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7.財政投融資の抜本的改革について

7.資金調達のあり方


 (1)  基本的考え方
   民業の補完としての財政投融資に対するニーズは、時代の推移に従って質・量とも
    に変化してきているが、現行の郵便貯金及び年金積立金の預託義務制度の下では、出
    口の所要資金量と入口の資金量とが切り離されているため、市場原理と財政規律が必
    ずしも十分に機能していない状況にある。
      今後、財政投融資の出口における財政規律を強化するためにも、入口の資金調達段
    階での財政規律が必要であると考えられるところであり、既に述べたような資金調達
    面での問題点に対応するためにも、郵便貯金及び年金積立金については、現行の預託
    義務を廃止し、財政投融資の資金調達については、その今後のあり方にふさわしい新
    たな仕組みを導入する必要がある。
      その際、既に述べたように、1必要な額だけを能動的に調達すること、2市場と完
    全に連動した条件で最も効率的に調達すること、3金利リスクを適切に管理できるよ
    うにすること、が必要である。

 (2)  資金調達の各方式の意義と問題点
      今後の財政投融資の資金調達のあり方としては、
    1  財投機関債(政府保証のない特殊法人債券)
    2  政府保証債(政府保証のある特殊法人債券)
    3  財投債(国の信用で市場原理に基づいて一括調達する債券)
    が考えられるが、それぞれの方式についての意義と問題点とを整理すると、以下のよ
    うに考えられる。

    1  財投機関債(政府保証のない特殊法人債券)
        特殊法人等が民間金融市場において個別に政府保証のない債券(財投機関債)を
      発行することの意義については、
      a. 特殊法人の財務内容に対する市場の評価を受けさせることにより、効率性の悪
        い機関を浮かび上がらせることができる。
          その結果、財務内容に対する市場の評価が低い法人は資金調達ができず、淘汰
        されることが期待される。
      b. 市場からディスクロージャーを求められ、特殊法人の運営効率化へのインセン
        ティブとなる。
      c. 非効率な特殊法人の淘汰や機関の運営効率化が実現すれば、補給金等の財政負
        担の軽減に資する。
      といったことが指摘された。
        これに対し、財投機関債の問題点としては、
      a. 特殊法人は、民間では実施できない収益性の低い事業を行っているため、一般
        的には市場での財務上の評価は低くなると考えられることから、政策として不可
        欠な事業が、市場の評価が低いために資金調達コストが上昇するか、十分な資金
        調達ができずに不可能となるおそれがある。
      b. 特殊法人に自力での財投機関債の発行しか資金調達の手段を認めないこととす
        れば、市場の評価を上げるために収益性志向が強くなり、現在よりも民業圧迫の
        おそれが大きくなる。
      c. 政府が背後にいることから、実質的には政府保証があると判断され(「暗黙の
        政府保証」)、機関の肥大化や財政規律の喪失をもたらす可能性がある。
      d. 信用力、流動性や発行量から、資金調達コストは上昇し、補給金等の財政負担
        の増大につながる。
      といったことが指摘された。

    2  政府保証債(政府保証のある特殊法人債券)
        特殊法人等が個別に政府保証のある債券(政府保証債)を発行することの意義に
      ついては、
      a. 財務内容に関する市場の評価は低いために財投機関債では資金調達が困難であ
        るが、政策的にはその存立が必要な特殊法人等の資金が確保される。
      b. 財投機関債の場合には形式的には政府保証がなく各特殊法人等の自力による資
        金調達であることから各特殊法人等が肥大化する可能性もあるが、政府保証を付
        すことにより、政府・国会のチェック機能が働きやすくなり、肥大化を防止でき
        る。
      c. 本来は政府保証のない債券の発行が望ましいが、それが可能となるまでの過渡
        的な期間については、各機関の将来の自立を促す観点から、経過的に財投機関債
        に政府保証を付すことも是認されるべきである。
      といったことが指摘された。
        現在においても、政府保証債や政府保証外債が発行されているところであるが、
      政府保証のある債券の問題点としては、
      a. 政府保証自体には原資が不要であり資金調達の苦労がないことから、保証の審
        査が甘くなって財政規律を緩めてしまう可能性があることは、現行の受動的な資
        金調達と同様である。その結果、将来の国民負担を増大させることになりかねな
        い。
      b. 財投債の発行を通じた資金供給に比べ、各機関がばらばらに資金調達を行うこ
        とによるコストアップがあり、受益者又は納税者の負担が増大する。
      c. 全く収益性がない事業を行っており、償還確実性が確保されているといい難い
        特殊法人等であっても、国鉄清算事業団が現在政府保証債で資金調達を行ってい
        るのと同様、円滑な資金調達が可能となることから、負担の先送りに用いられる
        可能性がある。
      といったことが指摘された。

