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対内直接投資審査制度の高度化について

前国際局調査課長 春木 哲洋

国際局 柏木 郁文/知田 直樹/加藤 巴瑠薫

1 はじめに

2026年5月29日、対内直接投資審査制度の高度化のための「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案」が成立し、6月5日に公布された。

「外国為替及び外国貿易法」(以下、「外為法」という。)は、対外取引に関する基本法であり、戦後間もない1949年に制定された。制定当初は、外貨集中管理と国内産業再建のため対外取引は原則禁止であったが、1980年代以降、段階的に対外取引の自由化が進み、今日では対外取引が自由に行われることを基本としつつも、投資規制や経済有事への対応等、必要最小限の管理又は調整を行うことを通じて、我が国経済の健全な発展に寄与することが期待されている。

今般の外為法改正においても、こうした理念を引き継ぎ、日本経済の健全な発展に寄与する対内直接投資の一層の促進を図っていくことを明確にしている。他方で、国際情勢は不透明さを増し、我が国を取り巻く安全保障環境は厳しく、複雑なものとなっている。さらに、安全保障と経済の結び付きが一層強まり、機微技術の獲得競争の激化やサプライチェーンの再構築など、経済安全保障を巡る動きが加速している。このような国際情勢・安全保障環境の下で、我が国の安全保障上重要な事業・サービスの安定供給の確保や機微技術の流出防止など、外為法の対内直接投資審査制度が果たすべき役割は一層重要になっている。制度の見直しに当たっては、関税・外国為替等審議会(以下、「外為審」という。)において様々な観点から検討が行われた*1。外為審の答申を踏まえた今般の外為法改正では、健全な対内直接投資を促進しつつも、安全保障上のリスクに適切に対応できるよう、リスクベースド・アプローチを通じた制度の高度化が図られている。改正内容についても、現行制度では十分に対応できていない取引類型を制度の射程に含めることや、投資審査の執行面での課題とされてきた省庁横断的な体制の構築など多岐にわたっている。

本稿では、外為法改正の概要を解説するとともに、投資審査の適切な執行・透明性の確保に向けた取組を紹介する。

2 外為法改正の概要*2

外為法の対内直接投資審査制度において、政府は、武器、航空機、原子力などの国の安全などに関する業種を「指定業種」として定めており、外国投資家がこうした指定業種を営む日本企業に投資する場合には事前届出を求めている。そのうえで、事前届出をもとに財務省および事業所管省庁が審査を実施し、審査の結果、国の安全を損なうおそれがあると認められる場合には、外為審の意見の聴取等を経て、投資の内容変更や中止の勧告・命令を行うことができることとされている。

対内直接投資審査制度

今般の法改正では、2020年に施行された改正外為法の5年間の施行状況や近年の急激な国際情勢・安全保障環境の変化等を踏まえ、以下の3本柱を軸に対内直接投資審査制度の高度化を図っている。

・ 制度の施行状況等を踏まえ、審査の効率化・実効性確保の観点から、リスク軽減措置に関する規定・手続を明確化するほか、本邦企業の株式等を間接的に取得する行為を規制対象に加えている。

・ 国際情勢、安全保障等の環境変化を踏まえ、安全保障上のリスクに適切に対応する観点から、外国政府等の支配・影響下にある投資活動に対応するための規定を整備するとともに、事前届出の対象となっていない投資(非指定業種への投資)に係る投資後のリスクへの対応措置を新設する。

・ 省庁横断的な執行体制を強化する観点から、対日外国投資委員会を創設する。

外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律

2-1 リスク軽減措置の明確化

現行制度においても、事前審査の過程で必要と認められた場合等には、投資そのものは認めつつも、国の安全等に係るリスクに対応するための措置(リスク軽減措置)を届出書に記載することを求めている。リスク軽減措置の具体例としては、外国政府の影響を受けて株主権を行使しない、投資先企業の機密情報にアクセスしない等があげられる。

安全保障環境が厳しくなる中で、リスク軽減措置の重要性が年々高まっていることも踏まえ、外国投資家の予見可能性を確保しつつ、その確実な実施を確保するため、改正法においてリスク軽減措置に関連する規定・手続を明確化している。

具体的には、リスク軽減措置を事前届出事項として明確に位置づけ、外国投資家が当該措置を講じる必要がある場合には届け出なければならないこととした。また、投資実行後の外国投資家によるリスク軽減措置の遵守を担保するため、投資家がリスク軽減措置を実施しない、もしくは変更したい場合には、リスク軽減措置の変更の事前届出を投資家に求めることとした。その上で、当局が変更届出の内容を審査し、必要に応じて、かかる変更の中止や新たなリスク軽減措置を講じることの勧告・命令を行うことを可能にした。

