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【独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る報告書】第1章~第5章/財政制度等審議会

独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る報告書



第1章 独立行政法人に対する会計監査人の監査(基本的な考え方)

第1節 会計監査人の監査の導入目的


独立行政法人の制度設計の主眼は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務・事業のうち一定のものについて、国とは別の法人格を有する独立行政法人を創設して事務・事業を行わせることとし、法人に自主的、自律的な業務運営を行わせるとともに、業務の実績について適切な事後評価を行うことにより、国民のニーズに即応した効率的な行政サービスの提供等を実現することにある。
このような制度設計の主眼を実効あるものとするためには、独立行政法人の業務の効率性、質の向上や透明性の確保を図ることが肝要であり、特に法人の財務運営に関する真実の情報が報告され、この情報に対して適切な事後チェックを行う仕組みが用意されることが必要である。
このような観点から、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)は、第37条で独立行政法人の会計は原則として企業会計原則によるものとし、第38条で独立行政法人に対して財務諸表の作成と主務大臣による承認を受けること並びに財務諸表及び決算報告書に関して会計監査人の意見を付すことを義務付けるとともに、第39条で独立行政法人に対して、財務諸表、事業報告書(会計に関する部分に限る。)及び決算報告書(以下「財務諸表等」という。)について、会計監査人による監査を受けることを原則として義務付けている。また、独立行政法人が財務諸表を作成する際の基準として、独立行政法人会計基準及び同注解が設定されている。
独立行政法人に対する会計監査人の監査は、独立行政法人が作成した財務諸表等の信頼性を担保すること、すなわち、通則法並びに独立行政法人会計基準及び同注解に基づき作成された財務諸表等が、独立行政法人の財政状態、運営状況等財務運営に関する真実の情報を正しく表示していることを担保するものである。

第2節 会計監査人の監査の位置付け

独立行政法人は、「その行う事務及び事業が国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要なものであることにかんがみ、適正かつ効率的にその業務を運営する」(通則法第3条第1項)責務を負っている。このような独立行政法人の公共的性格から、通則法第39条では、独立行政法人に対する会計監査人の監査は、財務諸表に加えて、事業報告書(会計に関する部分に限る。)及び決算報告書もその対象としている。これらの書類が監査の対象とされる理由は、以下のとおりである。
まず、財務諸表に対する監査は、主務大臣の承認(通則法第38条第1項)を受けることを前提として、財務諸表が当該法人の財政状態、運営状況等財務運営の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうか、職業的専門家としての会計監査人のチェックを経ることを目的とするものである。財務諸表監査は、独立行政法人の会計監査制度の中核をなすものであり、会計監査人は、独立行政法人の財務諸表が、独立行政法人会計基準及び同注解並びに一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠しているかどうかを監査する。
事業報告書は、独立行政法人が主務大臣に財務諸表を提出する際、その参考として添付される書類であり、業務運営の状況を報告することを目的とするものである。事業報告書は、財務諸表とは異なり、主務大臣の承認の対象ではなく、提出に際しても、通則法上、会計監査人の意見が付されることを要しない。事業報告書に対する監査は、財務諸表と密接に関連する会計に関する部分について、財務諸表と矛盾する記載がないかどうか、確認的に行われるものと解される。
決算報告書も、財務諸表を提出する際に添付される書類であり、主務大臣の承認の対象ではない。決算報告書の監査は、決算報告書が予算の区分に従って決算の状況を正しく表示しているかどうかをチェックするためのものである。独立行政法人は、効率的な業務運営のために、中期目標、中期計画及び事後評価の仕組みが導入されており、事前計画との対比が重視されている。このため、決算報告書に関しては、予算の区分に従って決算の状況を正しく表示しているかどうかについて、会計監査人の意見が付けられるものと考えられる(通則法第38条第1項及び第2項参照)。
以上のように、通則法第39条における会計監査人の監査は、商法監査と類似した財務諸表及び事業報告書(会計に関する部分に限る。)に対する監査に加えて、独立行政法人の業務運営の方法を反映し、予算決算対比を目的とする決算報告書監査も求められている。しかしながら、独立行政法人に対する会計監査は、あくまで財務諸表に対する監査が制度の中核であると考える。財務諸表は主務大臣の承認を要する書類であり、会計専門家による会計基準への準拠性の監査が強く要請されるからである。独立行政法人への会計監査については、企業会計における財務諸表監査の考え方を参考とすることにより、会計監査人の専門的な能力や実務面での蓄積を活用することが期待されるものと考える。