    3  財投債(国の信用で市場原理に基づいて一括調達する債券)
        政府が一括して民間金融市場で債券(財投債)を発行することの意義については、
      a. 必要な政策に対する資金需要を国の信用で一括して市場で調達するので資金調
        達コストが低く、特殊法人に対する補給金等の財政負担を小さくできる。
      b. 政策的必要性に応じた資源配分が可能であり、政策的に不可欠なサービスを提
        供している特殊法人に対する資金供給が円滑に行われる。
      c. 発行額について予算として国会の議決を受けることにより、資金調達に一定の
        歯止めをかけられるので、特殊法人の肥大化を防ぐことが期待できる。
      といったことが指摘された。
        これに対し、財投債の問題点としては、
      a. 特殊法人の財務に対する市場の評価を受けないことから、特殊法人の側からは、
        ディスクロージャーを進め、運営の効率化を推進するインセンティブがない。
      b. 財務に対する市場の評価が低いと考えられる特殊法人についても、資金調達が
        できないことによる淘汰が行われることはない。
          したがって、特殊法人の存続の適否は政策上の判断で行われることとなるが、
        厳しい判断は期待できない。
      c. 財投債の発行が安易になれば、肥大化した財政投融資の改革につながるか疑問
        であり、財政負担の先送りに利用される可能性が残る。
      d. 財投債は第二の国債ではないかとの見方もあり、その性格が明確でない。
      といったことが指摘された。

 (3)  今後の財政投融資の資金調達

    1  議論の経過
        当懇談会においては、今後の財政投融資の資金調達について、以下のように財投
      機関債を基本に据えるべきであるという考え方と財投債を基本に据えるべきである
      という考え方の両論が存在し、上記の (2)[資金調達の各方式の意義と問題点]に
      掲げたような論点を中心に、それぞれの立場から活発に議論が行われたところであ
      る。
        結局のところ、この問題は、財政投融資の対象分野・事業の見直しを行うに際し、
      市場原理による淘汰と、民主主義のプロセスに基づいた政治の決断のどちらにより
      信頼を置くかという価値観の相違によるところが大きく、その溝は容易には埋めら
      れなかった。

      (財投機関債を基本に据えるべきであるという考え方の論拠)
          財投機関債を基本に据えるべきであるという考え方の論拠を整理すると、次の
        とおりである。
          特殊法人等の様々な事業に対し、本来行われるべきである民主主義のプロセス
        による厳しいチェックを期待することは現実にはなかなか困難であるので、特殊
        法人等に財投機関債を発行させ、その財務に対する市場の評価を受けさせること
        により、効率性の悪い機関を浮かび上がらせ、特殊法人等の運営効率化へのイン
        センティブを与え、さらには非効率な機関の淘汰を図り、特殊法人等の改革を実
        現する。その意味から、特殊法人等については、政府保証も「暗黙の政府保証」
        もない財投機関債を発行し、自力で市場から資金調達を行うこととするべきであ
        る。

