第5章 会計監査人の地位(職務、権限、義務、責任)
第1節 会計監査人の職務
|
(1)
| 会計監査人と被監査独立行政法人との関係について 会計監査人は、通則法第40条の規定により主務大臣に選任され、被監査独立行政法人と会計監査契約を締結し、当該会計監査契約に基づき監査を実施するものである。会計監査人が被監査独立行政法人と会計監査契約を締結する際、当該被監査独立行政法人の機関で会計監査人の相手方となる者は、当該被監査独立行政法人の代表機関であり、通常は独立行政法人の長である。 また、中央省庁等改革の推進に関する方針III18.(2)の趣旨を踏まえ、被監査独立行政法人の監査における会計監査人と監事の各々の監査業務を円滑に遂行する観点から、独立行政法人の長は、当該会計監査契約を締結しようとするときは、監事の意見を聴くことが必要である。 独立行政法人の財務諸表等の作成の最終的な責任と権限は、当該独立行政法人の長に属するものである。したがって、被監査独立行政法人において、会計監査人が監査報告書等を提出する相手方は、当該独立行政法人の長である。 また、会計監査人との連携の確保による監事の職務遂行の効率化の観点から、会計監査人は、監査報告書等を独立行政法人の長に提出する際には、当該監査報告書等を監事に対しても提出すべき旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。
|
(2)
| 会計監査人と監事の関係について 独立行政法人の監事については、通則法第19条第4項に独立行政法人の業務を監査する旨定められている。一方、会計監査人については、同法第39条に独立行政法人の財務諸表等を監査する旨定められている。 この同法第19条第4項に定める監事の職務及び権限は、独立行政法人の財務諸表等の監査を包含するものであり、その監査の対象の範囲は、当該独立行政法人が、同法第39条に基づく会計監査人の監査を受けるか否かにより変化するものではない。 したがって、当該独立行政法人が同法第39条に基づく会計監査人の監査を受ける場合であっても、監事は、会計監査人が監査を行う前述の財務諸表等についても、会計監査人の監査とは別にその職務と権限に基づき監査を行い、同法第38条第2項の規定に基づき、当該独立行政法人が、事業年度の終了後に当該財務諸表を主務大臣に提出するときは、会計監査人の意見と併せて自らの監査意見を付すものとされており、この場合において会計監査人の監査と監事の監査が併存するものと解される。 ただし、監事は、財務諸表等の監査においては、会計監査人が会計の職業的専門家として財務諸表等の監査を行うものであることを前提とし、会計監査人の行った監査の方法とその結果の相当性を自らの責任で判断した上で、当該会計監査人の監査の結果を利用し自らの意見を述べることができる。 このため、前述の会計監査契約の締結に当たっては、監事の会計監査人に対する、会計監査人が作成した監査報告書についての説明要求、会計監査人の監査に関する報告聴取に係る権限が明確に定められることが必要である。
|
(3)
| 会計監査人と主務大臣等との関係について 会計監査人と主務大臣、主務省に置かれる独立行政法人評価委員会及び総務省に置かれる政策評価・独立行政法人評価委員会(以下「主務大臣等」という。)との関係について、会計監査人は、通則法第40条の規定に基づき、主務大臣に選任されるものであるが、いわゆる上級庁-下級庁の関係に立つものではなく、主務大臣等は、会計監査人に対して報告を要求する権限を有してはいない。 この場合、会計監査人が業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を主務大臣等に提供することについて、公認会計士の守秘義務を定めた公認会計士法第27条の正当な理由に該当するかどうかが問題となる。正当な理由に該当するかどうかの判断は、情報提供により失われる当該法人の利益と、主務大臣等に情報が提供されることにより得られる利益を比較衡量するべきものと解されている。この点については、
|
|

| 株式会社の場合、原則として定時総会で財務諸表の承認を得ることとされているが、商法特例法第17条第2項の規定に基づき定時総会の決議があったときは、会計監査人は、定時総会に出席して意見を述べなければならない。この場合、公認会計士の守秘義務は解除されるものと解されている。独立行政法人においても、主務大臣から財務諸表の承認を受けることとされており、その際に主務大臣は独立行政法人評価委員会の意見を聴くこととされている。また、会計監査人は、株式会社では株主総会で選任されるのに対し、独立行政法人では主務大臣が選任することとされている。 したがって、少なくとも財務諸表の承認に関しては、会計監査人が主務大臣等に対して情報提供を行うことに正当な理由があると解するべきである。
|
|

| 独立行政法人制度は、法人に対する国の事前関与を最小限にする一方、各府省に置かれる独立行政法人評価委員会及び総務省に置かれる政策評価・独立行政法人評価委員会による事後チェックが極めて重要なものと位置付けられている。また、独立行政法人はいわゆる公法人であり、その情報を外部へ開示する必要性が民間と比べて高い。 したがって、会計監査人が主務大臣等に対して情報を提供することにつき正当な理由があると考えられる範囲は、財務諸表の承認にとどまらず、法令の規定による事後チェック等のために必要なことにも及ぶと解することが適当である。
