令和6年6月発行
|
川本 敦 (財務省財務総合政策研究所総務研究部総務課長) 鶴岡 将司 (財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官) |
※2024年6月28日に一部を訂正しました。 |
齊藤 誠 (名古屋大学大学院経済学研究科教授) |
|
伴 真由美 (財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官) 篠原 裕晶 (財務省財務総合政策研究所総務研究部財政経済計量分析室員) 大川 隼人 (財務省財務総合政策研究所研究員) 小俣 喬尚 (財務省財務総合政策研究所研究員) 上酔尾 昂平 (財務省財務総合政策研究所研究員) 佐川 明那 (財務省財務総合政策研究所研究員) 西田 安紗 (財務省財務総合政策研究所研究員) 野村 華 (財務省財務総合政策研究所研究員) |
―日本がアルゼンチンタンゴを踊る日― |
河野 龍太郎 (BNPパリバ証券株式会社チーフエコノミスト/東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員) |
|
古賀 麻衣子 (専修大学経済学部教授) |
|
川口 大司 (東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科教授) |
|
田中 賢治 (帝京大学経済学部教授) |
:資金循環の視点から見た展望 |
松林 洋一 (神戸大学大学院経済学研究科教授) |
|
佐々木 百合 (明治学院大学経済学部教授) |
|
唐鎌 大輔 (みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト) |
|
戸村 肇 (早稲田大学政治経済学術院教授) |
(※)本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
【要旨】
日本の資金循環は、政府の資金不足と企業・家計の資金余剰がバランスしているように見える。個人消費が長期間にわたり低迷する下での「(家計の)貸しっぱなし」・「(政府の)借りっぱなし」が「四つに組んだ状態」であり、容易に変化することがない状況として捉える見方もある。
この状況は今後も長期的に持続可能なのだろうか。これまで家計は、国債消化を支える金融資産残高を増加させてきた一方、地価を含めた実物資産の価値は縮小してきた。この間、金融資産と実物資産の合計である家計の総資産の価値はほぼ一定の水準に保たれてきており、実物資産の価値がゼロにならないことを考慮すると、家計の総資産が全て金融資産に置き換わる前のある時点で、国債が海外の資金でファイナンスされる必要性が本格化することが示唆されるとの見方もある。
今後の日本経済のあり方を考察するにあたり、こうした資金循環構造の変化がありうるのか、それが望ましいものなのか検討する必要がある。本稿では、家計や企業などの部門ごとに、資金過不足に影響を与えてきた背景についてファクトを整理するとともに、今後を展望した。
家計部門については、高齢化の進行を背景に家計貯蓄率がゼロ近傍の水準から更に低下するとの見方もあった。実際には、高齢者・女性の労働参加により就業者数が維持された中で、消費の伸びは限定的であり、家計貯蓄率はプラスが継続している。女性の労働参加については、労働参加率が諸外国と比べて既に高水準にある中であっても30代から40代を中心に労働参加が更に増加するとの推計もある。一方、高齢者については、2022年に団塊世代が75歳以上となる中で、高齢者の労働参加による就業者の増加には限度がある。このため、労働参加率の上昇により年間70万人ペースで減少する生産年齢人口をカバーしきるのは困難と見られる。今後の家計の資金過不足を見通す上で、労働参加の増加による労働供給の「量的」な拡大のみならず、賃金上昇を伴う労働供給の「質的」な向上により所得形成がなされるか着目したい。