第3節 会計監査人の監査における法規準拠性の考え方

企業会計における財務諸表監査においては、財務諸表に重要な影響を及ぼす不正及び誤謬並びに違法行為(以下この節において「違法行為等」という。)の存在を看過することなく監査を実施するという実務慣行が存在する。公共的性格を有する独立行政法人に対する会計監査人の監査においては、企業の会計監査にも増して、違法行為等の発見に対する重大な関心があると思料されるところである。会計監査人の監査の性質を検討するに当たっては、このような重大な関心について適切に考慮することが必要である。特に、会計監査人には、財務諸表等が通則法を始めとする関連法規に準拠して作成されているかどうかという点について適正な判断を下すことが求められる。
これらのことから、独立行政法人に対する監査においては、会計監査人は、財務諸表等が独立行政法人の財務情報等を適切に表示しているかどうかを判断する手続の一環として、法規準拠性の観点を踏まえた会計監査を実施しなければならない。通則法第39条による独立行政法人に対する監査は、あくまで財務諸表等の監査であることから、法規準拠性とは、財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠するということであると考える。公共性の高い事務・事業を行う独立行政法人は、民商法等の私法のみならず、公法体系の法令が適用される局面も多く、準拠すべき法令やその内容を網羅的に列挙することは極めて困難であり、実務上も現実的ではないと考える。
独立行政法人の会計監査は、企業の会計監査と同様に、財務諸表等の正確性の証明、すべての違法行為等の発見を目的としているわけではない。しかしながら、財務諸表等に重要な影響を与える違法行為等については、会計監査人が積極的に発見するよう努めていかなければならない。また、財務諸表等に重要な影響を与えるには至らない違法行為等を発見した場合であっても、独立行政法人の会計監査人は、必要な報告を行うなど、適切に対応しなければならない。


第4節 リスク・アプローチに基づく監査の実施

企業の会計監査においては、リスク・アプローチに基づく監査が実施されている。リスク・アプローチの考え方は、財務諸表に重要な虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期及び範囲を決定することにより、より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。このような、効果的かつ効率的な監査の実施は、独立行政法人の会計監査においても当然に求められるところであり、独立行政法人の会計監査人は、リスク・アプローチに基づき、より効果的でかつ効率的な監査を実施することが求められる。
なお、リスク・アプローチの基本的枠組みにおいては、監査上のリスクは、次のリスクで構成される。

 1

監査リスク:監査人が、財務諸表等の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう。

2

固有リスク:関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、財務諸表等に重要な虚偽の表示がなされる可能性をいい、独立行政法人の業務運営環境により影響を受ける種々のリスク、特定の取引記録及び財務諸表等項目が本来有するリスクからなる。

3

統制リスク:財務諸表等の重要な虚偽の表示が、独立行政法人の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性をいう。

4

発見リスク:独立行政法人の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表等の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。

リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められる。このため、独立行政法人の会計監査人は、固有リスクと統制リスクを評価することにより、虚偽の表示が行われる可能性に応じて、会計監査人が自ら行う監査手続やその実施の時期及び範囲を策定するための基礎となる発見リスクの水準を決定しなければならない。例えば、固有リスク及び統制リスクが高いと判断したときは、自ら設定した合理的な監査リスクの水準が達成されるように発見リスクの水準を低く設定し、より詳細な監査手続を実施することが必要となる。また、固有リスク及び統制リスクが低いと判断したときは、発見リスクを高めに設定し、適度な監査手続により合理的な監査リスクの水準が達成できることになる。このように、固有リスクと統制リスクの評価を通じて、発見リスクの水準が決定される。
リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、会計監査人による各リスクの評価が決定的に重要となる。このため、独立行政法人の会計監査人は、独立行政法人の会計処理と関連を有する独立行政法人設立根拠法等の法令の規定に関する情報、独立行政法人の中期目標、中期計画及び年度計画等の計画に関する情報、独立行政法人の組織や人的構成、内部統制の機能その他の情報を入手することが必要となる。

