「デジタル時代のイノベーションに関する研究会」報告書

令和元年6月発行

目次
(役職は令和元年5月末現在)

総論 キャッシュレスの動きと今後のイノベーション

全文(PDF:238KB)

要旨

  1. デジタル経済におけるキャッシュレス
  2. 本報告書における主な論点
  3. キャッシュレスの動きと今後のイノベーション

柳川 範之

(東京大学大学院経済学研究科教授)

ローマ数字1部 デジタル経済と支払手段の多様化

 第1章 デジタル経済の進展と支払手段の多様化

全文(PDF:633KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 国際比較からみた日本のキャッシュレス化の現状
  3. キャッシュレス決済の普及に関する指摘と対応すべき課題
  4. まとめ

酒巻 哲朗

(財務省財務総合政策研究所副所長)

 第2章 キャッシュレス化と決済サービスの変化

全文(PDF:839KB)

要旨

  1. キャッシュレス化の担い手を巡る動き
  2. 決済改革とキャッシュレス化
  3. 決済サービスの高度化
  4. 決済制度の改革
  5. 今後の課題

淵田 康之

(株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー)

 第3章 キャッシュレス化が進んだ場合の金融政策の論点

全文(PDF:591KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 中央銀行がデジタル通貨を発行した場合の金融政策への影響
  3. 現金代替はどの程度進むのか
  4. 結論

藤木 裕

(中央大学商学部教授)

 第4章 キャッシュレス化の政策的インプリケーション

全文(PDF:626KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 「キャッシュレス化」をどう捉えるか?
  3. 若干の概念整理
  4. 決済プロセスの分析
  5. 政策的観点からの検討

渡辺 智之

(一橋大学大学院経済学研究科教授)

 第5章 デジタル化が進む中での支払手段に関する経済分析

全文(PDF:356KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 支払手段の両面性市場
  3. 支払手段の選択
  4. まとめ

木村 遥介

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

ローマ数字2部 支払手段の多様化と各国の動き

 第6章 スウェーデン及びドイツにおけるキャッシュレス化の現状と課題

全文(PDF:494KB)

要旨

  1. はじめに 〜日本・スウェーデン・ドイツの支払手段選択の状況概観〜
  2. スウェーデン
  3. ドイツ
  4. 補論:格差問題

小部 春美

(財務省大臣官房審議官兼財務総合政策研究所副所長)

 第7章 スウェーデンの動向

全文(PDF:758KB)

要旨

  1. はじめに
  2. スウェーデンにおける現金の減少
  3. 現金需要減少の背景
  4. 現金需要減少の影響に対するリクスバンクの問題意識
  5. 現金需要が減少する現状に対する対応
  6. まとめ

上田 大介

(財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官)

小見山 拓也

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

井上 俊

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 第8章 ドイツの動向

全文(PDF:751KB)

要旨

  1. なぜドイツに着目したのか
  2. ドイツでの支払手段
  3. マクロレベルでの経済的変容
  4. ユーロ圏内の状況
  5. まとめ

奥 愛

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

佐野 春樹

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

 第9章 韓国の動き

全文(PDF:667KB)

要旨

  1. 韓国の現状
  2. クレジットカード利用政策
  3. コインレス政策
  4. ゼロペイの動き
  5. まとめ

中尾 睦

(財務省財務総合政策研究所副所長)

奥 愛

(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)

井上 俊

(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

ローマ数字3部 デジタル化が進む中でのイノベーションの動き

 第10章 シンガポールにおけるデジタル化の進展

全文(PDF:771KB)

要旨

  1. デジタル・イノベーションを進めるシンガポール
  2. FinTechハブを目指すシンガポール
  3. キャッシュレスの進展に向けた取組み
  4. おわりに

笠原 基和

(前金融庁総務企画局企画課課長補佐(在シンガポール日本国大使館一等書記官))

 

 

 (※)本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

 


総論
キャッシュレスの動きと今後のイノベーション

報告者
柳川 範之(東京大学大学院経済学研究科教授)

【要旨】

キャッシュレス化の動きに、近年大きな注目が集まっている。この総論では、キャッシュレス化の意義と課題、そして各国の取り組み状況などについて、本報告書の各章で説明されている内容を概観している。

そのうえで、キャッシュレス化の本質は、単に現金支払いに伴うコストが削減できるという点にはなく、キャッシュレス化によって、新たなデータを事業者側が得られるようになる点を強調している。もっとも、そのデータをどのように利活用するのが、問題のない形でのイノベーションにつながるのかはまだ不透明性がある。しかし、各国もその動きに対して迅速な対応をとってきており、日本も変化を先取りしながら規制や制度を設計し、必要に応じて修正をしていくアジャイル的な制度設計の発想が重要と指摘している。