企業部門については、バブル崩壊を境に、資金不足から資金余剰に転じて以降、一貫して海外と政府に資金を供給する立ち位置になっているが、他国にこうした例は見られない。その背景として、設備投資が低調な中で、現預金の蓄積が継続するなど、国内での投資行動が低調である一方、対外直接投資が増加する状況にある。なお、2020年前後以降の足元では、海外での設備投資は高水準を維持する中で頭打ちになっている一方、国内での設備投資は増加基調にあり、こうした最近の動きが企業部門の資金過不足に与える影響に着目したい。
対外的な資金需給については、諸外国では対内直接投資と対外直接投資が両建てで増加している中で、日本では対外直接投資のみが増加する例外的な状況にあり、こうした特異な内外バランスが所得収支黒字幅の拡大に寄与している。他方で、家計による外貨建投資信託の保有残高が増加しているなど、家計資産の構成にも変化の兆しが生じている可能性がある点にも着目したい。
【要旨】
資金循環表は、マクロ経済理論にそって解釈されることがあまりないが、実は、マクロ経済理論を展開する余地の大きな統計である。また、資金循環表や国際収支統計で報告されている対外ポジションについても、マクロ経済学や国際金融の理論にそって興味深い解釈を行うことができる。
本稿では、資金循環表や国際収支表に現れる3つのペアーについて議論する。第一に短期的に観測される財・労働市場の超過供給と、その裏側で生じる貨幣・国債市場の超過需要のペアー、第二に、長期的に観測される家計の旺盛な国債・貨幣需要と統合政府の活発な債務発行のペアー、そして、第三に、家計資産の対外資産化と政府債務の対外負債化の同時進行をそれぞれ考察する。
日本経済の資金循環は、短期的に見ても、長期的に見ても、実体経済に望ましい影響をもたらさないままに、政府・家計間で資金が空回りしている。しかし、日本経済がそうした資金の空回りに長く依存してきたことから、それを克服するのには、きわめて慎重になる必要がある。
伴 真由美 | (財務省財務総合政策研究所総務研究部主任研究官) |
篠原 裕晶 | (財務省財務総合政策研究所総務研究部財政経済計量分析室員) |
大川 隼人 | (財務省財務総合政策研究所研究員) |
小俣 喬尚 | (財務省財務総合政策研究所研究員) |
上酔尾 昂平 | (財務省財務総合政策研究所研究員) |
佐川 明那 | (財務省財務総合政策研究所研究員) |
西田 安紗 | (財務省財務総合政策研究所研究員) |
野村 華 | (財務省財務総合政策研究所研究員) |
【要旨】
本稿では、日本の資金循環の構造の特徴を明らかにするため、ケーススタディとして韓国・ドイツ・中国・米国・スイスの資金需給の構造の特徴を整理し、日本と比較する。家計部門については、各国とも高齢化が進む中であっても、ほぼ全ての期間で資金余剰が継続していた。中国以外の各国では、日本同様に、高齢者・女性の労働参加率が増加傾向にあり、所得の伸びの維持に寄与している可能性がある。
企業部門については、資金余剰が日本のような規模で継続して生じている国は無かった。ドイツのように年によって資金余剰が生じることがある国でも、余剰幅は日本と比べて小さくなっている。
海外部門については、所得収支の黒字幅について日本を上回る国は無かった。日本の対外直接投資の残高は、米国・ドイツ・中国・スイスを下回るものの、対内直接投資の残高が各国を大幅に下回ることが背景にあると考えられる。
政府部門については、日本同様に高齢化が進む国の中で、韓国・中国では「政府の規模」が対GDP比で拡大傾向にあり、近年、資金不足主体に転じている。他方、高齢化が進む国であっても、ドイツやスイスのように、支払や資金不足の幅が抑えられる例が見られた。
【要旨】
2010年代以降、日本を含む主要国において長期金利(R)よりも名目成長率(G)が高い状態が常態化している。基軸通貨国や国際通貨国であればR<Gを前提に公的債務の膨張をさほど気にせず、財政政策をマクロ安定化政策として利用できるかもしれない。現状「円」は国際通貨であり、アメリカとの通貨スワップ協定をバックストップとして、国際通貨としてのプレゼンスをある程度維持できているが、依然として低い日本の潜在成長率や財政インフレリスクの高まり、世界の政治情勢を考慮すると、「円」がいつまで国際通貨でいられるのかについては疑問が残る。
