1.はじめに
相鉄本線瀬谷駅から北方に約2km。住宅地が続く穏やかな景観の中に、そこだけぽっかりと切り取られたような開けた土地が広がっている。約242ha、東京ドーム約52個分。上瀬谷通信施設跡地と呼ばれる場所である。

航空写真(横浜市消防局消防航空隊撮影)
本地は、もともとは主に農地だったが、戦前に旧日本海軍が買収し、資材集結所として使われていた。終戦後は、米軍により接収され、一時的な接収解除はあったものの、2000年代に至るまで長期にわたって米軍施設(主に通信基地)として使用されていた。当時は通信機能保護の観点から建築に制限が課されていた時期もあり、地域のまちづくりは大きく制約されてきた経緯がある。
その後、2004年に日米間で返還方針に合意がなされ、2015年に日本へ返還された。返還後は、地元の方々などからも広く意見を伺いながら、土地利用計画の検討がなされてきた。
現在は、国際的なイベントを起爆剤に、本地を活用した新たな地域活性化拠点を作るべく、計画が動き出している。
2.返還財産について
計画の具体的な内容に入る前に、返還財産の処分方針について触れておきたい。
上瀬谷通信施設跡地のような、在日米軍から返還された財産(返還財産)は、その規模等を勘案すると、利活用の方向性が、地域の経済や都市環境、生活環境に大きな影響を与えるものであることから、地元の意向も十分踏まえた有効活用策を策定することとされている。よって、返還財産の処分に際しては、まず地方自治体を通じて地域ニーズを把握し、それを踏まえて自治体が策定した土地利用計画をベースに処理方針の検討を進めていくこととなる。
本地は、返還後の状態では、下図のとおり、民有地(約110ha)と市有地(約22ha)と国有地(約110ha)が複雑に混在しており、そのままの状態で市有地や国有地を活用しようとすると、小規模な開発にとどまり、地域の活性化に資する一体的な街づくりができない状態であった。
そのため、まちの資源として本地を有効活用していくべく、横浜市が施行者となって土地区画整理事業を実施することとなった。

区画整理前の配置図
3.土地区画整理事業について
土地区画整理事業は、不整形地や細分化された土地が混在する市街地等において、道路、公園その他の公共施設を計画的に整備するとともに、宅地の形状や配置を適正に再編成し、土地利用の増進を図る都市整備手法の一つである。
用地買収と比べて、地権者の権利を維持しながら面的整備を進めることができる点が大きな特徴である一方で、合意形成には相応の時間と労力を要する。施行者をはじめとする関係者は、地権者一人ひとりの思いや不安に向き合いながら、丁寧に合意を積み重ねていくことが求められる。上瀬谷通信施設跡地の活用は、そうした地道なプロセスの積み重ねの上に成り立っていると言える。
現時点では、仮換地として下図のように再配置がなされており、南側の国有地部分では、2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)(以下「博覧会」という。)の開催に向けた整備が行われている。

仮換地後の配置図
4.国際園芸博覧会の開催について
現在、南側に再配置された国有地については、2022年に制定された特別措置法に基づき、GREEN×EXPO協会に対して無償貸付を行っている(2029年3月末までの予定)。博覧会の会場用地として利用されることが決まっており、開催に向けた準備が着々と進められている。
最上位のクラス(A1)の博覧会の開催は、日本では1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会(花の万博)」以来、37年ぶりの開催となり、6か月の会期(2027年3月~9月)の中では、四季折々の花と緑が集い、豊かな自然や生物多様性を体感できる空間が広がる予定である。会期初めには、約40種600本の桜が咲き誇るなど、二十四節気七十二候を意識した植栽が計画されており、木々が織りなす迫力ある景観、草花の繊細な香りに、季節ごとに移ろう虫の声も重なり、来場者は五感で季節の変化を感じることができるだろう。そのほかにも、最新のテクノロジーから、伝統的な和の空間まで、多様な体験ができるイベントとなっている。