第5節 会計監査人の監査における重要性の判断

独立行政法人会計基準では、「独立行政法人の会計は、国民その他の利害関係者の独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないようにするため、取引及び事象の金額的側面及び質的側面の両面からの重要性を勘案して、適切な記録、計算及び表示を行わなければならない」として、独立行政法人会計における重要性の原則を明らかにしている。加えて監査判断に関する重要性の原則が存在する点では、独立行政法人の会計監査においても企業の会計監査と同様である。したがって、対象となる事項が財務諸表等に対してどの程度の影響を与えるかを金額的に判断する量的基準と、対象事項自体の性格により判断する質的基準を総合的に勘案して、監査における重要性の判断を行う必要がある。
独立行政法人の会計監査における重要性を判断するに際しては、独立行政法人の公共的性格にかんがみ、企業の会計監査と比較して、量的及び質的側面の双方について、一層の慎重性が求められることに留意しなくてはならない。
もっとも、独立行政法人の会計監査の目的は、財務諸表等の正確性の証明、すべての誤謬等の発見にあるわけではなく、また、重要性の判断基準について、独立行政法人の会計監査のすべてに妥当するような一般的かつ客観的な具体的基準を示すことは、独立行政法人の規模、形態等の多様性、あるいは判断に当たって検討すべき諸条件の複雑さから、事実上極めて困難であり、画一的な基準設定はむしろ問題を生む恐れがあると考えられる。
したがって、独立行政法人の会計監査においては、企業の会計監査においても重要性判断に対する期待水準が高まりつつある傾向を踏まえ、独立行政法人の公共的性格、監査実施の効率性等を勘案して、職業的専門家としての会計監査人は、専門的見地から個別に重要性の判断を行わなければならない。
会計監査の実施過程において、誤謬等を発見した場合の手続については後述するが、独立行政法人の公共的性格にかんがみれば、会計監査人は、量的には重要ではなくとも質的側面から検討を要する誤謬等を発見した場合などに、他の項目への影響等も考慮し、状況によっては、監査計画を見直すなど適切に対応しなければならない。

第6節 会計監査人の監査における経済性及び効率性等の視点

独立行政法人制度の特徴は、法人に自主的、自律的な業務運営を行わせるとともに、業務の実績について適切な事後評価を行うことにより、国民のニーズに即応した効率的かつ効果的な行政サービスの提供等を実現することにある。また、独立行政法人は、必ずしも利益の獲得を目的としていない、事務・事業の運営には公的な資金が使用されているといった特質を有している。このため、独立行政法人の事務・事業が効率的かつ効果的に実施されたかについては、主務大臣をはじめとする関係者及び国民の重要な関心事項である。
もとより、独立行政法人の事務・事業が効率的かつ効果的に実施されたかの評価は、財務諸表、事業報告書及び決算報告書等を通じて主務大臣及び独立行政法人評価委員会により行われるものである。また、会計監査人による監査は独立行政法人が作成した財務諸表等の適正性の証明を目的として行われるものであり、会計監査が、独立行政法人の業務が効率的かつ効果的に実施されたことの証明及び全ての非効率的な取引等(経済性及び効率性等の観点から問題があると認められる取引及び会計事象をいう。以下同じ。)の発見を目的として行われるわけではない。
しかしながら、独立行政法人の事務・事業が効率的かつ効果的に実施されたかについては、主務大臣をはじめとする関係者及び国民の重要な関心事項であり、非効率的な取引等については、会計監査人により指摘されることを期待しているものと考える。このため、独立行政法人の会計監査人は、財務諸表監査の実施過程において、非効率的な取引等を発見した場合は、独立行政法人の長及び監事並びに独立行政法人の長を経由して主務大臣に報告を行うなど、適切に対応しなければならない。また、会計監査人には、財務諸表監査の実施過程において、独立行政法人の非効率的な取引等の発見に努めることが期待されているものと考える。

