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長寿化とAIが変える日本経済

一橋大学経済研究所 教授 宮本 弘曉

巻頭言

日本経済のこれからを考えるうえで、鍵となるのは長寿化とAIである。一見すると別々のテーマに見えるが、実はこの二つは深く結びついており、今後の日本の成長と社会のあり方を左右する。

まず長寿化だ。日本の大きな課題として高齢化が語られることは多いが、同じ現象は「長く生きられる社会になった」ということでもある。実際、簡易生命表によれば、近年生まれた日本人の子どもは、女の子の二人に一人、男の子の四人に一人が90歳まで生きる計算になる。まさに人生100年時代が現実のものとなりつつある。

しかも重要なのは、単に寿命が延びているだけではないという点だ。近年では、高齢者の健康状態や認知機能も以前に比べて改善していることが指摘されている。つまり私たちは、ただ長く生きるようになっただけでなく、より長く元気に活動できるようになっているのである。

そう考えれば、今後は働く期間もおのずと長くなるとみるのが自然だろう。これは現在の中高年世代だけの話ではない。むしろ、これから社会に出る若い世代にとってこそ重い意味を持つ。長い職業人生のなかで、産業構造も、必要とされる知識やスキルも、働き方も大きく変わっていくからだ。長寿化とは、年金や医療、介護だけの問題ではない。人生設計、キャリア形成、学び直しのあり方そのものを問い直すテーマなのである。

もう一つの鍵がAIだ。AIという言葉が生まれたのは1956年。今年、AIは「古希」を迎える。その長い歴史のなかで、AIは期待と停滞、ブームと冬の時代を繰り返してきた。しかし、この数年で状況は一変した。AIは研究者や一部企業だけのものではなくなり、生活にも仕事にも入り込み、日常の道具になりつつある。

AIが仕事に与える影響は大きい。だが、それは単純に「仕事がなくなる」という話ではない。仕事を構成するタスクの一部がAIに置き換わり、一部はAIによって補完され、人間に求められる役割そのものが組み替えられていく。縮小する仕事もあれば、高度化する仕事もある。消える職種もあれば、新しく生まれる職種もある。重要なのは、職業が残るかどうかだけではない。その中身がどう変わるのか、そこで人間にどのような価値が求められるのかを見ることである。

そして、ここが最も重要である。長寿化とAIは別々の話ではない。働く期間が長くなるということは、それだけ多くの変化に直面するということでもある。職業人生が長くなれば、一度身につけた知識やスキルだけで最後まで乗り切ることは難しい。AIの進歩を含む大きな変化に合わせて学び、適応し、自分を更新し続ける力が、これまで以上に重要になる。

だからこそ、日本にいま最も求められているのは構造改革である。AIに加え、少子高齢化や脱炭素化など、日本経済を取り巻く環境は大きく変わっている。にもかかわらず、働き方や人材マネジメント、組織の仕組みが旧来のままであれば、変化を成長につなげることはできない。長寿化とAIを前提に、労働市場や組織のあり方を柔軟に組み替えていくことこそ、日本の構造改革の核心であり、持続的な成長に不可欠である。

そして、その改革を前へ進めることが、いま政治に強く求められている。目先の課題への対応だけでは足りない。長寿化とAIという大きな構造変化を見据え、日本の社会と経済をどのような姿へ導くのか。中長期のグランドデザインを描き、その実現に向けて制度と政策を着実に積み上げていくことが不可欠である。変化の時代だからこそ、場当たり的な対応ではなく、未来を構想する力が問われている。