会場イメージ図(提供:GREEN×EXPO協会)
5.今後の活用について
上述の通り、大規模なプロジェクトが力強く推し進められているところだが、それにとどまらず、博覧会終了後も本地を有効に活用していくことが求められる。現時点の計画では、国有地部分には博覧会のレガシーを継承した大規模公園や防災拠点が整備され、その北側には観光・賑わい機能の導入(テーマパーク等)や、物流拠点(高速道路インターチェンジに直結する次世代型物流施設)の設置などが検討されている。
これらの機能が有機的に結びつくことで、新たな人の流れが創出され、郊外部における新たな地域活性化の拠点として、その可能性が大きく広がっていくことが期待されている。このように大きなポテンシャルを秘めた博覧会終了後の本地の活用に向けて、当事務所としても、地域連携の視点を踏まえて関係機関と密に連携のうえ、利用計画の具体化に向けた検討を着実に進めていきたい。
各地の話題
江津市
「まるごとホテル」に灯る再生の明かり
1.江津市の概要

再生へと歩む「有福温泉」
島根県江津市は、江の川の河口に開けた港町として発展し、赤瓦の町並みと豊かな自然が調和するまちです。製紙業や窯業を中心とした工業が地域の産業を支え、現在は約2万人が暮らしています。市では人口減少対策のスローガンとして「山陰の創造力特区」というフレーズを掲げ、地域資源の活用や地域課題の解決を目指す起業家をまちぐるみで支援し、若者の挑戦を後押しするまちづくりに取り組んでいます。
また、市の重要な観光資源である「有福温泉」の再生を重点施策に位置付け、令和2年度から官民連携による取り組みを進めてきました。
2.存続の危機に直面した温泉街
有福温泉は、1300年以上の歴史を持ち、かつて「山陰の伊香保」と呼ばれた名湯ですが、近年は急速な衰退の危機に直面してきました。旅行の主流が団体旅行から個人旅行へと移り変わる中で、こうした変化に十分対応できず、宿泊客の減少が続いたことに加え、平成22年には旅館3棟などが全焼する火災に見舞われました。
さらに、平成25年8月の豪雨災害では、有福温泉周辺の道路が寸断され、旅館も被災するなど、温泉街は甚大な被害を受けました。同年12月には、長年にわたり湯治客を受け入れてきた原爆被爆者有福温泉療養研究所(有福温泉荘)が閉鎖したことで、宿泊客の減少に拍車がかかりました。
その後も有福温泉を取り巻く環境は厳しく、平成29年には主要旅館2軒とカフェを経営していた企業の廃業が相次ぎ、かつて20軒を超えていた旅館は令和2年には3軒まで減少しました。加えて、人口減少と高齢化によって、地域の担い手不足や手入れの行き届かない空き家の増加による景観の悪化などの問題も顕在化してきたことで、温泉街は存続の危機に立たされていました。
3.まるごとホテル構想の始動
こうした状況を受け、市は商工会議所や金融機関、住民組織、事業者などで構成する「有福温泉再生プロジェクト会議」を令和2年度に立ち上げました。併せて、一般財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)のまちなか再生支援事業を活用して専門家を招き、温泉街の将来像や再生方針をまとめた「有福温泉まちなか再生ビジョン」を策定しました。
このビジョンの中から生まれたのが、温泉街全体を一つの宿泊施設に見立て、回遊性を高めながら「暮らすように滞在する」スタイルを提供する「温泉地まるごとホテル構想」で、その核となる機能の一つがセントラルキッチンです。

まるごとホテル構想のイメージ
旅館が食事提供を行わずとも、セントラルキッチンが担う「泊食分離」の仕組みを導入することで、既存旅館の負担軽減と新規参入の促進を図ることを目的としています。そして、セントラルキッチンを担当する事業者として株式会社EVENTOSの参画を得たことで、まるごとホテル構想は具体的に動き始めました。

