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「デジタル通貨」に関する調査研究

令和4年5月

 

財務総合政策研究所では、注目が高まる「デジタル通貨」を取り上げ、2022年3月〜5月にわたって外部の有識者によるオンライン講演会という形式による調査研究を行った。

講演会では、

    • 「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」を巡る取組みの現状や課題といった基本的な情報
    • 比較的取組みが先行しているとされる欧州と中国の事例を基にした日本へのインプリケーション
    • デジタル通貨に関する民間事業者の視点
    • 日本のスタートアップ企業によるカンボジア等での取組み事例

をテーマとして、それぞれ広範にわたる内容をご紹介いただいた。

講演会各回の概要と講演資料を以下の通り取りまとめたので、多くの方のご参考にしていただきたい。

ご講演いただいた先生方には、この場を借りて改めて厚く御礼を申し上げる。

 

目次
(役職は令和4年5月現在)

「中銀デジタル通貨のインパクトとデジタル円への期待」

報告(概要)

資料(PDF:20260KB)

中島 真志

(麗澤大学経済学部教授)

「デジタル通貨の設計と枠組み−欧州と中国の取り組みの持つ意味合い」

報告(概要)

資料(PDF:2388KB)

井上 哲也

(野村総合研究所金融デジタルビジネスリサーチ部シニア研究員)

「民間事業者からみたデジタル通貨の課題と取組み」

報告(概要)

資料(PDF:9061KB)

山岡 浩巳

(フューチャー株式会社取締役)

「デジタル通貨がもたらす未来−スタートアップ発の技術と世界・日本での取組み−」

報告(概要)

資料(PDF:7348KB)

宮沢 和正

(ソラミツ株式会社代表取締役社長)

 


「中銀デジタル通貨のインパクトとデジタル円への期待」

報告者
中島 真志 (麗澤大学経済学部教授)

【報告(概要)】

様々な取引がデジタル化する中で、通貨に対するデジタル化へのニーズが高まっている。デジタル通貨の実現を可能にする技術が進歩し、世界各国の政府・中銀では民間事業者によるデジタル通貨への対抗ともいえる動きもみられる。

報告資料では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の必要性を示すとともに、ICカードやQRコードを利用したキャッシュレス決済など、民間事業者によるデジタル決済サービスが普及する中で、CBDCによってどういったことが可能になるのか、その役割について解説している。

資料の構成は、1.中銀デジタル通貨を巡る国際的な動き、2.なぜ今、中銀デジタル通貨なのか、3.CBDCのデザインに関する論点、4.CBDCのインパクトに関する論点、5.先進プロジェクトの事例、6.「デジタル円」は実現するのか、7.CBDCをどう捉えるのか、となっており、CBDCの実現は遠い話ではなく間近に迫っていると指摘する。CBDCに対しては、民間事業者が提供するキャッシュレス決済が普及しつつある中で、その影響を過小に評価する見方と、金融システムや金融政策に大きな影響を与えるというように過大に評価する見方があり、中島先生は「その中間くらいなのではないか」と言う。

CBDCはホールセール取引に関する実験が先に進んできたが、本講演では、個人や企業などに幅広く利用されるリテール向けCBDCを中心に取り上げた。「デジタル円」の未来については、諸外国の動向等を踏まえ、顧客から商店への支払い(B2C)と個人間の支払い(P2P)の両方に利用可能な将来を思い描く。

中島先生は「中央銀行の通貨とキャッシュレス業者の競争は既に始まっていて、今は現金とキャッシュレス決済の戦い。今後はそのキャッシュレス決済とCBDCの戦いが繰り広げられ、ポイントを貯めたいとか使い勝手が良いとか、利用目的に応じて生き残っていくだろう」と言う。

最後に、通貨は、その時々に利用可能な素材や技術を使って作られてきたものであり、現代の最先端技術であるデジタル技術を使って通貨を作ることは自然な流れである、との考えを示し、CBDCの実現に備える必要性を説いている。

 

資料(PDF:20260KB)

 

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「デジタル通貨の設計と枠組み−欧州と中国の取り組みの持つ意味合い」

報告者
井上 哲也 (野村総合研究所金融デジタルビジネスリサーチ部シニア研究員)

【報告(概要)】

世界で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究開発が進んでいる。検討や実証実験といった取組みが先行している国や地域の中でも、金融経済の規模が大きく複雑な金融システムを有するユーロ圏と中国を参照しながら、日本への意味合いやインプリケーションを提示する。

報告資料では、これらの地域での議論や実験の内容を踏まえて、CBDC自体の設計やその運営の枠組み、政策面での課題と対応、CBDCの活用イメージなどについて、最新の議論を紹介している。さらに、これらの地域での議論が日本におけるCBDCの導入のあり方に対して与え得る示唆を整理している。

資料の構成は、1.ユーロ圏の問題意識、2.ユーロ圏の議論と日本への意味合い、3.中国の問題意識、4.中国での議論と日本への意味合い、となっており、井上氏が主催する「通貨と銀行の将来を考える研究会」における日本でのCBDCの展望に関する議論と対比する形で解説している。具体的には、CBDC自体の設計・特性については、匿名性の確保と個人の取引情報の利活用、媒体の選択とオフラインでの支払・決済への対応、クロスボーダー取引への拡張、を論点に挙げ整理している。また、CBDCの運営の枠組みについては、コストと技術、銀行預金との関係、金融仲介との関係、民間ベースの支払・決済システムとの連携、を論点に挙げ整理している。

