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(1)産業投資の活用

産業投資の役割

 産業投資は、産業の開発及び貿易の振興を目的としており、政策的必要性が高く、リターンが期待できるものの、リスクが高く民間だけでは十分に資金が供給されない分野に民間資金の呼び水・補完としてのエクイティ性資金などを供給する産投機関に対する出資及び貸付を行っています。民間金融機関などの行う投資活動は、短期的な期間損益を株主、債権者などから求められる短中期的投資が中心となるのに対し、産業投資は、投資回収をして利益が上がるまで長期的に耐えることができる資金、いわゆるペイシェント・キャピタルであることが特徴です。

産業投資の対象分野

 産業投資は、従来、政策金融機関や独立行政法人などに対し、資本性資金の供給や政策的必要性の高いプロジェクトを支援するための財務基盤強化を目的とした出資を実施し、近年は、官民ファンドを通じて長期リスクマネー供給を強化し、これを呼び水として民間資金を誘発しています。
 官民ファンドについては、特に研究開発・ベンチャーなどの分野において、産業投資を活用して、民間の人材・ノウハウによる運営を基本としつつ、民主導の新しい官民パートナーシップの構築に向けた取組を行っていく必要があるとされ、平成21年度に(株)産業革新機構が創設されました(平成30年9月25日の改正産業競争力強化法施行により、(株)産業革新投資機構に改組)。また、(株)日本政策投資銀行による企業の競争力強化や地域活性化のほか、政府の成長戦略を受け、クールジャパン戦略、民間資金を活用したインフラ整備(PFI)、インフラシステムの海外展開支援などに官民ファンドの対象分野が拡大しています。
 一方、研究開発法人向け投資は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)などを踏まえた各法人における事業の廃止や新規採択の廃止などを受け、大幅に減少しています(平成26年度以降はゼロ)。

産投出資と産投貸付の役割・特徴

 産業投資は、財政融資と異なり、リスクが高い事業を対象として、主にエクイティファイナンス(産投出資)を実施しています。最近はメザニンファイナンスの供給源にもなっており、産投出資に加えて、産投貸付も特例的・限定的に活用しています。
 産投貸付については、確定利付の財政融資では対応困難な長期・一括返済の業績連動型金利設定の融資が可能であることから、資本性劣後ローンなどのメザニンファイナンスを手がけている(株)日本政策金融公庫などにおいて活用しています。

業績連動型金利設定のイメージ      資本制劣後ローンの効果
業績連動型金利設定のイメージ   資本制劣後ローンの効果

(2)官民ファンドを通じたリスクマネー供給

官民ファンドとは

 官民ファンドは、現在、我が国では民間資金がリスクマネーとして十分に供給されていない状況にある中、政府の成長戦略の実現、地域活性化への貢献、新たな産業・市場の創出などの政策的意義があるものに限定して、民業補完を原則とし、民間で取ることが難しいリスクを取ることによって民間投資を喚起する(呼び水効果)ものであり、民間主導の経済成長の実現を目的としています。

官民ファンドの概要(産業投資対象機関について)

官民ファンドの一覧表

官民ファンドのスキーム
官民ファンドのスキーム

(3)昨今の経済・金融情勢を踏まえた今後の産業投資について

 産業投資は、政策的必要性が高く、リターンが期待できるものの、リスクが高く民間だけでは十分に資金が供給されない分野にエクイティ性資金などを供給する産投機関に対する出資及び貸付です。産業投資は、特別会計に関する法律第50条において、「産業の開発及び貿易の振興のために国の財政資金をもって行う投資」と規定されており、政策性と収益性という2つの要件をそれぞれ満たす必要があります。2020年度末で6兆3,531億円の出資及び貸付を行っており、融資業務などのリスクバッファ、投資の直接の原資などに使われています。近年では、官民ファンド向けの出資など、投資の直接の原資としての産投出資が使われる割合が増えています。
 日本経済の成長力強化などにつながる産業の開発及び貿易の振興の観点から、民間投資の状況を見ると、新産業の創出、ビジネスの新陳代謝の促進、日本企業の海外展開などに係るエクイティ性資金の供給が一層必要であり、産業投資は、民間資金の呼び水・補完としての役割を果たす必要があります。他方、産業投資が出資している官民ファンドは、全体で累積損益はプラスですが、一部のファンドでは累積損失が生じています。
 このような状況を踏まえ、財政制度等審議会財政投融資分科会では、投資の直接の原資としての産投出資を中心に、今後の産業投資について検討を行い、令和元年6月14日に報告書『今後の産業投資について』が取りまとめられました。また、報告書において指摘された事項については、以下のとおり対応しております。

報告書『今後の産業投資について』への対応状況

1.改革工程表に基づく取組みを踏まえた財投計画編成

 平成31年4月に累積損失の大きい4官民ファンド(A-FIVE、クールジャパン機構、JOIN、JICT)は、「新経済・財政再生計画 改革工程表2018」に基づき、累損解消に向けた投資計画を策定・公表しています。その後は各年度央及び年度末の実績に基づき、最新の「新経済・財政再生計画 改革工程表2020」にも定めるとおり、各官民ファンド及び各監督官庁がそれぞれの投資計画の進捗のフォローアップを行っています。財投分科会等を通じて当該フォローアップ結果を確認し、財投計画編成に反映します。

(注)A-FIVEについては、監督官庁である農林水産省において、令和3年度以降は新たな出資の決定を行わず、可能な限り速やかに解散するとの方針が示されています。

2.投資の直接の原資としての産投出資に対するガバナンス(出資条件)

 投資の直接の原資として産投出資を行う機関との間で、産投出資の条件を取決めています。今後、収益性の実現に課題が生じる可能性がある場合には、当該出資条件に基づき、機関の投資決定プロセス等を適切に確認し、その確認の結果に応じて、翌年度以降の財投計画編成への反映を検討することとしています。

3.投資の直接の原資以外の産投出資に対するガバナンス(既往出資)

 産投機関・主務省から、毎年8月末に既往出資の活用状況等について報告を受け、産投対象プロジェクトの資金として一部活用されなくなったものがないか等について確認し、財投計画編成に反映するなどの対応を実施しています。