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「人口減少と経済成長に関する研究会」報告書

令和2年6月発行

目次
(役職は令和2年6月現在)


はじめに(PDF:103KB)                           大鹿 行宏(財務省財務総合政策研究所所長)


序章 人口減少に直面したわが国が克服すべき課題

全文
(PDF:151KB)

土居 丈朗

(慶應義塾大学経済学部教授)

 第1章 (講演録)人口、生産性、経済成長

全文(PDF:391KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 経済成長と需要の関係
  3. マクロで捉えることの重要性
  4. まとめ

吉川 洋

(立正大学学長/財務省財務総合政策研究所名誉所長)

 第2章 平成年代における構造変化

全文(PDF:1581KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 人口の推移
  3. 平成年代の日本経済の動向
  4. 国際関係における変化
  5. 産業における構造変化
  6. 金融を取り巻く構造と家計の資産・所得構造の変化
  7. まとめ

小野 稔

(財務省財務総合政策研究所副所長)

 第3章 企業レベルデータに基づく日本の労働生産性に関する考察

全文(PDF:637KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 日本の生産性〜産業レベルデータを用いた国際比較
  3. 企業レベルデータを用いた労働生産性計測
  4. 結語

滝澤 美帆

(学習院大学経済学部教授)

 第4章 (講演録)国運の分岐点

全文(PDF:954KB)

要旨

  1. 生産性とGDP
  2. 生産性の向上を実現するためには
  3. 日本の労働生産性の問題
  4. 経済再生に向けた取組み
  5. 最低賃金問題
  6. 教育の問題
  7. まとめ

デービッド・アトキンソン

(株式会社小西美術工藝社代表取締役社長)

 第5章 企業規模と賃金、労働生産性について

全文(PDF:507KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 企業の規模に関する現状
  3. 企業規模と賃金、労働生産性の関係
  4. 賃金や労働生産性の要因分析
  5. 企業の業種別分析と雇用形態別分析
  6. まとめ

奥  愛

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

井上 俊

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

升井 翼

(財務省財務総合政策研究所総務研究部財政経済計量分析室員)

 第6章 国際収支構造の変化とそのミクロ的要因

全文(PDF:471KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 国際収支動向
  3. 輸出拡大の重要性
  4. まとめ

伊藤 恵子

(中央大学商学部教授)

 第7章 人口減少下の日本の労働市場の方向性

全文(PDF:524KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 日本的雇用慣行の経済合理性
  3. 日本的雇用慣行の修正と企業パフォーマンス
  4. まとめ

山本 勲

(慶應義塾大学商学部教授)

 第8章 人口減少が及ぼす社会保障財源への影響

全文(PDF:1102KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」での財源は確保できるか
  3. 人口減少を考慮した社会保障財源の将来推計
  4. まとめ

土居 丈朗

(慶應義塾大学経済学部教授)

<諸外国の賃金・労働生産性向上の取組み>

 第9章 スウェーデンの経済成長と労働生産性

全文(PDF:764KB)

要旨

  1. はじめに
  2. スウェーデンの人口動態と経済成長
  3. スウェーデンの労働生産性
  4. スウェーデンにおける今後の課題
  5. おわりに

上田 大介

(財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官)

三角 俊介

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 第10章 スイスの経済構造と主要産業の現状と課題

全文(PDF:644KB)

要旨

  1. スイスの競争力と経済構造
  2. スイスの重要産業の現状と課題 〜製薬、金融、観光〜
  3. 今後の課題 〜人口構造の変化への対応〜
  4. まとめ

佐藤 栄一郎

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総務課長)

佐野 春樹

(前財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 

 (※)本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

 


第1章
(講演録)人口、生産性、経済成長

報告者
吉川 洋(立正大学学長、財務省財務総合政策研究所名誉所長)

【要旨】

経済学は、限界革命から新古典派経済学へと発展してきたが、個々のミクロの最適化行動を分析しても、マクロの事象をとらえることはできない。生産性を上げるには、供給側のテクノロジーを活用することは論をまたないが、最も重要なのは需要である。供給は本質的に需要によって規定される。経済成長は、短期だけでなく、長期でも、「需要の飽和」を打破する需要創出型イノベーションによって続いていく。イノベーションの枯渇が懸念されるが、イノベーションは結局のところ、人間の平均寿命を延ばすことに貢献してきた。超高齢社会を支えるイノベーションは当然あり得て、そのモデルを超高齢社会の日本は構築すべきであり、それを実現するなかで生産性も上昇していく。

