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「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」報告書

令和3年6月発行

目次
(役職は令和3年3月末時点)


はじめに(PDF:500KB)                           阪田 渉(財務省財務総合政策研究所所長)


序章 少子化と経済社会の構造変化はどのように関係しているか

全文
(PDF:1037KB)

上田 淳二

(財務省財務総合政策研究所総務研究部長)

第T部 少子化と経済・社会の構造変化の関係

 第1章 1970年代以降の人口政策とその結果

―アジアにおけるケアの脱家族化を中心に

全文(PDF:1564KB)

要旨

落合 恵美子

(京都大学文学研究科教授)

 第2章 労働市場からみた少子化問題

―福祉資本主義類型論からの対応策―

全文(PDF:1515KB)

要旨

山田 久

(株式会社日本総合研究所副理事長・主席研究員)

 第3章 東アジアの低出生力

全文(PDF:1096KB)

要旨

鈴木 透

(ソウル大学保健大学院客員教授)

 第4章 少子化対策のエビデンス

全文(PDF:1022KB)

要旨

山口 慎太郎

(東京大学経済学研究科教授)

第U部 日本における少子化の進展の背景と求められる対応

 第5章 少子化の日本的特徴 不安定収入男性の結婚難

全文(PDF:826KB)

要旨

山田 昌弘

(中央大学文学部教授)

 第6章 合計特殊出生率と未婚率

―都道府県データを用いた分析―

全文(PDF:1673KB)

要旨

小野 稔

(財務省財務総合政策研究所副所長)

瀬領 大輔

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 第7章 結婚を巡る未婚女性の理想と現実

全文(PDF:553KB)  2021年7月訂正内容(PDF:109KB)

要旨

奥 愛

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

瀬領 大輔

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 第8章 未婚者の「いずれ結婚したい」はなぜ実現しないのか

全文(PDF:1344KB)

要旨

網谷 理沙

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

中島 安規

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

 第9章 パネルデータと地図からアプローチする第二子出生にかかる

要因分析と提言

全文(PDF:2525KB)

要旨

内藤 勇耶

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

 第10章 新型コロナウイルスの流行による少子化への影響

全文(PDF:1198KB)

要旨

笹間 美桜

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 

(※)本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

 


第1章
1970年代以降の人口政策とその結果―アジアにおけるケアの脱家族化を中心に

報告者
落合 恵美子 (京都大学文学研究科教授)

【要旨】

1970年代の第2次人口転換以降、いのちの再生産(ケア)を家族に依存していた「20世紀体制」が崩壊し、ヨーロッパや北米諸国では、国家、市場、コミュニティなどのセクターもケアを分担する「ケアの脱家族化」を実施して、出生率の回復と女性の就労の両立を実現することができた。

他方、「圧縮近代」のアジア諸国では、近代以前からの親族による支援を継続しつつ、社会主義近代を経験した中国などでは「国家による脱家族化」、シンガポールなどでは「市場を通じた脱家族化」が行われた。これは「半圧縮近代」の日本が「ケアの家族化」から脱却できないのと対照的であった。しかし、アジアの国々の「ケアの脱家族化」は幼児をもつ女性の就労には効果があったが、出生率の上昇には効果が無かった。「市場を通じた脱家族化」では「ケアサービス供給の脱家族化」にはなっても「ケア費用の脱家族化」にならないからであろう。しかし、近年の韓国では無償保育制度など「ケア費用の脱家族化」が急速に進んだが、出生率への効果は全く見られない。医療費、教育費、住宅費などの自己負担、ワークライフバランスのとりにくさなど、東アジア社会の基本条件がそもそものネックとなっていることがうかがえる。「ケア費用」を狭く定義するのではなく、通常の意味での保育政策や家族政策をはるかに超えた範囲の社会の仕組みを改善することが、アジア諸社会の少子化問題解決のためには必要であると考えられる。

また、人口学的に見ても、人口移動無しに出生数・出生率のみの改善で第2次人口転換を乗り越えた国は無く、フォーマルな労働力率を限界まで上げる政策は、再生産の危機を招く恐れがある。総合的な人口政策及び生産のみならず、いのちの再生産を含めた持続可能な社会的再生産の仕組みの構築が必要である。

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第2章
労働市場からみた少子化問題―福祉資本主義類型論からの対応策―

報告者
山田 久( (株式会社日本総合研究所副理事長・主席研究員)

【要旨】

日韓での少子化進行の要因として、経済構造の激変のもとで雇用の在り方や働き方が大きく変化し、雇用安定性の低下や収入の不安定化により、家計の子育てコストに対する負担能力が低下したことが大きい。その結果「子育てや教育にお金がかかりすぎる」との認識が強まった。さらに、日韓では総じて教育費の公的負担が少なく、家計の子育てコストの高さを際立たせることになってきた。加えて、子育ては「家庭内での女性の役割」という社会意識の変化が遅々として進まないなか、出産適齢期の女性の労働力が急激に上昇したことで少子化に拍車がかかった面が見落とせない。

