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「仕事・働き方・賃金に関する研究会―
一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」報告書

令和4年6月発行

目次
(役職は令和4年5月末時点)


はじめに(PDF:359KB)                           神林  龍 (一橋大学経済研究所教授)

第1章 仕事・働き方・賃金を巡る変化と課題

― 一人ひとりが能力を発揮できる社会に向けて ―

全文(PDF:1182KB)

要旨

上田 淳二

(財務省財務総合政策研究所総務研究部長)

鶴岡 将司

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

第2章 職業とタスクからみる仕事と賃金のジェンダー格差

全文(PDF:1024KB)

要旨

麦山 亮太

(学習院大学法学部政治学科准教授)

第3章 チャイルドペナルティとジェンダーギャップ

全文(PDF:851KB)

要旨

古村 典洋

(京都大学経済研究所特定准教授、財務総合政策研究所コンサルティングフェロー)

第4章 自営業者の働き方―職業・収入・制度・仕事環境に着目して

全文(PDF:968KB)

要旨

仲  修平

(明治学院大学社会学部社会学科准教授)

第5章 性別役割分業、長時間労働とジェンダーバイアス

全文(PDF:1132KB)

要旨

大湾 秀雄

(早稲田大学政治経済学術院教授)

第6章 女性の労働参加・労働時間の選択

全文(PDF:1656KB)

要旨

児玉 直美

(明治学院大学経済学部経済学科教授)

第7章 男女間賃金格差の国際比較と日本における要因分析

全文(PDF:1474KB)

要旨

山本 高大

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

桃田 翔平

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

笹間 美桜

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

網谷 理沙

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

玄馬 宏祐

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

鶴岡 将司

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

 

(※)本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

 


第1章
仕事・働き方・賃金を巡る変化と課題― 一人ひとりが能力を発揮できる社会に向けて ―

報告者
上田 淳二 (財務省財務総合政策研究所総務研究部長)
鶴岡 将司 (財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

【要旨】

今後、人口の減少が続き、産業構造や技術が大きく変化する中で、労働生産性と賃金が上昇して家計所得が増加し、少子化の傾向に歯止めをかけるためには、長時間労働と低い生産性から脱却して、一人ひとりが能力を発揮し、高い付加価値生産性を実現し、その成果を享受できる社会を目指していくことが必要とされる。そのためには、働く側の視点、雇う側の視点、さらに社会全体の視点から、現状を把握し、課題を認識し、あるべき政策を考える必要がある。本章では、仕事・働き方・賃金について、近年の労働市場における変化の特徴を、主として男女の違いという視点に立ってこれまでのトレンドと変化を概観した上で、今後、目指すべき方向に向けて、どのような課題があり、どのような対応が必要と考えられるかについて、研究会における議論を踏まえて整理した。

近年、日本において、女性の労働参加率は大きく上昇してきたが、男女間で賃金や労働時間の格差は依然として大きい状態が続いている。その背景として、長時間労働を行い稼ぎ手としての役割を期待される男性と、家事・育児等の主たる担い手としての役割を期待される女性の間の固定的な役割分担意識が長期間にわたって継続する中で、様々な規範の下での人々の行動の結果として、子どもをもつ女性の収入が低い「Child Penalty」が観察され、平均的に女性の時間当たり賃金が低く労働時間が短い傾向が続いてきた。

働く側の視点からは、就業調整を促す仕組みが見直され、男女の職業選択にも徐々に変化がみられ、自営業と雇用の位置づけも変わりつつあるが、働き手の行動の変化は、全体としては緩やかである。雇う側の視点からは、今後、業務の標準化やタスクの明示・可視化等の「職の再設計」によって、働き手にとっての柔軟な働き方をより一層可能にするとともに、「ジェンダーバイアス」を回避するための手立てを講じることによって、多様な働き手の活躍を促すことが大きな課題となる。さらに、社会全体の視点からは、企業による取組みを可視化し、職種に求められるタスクや労働条件を明確化することによって、市場の機能が発揮されることを通じて多様な働き手が活躍できる環境を実現するとともに、就業の形態に依存せずに、人的資本が蓄積され、ショックが生じた場合にそれが大きく棄損されないような仕組みを構想していくことが求められる。