      (財投債を基本に据えるべきであるという考え方の論拠)
          他方、財投債を基本に据えるべきであるという考え方の論拠を整理すると、次
        のとおりである。
          本来、財政投融資の対象分野・事業については、不断の見直しを進め、最終的
        には民主主義のプロセスに基づいた政治の決断によるべきであり、こうした民主
        主義のチェックを経た特殊法人等の事業については、国民がその政策を必要であ
        ると判断した以上、その資金需要を国の信用で市場原理に基づいて一括して調達
        することによって国民の負担を最小とするよう努力することは政府の責務である
        といえる。その意味から、特殊法人等の真に必要な政策分野に対する資金調達は
        財投債によるべきである。

        この問題に関する当懇談会での議論が次第に深められていく中で、財政投融資の
      今後の資金調達について、財投機関債と財投債のどちらに重点を置いて考えるかの
      差は大きなものがあるが、いずれにしても、その一方だけで対応すべきであるとい
      う見解は次第に少なくなり、財投機関債と財投債の両者を併用すべきであるという
      ことについては大方の一致をみた。

    2  具体的な対応(財投機関債と財投債の併用論)
        このような議論の経過を踏まえ、財政投融資の今後の資金調達について、大方の
      意見を整理すると、次のようになると考えられる。

      (財投機関債)
          特殊法人等の資金調達については、今後、可能な範囲で民間資金の活用を進め
        るなど調達方法の多様化を進め、できる限り公的信用供与を減らしていく方向は
        望ましいものと考えられる。そうした観点から、現在財政投融資の対象となって
        いる各機関の資金調達に当たっては、各機関及び所管官庁において、当該事業を
        実施するために必要な額の範囲で財投機関債を発行することができるかどうかに
        ついて検討することが必要である。特に、将来の民営化を視野に入れている機関
        については、政府の財務面等についての関与を弱めるとともに財投機関債の発行
        を促進することが望ましいのではないかと考えられる。また、その際、財政構造
        改革の観点から、財政負担が増大することのないよう留意する必要がある。
          ただし、「暗黙の政府保証」に依存した安易な財投機関債の発行が行われるこ
        とは不適当であるので、現実に財投機関債の発行を行うためには、財投機関債発
        行法人等についての破綻及びその処理の仕組みの法的整備、補給金の取扱い、デ
        ィスクロージャーの取扱いといった点に関し、市場の評価が適切に行われるため
        の条件整備を進めておく必要がある。
          なお、財政投融資の対象となっている機関が政府保証のない債券を発行するに
        当たっては、最近の金融技術の利用等により、例えば当該機関の事業のうち一部
        を他の事業とは完全に区別して、その事業については政府の関与を必要としない
        ような信用力の強化措置を講じ、政府の関与がない旨を明らかにして、債券(い
        わゆるレベニュー債券)を発行することや、既往の貸付債権等の資産に裏付けら
        れた債券(アセットバック債券)を発行することについて、積極的に検討すべき
        である。
          このことは、将来を見据えた証券市場の発展にも寄与するものとなると考えら
        れる。

      (財投債)
          財投機関債による資金調達では当該政策分野に必要な資金需要を満たすことが
        できない機関又は資金調達コストが大幅に上昇してしまう機関に対しては、その
        政策が必要であると判断する以上、そのための資金を安定的に供給することは政
        府の責務である。その際、国民の負担を最小とする観点から、政府が資金の調達
        量と年限を能動的に決定し、国の信用で市場原理に基づいて一括調達する方式で
        ある財投債を導入することが必要である。財投債の導入は、今後の財政投融資が
        市場原理とより一層調和した資金調達を行っていくという観点からも重要な手段
        である。財投債については、法制面等の具体的な検討が政府において今後進めら
        れる必要がある。その際、財投債が安易に発行され、財政投融資の規模が肥大化
        することのないよう、各年度の財投債の発行額について国会の議決対象とするほ
        か、適切な歯止め措置について真剣に検討することが極めて重要である。