 

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第2章
平成年代における構造変化

報告者
小野 稔(財務省財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

人口減少下での経済成長を考えるにあたり、平成年代の日本経済の動向や構造変化について振り返り、そこから見えてくる課題について取り上げた。条件や環境が変化すれば、必ずしも人口減少が総生産の減少をもたらすとは限らない。日本経済は、この間、数々のショックを経験し、様々な変化が起こり、その姿を変化させながら成長してきた。

総人口は2008年をピークに減少を続けている一方、労働力人口に目を向けると、高齢者や女性の労働市場への参入に加えて、様々な資格を持つ外国人労働力の流入が続いており、全体でみた就業者は増加している。

産業別に生産活動をみると、製造業では多くの業種で就業者数が減少する中、一人当たり付加価値生産額(GDP)が上昇する方向に変化した。「輸送用機械」、「はん用・生産用・産業用機械」、「化学」、「一次金属」など、生産規模が比較的大きく、労働生産性も相対的に高い業種でGDP総額が増加しており、製造業全体としての労働生産性向上に寄与した。また、非製造業では、一人当たりGDPが上昇した産業も多かったが、就業者が増加し、かつ、一人当たりGDPが低下するという製造業ではみられない経路を辿った産業(「保健衛生・社会事業」など)も存在する。低賃金労働力投入による成長というビジネスモデルだが、産業全体としては労働生産性の低下を伴うものであり、人口減少下の経済成長という観点からすると、サステナブルとは言い難い。

金融を取り巻く状況は、1997年の金融危機を境に大きく変化した。超低金利の下で、企業の貯蓄・投資バランスは投資超過から貯蓄超過へと転換し、企業の自己資本比率も急速に上昇している。企業投資の成果分配の手段も利子支払から配当支払へと移っている。しかし、家計の金融資産の構成に大きな変化はなく、「現金・預金」の比率が高いままとなっており、利子所得の受取が大幅に減少し、配当所得も十分取り込めていない状況である。家計の資産運用を貯蓄から投資へシフトさせることも課題である。

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第3章
企業レベルデータに基づく日本の労働生産性に関する考察

報告者
滝澤 美帆(学習院大学経済学部教授)

【要旨】

日本はバブル崩壊以降、四半世紀に亘る経済停滞に直面している。いわゆる長期停滞論が述べているように、日本以外の先進国の経済成長率が鈍化していることも事実ではあるが、日本の低成長は先進国の中では際立って見える。こうした低成長の要因としては、低い生産性の伸び率が挙げられる。2017年における日本の労働生産性水準は、米国と比べ、製造業で7割、サービス業で5割程度にとどまり、1997年と比べると特にサービス業において格差が拡大している。

企業間に見られる生産性の異質性を描写し、生産性の現況をより正確に理解する目的から、企業レベルの財務データを用いた生産性分布の描写より以下の事実が確認される。第一に、製造業が非製造業に比して平均的に高い労働生産性を示す一方で、非製造業において労働生産性のばらつきが相対的に高い。また、企業規模と労働生産性との間に正の相関が見られる。これらの結果は、労働生産性が業種や企業規模に関して異質であることを意味している。第二に、従業員一人当たり賃金が労働生産性と正の相関を有する一方で、労働分配率との相関は弱い。この結果は、賃金のドライバが労働分配率の高低ではなく労働生産性の高低であることを示唆している。第三に、労働生産性を従業員一人当たり売上高と売上高付加価値比率に分解した上で、更に後者を資本装備率と有形固定資産回転期間に分解した結果から、従業員一人当たり売上高を介して労働生産性が資本装備率と正の相関を有していることを確認した。これらの観察事実は、高い資本蓄積の下で高い労働生産性(および従業員一人当たり売上高)を実現している企業が高賃金であるというパターンを意味する。以上の結果は、生産性向上に向けて資本に焦点を当てた政策が重要となる可能性を示唆している。

