本稿では、近年注目を集めている日本のコンテンツ産業について、現状及び展望を考察する。
世界のコンテンツ産業市場
・映像、アニメ、漫画、ゲーム、音楽等からなる「コンテンツ産業」(図表1)は、世界的に中長期的な成長が見込まれる分野であり、拡大を続ける海外需要を取り込むことは、日本の経済成長にとって重要である。
・実際、同産業の世界市場規模は約135.6兆円と、石油化学産業(約89.9兆円)や半導体産業(約77.0兆円)を大きく上回る巨大産業へと成長している(図表2)。背景には、コロナ禍における巣ごもり需要の拡大や動画配信プラットフォームの普及があり、スマホやPCなどの個人端末を通じた国境を越えたコンテンツ消費が進展している。
・こうした動きを受け、同市場は2018年以降、年平均+5%で成長しており、今後も拡大が見込まれている(図表3)。



(出所)経済産業省「エンタメ・クリエイティブ産業戦略~コンテンツ産業の海外売上高20兆円に向けた5カ年アクションプラン~」、PwC「グローバル エンタテイメント&メディアアウトルック2023-2027」
日本発コンテンツの存在感
・この成長市場において、日本のコンテンツはすでに確固たる存在感を示している。同産業の海外売上は約6兆円と、過去10年間で約3.8倍に拡大しており、自動車産業に次ぎ、半導体産業に並ぶ規模まで成長している(図表4)。
・また、世界のコンテンツ・IP(メディアフランチャイズ)累計売上高ランキングにおいては、ポケモンが世界第1位であるほか、ハローキティやアンパンマン等も上位に名を連ねており、日本発コンテンツが世界的に高い競争力を有していることがわかる(図表5)。
・なかでも、アニメは海外展開を牽引してきた中核分野である。日本アニメの海外市場は拡大を続けており、2024年には約2.1兆円規模に達している。国内市場を含めたアニメ産業全体では約3.8兆円と史上最高水準を更新しており、日本発コンテンツの国際的広がりは、アニメが重要な役割を果たしつつ進展してきたといえる(図表6)。



(出所)経済産業省「エンタメ・クリエイティブ産業戦略~コンテンツ産業の海外売上高20兆円に向けた5カ年アクションプラン~」、ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」、財務省「貿易統計」、TitleMax「The 25 Highest-Grossing Media Franchises of All Time」、日本動画協会「アニメ産業レポート2025」
熱狂を生む日本アニメ産業の軌跡と課題
・日本のアニメは、1960年代に放映された“鉄腕アトム”が流行して以降、テレビ局主導による制作体制がメインであった。スポンサー収入を主財源としたため、視聴者層がスポンサーの意向に沿った世代に固定されやすい構造にあった(図表7)。
・その後IPの活用が広まり、収益源が多様化したことを背景に、アニメの制作体制に変化が生じた。出版社、メーカー等複数の主体が出資し、権利と収益を分配する制作委員会方式の採用が主流となった。単一スポンサーの意向に左右されにくくなり、作品内容や表現の幅が大きく広がった。
・近年は、グローバルな動画配信プラットフォームの普及により、日本アニメと関連IPへの海外需要が喚起されている。その原動力として考えられるのが、日本がこれまで築いてきたアニメ作品の質の高さや、製作のノウハウである。日本では米国等と比べてもアニメ作成時の制約が少なく、作家主義を重んじる風潮が形成されてきた。結果として、世界を魅了する数多の作品が生み出されてきたものの、商業戦略面で米国等に後れを取ってきた一面が指摘されている(図表8、9)。
・具体的には、コンテンツ産業の海外売上が国内企業に還元される比率の低さが挙げられる。特にアニメ・出版分野で還元率が低水準にあり、グローバルな人気を国内収益へ取り込めていないという問題がある(図表10)。




(出所)中山淳雄著「キャラクター大国ニッポン」、「エンタメビジネス全史」、「エンタメビジネス全史第2版」、経済産業省「エンタメ・クリエイティブ産業戦略~コンテンツ産業の海外売上高20兆円に向けた5カ年アクションプラン~」
日本コンテンツ産業の収益力強化に向けた構造転換
・問題の一因として、著作権を海外に販売するライセンスアウト型ビジネスへの依存が挙げられる。この方法はリスクが限定的である反面、販売戦略や価格設定を海外パートナーに委ねるケースが多くなり、日本のIP収益を狭めていると考えられる。
・また、エンタメ作品製作時の資金調達についても、日本と世界で隔たりがある。日本は資金不足を補うために多方面から出資を受け、権利も分散して保有する制作委員会方式が主流である。対して世界では、特定の企業がリスクを負いつつ出資を担い、権利を一気通貫で保有するコングロマリット方式が普及し、迅速かつ高収益な展開が実現されている(図表11)。
・日本でもIP収益の拡大を狙う動きは生まれている。最たる例は“鬼滅の刃”である。本作品は、“少数出資社による制作委員会”にて展開された。少数出資社はリスクを負ったものの、従来とは一線を画す商業戦略を企画でき、多大なリターンを得ることに成功した。優れた作品と商業主義が結びついた好事例となり、日本のIPが秘める可能性の大きさが示された(図表12)。
・足下では生成AIがアニメ製作の参入障壁を崩し、企業やクリエイターにとって逆風が吹きつつある。日本産IPの発展を持続させるためにはクリエイターの待遇改善も不可欠である。日本ならではのノウハウが詰まったクリエイター作品のブランド力を最大限に活用し、生成AI産の作品とは一線を画するような価値を付与出来るか、企業・業界を挙げた取り組みが期待される(図表13)。



(出所)日本経済新聞「日本にディズニーは生まれるか メガIP企業が開く未来」、中山淳雄著「キャラクター大国ニッポン」、「エンタメビジネス全史」、「エンタメビジネス全史第2版」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