第7節 会計監査契約

会計監査人は、通則法第40条の規定により主務大臣に選任されるものであるが、その地位(職務、権限、義務、責任)に関する法令上の具体的な定めはない。したがって、会計監査人は、被監査独立行政法人とその会計監査に係る準委任契約(以下「会計監査契約」という。)を締結し、当該会計監査契約に基づき監査を実施することになる。
なお、当該会計監査契約は前節までに検討した会計監査人の監査の適切な実施を担保する内容でなければならない。会計監査人と被監査独立行政法人との間で、上記の範囲を超える内容を締結することを妨げるものではないが、それによって通則法第39条により義務付けられている会計監査の範囲及びその内容が影響を受けるわけではないことに留意しなければならない。



第2章 監査の前提条件

第1節 内部統制


独立行政法人は、適正な財務諸表等を作成し、法規の遵守を図り、法人の資産を保全し、法人の事業活動を効率的に遂行するため、内部統制を確立し、維持し、かつ、内部統制が有効であるかどうかについて継続的に監視しなければならない。
独立行政法人における内部統制は、独立行政法人の長が業務管理全般を対象として構築するものであり、内部統制組織とそれに影響を与える内部業務環境から構成される。このうち監査上対象とされる内部統制とは、適正な財務諸表の作成に関連する部分及び財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠していることを確保する部分である。
会計監査人は、リスク・アプローチを採用する場合、アプローチを構成する各リスクの評価が肝要となるが、なかでも統制リスクの評価は監査の成否の鍵となるものであり、会計監査人は、内部統制の状況並びにその機能及び有効性を把握し、統制リスクの評価を行わなければならない。
なお、内部統制の確立、維持自体は、独立行政法人の長の責任において行うべきものである。会計監査人は、監査の効率化や監査リスクの判断に内部統制を活用するだけであって、内部統制の確立、維持は会計監査人の責務ではない。しかし、内部統制の有効性が監査の方法や結果に重要な影響を及ぼすことから、会計監査人は独立行政法人の内部統制に重大なる関心を持つことが必要であるとともに、内部統制組織に改善すべき点がある場合には、適時かつ積極的に改善に向けての指摘を行うことが望ましい。

第2節 二重責任の原則

独立行政法人における会計監査人による財務諸表等の監査制度は、財務諸表等の作成者である独立行政法人の長と財務諸表等の監査を行う会計監査人が自らの職責を全うして、真実かつ公正な財務諸表等を利害関係者に提供することが本来の目的であり、いわゆる二重責任の原則が適用される。すなわち、通則法第38条に基づき財務諸表等を作成し、独立行政法人の財政状態、運営成績、キャッシュ・フローの状況及び行政サービス実施コストの状況等を適正に表示する責任は独立行政法人の長が負い、その財務諸表等の適否に関する監査意見の表明については、会計監査人が責任を負うこととなる。
このような二重責任の原則は、監査における法規準拠性の観点についても適用されるものであり、独立行政法人に適用される法令に準拠し、特に財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠した取引及び会計処理等が行われていることを確保する責任は独立行政法人の長が負い、財務諸表等に重要な影響を与える違法行為の有無に関する監査意見の表明については、会計監査人が責任を負うこととなる。