まちの顔となったセントラルキッチン
有福温泉まちなか再生ビジョンでは、SPCの設立を見据えた空き家等の不動産活用についても検討していましたが、観光庁による「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」が開始されたことで、SPC設立の方針を転換し、補助金を活用した資金確保を行いました。また、不動産活用の検討過程で空き家などの物件調査を進めていたことが、新規参入事業者の受入れや補助事業への円滑な移行に繋がりました。
令和3年度にはセントラルキッチンを担うイタリアンレストラン「有福BIANCO」が温泉街の中心に開業し、宿泊施設も令和4年度の「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」の成果と合わせて、7軒の新規開業と3軒の既存旅館の改修を行うことができました。
4.にぎわいの回復と今後
観光庁の事業をきっかけに、有福温泉は大きく変化を遂げました。令和2年当時は3軒のみだった宿泊施設は、現在では11軒へと増え、飲食店も有福BIANCOを含む4店舗が営業しています。
宿泊者数も令和2年の6,061人から令和7年には16,369人へと伸び、温泉街の再生に向けた取り組みが確かな成果として表れています。今では、観光客が行き交う光景が日常になっています。
こうした再生が進んだ背景には、まるごとホテル構想に賛同して新たに参入した事業者の存在があります。既存事業者とともに、令和3年に「有福温泉振興会」を立ち上げ、将来ビジョンの共有や会員同士の連携強化、イベントの企画、情報発信、人材誘致など、さまざまな取り組みを進めています。
有福温泉の再生は、まだ始まったばかりです。これからも、有福温泉振興会に集う事業者の皆さんと力を合わせて「温泉地まるごとホテル構想」の実現を目指し、有福温泉を未来へとつなげる取り組みを進めていきます。
官民連携で挑む、1300年の湯の再生
地方創生コンシェルジュ
中国財務局松江財務事務所長 高梨 敦
有福温泉は、島根県石見(いわみ)地方の山あいにひっそりと佇む、歴史と情緒を大切にしてきた小さな温泉地です。派手さはありませんが、とろりとした肌触りの良質なお湯と、落ち着いた静かな雰囲気を求める人々から高い評価を受けてきました。
官民が連携し、「まるごとホテル構想」を軸に再起動を遂げた有福温泉。生まれ変わりつつあるこの温泉地を、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
各地の話題
高松市
エリマネぷらすに関する取組について
1.はじめに(エリマネぷらすについて)
近年、地域社会のニーズに応じた行政財産の一層の活用を図るべきとの観点から、令和元年の財政制度等審議会答申において、行政財産について「地域社会のニーズへの対応と収益確保の双方の観点から積極的に活用すること」が示されました。これを受け、使用許可通達の改正等を通じて、庁舎における余剰スペースの活用や地域社会への開放が進展しているところです。
一方、人口減少や防災対応の強化など、まちづくりの機運が全国的に高まる中、地方創生の取組においても、地域の拠点形成や都市構造の最適化といった視点から、国公有財産を地域政策と調和させて活用していくことが求められています。
こうした行政財産の活用に関する政策的な進展や、地域のまちづくり全体と国公有財産を整合的に取り扱う必要性の高まりを踏まえ、これまで財務局が積み重ねてきたエリアマネジメントの取組を発展・進化させ、地域の魅力向上や防災力の向上に資する施策として体系化したものが、「エリア価値向上に向けた国公有財産の戦略的マネジメント(略称:エリマネぷらす)」です。
四国財務局では、今般、エリマネぷらすの一環として、“まちなか”に所在する高松サンポート合同庁舎について、地域のニーズを踏まえた地域開放(使用許可等)に取り組みましたので、その事例をご紹介します。
2.高松サンポート合同庁舎の概要
四国財務局が入居する高松サンポート合同庁舎は、北館(地上14階建、平成18年完成)と南館(地上11階建、平成29年完成)の2棟から構成され、現在19の官署が入居しています。また、四国における広域防災拠点として機能するための設備を有しています。
立地面では、JR高松駅に近接し、香川県及び高松市がにぎわい創出に取り組むサンポート高松エリアに所在しています。近年、複合商業施設「高松オルネ」や、1万人収容可能な「香川県立アリーナ」が開館したほか、徳島文理大学が移転・開学するなど、周辺環境に大きな変化が生じています。