クズネッツは「世界には4種類の国々がある。先進国と新興国と日本とアルゼンチンだ」と唱えたが、このままでは日本もアルゼンチンと同じ経路を辿ってしまうのではないだろうか。
【要旨】
家計の金融資産は高齢者に偏在しており、高齢化の進展にともなって、ストックベースでみた家計資金余剰は当面高水準を維持すると思われる。その程度は、経済構造の変化が、家計資産の年齢プロファイルにどのような影響を与えるのか次第である。
労働市場の構造変化が家計資金余剰に与える影響を判断するには、賃金カーブがフラット化するもとでの消費の反応や、就業率が高まっている高齢者や女性の賃金水準について検討が必要である。世代間移転に関する税制や、金融資産と実物資産の代替性、持ち家比率にかかる変化も、家計資金余剰の水準に影響を与えうる。
また、経済の活性化のためには、家計資金余剰が将来経済の成長力のために活かされる経済にしていくことが重要である。
【要旨】
賃金動向の決定要因には、外部労働市場の需給要因と内部労働市場の構造要因がある。外部労働市場では、追加供給要因として女性の就業率の上昇、外国人労働者の増加が挙げられるが、年間70万人ペースで減少する生産年齢人口をカバーできるようなものではなく、労働市場の引き締めが賃上げ圧力につながる。一方、内部労働市場では日本型雇用慣行に変化が見られており、賃金下落圧力がかかっている。
日本経済全体では内部労働市場が決定要因の大部分を占めるが、産業、雇用形態、年齢によって外部労働市場と内部労働市場のどちらが大きな割合を占めるかは異なる。例えば、外部労働市場の圧力が働きやすい非正規労働者や若年層、ITエンジニアのような専門職の賃金は上昇していくだろう。一方で、業種にもよるが大企業の正社員の多くは賃金上昇が頭打ちとなるだろう。さらに言えば、これまでのデフレ下の日本ではできなかった賃上げが直近のインフレによって可能になったことで、日本の賃金構造の変革のきっかけになると考える。
足元の賃金変化を正確に把握するためにはパネルデータを用いる必要がある。最近では、税務情報、民間企業の賃金支払データ、オルタナティブデータを利用した研究が行われており、景気判断材料の1つとして利用可能性がある。
【要旨】
日本では非金融法人企業の貯蓄超過(資金余剰)が1990年代後半から続いており、四半世紀にわたる貯蓄超過は世界的にみて異例である。企業の貯蓄超過は設備投資の弱さを反映している。設備投資とは、「今」の便益を犠牲にして「将来」にわたる便益(利潤)を得るための企業活動であるため、企業の成長期待と密接な関係がある。しかし、2010年代に企業利益が堅調に増加したにもかかわらず、成長期待を反映するいわゆるトービンのq(株式市場での評価)の上昇ペースは鈍かった。田中(2019)の設備投資関数の推定から、2010年代に設備投資が盛り上がらなかった要因として、低い成長期待に加えて、将来の不確実性や過去の設備投資の失敗経験が指摘できるが、それらのほかに、長期的な視点からは企業の社齢の上昇も設備投資に負の影響を及ぼしていた。
2010年代に入り堅調な企業収益のもと内部留保が拡大したが、その資金は現預金だけでなく対外直接投資へ向かった。成長期待の低い国内で設備投資を行うのではなく、それによって生じた企業の資金余剰が成長期待の高い海外で従来型のビジネスを横展開する形で運用され、さらに稼いだ資金を海外で再投資するという企業行動が見られる。
企業行動をマクロの視点から捉えなおすと、家計消費をはじめとした内需の弱さと企業の設備投資の弱さは整合的であり、成長期待の弱さは企業部門に限った話ではない。拡充した自己資本を将来の成長分野拡大のために有効活用していない企業に対して、投資家の見る目は厳しく、投資家は企業の成長を期待できずにいる。日本の企業・産業は新陳代謝が悪く、顔ぶれの変わらない企業の社齢は年々上昇しており、旧態依然とした企業・産業に経営資源が張り付いてしまったことで、テクノロジーの変化や需要のシフトに対応できずにいる。自己資本の有効活用を阻む要因として、企業ガバナンスの問題だけでなく、流動性の低い労働市場といった経済社会環境の存在が指摘できる。張り付いた経営資源が、新しい成長分野を求めて動き出していくには、柔軟な労働市場が不可欠であり、労働市場の流動性を制約するさまざまな制度の見直しが求められる。