 

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第4章
(講演録)国運の分岐点

報告者
デービッド・アトキンソン(株式会社小西美術工藝社代表取締役社長)

【要旨】

人口減少が経済成長に対して悪影響を及ぼさないようにするためには生産性を上げるしか方法はない。企業の規模が大きくなればなるほど生産性は向上するにも関わらず、日本は規模の小さい企業で働いている人が多過ぎるために、非効率な産業構造になっている。

今後日本の生産性を向上させるためには、規模が小さいというだけで企業を優遇するのではなく、国益に貢献する研究開発、輸出、設備投資という行為を優遇すべきである。

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第5章
企業規模と賃金、労働生産性について

報告者
奥 愛(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)
井上 俊(財務省財務総合政策研究所総務研究部 研究員)
升井 翼(財務省財務総合政策研究所総務研究部 財政経済計量分析室員)

【要旨】

従業員数でみた企業規模と賃金、労働生産性の関係について、平成30年度(2018年度)法人企業統計、平成28年(2016年)経済センサス(活動調査)を用いて分析した。分析の結果、企業規模が大きくなればなるほど、賃金及び労働生産性が高く、資本収益率も高いという結果を得た。賃金に対しては労働生産性が重要であり、労働生産性に対しては1人当たり売上高が関係しており、更に1人当たり売上高は、製造業の場合は、労働装備率が関係していた。また、正社員比率が高いほど、賃金及び労働生産性が高いことが分かった。これらの結果を踏まえると、人口が減少していく日本において、賃金及び労働生産性を高めていくためには、企業が雇用形態に留意しながら現状よりも企業規模を大きくしていく政策が重要である。

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第6章
国際収支構造の変化とそのミクロ的要因

報告者
伊藤 恵子(中央大学商学部教授)

【要旨】

本稿では、日本の対外収支の中心が貿易から投資に移行しつつある中で、こうした構造変化を受け入れつつも、国内投資の収益率向上や継続的な輸出促進への努力が必要であることを議論する。

日本が「成熟した債権国」として海外資産からの収益増を目指すことに異論はない。しかし、日本の対外・対内直接投資の収益率を比較すると、近年は対内直接投資の収益率の方が格段に大きく、上昇傾向にある。日本の国内企業も収益率の高い投資機会を国内で見つける余地があるのではないだろうか。また、外国企業の参入を促し、外資系企業の技術やノウハウを経済全体に波及させる環境整備をさらに進めていく必要がある。

一方、2010年代に入り、他の先進国と比べても日本の輸出の伸びは鈍化している。先行研究の結果は、長期的な輸出増加には、新規輸出企業数、新規輸出品目、新規輸出相手国の増加が重要であることを示している。しかし、新規輸出開始企業数はあまり増えておらず、企業内貿易の割合も上昇、日本企業の取引関係の多様性はあまり拡大していない。企業が輸出を開始したり海外で取引関係を構築するには、海外市場に関する情報を収集する必要があり、それには費用がかかる。近年の企業データを使った実証研究では、日本についても公的機関の輸出支援策の有効性が確認されている。積極的な輸出支援策によって企業の国際化を推進し続けていくべきである。

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第7章
人口減少下の日本の労働市場の方向性

報告者
山本 勲(慶應義塾大学商学部教授)

【要旨】

長期雇用などで特徴付けられる日本的雇用慣行は、人口減少下の日本の労働市場でどのように改められるべきだろうか。本稿では、日本的雇用慣行の修正を図った企業とそれ以外の企業との間に利益率などのパフォーマンスにどのような違いがみられるかを検証した研究成果をレビューすることで、改めて日本的雇用慣行の経済合理性を評価し、今後の変革の方向性を議論する。

日本的雇用慣行は企業による企業特殊的人的投資を通じた労働生産性の向上など、一定の経済合理性があるものの、人口減少やグローバル化などの環境変化によって、その合理性は低下しつつある。その証左として、長時間労働の是正をイノベーション推進などと同時に進めている企業や雇用の流動性を一定程度高めている企業、女性活躍推進といったダイバーシティ経営を進めている企業、健康経営を進めている企業では、利益率でみた企業パフォーマンスが高くなっているという研究成果がある。これらの研究成果は、従来からある日本的雇用慣行の下での働き方を踏襲するよりも、時代や環境に適したものに変革することで経済合理性が高まることを示唆しており、働き方改革の必要性に対するエビデンスといえる。