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第2章
職業とタスクからみる仕事と賃金のジェンダー格差

報告者
麦山 亮太 (学習院大学法学部政治学科准教授)

【要旨】

日本の男女間賃金格差はOECD諸国のなかでもきわめて高い水準にあり、さらなる改善が急務である。本稿は男女間賃金格差を生む要因として男女が従事する仕事の違いに着目し、男女の仕事がどの程度異なっており、かつそれが男女間賃金格差に対していかなるインパクトを持っているのかを、職業とタスクという仕事を測定する2つの指標を用いて明らかにする。結果は以下の3点にまとめられる。第1に、男性と女性は異なる職業に従事しており、この傾向は1990年から2015年にかけて大きく変わっていない。ただし20代の若年層については男女の職業分布は以前よりも近づいている。第2に、女性は男性に比して高度な技能を要する非定型タスクに従事していない。こうしたタスクに従事する女性は徐々に増加しているが、他方でさほど高度な技能を要しないタスクに従事する女性も増加するという分化が進んでいる。第3に、男女の従事する職業とタスクの違いは男女間賃金格差を一定以上説明する。とりわけ子どもを持つ男女間の賃金格差が職業とタスクの違いによって説明され、子どもを持つ女性が難易度や要求される技能の高い仕事に従事できていない可能性を示唆する。女性がより技能を活かせる仕事(職業ならびにタスク)に従事できるよう促すとともに、業務内容に比して賃金水準が低い仕事の賃金を高めることが、男女間賃金格差の縮小に寄与するだろう。

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第3章
チャイルドペナルティとジェンダーギャップ

報告者
古村 典洋 (京都大学経済研究所特定准教授、財務総合政策研究所コンサルティングフェロー)

【要旨】

先進国においてジェンダーギャップの縮小が進んできている。しかし、ジェンダーギャップの「残り」は未だ大きく粘着的である。その「残り」を説明する要因として近年改めて注目を浴びているのが、チャイルドペナルティ、すなわち子どもを持つことに伴う労働所得の減少が主として女性に帰属していることである。

本章においては、先進国を対象とした先行研究をレビューするとともに、日本におけるチャイルドペナルティの推定を行った。その結果、日本のチャイルドペナルティは、各国と比較しても大きく、各国と同様に専ら女性に帰属していることが確認された。このことは、日本においてもチャイルドペナルティがジェンダーギャップにとって重要であることを強く示唆している。

保育サービスが着実に拡張されてきた今、その効果に関する研究のまとめと更なる蓄積が重要であるとともに、チャイルドペナルティの縮小に貢献する保育サービスの「次の一手」とは何かを考える必要がある。

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第4章
自営業者の働き方―職業・収入・制度・仕事環境に着目して

報告者
仲  修平 (明治学院大学社会学部社会学科准教授)

【要旨】

本稿では新型コロナウイルス感染症の拡大下における自営業者の働き方を、職業・収入・制度・仕事環境の観点から検討した。主な分析結果は次の3点である。第一に、職業の分布は専門・技術職の比率が相対的に高いことが示された。本稿で用いたデータに基づくと、雇人なしの自営業者については男性で約30%、女性で約40%が専門・技術職であった。第二に、感染症の拡大による影響は、非正規雇用者の生活よりも自営業者の生活においてより大きな打撃を受けていることが明らかとなった。また、事業を下支えする制度(持続化給付金)を利用すると、男性においては事業を継続しやすい傾向となっていることが分かった。第三に、就業パターンと仕事環境の関連はジェンダーによって非常に大きな差が生じていることが示された。とりわけ、自営業から常時雇用へ移行するパターンでは男性の平均収入が顕著に減少しているのに対して、女性の平均収入は自営業を継続する場合とほぼ同水準であった。また、自営業から常時雇用へ移行する場合に、職業能力の向上機会が減少する傾向であった。これらの結果を踏まえて、今後の研究に向けた論点を検討する。

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第5章
性別役割分業、長時間労働とジェンダーバイアス

報告者
大湾 秀雄 (早稲田大学政治経済学術院教授)