第3節 監査日程の十分な確保

二重責任の原則の観点から、独立行政法人は、会計監査人への財務諸表を始めとする監査対象書類の提出に当たっては、法人内部において然るべき機関決定を経た上で行わなければならない。
独立行政法人は、会計監査人の監査が十分かつ円滑に行われるよう、監査日程の確保に努めなければならない。特に監査対象書類を会計監査人に提出する時期については、通則法第38条に定める期限に対し、少なくとも商法(明治32年法律第48号)や株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(昭和49年法律第22号。以下「商法特例法」という。)等の類似の規定に定める日程を十分に確保しなければならない。
上記の趣旨を担保するため、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、必要に応じて、監査日程について明確に定めることが望ましい。



第3章 独立行政法人の特性に基づく監査

第1節 区分経理に係る監査


独立行政法人会計基準は、法律の規定により、区分して経理し、区分した経理単位ごとに財務諸表の作成が要請されている独立行政法人にあっては、それぞれの経理区分ごとの勘定別財務諸表と、全ての勘定別財務諸表を基礎として法人単位財務諸表を作成することとしている。これは、勘定区分ごとの財務諸表の作成を独立行政法人設立根拠法が要請しており、勘定ごとに利益処分の方法が異なる場合も存在することから、勘定別に財務諸表を作成する必要があるほか、財務諸表の利用者である独立行政法人評価委員会や国民等に対しては、独立行政法人に対してどの程度の財源負担が行われ、どのように使用されているのか、また、法人として効率的な業務運営が行われているのかといった法人単位の会計情報を提供する必要があるとの考えによるものである。
勘定別財務諸表及び法人単位財務諸表を作成することとされている独立行政法人においては、勘定別財務諸表及び法人単位財務諸表のいずれもが会計監査の対象となり、会計監査人は、勘定別財務諸表及び法人単位財務諸表の全てについて会計監査を実施しなければならない。また、財務諸表に対する意見の表明については、これらの各財務諸表に対する各々の監査意見を取りまとめて表明することが求められる。
また、個々の勘定別財務諸表及び法人単位財務諸表のいずれもが、個別に利用される可能性があることを勘案する必要があり、会計監査人が監査意見を形成するに当たって行う重要性の判断は、個々の勘定別財務諸表及び法人単位財務諸表ごとに行う必要がある。なお、区分経理に特有の会計処理として、共通経費の配賦がある。独立行政法人会計基準においては、「直接賦課することが困難な共通経費については、合理的な配賦基準に従って配賦」すべき旨が規定されており、また、注解において「配賦基準は、主務省令等で定められる必要がある」旨規定されており、共通経費の配賦基準は独立行政法人の外部から与えられ、会計監査においては、配賦基準は所与のものとして整理することを予定している。
このように、共通経費の配賦基準は、会計監査人による会計監査の対象ではないが、共通経費の配賦基準は、勘定ごとの業績の評価に影響を与えるおそれもあることから、改善すべき点がある場合には、適時かつ積極的に改善に向けての指摘を行うことが望ましい。