今後の方向性としては、過度で非効率な長時間労働や男性中心で画一的な働き方といった日本的雇用慣行の問題点を改善しながら、企業特殊スキルを中心とした企業による労働者への人的投資が行われることによる生産性の向上や長期安定雇用などの長所をもたらしうる部分は活かしていくことが、人口減少下の日本の労働市場に求められているといえる。

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第8章
人口減少が及ぼす社会保障財源への影響

報告者
土居 丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)

【要旨】

人口減少に伴う社会保障給付の将来見通しについては、これまでにも試算されているが、社会保障財源については、その工面が可能か否か綿密な検討がなされていない。本稿では、人口減少に伴う世帯数の変動が社会保障財源に与える影響について、将来推計を交えて分析した。

分析には、総務省「消費動向指数」や厚生労働省「国民生活基礎調査」等を用いて、非課税品目や軽減税率対象品目の分別を踏まえた消費税、所得税、個人住民税、社会保険料について、世帯主年齢階級別1世帯当たり負担額を推計した上で、今後の世帯数の変動を反映して2040年度までの税収の推移を推計した。その結果、消費税、所得税、個人住民税、社会保険料とも、2040年には、人口減少に伴う世帯数の変動によって、直近と比べて1割ほど税収や社会保険料収入が減少することが確認された。その中でも、消費税の方が、所得比例的な負担よりも、人口減少に伴う世帯数の変動の影響を受けにくいことも確認された。

そうした性質を踏まえ、消費税による財源調達や高齢者への所得比例的な負担を求めることなどが、今後必要であることが示唆される。

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第9章
スウェーデンの経済成長と労働生産性

報告者
上田 大介(財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官)
三角 俊介(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

スウェーデンは、約1,000万人の人口規模でありながら、近年、高い労働生産性を背景とした国際競争力を武器に高い経済成長を実現してきた。その背景として、@スウェーデンでは同一労働・同一賃金の考え方のもと、産業横断的に生産性上昇率等を勘案した賃上げ率を実現することで、生産性向上が図れない産業・企業が市場から退出することを促す等の仕組みが存在していることがある。

そして、Aこれらの産業・企業が淘汰されることで発生する失業者については、効果的な職業訓練や再就職への動機づけを保ちつつ失業中の生活を保障する給付制度等の積極的な労働市場政策を用いて、より生産性の高い産業・企業へのスムーズな再就職を促す仕組みも機能している。更には、B1980年代以降の積極的な外資導入政策により、生産性の高い外資企業の参入が増加したことで、競争力の高い産業や企業が幾つも誕生した。そして現在に至るまで、多数のグローバル企業やスタートアップ企業を輩出するなどし、人的資本の質が高い労働力の受け皿となっている。

スウェーデンでは、こうした三つの仕組みや制度が互いを効果的に補完することで、高い労働生産性を維持し高い競争力を維持してきたと考えられる。

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第10章
スイスの経済構造と主要産業の現状と課題

報告者
佐藤 栄一郎(財務省財務総合政策研究所総務研究部総務課長)
佐野 春樹(前財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

スイスは、人口・面積ともに九州と同規模である小さな国家であるが、1人あたりGDPで見ると世界でも比較的豊かな社会を実現・維持している。その背景には、多国籍企業を中心に古くから海外に活路を求めた輸出主導型経済の下、充実した職業教育や研究開発などを背景に、優れた人材や商品・サービスを生み出してきたことが挙げられる。

近年、国際競争の激化や低成長・低金利といった大きな変化に直面する中、製薬業や金融業をはじめとする産業は、規模の拡大や事業の選択と集中を競争力確保に向けた選択肢として乗り越えようとしている。また、高齢化の中で引き続き労働力を確保し経済成長を維持するため、スイスにおいても高齢者や女性のますますの活用が不可欠である。

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