【要旨】
日本の国内市場では高齢化と人口減少によって期待需要が低迷しており、期待収益率は海外市場の方が上回る状況が続き、日本企業は対外直接投資を加速させている。
本稿では、海外直接投資によってもたらされる海外での生産や売上の増加が国内マクロ経済の成長に寄与するための三つのメカニズムを想定することにより、グローバルな資本ストック調整が加速する今日の日本経済における新たな成長の原動力の可能性について整理し、展望する。
想定されるメカニズムの一つ目は、海外直接投資による収益を国内に還流して、その資金で設備投資を行う、または、国内所得として還元して消費を増やし、国内マクロ経済の成長に寄与するというメカニズムである。
二つ目は、現地法人向け輸出を増加させることによって国内企業と家計の所得を増加させるメカニズムである。輸出を増加させるための戦略としては、特に技術獲得型のクロスボーダーM&Aによって、現地法人向け輸出品を高付加価値化することが有効である。高水準の技術獲得型M&Aによって国内設備投資の成長と技術進歩も促進される。さらに、持続的な輸出の発展のためには「高付加価値製品を支える広義のインフラ財」を創出するとともに、これらを製造するグローバル・ニッチトップ企業を海外市場指向業種群としてクラスター化していくことが鍵になる。
三つ目は、グローバル企業としての企業価値の増大を通じて国内設備投資を増加させるメカニズムである。海外直接投資の増加はグローバル企業としての企業価値を向上させることにも繋がる。グローバル企業としての企業価値の向上は国内の資本蓄積(国内設備投資の増加)を促し、より高付加価値な輸出品を創出することが可能になる。したがって、海外直接投資と国内設備投資、輸出を共に成長させることも可能であると考える。
【要旨】
日本経済はこれまでオイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災等に起因する経済社会構造の大きな変化を経験してきた。こうした構造変化は、日本の景気動向に大きく関係している。本稿では、2000年代後半に始まった長期的な貿易赤字が、日本経済の構造変化に一因があるのではないかという問題意識から、日本の貿易収支の要因分析を行った2018年の研究(Sasaki and Yoshida, 2018)を紹介する。また、その中で構造変化の影響を受けた要素とされる為替相場のパススルーについて最新の研究を交えて論じる。
Sasaki and Yoshida (2018)では、97の産業における、リーマンショック前後の需要の価格弾力性、所得弾力性、パススルー弾力性をそれぞれ推計した。結果として、日本の貿易は、所得弾力性とパススルー弾力性において、リーマンショック前後で構造変化による影響を受けている。具体的には、日本の輸出価格は、リーマンショック後に為替レートの変化に対する反応度が小さくなり、日本の輸入価格は為替レートの変化に大きく反応するようになった。また輸出入の所得弾力性の傾向から貿易収支が悪化しやすい傾向にある。これらの結果から、今後日本は恒常的な貿易赤字となる可能性が高いことが示唆される。
また、Sasaki et al. (2022)から、為替相場の消費者物価へのパススルーは、確かに認められるものの比較的小さいという結果が得られている。最近の日本のインフレに関しては、資源価格の上昇や円安の影響以上に、コロナ禍による需要の変化と供給へのサプライショックの影響が大きいと考えられるので、新型コロナ感染症の経済への影響をより注視するべきである。
【要旨】
日本は経常収支黒字国であるが、その黒字の大部分は投資収益によるものであり、日本に還流しない資金が多い。そのため、経常収支の黒字が円高につながるという単純な見方は誤りである。実際には、キャッシュフローベースで見た経常収支は赤字であり、円安の要因の一つとなっている。円相場の動向を分析するには、経常収支の内訳や資金の流れを正しく理解することが重要である。