【要旨】

日本において大幅な男女賃金格差が継続している要因としては、性別役割分業意識が根強いこと、長時間労働の賃金プレミアムが大きいこと、ジェンダーバイアスが多くの日本人の考えや判断に影響を与えていること等が挙げられる。性別役割分業意識を修正するには、男性の育児休業取得を進める施策を取りながら、時間をかけて、個人と企業の双方の意識変革のために働きかけを行う必要がある。長時間労働の賃金プレミアムを低下させるためには、職の標準化とチームの活用を通じて、社員がより補完しあえるよう職を再設計していく必要がある。ジェンダーバイアスを修正し、それが女性の社会進出の妨げにならないようにするには、経営陣の責任を確立し、女性管理職の育成状況の可視化・情報開示を義務付ける政策が効果的となろう。

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第6章
女性の労働参加・労働時間の選択

報告者
児玉 直美 (明治学院大学経済学部経済学科教授)

【要旨】

本稿では、@女性の労働参加と、A女性の就業調整に関わる制度上の要因、という大きく2つのテーマについて考察する。

過去40年間、女性の労働参加率は上昇した。これは、女性の非婚化、晩婚化だけが要因でなく、既婚女性、子どものいる女性の労働参加率も上昇したためである。夫の年収が同じであれば、妻は昔より働くようになっている。しかし、年収の高い夫を持つ妻の就業率は低いという「ダグラス=有沢の法則」の関係性は、今でもかなり強く維持されている。

日本の女性の中で、就業調整を行い被扶養者の立場にとどまって賃金の上昇を期待しない層がどの程度いるのかという点については、2010年時点ではパートタイム女性労働者の21%が就業調整をしていた。2016年社会保険の適用拡大に伴い、雇用管理の見直しを行った/行わなかった事業者はほぼ同比率で、見直しを行った事業者のうち、58%が労働時間延長、66%が労働時間短縮を行った(複数回答可)。労働時間を延長した事業所も短縮した事業所も理由の最多は、短時間労働者自身の希望であった。2016年以降の税制、社会保険制度における適用範囲の変更は、103万円と130万円の年収への就業調整行動を緩和させる効果を持つことが想定される。しかし、2020年時点データによる分析では、女性の年収分布において予想された壁の解消には至っていない。この要因としては、人々の認識のタイムラグや、雇主が支給する配偶者手当の効果などの影響が考えられる。

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第7章
男女間賃金格差の国際比較と日本における要因分析

報告者
山本 高大 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)
桃田 翔平 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)
笹間 美桜 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)
網谷 理沙 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)
玄馬 宏祐 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)
鶴岡 将司 (財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

【要旨】

本稿では、国際比較から見えてくる日本の男女間賃金格差の特徴を明らかにした上で、その背景にあると考えられる仮説の検証を行った。

労働市場の男女間格差について国際比較を通して分析すると、日本の女性の就業率は他の先進諸国と比べて相対的に高く、パートタイム比率も他国と比べて極端に高いわけではないことが分かる。一方で、パートタイム労働・超過勤務も含めた男女間賃金格差は、フルタイム労働・所定内労働に限った男女間賃金格差よりも大きい。要因別に分解した分析では、賃金率の格差は水準としては大きいものの近年は縮小傾向にある。一方で労働時間の格差は高い水準にあり、近年大きく変化していないことが分かった。

こうした男女の働き方・賃金の違いが生じる背景として、Goldin(2014)は米国の労働者のデータを用いて長時間労働に対する賃金プレミアムの仮説を示した。これと同様の手法を用いて、日本に関して職業毎に仕事の他者との代替可能性を表す指標を導出し、男女間賃金格差との関係を調べたところ、そうした指標と男女間賃金格差の間に有意な関係が得られなかった。しかし、この結果をもって日本の男女間賃金格差が職業の代替可能性に依存していないと結論付けることはできず、例えば海外との雇用慣行の違いから、職業別に男女間賃金格差を分析することが適切でない可能性がある。

そこでパネルデータを用いて、各個人に関して働き方と賃金の関係を分析したところ、働き方の自由度が高く、仕事内容が単純な人ほど賃金が低くなることが明らかになった。また、男女間賃金格差との関係としては、女性の従事する仕事が、自由度が高く、仕事内容が単純なものに偏っていることから、男女間賃金格差とこれらの仕事の性質が関係していることが示唆される。

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