リスク軽減措置を変更する場合の手続

2-2 間接的な投資への対応

現行制度においては、外国企業(下図A)が、指定業種を営む日本企業(下図B)の株式等を直接取得する際に事前届出が必要となる。

他方、別の外国投資家(「間接取得者」下図C)が、日本企業の株式を保有する外国企業(「直接保有法人等」下図A)を買収することなどを通じて、間接的に日本企業の株式を取得することとなるような場合については、現行制度上、事前届出の対象外となっている。

こうした間接取得が日本企業の経営においても大きな影響を与えうることや、間接取得を通じた規制の潜脱を防止する必要があること、また、現行制度上も届出者の最終親会社等の属性が審査において重要な考慮要素となっていることなどを踏まえ、間接取得について、一定の場合には事前届出を義務付けることとし、当局が審査できるようにする。

具体的には、(1)間接取得者が新たに直接保有法人等の議決権の50%以上を取得する行為、(2)間接取得者の関係者が新たに直接保有法人又はその親会社の役員の過半数を占める行為等を、事前届出の対象範囲に追加する。

その上で、間接取得者が類型的に特にリスクの高い外国投資家(外国政府をはじめとする事前届出免除制度が利用できない外国投資家)である場合には、直接保有法人等の買収等を通じて日本企業の株式等を1%以上保有することとなるケースで届出を義務付けることとしている。他方で、間接取得者が事前届出免除制度を利用できる外国投資家である場合には、日本企業の株式等を50%以上保有することとなるケースに限って届出を義務付けることとし、リスクに応じた制度設計を行うこととしている。

なお、本制度においては、間接取得者が事前届出を義務付けられており、関連する命令等の名宛人も一義的には間接取得者となるが、間接取得者への命令をもってしては国の安全等を損なうおそれに対応することが著しく困難である場合には、直接保有法人等に対して日本企業の株式等の処分を命ずることができることとしている。

改正前 改正後

2-3 外国政府等の支配・影響下にある投資活動への対応

外為法が対外取引を規制する法律であることに鑑み、対内直接投資審査の対象となるのは、原則として国外からの日本企業への投資であるが、現行制度においても、(1)非居住者等が議決権等の50%以上を保有している日本企業(すなわち外国企業の日本子会社など)や非居住者が役員の過半数を占める法人等は外国投資家として扱い、また、(2)国内の投資家が「外国投資家のために」(=外国投資家の計算において)投資する場合、当該投資家を外国投資家とみなすこととし、投資審査の対象としてきた。このように、従来から、外為法における「対外取引」は、実質的に非居住者等の影響を受けて国内で行われる一定の取引も射程に含むものである。

安全保障環境の厳しさが増す中で、投資を介した技術・情報の流出や、安全保障上重要な産業やサービス等の毀損を未然に防ぐためには、上記(1)・(2)に該当しない場合であっても、日本国内の投資家が、外国政府をはじめとする類型的に特にリスクが高い非居住者等の支配・影響下で投資活動を行うような場合には、規制逃れを防ぐための対策が必要である。

こうした観点から、改正法では、外国政府等の支配・影響下で、外国政府等のために投資活動を行う日本法人や国内居住者を「外国投資家とみなす」規定を整備している。具体的には、(1)日本法人や国内居住者が、契約や外国法令等に基づく非居住者等の指示等を受けて投資を行う場合や、(2)非居住者等と特別の関係(例えば、親族関係、雇用関係、外国政府の情報収集活動への協力義務)にある日本法人や国内居住者が当該非居住者等のために投資を行う場合は、投資を行う日本法人や国内居住者を「外国投資家とみなす」こととしている。その上で、外国投資家とみなされた者が、外国政府をはじめとする類型的に特にリスクが高い非居住者等の支配・影響下にある場合は、事前届出等の義務を課すこととしている。

外国政府等の支配・影響下にある投資活動への対応

2-4 事前届出の対象となっていない投資に係るリスクへの対応措置の新設

従来、事前届出の対象となっていない非指定業種への投資のうち、10%以上の株式・議決権の取得については、外国投資家に事後報告を義務付けているが(法第55条の5)、勧告・命令等の措置を講ずることはできない。