井上氏は、「CBDC導入の意義としては、資金決済手段の高度化に限らず、イノベーションのための競争環境の整備や長い目で見た通貨の国際競争力など様々な要素を考慮する必要があり、総合的には合理性があると考えることが可能だ。加えて今後は、効率的なDVP(Delivery Versus Payment:証券と資金の授受をリンクさせ、一方が行われない限り他方も行われないようにする仕組み)の実現やスマートコントラクト(契約履行管理の自動化)など、デジタル通貨が本来有する特性を生かすための基盤作りという視点も重要になる」と言う。

なお、「通貨と銀行の将来を考える研究会」では、民間有識者が中心となって、日本におけるCBDCの展望に関する議論を進めているとのことである。

 

資料(PDF:2388KB)

 

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「民間事業者からみたデジタル通貨の課題と取組み」

報告者
山岡 浩巳 (フューチャー株式会社取締役)

【報告(概要)】

民間事業者の視点からデジタル通貨の課題と取組みを解説する。

資料の構成は、1.現代通貨システムの意義、2.デジタル化と通貨システムの変革、3.中央銀行デジタル通貨の論点、4.民間デジタル通貨の可能性、5.デジタル通貨と金融インフラの将来像、となっている。

まず現代通貨システムについて、近代国家の完成期である19世紀に一斉に成立した歴史と、中央銀行と民間銀行の二層構造という特徴を紹介する。そのうえで、デジタル革命を背景とするビッグテック企業の決済参入や暗号資産、ステーブルコインはこのシステムへの「チャレンジャー」となり得ること、これへの対応という面もあるCBDCも、やはり通貨システムを変貌させ得ることを説明する。

メガバンク、IT企業、自治体等からなる「デジタル通貨フォーラム」は、円建ての民間デジタル通貨「DCJPY(仮称)」を発行する実証実験を進めている。DCJPYはまずは銀行が発行主体となることが想定されている。資料では、DCJPYを用いたグリーン電力取引や気仙沼市における地域デジタル通貨の実証実験等を紹介している。

山岡氏は「DCJPYはデジタル通貨間の互換性・相互運用性を実現する「共通領域」と、高度なニーズに応えるプログラムを組み込める「付加領域」からなる二層構造を採ることで、デジタル通貨の課題である汎用性、資源配分の効率性、イノベーションなどの実現を図っている」、「仮にCBDCが発行されても、共通領域に相当する部分をCBDCに委ねる形で共存が可能である」と説明する。

あわせて、通貨のデジタル化は国際間、資産間など様々な次元での通貨間競争を促すという未来展望を示し、通貨の信認確保の重要性を語っている。

 

資料(PDF:9061KB)

 

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「デジタル通貨がもたらす未来−スタートアップ発の技術と世界・日本での取組み−」

報告者
宮沢 和正 (ソラミツ株式会社代表取締役社長)

【報告(概要)】

ソラミツ社独自のブロックチェーン技術を用いたカンボジアの「バコン」を始めとした東南アジア等におけるデジタル通貨に関する取組みを紹介するとともに、日本の決済システムとデジタル通貨の関係等について解説する。

資料の構成は、1.ブロックチェーン技術の動向、2.カンボジア中央銀行デジタル通貨、3.日本におけるデジタル通貨、4.デジタル通貨・デジタルIDがもたらす未来、となっている。

まず同社の開発したブロックチェーン技術であるHYPERLEDGER IROHAの特性を示しつつ、これを用いたカンボジア中央銀行のデジタル通貨「バコン」の仕組みと「バコン」を利用したカンボジア国内でのホールセール決済やリテール決済の状況、マレーシア−カンボジア間のクロスボーダー送金の実例について説明する。加えて、ラオスやフィジー等での同社の取組みを紹介する。

次にキャッシュレス決済と民間デジタル通貨の仕組みの違いを整理したうえで、日本におけるデジタル地域通貨や民間デジタルIDの展開と、それらによる様々な社会課題解決の可能性を示す。デジタル通貨とデジタルIDを活用して、移動、健康、買い物、子育て、教育等のサービスをアプリで一元的に提供することを目指すスマートシティの実例等も紹介している。

宮沢氏は「政策的には、ホールセールやクロスボーダーにおけるCBDCの早急な整備や、官民連携によるデジタル通貨の標準化、相互運用の促進が課題である。例えば、ホールセール取引はCBDCで、リテール取引はCBDCを裏付けとした民間デジタル通貨でイノベーションを推進する、という連携が効率的ではないか。また、銀行オープンAPIの普及促進とFintech企業の銀行接続の重複投資を防ぎ、銀行間決済のコストを低減するために、カンボジアやラオスでは既に実現している公共財としての銀行オープンAPIハブ機能への、国家的な投資が必要ではないか。」との考えを示している。

 

資料(PDF:7348KB)

 

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