      (政府保証債)
          政府保証債については、政府の保証に基づいた個別の機関の資金調達が安易に
        行われることを避けるため、できる限り抑制する方向で対応すべきである。
          しかしながら、直ちに政府保証なしで財投機関債を発行することが困難な機関
        については、経営基盤の強化を図り、政府保証のない債券の発行ができるように
        なるまでの過渡的な期間において、個別に厳格な審査を経た上でその債券に政府
        保証を付すことも考えられる。
          また、政府保証なしで財投機関債を発行することが困難な機関について、例え
        ば当該機関の行う事業について受益者からの負担金の支払いを受けるまでの間の
        資金繰りのため発行される債券に政府保証を付す場合や、財投債の発行による政
        府からの資金調達の補完としてALM上の必要性からある程度の政府保証債を限
        定的に発行する場合等についても、個別に厳格な審査を経ることは当然の前提と
        して、やむを得ないものと考えられる。
          なお、政府保証は、その履行義務が将来に発生することから安易に行われがち
        であり、政治的な判断も含めて政府保証を付けると歯止めが効かなくなるので、
        政府保証は絶対に行うべきではないという意見もあった。

      (その他の留意点)
          財投機関債、財投債、政府保証債の具体的な使い分け等に関して必要な事項に
        ついては、制度改革が実施されるまでの間にさらに検討が行われる必要があるが、
        現実に発行可能な金額等については、民間金融市場との関係で決まってくるもの
        であることに留意する必要がある。

          また、現在、財政投融資計画は財政投融資三表(資金計画、原資見込、使途別
        分類表)にまとめられ、国会に提出されているところであるが、制度改革後にお
        いても、財政投融資の対象となっている特殊法人等及びその事業に関する国民へ
        のディスクロージャーを適切に行うため、各機関の資金調達についても一覧性の
        ある資料が国会に提出されることが必要である。

      (注)財投債は「第二国債」であり、国の債務を増加させるので問題であるという
          議論があるが、
          a)  財投債は、市場において信用力が国債と同様に評価される債券ではあるが、
            その発行により得られた資金がその償還のためのキャッシュフローを生む金
            融資産・貸付債権を形成することとなり、その償還も貸付先からの返済によ
            って行われる
          b)  他方、建設国債等の普通国債は、償還財源について一般に将来の租税に依
            存するなど両者は基本的に異なっており、財投債を「第二国債」と言うこと
            は適当でない。
              また、現在でも郵便貯金は国の債務ではあるが、国の金融資産・貸付債権
            となり、かつ、返済のための資金が確保されているといった性格から、政府
            債務とは観念されておらず、財投債もこれと同じ性格を持っている。
              なお、財投債は、国連で定めている国際的な基準というグローバルスタン
            ダードに照らしても、財政の健全性などを論じる際の国及び地方の債務には
            含まれるものではない。

 (4)  資金調達面の改革の円滑な実施に向けて
      郵便貯金及び年金積立金について現行の預託義務を廃止する場合、それまでに行わ
    れた貸付を満期まで継続しつつ預託者への満期償還を履行するために必要な資金を確
    実に調達する手段としての財投債が必要である。

      現行の資金調達の問題点は、郵便貯金及び年金積立金が資金運用部の原資の約9割
    を占めているということに起因する問題であり、郵便貯金及び年金積立金について現
    行の預託義務を廃止するとしても、その他の特別会計の積立金等については、国庫制
    度のあり方、個別に運用することの非効率性・安全性の問題等から、現行の仕組みを
    継続することが必要である。その際、先に述べたとおり、市場原理との調和を図る観
    点から、市場と完全に連動した条件とすることが必要である。

      単年度主義を基本とする一般会計と異なり、財政投融資には極めて大きな融資残高
    を保有しているという特徴がある。このため、制度の改革に当たっては、資金運用部
    や政府系金融機関の資産・負債管理に対して金融的なリスクが生ずること等を避けな
    がら、適切な経過措置を講ずるなど円滑な実施を図らなければならない。
      また、今日、資金運用部の保有する有価証券の残高や預託者である郵便貯金、公的
    年金の資金量が相当なものであることを踏まえれば、財政投融資制度の改革が、金融
    システム改革の過程にある民間金融市場を撹乱することは避ける必要があり、そのた
    めにもある程度時間をかけて対応していくべきである。



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