近年の安全保障環境に鑑みれば、安全保障上のリスクが相対的に低いものとして審査の対象とされていない非指定業種への投資であっても、懸念ある投資家が日本企業への投資等を実行した後、投資を介した安全保障上のリスクが生ずるおそれは否定できない。例えば、近年、汎用品や汎用技術が軍事転用されるおそれが高くなっているとの指摘があるが、そうした汎用品・汎用技術への投資を通じて、安全保障上のリスクが生ずるおそれがある。また、新型コロナウイルス感染症の拡大を経てマスクや医療ガウン等の安全保障上の重要性が大きく変化したように、国際情勢の変化等によって、特定のサービス・事業の安全保障上の位置づけが変化する可能性もあり、そうしたサービス・事業の安定供給が阻害されることで安全保障上のリスクが生ずるような場合も考えられる。

こうした安全保障上のリスクに、現行の事前届出制を前提に対応する場合、リスクの低いものも含めて様々な業種を指定業種に加えることとなり、審査の効率化・実効性確保の観点や対日投資を促進する観点で望ましくない。他のG7諸国(米、英、独、加)においては、義務的事前届出の対象ではない投資について、必要な場合には当局の審査を可能とする制度が設けられている。こうした制度も参考にしつつ、指定業種に係る事前届出制度を補完するものとして、非指定業種への投資に係る安全保障上の重大なリスクに対応できるような措置を新たに導入することとした。

具体的には、まず、事前届出の対象でない対内直接投資等のうち、国際情勢の変化その他の事由により国の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい投資に該当するおそれが大きいもの(具体的には、投資を行った外国投資家が類型的に特にリスクの高い外国投資家に該当し、かつ、10%以上の株式・議決権を取得した対内直接投資等に限定)について、特に必要がある場合には、投資実行後5年間に限って、当該外国投資家に対し報告を求めることを可能にする。

その上で必要な場合には、リスク軽減措置や株式の処分等の勧告・命令をできることとした。さらに、国の安全を損なうおそれが著しく大きいため、緊急に措置をとる必要がある場合には、勧告等を経ることなく、外国投資家に対して必要な措置をとるべきことを命令できることとする。なお、この場合の命令の内容については、株主権行使の前提となる株式・議決権等の取得と、事業の譲渡・廃止等の提案への同意に限定する。

事前届出の対象となっていない投資に係るリスクへの対応措置の新設

2-5 事前届出対象の見直し(政省令等の見直し)

近年、指定業種の追加や、役員選任議案への同意をはじめとする株主行為の事前届出対象への追加等の影響により、事前届出件数が大幅に増加している。こうした中で、より効率的・効果的に安全保障上のリスクに対応する観点から、事前届出の対象をリスクに応じた適切なものへと見直す必要性が指摘されている。今回の法改正に伴う政省令等の見直しでは、特に事前届出に占める割合が多くなっている「情報通信技術関連業種」について、サイバーセキュリティ対策等の観点から真に必要性が認められるものに限定するといった合理化を行うほか、以下のような取組を予定している。

(参考)事前届出件数の推移

(1)「重要な技術の保有」に着目した事前届出対象の規定

現行制度上、事前届出対象は、発行会社の営む「業種」に着目して規定されている。他方、近年の技術革新等により、機微技術を保全する重要性が高まっている中で、機微技術の有無を「業種」で捉えることが必ずしも容易でない場合もある。こうした問題意識の下、よりタイムリーかつ的を絞った指定ができるよう、「指定業種」を補完するものとして、「重要な技術の保有」有無に着目して事前届出対象を指定する方法を追加する予定である。なお、対象とすべき重要な技術の範囲については、外国投資家や発行会社が外形上事前届出の要否を判断できるかといった点も重要であり、現時点では、外為法の技術管理における、「特定技術」及び「重要管理対象技術」を想定している。

(2)役員選任同意に係る事前届出の合理化

役員選任に係る同意について、現行制度上、役員の新任のみならず、同一の役員の再任についても須く事前届出を求めているところ、より効率的・実効的に審査する観点から、同一の役員の再任に係るものであって、特段の事情の変更がない場合には事前届出を不要とし、合理化を図ることを予定している。

3 対日外国投資委員会(JFIC)の創設

外為法において、投資審査制度の審査は、財務省と事業所管省庁が担うことになっているが、投資に伴う安全保障上のリスクについては、省庁横断的な視点で検証することが必要不可欠となっている。こうした問題意識の下、2026年6月29日に対日外国投資委員会(JFIC:Japan Foreign Investment Committee)が創設された。改正法においては、こうした省庁横断的な連携を法制面で担保するため、国の安全等の観点から必要な場合に、財務大臣及び事業所管大臣から安全保障関連部局を含む関係行政機関の長への意見照会を義務付けることとしている(法第69条の4)。