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第1章
デジタル経済の進展と支払手段の多様化

報告者
酒巻 哲朗(財務省財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

デジタル経済における重要なイノベーションとして、現金を用いない支払手段である「キャッシュレス決済」が増加している。日本は国際比較指標でみてキャッシュレス化が進んでいないと評価されているが、頻繁に使われる2つの指標のうち、マル1通貨流通高のGDP比には価値保蔵手段としての現金需要が含まれ、その動向はマクロ経済環境が影響すること、マル2消費に占めるキャッシュレス決済額の割合を示す「キャッシュレス決済比率」には、日本で普及している銀行口座間送金が含まれていないことなどに留意する必要がある。一方、キャッシュレス決済に用いるカードの保有枚数は国際的にみても多く、決済手段の普及に比べて実際の利用状況は低調であり、利用が増加する余地は大きいと考えられる。

キャッシュレス決済の普及は消費者の利便性を高めるとともに、事業者にとっても消費者行動に関するデータを利用した新たなビジネスの展開や現金管理に要する時間・労力の低減などが期待されている。一方、イノベーションと利用者保護を両立させる金融制度、競争政策、個人情報保護などの制度の見直し、サイバー犯罪や災害時など非常時への備えなど様々な課題への対応も必要となる。

 

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第2章
キャッシュレス化と決済サービスの変化

報告者
淵田 康之(株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー)

【要旨】

現金を用いない決済を可能とするサービスは、当初、銀行が主たる担い手であったが、その後、カード会社や電子マネー会社によるサービスも加わった。さらに近年、インターネットやモバイル・テクノロジーの発達を背景に、FinTechも決済サービスにおいて重要な役割を果たすようになっている。

決済サービスの担い手の多様化を受け、今日、多くの国は、決済法制を見直すなど、決済改革を推進し、ユビキタスな決済サービスの実現を目指している。この結果、特段、キャッシュレス化を政策目標と掲げていない国においても、キャッシュレス化が進展していくことが予想される。

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第3章
キャッシュレス化が進んだ場合の金融政策の論点

報告者
藤木 裕(中央大学商学部教授)

【要旨】

本稿では、デジタル通貨の分類を行ったのち、中央銀行がデジタル通貨を発行した場合の金融政策への影響に関して理論的に考察を行う。次に、キャッシュレス化の度合いを決める要因について実証的に考察を行う。考察によれば、キャッシュレス化の度合いを決める要因のうち、日常的支払いにおける現金と中央銀行デジタル通貨との代替は定量的に小さな要因であり、退蔵されている現金と中央銀行デジタル通貨との代替は定量的に大きな要因であると予想される。

 

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第4章
キャッシュレス化の政策的インプリケーション

報告者
渡辺 智之(一橋大学大学院経済学研究科教授)

【要旨】

キャッシュレス化の推進によって実現すべき政策目標は何か。キャッシュレス化の政策的含意は、キャッシュレス決済の普及によって利用可能となる情報を誰がどのように利活用すべきか(あるいは、すべきでないのか)について、政策当局者が検討を迫られるようになることであろう。デジタル技術の発展によって、従来、銀行システムが独占的に提供してきた決済サービスを、様々な事業体が提供できるようになるとともに、それらの事業体は決済サービス提供等を通じて膨大な取引情報にアクセスし、事業収益増大につなげることができるようになった。政府部門においても、マイナンバーカード等の仕組みを利用した電子マネーを発行することで、事務コストの軽減を図るとともに、公共サービス供給の効率化に資するデータへのアクセスと活用を検討すべきであり、そのためにも、個人情報の問題に関する議論が深まっていくことが望まれる。

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第5章
デジタル化が進む中での支払手段に関する経済分析

報告者
木村 遥介(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究官)

【要旨】

本支払手段には、間接ネットワーク効果が存在する。すなわち消費者にとって、ある支払手段を使うことのできる事業者が多ければ多いほど、その支払手段の利便性が大きくなり、事業者にとって、ある支払手段を利用する消費者の数が多ければ多いほど、その支払手段の利便性が大きくなる。間接ネットワーク効果が存在する市場(両面性市場)であるクレジットカード市場において、クレジットカード会社は、消費者と事業者に対する価格を非対称にすることで利潤を最大化させることができる。すなわち、消費者に対して利用料金を低く、あるいはゼロに設定する一方で、事業者に対してはプラスの利用料金(手数料)を設定する。

他方、近年のキャッシュレス支払手段を提供する企業は、消費者・事業者の双方から収益を獲得していない場合がある。これは支払手段のシェアを獲得することが他の事業の収益に対して正の効果を与えると企業が期待していることを示唆している。さらに、消費者や利用者が支払手段を利用する際に発生するコストに注目して、支払手段を選択することを確認した。手数料や支払いスピードのようなコストが支払金額と連動する場合、支払金額について支払手段の棲み分けが生じる。ただし経済環境によって利用者コストは変化しうるため、ATMの供給動向やキャッシュレス支払手段のイノベーションによって、支払手段の普及がどのようなペースで進むかを判断することは難しい。

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第6章
スウェーデン及びドイツにおけるキャッシュレス化の現状と課題