高松サンポート合同庁舎の位置図
(国土地理院地図を加工して作成)
こうした状況を踏まえ、当局では、“まちなか”で地域拠点としての機能を有する本庁舎について、「住民生活の維持・向上」や「地域の魅力向上」に資する地域開放(使用許可等)ができないか、また、エリア価値の向上に貢献できないか検討を進めました。
3.高松サンポート合同庁舎にぎわいフェスタ
検討の結果、サンポート高松エリアのにぎわい創出に寄与するとともに、国の施策を広く周知することを目的として、四国財務局が中心となり、中国四国農政局香川県拠点、消費者庁新未来創造戦略本部の3機関が連携し、高松サンポート合同庁舎を活用した共催イベントを実施することになりました。
各機関による主な取組内容は次のとおりです。
【四国財務局】
国有財産をテーマに、国有財産に関する情報コーナーのほか、四国財務局公式キャラクター「しこくマ」のプラバンキーホルダーやお面づくりを実施。
【中国四国農政局香川県拠点】
農福連携(※)をテーマに、農福連携に取り組む事業者によるキッチンカーの出店や農産物販売、パネル展示のほか、ベジチェック®による野菜摂取レベルの測定を実施。
※農業と福祉が連携し、障害者の農業分野での活躍を通じて、農業経営の発展とともに、障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を実現していく取組。
【消費者庁新未来創造戦略本部】
食品ロスやエシカル消費をテーマに、食品ロス削減体験プログラムのほか、藍染「まるイロ」手織り体験等のワークショップを実施。
このほか、香川県のご協力により、スマート・フードライフ推進キャラクター「たるる」の着ぐるみやイベント用資機材をお借りすることができ、会場を一層盛り上げることができました。

庁舎のピロティで農産物販売
また、イベント当日は想定を上回る来場者でにぎわい、「大人から子どもまで楽しみながら学べる良い企画だった」、「国の庁舎は入りにくかったが、どのような仕事をしているのか分かって良かった」といった声が寄せられました。また、農福連携に取り組む事業者からも、「会場に活気があり、とても良かった」との評価をいただき、成功裏に終えることができました。

国有財産に関する情報コーナー
4.かがわマラソン2026を支援するための庁舎開放
高松サンポート合同庁舎の周辺を会場とする地域イベント「かがわマラソン」が初開催されることとなり、当局から「かがわマラソン実行委員会事務局(以下「主催者」という。)」へ合同庁舎の活用ニーズを確認したところ、車椅子ランナー用駐車場のほか、報道機関用駐車場、ランナー・ボランティア用駐輪場、テレビ番組公開収録ブース、報道機関機材置場、報道関係者控室としての使用要望が示されました。これを受け、合同庁舎管理官と連携して使用許可を行い、地域のニーズに対応することができました。

手前:かがわマラソン2026スタート地点の香川県立アリーナ
奥:高松サンポート合同庁舎
さらに、主催者からボランティア登録者数の不足について相談を受けたことから、当局職員へ参加を呼びかけ、四国財務局としてボランティア団体登録を実施し、微力ながら人的面でも地域イベントの円滑な運営に協力することができました。
5.おわりに
“まちなか”に所在する庁舎は、地域防災の拠点としての機能に加え、カーシェアなどによる観光の拠点、地域イベントによるにぎわいの創出など、“まちなか”にある庁舎等の特性(利便性)を最大限生かした有効活用が求められています。今後も、地域のニーズを踏まえて、合同庁舎の入居官署や地方公共団体と連携し、「住民生活の維持・向上」や「地域の魅力向上」に貢献できるよう、“まちなか”に所在する庁舎の地域開放(使用許可等)に取り組んでまいります。