欧米では、保育施設の充実や家庭内保育サービスの普及により、子育て負担を軽減するインフラが整備されてきたほか、男性の家事・育児参画が進み、子育て負担が女性に大きく偏る状況が是正されてきた。日韓で少子化に歯止めをかけるためには、これらを踏まえて多方面からの対応が求められる。

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第3章
東アジアの低出生力

報告者
鈴木 透 (ソウル大学保健大学院客員教授)

【要旨】

先進国の出生力はいずれも置換水準を下回っているが、韓国・台湾等の儒教圏の出生力は飛びぬけて低い水準を示している。これは急速に発展・変化する家族外の社会経済システムと、相対的に変化が緩慢な家族システム間の乖離が大きいためと解釈される。この解釈では台湾の出生率が韓国より低いことが予想されるが、実際には2017年以後の急激な低下により、近年は韓国の出生率の方が台湾を下回っている。これは政権交代でも状況が変わらなかったことに対する失望感によると思われる。

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第4章
少子化対策のエビデンス

報告者
山口 慎太郎 (東京大学経済学研究科教授)

【要旨】

本章では少子化対策についてのエビデンスを紹介し、それを踏まえた上で、より費用対効果に優れた政策はどのようなものであるかを議論する。多くの経済学の実証研究は、児童手当や保育所整備といった家族政策は出生率を引き上げることを明らかにした。最新の研究によると、より効果的な少子化対策を行うにはジェンダー平等を達成する必要があることが指摘されており、待機児童対策や男性育休取得促進などで女性の子育て負担を減らすような政策が特に有効だと考えられている。

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第5章
少子化の日本的特徴 不安定収入男性の結婚難

報告者
山田 昌弘 (中央大学文学部教授)

【要旨】

2021年4月現在、新型コロナ禍によって日本の少子化が加速している。今年(2021年)の出生数は80万人を割り込むことが確実視されている。少子化の結果、出生数減少のスピードは加速しており、徐々に子ども数の減少の社会経済的影響が大きくなり、孤立した中高年の生活問題が顕在化してくると予測される。

少子化問題には、「不安定収入の男性」の結婚難という大きなタブーがあった。この層が1990年以降急増したことが未婚化、少子化の主因であり、この層の多くが結婚して子どもを産み育てない限り、日本の少子化の解消は望めない。不安定収入男性が子どもを共に育てる結婚相手として女性に選ばれない理由は様々あるが、「結婚したら夫が主に稼ぐ」という戦後高度成長期に適合的だった家族意識が強く残っていることが一因である。これを解消するためには、若年層の経済的安定を図ると共に、多様な家族形態を促進することが必要である。

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第6章
合計特殊出生率と未婚率―都道府県データを用いた分析―

報告者
小野 稔 (財務省財務総合政策研究所副所長)
瀬領 大輔 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

本章では、未婚率の上昇と合計特殊出生率の低下との関係などについて、都道府県データを用いた分析を行った。

女性未婚率と合計特殊出生率との関係では、晩婚化の進行や未婚率の上昇が合計特殊出生率の低下に影響しているとみられ、また、晩婚化とともに出産年齢の高齢化が進行していることがわかる。

国内の人口移動と未婚率との関係としては、まず、女性の結婚時期(25歳女性未婚率)の地域間の違いについて、初職時までの転入比率が高い地域で未婚率が高くなり、特に、大卒の構成比が高い場合、未婚率の水準が高くなる傾向がある。

男性就業者(30〜34歳)の年収構造については、転入超過が大きい地域ほど高い年収帯に偏り、転出超過が大きい地域ほど低い年収帯に偏っている。年収構造は時々の経済社会の状況だけではなく、就職時の経済社会の状況も反映している可能性がある。

男性就業者(30〜34歳)の年収構造と未婚率との関係については、それぞれの地域で、年収帯が高いほど未婚率は低くなる傾向がある。地域間比較では、女性の未婚率と同様、転入超過の程度が大きいほど未婚率の水準は高い。時系列比較では、各地域とも直近10年程度大きな変化はみられない。

女性(30〜34歳)の働き方と未婚率との関係については、仕事を主とする女性就労者の構成比は大きく上昇しており、未婚率は2005年前後をピークに以後低下している。一方、既婚者をみると、家事を主とする女性就業者や専業主婦が多く含まれる非労働力(家事)の構成比は、おおむね低下傾向にある。

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第7章
結婚を巡る未婚女性の理想と現実

報告者
奥  愛 (財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)
瀬領 大輔 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