|
| 以上を踏まえると、会計監査人は、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報について、財務諸表の承認や業務実績に対する事後評価等に関し主務大臣等に情報提供を行うことができることとすることが適切である。 ただし、独立行政法人制度上、法人に対する国の事前関与は最小限とされており、主務大臣等への報告事項も法令に限定されていることから、主務大臣等が情報提供を求めるのは、法令に規定された権限の行使に関連した事項に限るべきである。主務大臣等が会計監査人に対し情報提供を求める際は、その情報が、どういう権限の行使のために必要と考えられるかに関し法令上の根拠を示す必要がある。 独立行政法人制度においては、商法特例法第17条に相当する規定が存在しないため、法令の解釈に関する無用のリスクを回避する観点から、上記の趣旨を踏まえて、会計監査契約において予め合意をしておく必要がある。具体的には、主務大臣等から法令に規定された権限の行使のために必要があるとして求められた場合、又はこの監査基準において主務大臣に報告すべきことが求められている場合には、会計監査人が主務大臣等に対し業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供することについて、包括的に同意しておくべきである。 他方、会計監査人は、主務大臣等が法令上規定する権限の行使に伴い必要とされる場合には、主務大臣等に対して適時かつ適切に情報の提供を行うことが期待される。 なお、会計監査人が被監査独立行政法人の同意を得て、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供した場合であっても、会計監査人が当該行為により第三者に損害を与えた場合は、被監査独立行政法人の同意を得ていることをもって、会計監査人は、当該第三者に対する不法行為責任等を当然に免れるものではない。
|
第2節 会計監査人の権限
独立行政法人の会計監査人の権限に関する法令上の具体的な定めはない。 独立行政法人に対する会計監査を適切かつ円滑に遂行するためには、中央省庁等改革の推進に関する方針III18.(3)に記載されたように、「会計監査人は、何時でも、独立行政法人の会計の帳簿及び書類の閲覧もしくは謄写をし、又は長その他の役員(監事を除く。)及び職員に対して会計に関する報告を求めることができる」とすべきである。 また、連結財務諸表監査における会計監査人による特定関連会社及び関連会社の監査は、連結財務諸表の適正性を保証する上で必要な監査手続であることから、独立行政法人の長は特定関連会社及び関連会社が監査に協力するよう措置すべきである。なお、特定関連会社及び関連会社の協力が得られないことにより、会計監査人が監査意見表明のための合理的基礎が得られない場合の責任は、独立行政法人の長にある。 上記の目的を達成するために、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、会計監査人の権限及び独立行政法人の長の責任の範囲が明確に定められることが必要である。
第3節 会計監査人の義務
独立行政法人の会計監査人の義務に関する法令上の具体的な定めはない。 独立行政法人に対する会計監査を適切かつ円滑に遂行するために、本報告書第6章の記載中、会計監査人の義務に相当する内容については、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、会計監査人の義務の範囲として明確に定められることが必要である。 また、会計監査人は、財務諸表等に重要な影響を与えない不正及び誤謬並びに違法行為について積極的にその発見に努める義務を負うものではないが、その権限を行使し会計監査を行う過程で当該事実を発見した場合は、独立行政法人の公共的性格にかんがみ当該事実を被監査独立行政法人の長に報告することを要する。なお、被監査独立行政法人の長は、会計監査人から当該事実の報告を受けた場合は、適切な是正措置を講じるべきである。 さらに、監事の職務遂行の効率化の観点から、会計監査人は、当該事実を被監査独立行政法人の長に報告したときは、被監査独立行政法人の監事に対しても、当該事実を報告すべき旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。 なお、公認会計士法に定めのある公認会計士及び監査法人の義務は、それぞれ会計監査人である公認会計士及び監査法人に適用されることは当然である。
第4節 会計監査人の責任
独立行政法人の会計監査人の責任については、法令上、会計監査人に特別の責任を課す定めはない。 したがって、民事責任について、会計監査人と被監査独立行政法人とは、準委任の関係に立ち、会計監査人は、善良なる管理者の地位をもって職務を行う義務を負うことから、会計監査人が、当該義務に違反した場合には、被監査独立行政法人に対して債務不履行の責任を負うことになる。ただし、会計監査人の責に帰すべき事由がなければ、その限りではない。 |