日本のサービス収支は、観光やデジタル、保険・年金などの分野で赤字が拡大している。観光は人的な制約があり、外貨を稼ぐ能力に限界がある。デジタルは価格が高く、値上げに対して弾力性が低い。保険・年金は外貨建ての商品が増え、為替リスクを海外に移転している。これらの要因は、サービス収支の赤字を拡大し、円安を促進する。円相場を分析するには、サービス収支の内訳や資金の流れを考慮する必要がある。
日本は経常収支黒字国であるが、その黒字は所得収支によるものであり、日本に還流しない資金が多い。そのため、経常収支の黒字が円高につながるという単純な見方は成り立たない。むしろ、貿易収支やサービス収支の赤字が円安の要因となっている。日本の家計や企業は、外貨性の資産に投資する傾向が強まっており、これも円安に寄与している。
日本は製造業の国内回帰や対内直接投資の増加などで、高付加価値な財を生産・輸出することで、対外経済部門の循環を改善する必要がある。日本は「債権取り崩し国」に移行する可能性もあるが、その前に外貨が漏れている現状を把握することが重要である。円相場は資源価格の上昇や金利差などにも影響されるが、経常収支の内訳や資金の流れを考慮することが必要である。
【要旨】
本稿では、信用創造の仕組みと資金循環の観点から日本の政府債務の維持可能性について検討を行う。
まず、日本の公債残高の対GDP比率が高いにも関わらず国債金利が上昇しない理由を述べる。信用創造の仕組みにより、貸付や新発債購入のような銀行与信の供給は既存の預金量に制約されないため、銀行与信供給は名目金利に対し弾力的になる。一方、物価が上昇して日銀の政策金利が引き上げられると金利の期間構造により国債金利も上昇する。よって、日本の国債金利が上昇しない理由は物価上昇率の低迷ということになる。
次に、1990年初頭を境に変化した日本の資金循環構造のマクロ経済への影響を議論する。資金循環統計の部門別資金過不足データから、1990年代初頭以降、財政赤字が国内の主な部門別キャッシュフローの源になった一方で、民間企業部門は政府部門からのキャッシュフローを債務返済に回したことが分かる。既存のコーポレートファイナンス理論を応用すると、債務削減により、債務の存在による日本企業への経営規律付け効果が弱まると、経営者の保身によるリスク回避傾向の強まりから、民間企業の投資需要が弱くなるという仮説を導ける。またミクロデータによる物価分析の文献を応用すると、無形資産投資や研究開発を含む民間企業投資の抑制により日本企業でイノベーションが起きにくくなると、実質経済成長率が低下するとともに、新製品投入による製品価格の引き上げが起きにくくなり、その結果、物価上昇率も低くなるという仮説を導ける。
上記の仮説の中で、債務の存在による経営規律付け効果については、関連する実証分析結果を紹介する。また、上記の仮説の政策的含意として、民間部門への銀行与信が日本の主な部門別キャッシュフローの源になることが望ましく、その実現のためには、財政赤字の縮小による政府部門からのキャッシュフローの抑制だけでなく、日本企業のコーポレートガバナンスと邦銀の与信機能の強化を促す政策が望ましいことを述べる。
最後に、日本の公債残高の対GDP比率の上限について検討する。1990年代以降の日本の家計資産の推移をみると、国債発行の増加を反映して家計金融資産の対GDP比率が増え続けてきたが、非金融資産を含む家計総資産の対GDP比率は概ね横ばいであった。よって、1990年代以降の公債残高増加に応じて、日本の家計が受動的に総貯蓄を増やしてきたという事実は全くない。日本の家計が保有できる公債残高の対GDP比率の上限は家計総資産の対GDP比率の水準以下のどこかの値にあると考えられる。日本の公債残高の対GDP比率がこの上限を超えた場合、国債の海外消化が必須となり、やがて途上国でのように、大幅な金利上昇、円安、インフレが発生するリスクが生じることが見込まれる。