JFICでは、財務省と国家安全保障局が共同議長を務め、外務省、経済産業省、防衛省を主構成員とし、事業所管省庁の参加も得て運営される。審査のノウハウの共有や、外国投資家のリスク属性等を始めとする情報連携を強化し、政府全体として審査能力の底上げを図ることとしている。また、投資先の日本企業が営む事業や保有する技術が、防衛装備品や重要物資のサプライチェーン上どのような意味を持つかといった点を、省庁横断的に検証することが期待される。

対日外国投資委員会

こうした省庁横断的な、一貫性のある審査を行うことは、ひいては外国投資家の予見可能性を高めることにもつながり、健全な投資の促進と経済安全保障の確保との両立に資するものと考えている。

4 投資審査の実効性と透明性の確保に向けて

経済安全保障上の要請に確実に対応しながら、健全な投資の促進との両立を図るためには、一貫性のある審査や適切な情報開示を通じて、投資家の予見可能性を確保していくことが重要である。このため、財務省では、毎年、「外為法・投資審査制度 アニュアルレポート」を発行し、投資審査制度にかかる各種統計データの公表に加え、制度の概要や沿革、審査・モニタリングについての当局の考え方や制度運用のプラクティスなど、関連する情報を可能な限り分かりやすく整理・紹介している*3

また、財務省及び事業所管省庁では、「審査に際して考慮する要素」として、投資審査にあたって、審査当局がどのような点に着目するかを公にすることで、手続きの透明性や投資家の予見可能性の確保に努めてきたところである*4

前述の外為審の答申では、今回の法改正を踏まえ、リスク軽減措置の類型や具体例をガイドライン等の形で示すことにより、外国投資家の予見可能性に配慮した運用を行う必要がある旨も指摘されており、今後、改正法の施行に向けて、こうしたガイドラインの整備に取り組んでいく必要がある。

また、外為法では、審査を踏まえて、国の安全等に係る投資等に該当すると認める場合には、外為審の意見の聴取等の所定の手続を経た上で、対象となる投資等について、内容変更や中止の勧告・命令を行うことができることとされている(法第27条及び第28条)*5。こうした場合において、制度運用の透明性を図る観点から情報開示の在り方を以下のとおり整理し、公表している(令和8年6月10日 関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会配布資料)。

対内直接投資審査に係る政府による情報開示について(今後の方針)

5 終わりに

人口減少が進む我が国において、持続的な成長を実現していくためには、対日直接投資の拡大を通じて海外の活力を積極的に取り込む必要がある。他方、安全保障を巡る環境が大きく変化する中、国の安全等を損なうおそれのある投資に対しては、適切に対応していくことが求められている。

外為法に基づく対内直接投資審査制度は、このような健全な投資の促進と国の安全等の確保との両立を図るための重要な基盤となる制度としての役割を担っている。今回の改正においても、これまでの施行状況や安全保障等を巡る環境変化を踏まえ、対内直接投資審査制度の高度化を図る中で、リスクの低い投資家に過度な負担を課すことがないよう、リスクベースド・アプローチに基づく制度の合理化に努めたところである。

もっとも、法改正の効果は、制度内容が適切に理解され、実際の運用を通じて適正に執行されてこそ十分に発揮される。今後も、JFICを中心に関係省庁と緊密に連携しながら、制度の着実な執行に取り組むとともに、アニュアルレポートの発行をはじめとする情報発信の充実を通じて、外国投資家を含む関係者の理解と予見可能性の向上に努めていきたい。また、制度の運用状況や内外の環境変化を踏まえつつ、投資環境との整合性にも配意しながら、制度の不断の見直しを進めていくことが重要である。

*1)関税・外国為替等審議会「対内直接投資審査制度等のあり方についての答申」
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/report/20260106191944.html

*2)改正内容のうち一部の詳細事項については、外為審の答申に沿って政省令等で規定される予定である。

*3)https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/contents/pdf/index_5.pdf

*4)https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/recent_revised/gaitamehou_20200508.htm

*5)2008年に電力関連会社の株式取得について中止の勧告・命令を行ったほか、2026年4月に工作機械製造業を営む会社の株式取得について中止の勧告を行った。