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「I 10年度財政投融資要求に当たって」


《I 10年度財政投融資要求に当たって》

1.基本的考え方
 財政投融資については、平成9年度において、政策的な資源配分を行う一般財投について対前年度比3%減のスリム化が図られたところであるが、10年度においては、「財政構造改革の推進について」(9年6月3日閣議決定)に基づき、民業補完や償還確実性の徹底を図り、その対象分野・事業を思い切って見直し、一般財投の一層のスリム化を推進する必要がある。
 具体的には、10年度財政投融資編成においては、特に以下の事項について留意することが不可欠であると考えている。
 各省庁においては、財政投融資を取り巻く現在の状況を勘案し、以下の諸点を踏まえた的確な要求を行うよう期待するところであり、大蔵省においては要求内容の精査に努め、政府全体として10年度財政投融資編成を財政投融資の改革に向けての重要なステップとしていくことを強く期待するところである。
 その際、大蔵省においては、分野・事業別審査体制を充実し、複数機関にわたる類似業務を統一的に審査することが必要であると考える。
 なお、一般会計については、財政構造改革の一環として主要経費について量的縮減目標等が設定されたところであるが、財政構造改革会議の報告にもあるとおり、財政構造改革に当たっては、一般会計の歳出を削減するだけではなく、財政投融資についても民業補完や償還確実性の徹底等、スリム化を目指して見直すことが必要である。この観点から、一般会計と財政投融資の役割分担を明確にしつつ、一般会計から財政投融資への転嫁は厳に慎むべきである。

2.有償資金にふさわしい分野・事業への限定
 財政投融資は、公共財及びそれに準ずるものを供給するという財政政策上の目的を実現する上で有償資金の活用が適切な分野について投融資といった手法を用いるものである。
 平成10年度の財政投融資においては、このような財政投融資の性格に照らして、真にふさわしい分野・事業に対象を限定することが適当である。
 この限定に当たっては、次の観点を重視する必要がある。

(1) 公的関与の必要性の精査

1  民業補完の徹底、官民の分担のあり方の見直し
 公的部門は、本来、民間の活動を補完すべきものであり、民間でも実施可能と判断できる事業については、財政投融資の対象から除外すべきである。

2 「特殊法人等の整理合理化について」(閣議決定)への積極的対応去る6月6日の閣議決定「特殊法人等の整理合理化について」及びその過程で指摘された事項等を受け止め、10年度の財政投融資編成に当たっても的確に対応する必要がある。

3 民間資金の活用
 公的部門が関与すべきであると判断される事業についても、民間金融市場からの資金調達が適切と考えられるものは、できる限りこれを活用することとし、公的信用供与を減らしていくこととする。
 各機関及び主務官庁においては、政府保証なしで民間金融市場で発行する財投機関債等も含め、各種資金調達手段を検討すべきである。

(2) 償還確実性の精査
 有償資金を活用する財政投融資は、返済を投融資先事業の資金回収によって行い、受益者から受益に見合った負担を求めることなどにより、租税負担の増大を避けるという意義を有している。したがって、対象事業の元利償還の確実性の一層の精査に努める必要がある。その際、次の点に十分留意すべきである。

1  対象事業のコスト(財政負担等)分析手法の導入の検討
 財政投融資については、一定の部分について税財源との組合せによって事業の遂行に当たる部分があるが、将来にわたるこのような税負担の全体像は、事業の採択に当たって、予め明らかにされ、これに基づいて国民の理解が得られる適切な政策決定が行われる必要がある。このことは、国民負担に関する情報のディスクロージャーにつながるとともに、財政の健全化にも資するものである。
 したがって、このような対象事業の財政負担を最小限に抑制するためにも、将来にわたるコストに関する分析手法の段階的な導入に向けて検討を進めるべきである。
 その際、米国における「信用改革法」の取組み等を参考とし、両国の財政制度の違いを踏まえつつ、我が国における手法を確立すべく取り組んでいく必要がある。

2 国鉄清算事業団、国有林野事業特別会計の取扱い
 財政投融資の実質的不良債権として指摘されることの多い現状の国鉄清算事業団、国有林野事業特別会計への財政投融資については、今後、新規の貸付を行うことは適当ではないと考える。
 これらについては、昨年末の閣議決定において、長期債務の処理策や事業の抜本的改善策がそれぞれ本年中に策定されることとされているが、その本格的な処理策の早期策定・実施に期待することとしたい。

3.市場原理との調和の推進
 財政投融資は、財政政策上の目的を実現する上で有償資金で行うことがふさわしい分野について、投融資という手法により政策目的を達成するものであるので、その実施に当たっては、金融システム改革の進展等を踏まえ、市場メカニズムとの調和を一層促進することが必要である。
 平成10年度の財政投融資においては、この観点から、次の諸点に十分留意すべきである。

(1) 繰上償還の取扱い
 平成9年度において、いくつかの機関と資金運用部との間における新規の貸付に関する損害金(貸付金の割引現在価値と償還額との差額)の支払いを前提とした繰上償還のルールが定められたところである。
 平成10年度においても、引き続き、各機関の事情に照らしつつ、このルールの適用を受ける新しい貸付制度の一層の普及に努めるべきであり、各省庁においても、要求段階から極力積極的に取り組むべきである。

(2) 資産・負債管理(ALM)の徹底
 市場メカニズムとの調和を進めていくため、財政投融資資金を借り入れている機関(特に政策融資を実施している機関)の資産・負債管理(ALM)の導入・高度化を一層促進すべきである。
 その際には、各機関について、将来にわたる元利の受払い状況等、ALMの観点から必要とされる諸データを、可能な限りリアル・タイムで把握する体制の整備に努める必要がある。

4.自主運用(資金運用事業)
 一般財投のスリム化に合わせ、現行の自主運用(資金運用事業)を増額することが適当である。

5.ディスクロージャーの徹底
 財政投融資は、民主主義のプロセスの中で運用されるものであること等から、十分なディスクロージャーが必要であるが、近年、全銀協の統一開示基準並みに情報開示を行った「財投リポート」を公表し、また、資金運用審議会及び同懇談会の議事要旨等も含め、各種の情報をインターネットで提供するなど、一層の充実に向けて様々な取組みが行われている。平成10年度においてもそうした取組みを引き続き推進する必要がある。
 特殊法人の情報開示については、先の国会において、「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の推進に関する法律」が成立したところであるが、各特殊法人等やその主務官庁において、同法等に基づき一層のディスクロージャーの推進に向けた取組みがなされることを期待するものである。
 特に、財政投融資の対象となっている特殊法人等について国民の関心の強い各法人における不良債権額、一般会計等から各法人への繰入額、各法人における累積損失額等に関して、わかりやすい形でのディスクロージャーに努めることが必要である。


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