銀行で決済することで、多数の送金を効率的に処理しています。

なお、銀行間の資金決済の方法は、取引の種類によって異なります。1億円以上の大口決済では、1件ごとに日本銀行当座預金口座を利用して日銀ネットで即時に決済されます。

国内決済とクロスボーダー決済との違い

国内の銀行間送金は全銀システムと日銀ネットという共通のインフラを利用しているため、多数の送金を安全かつ効率的に処理することができます。

クロスボーダー決済でも、支払情報の伝達と資金決済という二つの機能が必要となります。支払情報の伝達には全銀システムに相当する国際的なネットワークが広く利用されています。一方、銀行間の資金決済については、日銀ネットに相当する、世界全体をカバーするインフラは存在しないのが実情です。

それでは、クロスボーダー決済における支払情報の伝達と銀行間の資金決済の仕組みを順に見ていきましょう。

SWIFT ─ 支払情報を伝達するネットワーク

クロスボーダー決済における銀行間の支払情報の伝達には、SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication:国際銀行間金融通信協会)が提供する情報通信ネットワークが広く利用されています。

SWIFTは1973年、国際取引の拡大を背景に、欧米を中心とする15か国239行の銀行が共同で設立したベルギー法に基づく協同組合です。当時、銀行間では送金指図などの伝達にTelex(テレックス)と呼ばれる文字通信網が利用されていました。しかし、銀行ごとにメッセージの書式が異なり、多くの処理を人手に頼っていたため、取引量の増加とともに、迅速かつ正確な処理が難しくなっていました。そこで、銀行間通信を標準化するとともに、安全性と効率性を高める共通の通信ネットワークとしてSWIFTが構築されました。

SWIFTは1977年に22か国518機関でサービスを開始し、その後、世界中の金融機関へ急速に普及しました。日本では1976年に加盟が認められ、1981年から国内銀行による本格的な利用が開始されました。現在では200を超える国・地域の11,000を超える金融機関等が利用する、クロスボーダー決済における事実上の世界標準の情報通信インフラとなっています。

もっとも、SWIFTは全銀システムと同様に支払情報を伝達するためのネットワークであり、資金そのものを移動させるわけではありません。では、実際の銀行間の資金決済はどのように行われているのでしょうか。

コルレス銀行による資金決済

国内送金では、銀行間の資金決済は日銀ネットを通じて行われます。一方、クロスボーダー決済では世界共通の決済システムが存在しないため、各銀行は海外の提携銀行を利用して資金決済を行います。このような決済サービスを提供する銀行をコルレス銀行(Correspondent Bank)と呼びます。"Correspondent"は「対応する」「通信相手」を意味し、銀行実務では、自行に代わって海外で決済サービスを提供する提携先銀行を指します。支払銀行は、自らのコルレス銀行ネットワークを踏まえて資金の送金経路を決定し、SWIFTはその経路に沿って必要な支払情報を関係する全ての金融機関へ伝達します。

その上で、資金はコルレス銀行に保有する預金口座を利用して順次移動します。コルレス銀行が複数存在する場合には、SWIFTによる支払指図も各コルレス銀行へ順次伝達され、それぞれの銀行が指図に従って口座間の資金移動を行います。

なお、送金通貨と受取通貨が異なる場合には、送金銀行等が提示した為替レートに基づいて通貨交換が行われます。コルレス銀行には送金銀行名義の外貨口座が開設されており、個々の送金はその口座残高を利用して行われます。そのため、送金のたびに送金銀行からコルレス銀行へ外貨資金が送られるわけではなく、不足した残高は後日まとめて補充・調整されます。

図1:国内決済の流れ(例:国内の銀行振込)

図1:国内決済の流れ(例:国内の銀行振込)

図2:クロスボーダー決済の流れ(例:海外送金)

図2:クロスボーダー決済の流れ(例:海外送金)

クロスボーダー決済の課題

例えば、日本の銀行から海外の銀行へ送金する際、両行の間に直接のコルレス関係があれば、送金情報はSWIFTで伝達され、資金はそのコルレス関係を利用して比較的円滑に決済されます。

一方、送金銀行と受取銀行の間に直接のコルレス関係がない場合には、第三国の銀行など複数のコルレス銀行を経由して資金決済が行われることがあります。経由する銀行が増えるほど、各銀行での確認や処理が必要となるため、送金に要する時間が長くなり、手数料も積み重なります。また、資金がどの銀行まで到達しているかを送金人や受取人が把握しにくくなることから、透明性の低下という課題も生じます。

このように、クロスボーダー決済は国内決済に比べて、多くの金融機関や決済インフラ、異なる法域や規制が関わるため、その仕組みは本質的に複雑です。この複雑さが、送金コストや処理時間、透明性などの課題を生み出しています。さらに、マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策(AML/CFT)のための顧客確認や送金審査などのコンプライアンスチェックが複数回行われることや、各国の営業時間や時差の違いも、こうした複雑さに拍車をかけています。

これらの課題はグローバルレベルで認識されており、2020年にはG20において、その解決に向けた「クロスボーダー送金の改善に向けたG20ロードマップ」が策定されました。現在も、このロードマップに沿って各国当局や国際機関、民間金融機関が連携しながら、クロスボーダー決済の改善に向けた取組が進められています。

ASEAN+3ファイナンスプロセスにおいても、こうしたG20での議論を踏まえ、域内のクロスボーダー決済の改善に向けた新たな取組について検討が進められています。次回以降の連載では、このG20ロードマップの概要と、それを踏まえたASEAN+3での取組について紹介します。

参考文献

・一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク「全銀システムとは」https://www.zengin-net.jp/zengin_system/

・Bank for International Settlements, Committee on Payments and Market Infrastructures (2020), Enhancing Cross-border Payments:Building Blocks of a Global Roadmap. https://www.bis.org/cpmi/publ/d193.htm

・Financial Stability Board (2020), Enhancing Cross-border Payments:Stage 3 Roadmap. https://www.fsb.org/2020/10/enhancing-cross-border-payments-stage-3-roadmap/

・SWIFTウェブサイト https://www.swift.com/

・Bech, M. L. and Hancock, J. (2020), "Innovations in Payments," BIS Quarterly Review, March 2020. https://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt2003f.htm