本章は、未婚者が増えている背景として女性の結婚の理想と現実の間に生じているギャップに着目し、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査報告書」の独身者調査の結果を主に用いて分析した。現在は、男女ともに働きながら家庭を作っていくという考え方が多くなっている。一方、理想としていないにも関わらず、実際は結婚しないまま働く女性が増えている。生活面では、未婚女性は結婚相手の家事・育児の能力を重視・考慮しているが、実際には結婚後の家事・育児の負担は女性に偏っている。経済的側面では、働いている女性は多いが、女性は男性よりも結婚相手の経済力や職業を重視・考慮している。また、未婚者にとって住居が隠れた課題になっている。結婚し、子どもを育てることを願う女性や男性の希望が叶うよう、若者世代の就労環境や職場環境の改善、男性と女性の性別役割分業の見直しなど、理想と現実のギャップを埋める支援が有効である。

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第8章
未婚者の「いずれ結婚したい」はなぜ実現しないのか

報告者
網谷 理沙 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)
中島 安規 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

【要旨】

社会構造や経済状況の変化は、個人の価値観に影響を及ぼし、結婚や出産における行動変容にも関係すると考えられる。子どもを持つことに対する義務感や結婚観は、世代の移行に伴い変化しており、国によって傾向は様々である。本章では、出生率が回復した国と現在も低下している国の国民が抱く意識の比較をとおして、日本人の価値観について傾向を探り、未婚率上昇の背景を分析した。

分析の結果、日本の若者は結婚しなくてもよいという回答が増えている一方で、いずれ結婚したいと考えている割合は大きく変わっていないことが分かった。日本では、子どもを持つことへの義務感は強いが実際の出生数の上昇に結びついていないことから、その義務を果たせるか否かという価値観が、結婚と結びつきの強い恋愛に対する姿勢にも影響している可能性が示唆された。

また、日本の若者で恋人が欲しいと考えている人の割合は半数ほどであるものの、実際、結婚に向けた行動を起こしていないと回答する割合が男性だと約7割、女性だと5割にのぼることから、結婚願望はあるが行動を起こせていないという若者が多く存在することが分かった。日本人は欧米と比較すると恋人がいる割合が少なく、国内の調査でも恋人がいないと答える割合が男女ともに増加している。日本人の若者の特徴として、結婚しない理由に異性とうまく付き合えないと回答した割合が諸外国よりも高く、交際に対して苦手意識を持つ傾向がある。しかし、彼らの心配事の中心は、異性との交際よりもお金や将来のことであった。未婚者に対する調査結果をみると、自己肯定感が低い人の方が経済不安や将来不安を抱えている傾向が高く、自身の結婚や子育てに対する将来イメージを持たない割合も高い。このことから、いずれ結婚したいと考えてはいるものの、経済不安や将来不安により交際・結婚に向けた活動を先送りしていると考えられる。

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第9章
パネルデータと地図からアプローチする第二子出生にかかる要因分析と提言

報告者
内藤 勇耶 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

【要旨】

完結出生児数の減少は、第二子及び第三子の出生数の減少に原因を求められるところ、パネルデータを用いて第二子の出生要因について「住まい」をテーマに分析した。本章では、第一子出生時点の延床面積の広さが第二子出生を促す影響を与えることを示すとともに、配偶者(夫)の通勤時間の長さは第二子出生を妨げる影響を与えることを示した。

また、本章は、町丁単位データを用いた「住まい」と出生の関係を分析した点に特徴がある。予算制約の中で、延床面積の逆数であり代理変数として家賃が機能すると考えられるところ、家賃の高さと地域における乳児割合(母親年代人口に占める乳児人口の比率)は負の相関関係を示し、通勤時間と地域における乳児割合も同様に負の相関関係を示すことが判明した。通勤時間と家賃は同時決定的であるため、回帰分析には内生性の課題を有するが、地図を用いた分析を併用することで分析の頑強性を担保した。

さらに、地方自治体が行う「住まい」に関する支援策を、本章の後半で俯瞰したところ、子育て世代に限定した住居支援策が功を奏していることが分かった。このことは、データの分析結果と相まって、世代を限定した家賃や住まいに関する支援策が少子化対策に有効であることを示唆している。

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第10章
新型コロナウイルスの流行による少子化への影響

報告者
笹間 美桜 (財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

新型コロナウイルスの流行による少子化への影響について、「出会い」、「結婚」、「出産」の各局面においてどのような影響があったかについて分析した。分析の結果、過去の経済危機と同様、将来不安を抱えていることに加え、「人との接触の制限」、「健康への不安」が加わることで、各ステージに過去の経済危機以上に悪影響が及んでいることが分かった。他の先進国においても同様の傾向が見られ、2021年は大幅に出生数が減少する懸念がある。また、子育て世帯の家事・育児負担の増大により夫婦関係が変化していることや、経済弱者に対する影響がより顕著に表れていることが分かった。

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