報告者
小部 春美(財務省大臣官房審議官兼財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

スウェーデンについては、「決済のキャッシュレス化が進み、中央銀行が電子通貨発行を検討するほどのキャッシュレス先進国」等の紹介が見られる一方、ドイツについては「我が国同様、現金による支払が好まれる国」といった説明に接する機会が多い。同じEU加盟国でありながら支払手段の利用状況について、実際、どのような相違があり、それはどのような理由で生じているのかを中央銀行の資料等に基づき調査した。

スウェーデンにおいては、銀行口座を中心としたデビットカード及びモバイル決済の利用が個人に普及した一方、犯罪対策等を目的に公共交通機関、金融機関による現金取扱が抑制されたこと等もあって金融機関が現金の取扱を減少させ、市場主導のキャッシュレス化が進行した。この結果、現金の利用がしにくい状況が生じ、現金の利用可能な社会を維持する必要性が指摘されるに至り、金融機関に現金の取扱を義務づける等を内容とする立法が提案されている。また、併せて中央銀行によって、現金を補完する電子的な中央銀行マネーの制度設計が検討途上にある。

ドイツにおいては、少額支払に関しては現金の利用比率が依然として高いが、支払金額が高くなるとデビットカード利用が増加するなど、場面に応じて支払手段が選択されており、今後もキャッシュレス支払手段の利用が緩やかに増加されるとみられている。

なお、本年に入り、米国において、現金受取拒否を禁止する立法、Amazonが完全キャッシュレス店舗において現金による支払を認める等の動きも報じられている。

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第7章
スウェーデンの動向

報告者
上田 大介(財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官)
小見山 拓也(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)
井上 俊(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

スウェーデンでは現金需要の減少傾向が続いている。通貨(銀行券+硬貨)流通高の対名目GDP比は1950年代から低下傾向が続いており、2017年には約1.2%にまで低下した。また、名目の通貨流通高も2008年以降急激に低下した。

スウェーデン国内の店舗における決済動向を見ると、デビットカードが用いられることが多いほか、近年は、スマートフォンを用いた銀行口座間の資金移動が可能なSwishに代表される新たな支払手段・サービスも登場するなどし、現金が使用される場面は年々減少している。

リクスバンクは、現金需要の減少が今後も継続した場合、デジタル技術を用いた支払手段にアクセスできない一部の層が金融排除されてしまう問題や、決済システムの効率性や強靭性に問題が生じうる可能性などを問題点として指摘している。

これらの問題への対処として、リクスバンク委員会は、一定規模以上の金融機関に対し、預金の引出しや預入といった現金サービスの提供を義務付けることを提案しているほか、リクスバンクは、法定電子通貨(e-krona)の発行に関する検討を進めている。

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第8章
ドイツの動向

報告者
奥 愛(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)
佐野 春樹(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

ドイツのキャッシュレス比率は日本よりも低く、ドイツは現金が多用されている国である。しかし、その支払習慣は、支払手段の多様化に伴い徐々に変化している。ドイツで現金が多く用いられる理由として、高齢者への対応以外にも、現金には「決済の匿名性」や「自由」があることが評価されている。ドイツを含めたユーロ圏の動きとして、欧州中央銀行(ECB)は2018年11月より小口決済をリアルタイムで行う決済基盤(TIPS)を構築しており、資金決済のさらなる効率化や利便性の向上を進めている。

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第9章
韓国の動き

報告者
中尾 睦(財務省財務総合政策研究所副所長)
奥 愛(財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官)
井上 俊(財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員)

【要旨】

韓国はキャッシュレス比率が高い。その背景には、アジア通貨危機からの打開策として、政府主導でクレジットカード決済促進策を実施してきたことがある。さらに、中央銀行である韓国銀行は、コインレス・キャンペーンを進めている。最近では、さらなるキャッシュレス化への取組みとして、政府主導で中小企業のクレジットカード手数料負担を軽減する目的で、QRコードを用いて銀行口座に紐づけた決済手段「ゼロペイ」を普及させようとする動きがある。韓国のキャッシュレス比率が高い背景には同国固有の背景がある点に留意が必要であるが、新たな取組みも進められていることから、今後の状況が注目される。

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第10章
シンガポールにおけるデジタル化の進展

報告者
笠原 基和(前金融庁総務企画局企画課課長補佐
(在シンガポール日本国大使館一等書記官) )

【要旨】

モバイル端末、ソーシャルメディアの普及や、デジタル・プラットフォーム等を通じた商品・サービスの利用など、いわゆるデジタル社会の進展は近年めまぐるしいものがある。こうした中、多くの国は、こうした潮流に乗り遅れまいと、自国の法制度、インフラ等の見直しを進め、サービス提供主体である私企業は、日々、利便性の高いサービス提供に向けたイノベーションを加速させている。

シンガポールは、キャッシュレス決済をはじめとして官民挙げたデジタル化への対応が奏功しつつある国の1つであり、その取組みを把握することは、日本にとっても一定の意義があるとみられる。

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