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8.財政投融資の抜本的改革について

8.自主運用のあり方


 (1)  基本的考え方
      郵便貯金及び年金積立金について、現在の預託義務を廃止する場合、それぞれの所管
    省庁が責任を持ってそれぞれの資金を管理・運用することになる。
      郵便貯金及び年金積立金が国の制度・信用によって集められた公的資金である限り、
    以下のように、その運用のあり方を考えていかなければならない。

      郵便貯金及び年金積立金の自主運用については、まず第一に、誰がどういう形で運用
    のリスクを負担し、また運用の結果について責任をとるのかという基本的な問題を整理
    する必要がある。すなわち、当初期待していた運用収益が上がらなかった場合や損失が
    生じた場合にその負担がどこに帰するかを明確にしておかなければならない。国の特別
    会計といった制度的枠組みを維持しながら、所管省庁が自主運用を行ったことにより、
    結果として納税者の負担となるような仕組みは是認できるものではない。
      なお、今後、金融システム改革が進展し、競争の激化と運用リスクの増大が予想され
    る中で、国営形態のままで自主運用を行うとすれば、運用リスクを公的に保証するとい
    う矛盾があり、また、たとえ運用責任を明確にしても、国営である限り国が何らかの形
    で運用責任を負わざるを得ない事態が生ずる懸念もあることから、郵便貯金及び年金が
    自主運用を行うのであれば、民営化を検討すべきであるとの意見が少なからずあった。
      郵便貯金及び年金積立金が公的資金である限り、その自主運用については、運用責任
    の所在を明確にすることに加え、郵便貯金事業の経営及び年金財政の健全性を確保する
    ため、安全・確実な運用を基本とすべきであり、資金運用の対象について一定の制約が
    課せられるべきである。
      公的資金の安全・確実な運用には、運用主体におけるリスク管理が不可欠であり、こ
    のため、ALM機能の整備と運用結果を検証する仕組みが重要である。特に、これまで
    の自主運用(資金運用事業)においては預託金利という指標により運用結果が検証され
    てきたが、預託義務が廃止された後においては、これに代わる運用結果を検証する仕組
    みにより運用責任を明確にするとともに、郵便貯金事業の経営及び年金財政の健全性を
    確保するための措置を講じていく必要がある。その際には、それぞれの資金を管理・運
    用する所管省庁や実際の運用を委託された場合の民間運用機関等の運用関係者の忠実義
    務や注意義務を明確にしておく必要がある。
      また、公的資金の運用が民間金融市場に影響力を及ぼしたり、金融システム改革の進
    展に伴う市場の改革に悪影響を与えることのないようにすることが必要である。自主運
    用に際しては、民間金融市場に与える影響にも十分な配慮を行い、市場原理に則した運
    用とすることが不可欠である。そうした観点からは、仮に、郵便貯金及び年金がそれぞ
    れの資金の運用先の一つとして財政投融資に資金を供給するとしても、その条件は完全
    な市場条件によるとともに、市場のチェックを通じた透明な仕組みとする必要がある。
      さらに、郵便貯金及び年金積立金の自主運用について、予算等によるチェックとコン
    トロールを確保するとともに、資金運用の状況が不透明にならないようディスクロージ
    ャーを徹底する必要がある。
      なお、郵便貯金等の公的資金が自主運用される場合に、仮に特殊法人等へ市場を通さ
    ない形での資金供給を行うこととなれば、それは第二、第三の財政投融資を新たに作り
    出すことにほかならないものであり、財政投融資の改革の趣旨に反することから、そう
    いったことが行われることがあってはならない。

 (2)  郵便貯金の自主運用
      郵便貯金は、その元本及び利子の支払いを国が保証しており、広い意味での「国の債
    務」であるが、受け入れた郵便貯金資金は、資金運用部へ預託することが義務付けられ
    ていることから、資金運用面における裁量は限られており、運用面を考慮しないで貯金
    を集める仕組みとなっている。
      郵便貯金事業については、今後の金融システム改革の流れの中で、市場原理に則り、
    より効率的な経営を行っていくため、調達・運用両面に自ら責任を持てる仕組みとする
    ことが望ましい。
      郵便貯金の自主運用については、運用に失敗した場合には最終的には国民負担となる
    懸念もあることから、公的資金として市場における安全・確実な運用を基本とする必要
    がある。
      さらに、結果として国民負担につながることのないよう、独立採算の事業である郵便
    貯金事業の責任において対応する仕組みが必要である。
      なお、郵便貯金事業の経営形態については別途議論されているところであるが、その
    運用のあり方については、いわゆるナローバンクあるいはコアバンク(一般に預金の全
    額を国債等信用リスクのない安全資産のみに運用する銀行をいう)として位置付けるの
    かどうかといった基本的な問題を整理して検討する必要があるとの意見があった。

 (3)  金の自主運用
      公的年金の積立金については、急速に少子・高齢化が進む中で、基本的に、保険料の
    拠出者の利益のためにできるだけ確実かつ効率的に運用することが望ましい。
      その自主運用については、まず運用責任の所在の明確化とこれを担保する管理体制の
    構築が前提条件となるが、その際、既に実施されている年金福祉事業団の資金運用事業
    が11年間の運用実績として、多額の赤字を計上していることを踏まえて、自主運用の
    あり方を検討する必要がある。
      年金の積立金(資産)は、将来の年金給付(債務)のための準備であり、資産の運用
    については、責任準備金概念を参考にして年金債務を明確にし、その債務の特質を踏ま
    えた資産の運用及びALM管理が必要である。我が国の公的年金は修正積立方式ではあ
    るが実態的にはかなり賦課方式の要素が強いものとなっており、将来の年金給付に見合
    う資産が確保されていないことから損失等を埋め合わせる余裕はない状況にある。した
    がって、期待した運用収益が上がらなかったり損失が生じたりすれば、年金の給付水準
    の引下げ又は保険料の引上げといった形で年金加入者が負担することにならざるを得な
    いことから、運用リスクをとることについては慎重でなければならない。なお、運用に
    ついては、収益性を踏まえて長期的観点に立った分散投資も考えるべきではないかとの
    意見もあった。
      公的年金の積立金は、強制徴収の保険料によって構成されており、年金加入者に対し
    て運用リスクを強制的に負担させることについては慎重であるべきと考えられることか
    ら、損失の発生等による年金加入者の負担の増大を防ぐため、運用に当たっては効率性
    よりも安全性・確実性を重視する必要があり、運用対象も安全・確実な資産を基本とす
    る必要がある。なお、諸外国においても、公的年金の積立金については、国債等の安全
    ・確実な資産への運用が基本となっている。
      年金の自主運用に当たっては、保険料拠出者の代表や金融・経済の専門家が参加する
    といった委員会を設け、この委員会が年金積立金の運用全般について諮問に応じるとと
    もに、年金積立金の運用状況を監視する等の役割を担うこととすべきであるとの意見が
    あるが、こうした委員会が、関係者の合意という形をとることで運用責任を曖昧にし、
    運用責任を転嫁するものであってはならない。



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