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序にかえて


大蔵省財政史編さん顧問


山口 光秀


 欧米諸国に遅れて近代化を果したわが国は、明治、大正、昭和という年月の間に国家として急速な発展を遂げ、世界に伍する経済体制を築くに至りました。そうした成果は、国民のたゆまざる努力によって成し遂げられたものであることは言うまでもありませんが、国内経済の安定と発展に向けて、財政や金融等の諸制度が果たしてきた役割には大きなものがあると思われます。大蔵省では、こうした財政・金融等の役割を後世に伝えることを目的として、昭和44年に「大蔵省百年史」(全3巻)を刊行しました。その後のわが国は約20年間にわたる昭和の時代には、ニクソン・ショック、二度にわたるオイル・ショックによる経済混乱、プラザ合意後の不況といった幾つかの節目を乗り越え、さらなる経済発展を遂げ、また、平成の時代となっては、バブル経済の崩壊によって今日のような苦心を重ねてきているところであります。
 温故知新の諺にもあるように、わが国の経済が将来に向けての展望を切り拓くためには、時として先人たちの苦心の跡を克明にたどり、歴史の経験に学ぶことも大切でしょう。幸い、大蔵省には従来から、修史事業に積極的に取り組む伝統があり、これまでにも、明治、大正、さらには、昭和の第1次オイル・ショックまでを対象とする財政史の編さんを5期に分けて継続してきました。本書は、このような不断の研究成果をもとに「大蔵省百年史」を改訂するとともに、昭和の歴史を重視する意味からも昭和の終わりを一区切りとして約20年間に及ぶ記述を新たに加え、一つの明治、大正、昭和史として発刊したものです。
 「大蔵省百年史」は当初、元主税局長の青木得三氏が編集顧問に就任されましたが、同氏の死去にともない昭和43年7月からは元大蔵事務次官の谷村裕氏を編纂顧問に委嘱しました。同氏は「大蔵省百年史」の完成後も財政・金融史編さんへの熱意を抱き続けられ、「大蔵省百年史」の絶版後はいちはやく再版作業の指示を下されました。そして、編集の過程において大きなお力添えを頂戴しながら、惜しくも平成8年10月不帰の客となられました。私は、谷村氏の遺志を継ぐこととなりましたが、本書の完成を謹んで御霊前にご報告するとともに、心からご冥福をお祈りする次第です。

平成10年10月


「大蔵省百年史」

発刊のことば


第77代大蔵大臣


福田 赳夫


 明治2年大蔵省が中央行政機関として創設されてから、本年で百星霜をけみしたことになります。
 このたび百周年を記念して、明治・大正・昭和三代の歩みを通観する「大蔵省百年史」を発刊する運びとなりました。
 当時、極東の孤立した一小国にすぎなかったわが国が、今日では国際社会の有力な一員となり、世界の注視を集めていることは、周知の事実であります。
 かえりみますと、わが国は、欧米先進諸国よりはるかに遅れて明治初年にようやく近代化への第一歩を踏み出したのでありますが、それ以来、数度にわたる戦争、恐慌、大震災等いくたの試練をへて、遂には大東亜戦争の敗戦という未曾有の破局的事態に直面いたしました。しかし、これらの困難を見事に克服して、今日まで世界でも類いまれな躍進を遂げてまいりましたことは、ひとえに私たちの父祖の残した業績とそれを引き継いだ国民各位の努力のたまものであります。
 この間、大蔵省の歩んだ道も、まことに波乱と変転に富んだものでありましたが、常にわが国の発展と国民の反映のために努力を続けてまいりました。私ども現在大蔵省に職を奉ずるもの一同は、この百周年にあたり、再び決意を新たにして、先人の貴重な経験と教訓を生かし、今後とも一層の努力をはらう所存であります。
 この「大蔵省百年史」は、大蔵省の行政や制度の歴史であると同時に、わが国近代の財政・金融史としての内容をも備えております。本書を繙くことによって歴代先輩の苦心の跡をたどりつつ、財政・金融の百年の歴史と大蔵省の果してきた役割について理解を深めていただくとともに、将来の飛躍のための一助として役立てていただければ幸甚に存じます。

昭和44年10月


[続きがあります]

 

 

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