第2節 連結財務諸表監査

独立行政法人の連結財務諸表は、民間企業の連結財務諸表とはその性格を異にし、独立行政法人に交付された公的資金が更に特定関連会社等に供給されている場合において、独立行政法人のみではなく、特定関連会社等を含め、公的資金がどのように使用されているかを明らかにすることにその主たる目的がある。なお、独立行政法人の評価は個別財務諸表によることとされている。
独立行政法人に交付された公的資金が使用された結果は、財務諸表によって表される。そして、主務大臣、独立行政法人評価委員会、国民等は財務諸表を通じて独立行政法人の評価を行うこととなる。このような財務諸表の役割は、連結財務諸表においても同じであり、連結財務諸表は、独立行政法人に交付された公的資金が、民間企業に供給されたものを含め、効率的に使用されているか等を示すものである。会計監査人の財務諸表監査は、財務諸表の信頼性を担保するものであり、この観点からは、個別財務諸表監査と連結財務諸表監査を区別する理由はなく、連結財務諸表についても、会計監査人による監査が必要である。
独立行政法人の特定関連会社及び関連会社への出資は、独立行政法人が業務として行った資金供給目的の出資が大半であり、必ずしも支配従属関係が認められないといった特性が存在するが、特定関連会社及び関連会社についても、監査意見を形成するに足りる合理的な基礎を得るために必要な監査を行わなければならない。なお、監査に当たって、特定関連会社及び関連会社の協力が得られないことから、監査の全部又は一部が実施できなかった場合は、監査報告書にその旨を記載し、除外事項を付した意見表明を行い、あるいは、意見表明のための合理的な基礎を得ることができない場合は、意見を表明してはならない。
このように、会計監査人による特定関連会社及び関連会社の監査は、連結財務諸表の適正性を保証する上で必要な監査手続であることから、独立行政法人の長は特定関連会社及び関連会社が監査に協力するよう措置すべきである。なお、特定関連会社及び関連会社の協力が得られないことにより、会計監査人が監査意見表明のための合理的基礎が得られない場合の責任は、独立行政法人の長にある。
また、上記の趣旨については、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、明確に定めることが望ましい。
特定関連会社及び関連会社が他の会計監査人の監査を受けている場合は、監査の効率化の観点から可能な限り、他の会計監査人の監査結果を利用することが望まれる。なお、この場合においては、会計監査人は、他の会計監査人によって監査された財務諸表の重要性及び他の会計監査人の信頼性の程度を勘案して、他の会計監査人の実施した監査が適切であるかを評価し、他の会計監査人の実施した監査の結果を利用する程度及び方法を決定しなければならない。
関連公益法人等については、附属明細書による情報開示に止まり、連結の範囲に含まれないことから、関連公益法人等の財務諸表監査は実施しないこととする。なお、会計監査人は、附属明細書記載事項のうち、独立行政法人の財務諸表により確認可能な事項については監査上の責任を有するが、関連公益法人等の計算書類等によらなければ確認することが困難な事項については、会計監査人の責任外であり、監査報告書において、その旨を明かにする必要がある。
なお、主務大臣及び独立行政法人評価委員会が行う独立行政法人の評価は個別財務諸表によることから、連結財務諸表に係る監査報告書は、個別財務諸表に係る監査報告書とは別に作成することとする。



第4章 会計監査人の独立性

第1節 被監査独立行政法人に対する独立性について


通則法第39条に定める会計監査人の監査に当たっては、会計監査人は、被監査独立行政法人に対して、独立の立場にある者でなければならない。
この独立性を担保するため、通則法第41条において、商法特例法第4条の規定を準用し、被監査独立行政法人との関係において、経済的・身分的な利害関係を有する者は、会計監査人になれないものとされているところである。
これに加えて、会計監査人においては、被監査独立行政法人との間の外観的な独立性の確保についても、十分に配慮することが必要である。


第2節


 被監査独立行政法人の主務大臣及び独立行政法人評価委員会に対する独立性の問題について


会計監査人は、通則法第39条の規定に基づき、被監査独立行政法人の財務諸表等を監査するものである。一方、被監査独立行政法人の主務大臣及び独立行政法人評価委員会に係る事項は、会計監査人の監査の範囲には含まれておらず、主務大臣及び独立行政法人評価委員会も、会計監査人の被監査独立行政法人に対する監査を指揮・監督する権限は有していない。
したがって、前節で述べたとおり、会計監査人については、被監査独立行政法人に対する独立性の確保は制度上要請されているところであるが、主務大臣及び独立行政法人評価委員会との関係においては、被監査独立行政法人との関係におけるような独立性の問題は存在しない。


第3節


 被監査独立行政法人の主務大臣及び独立行政法人評価委員会との関係について


前節で述べた通り、会計監査人は、被監査独立行政法人の主務大臣及び独立行政法人評価委員会との関係においては、被監査独立行政法人との関係におけるような独立性の問題は存在しない。
しかしながら、会計監査人は、通則法第38条第2項の規定に基づき、被監査独立行政法人が主務大臣に提出する財務諸表に意見を付すものとされ、主務大臣は、当該財務諸表を承認しようとするときは、あらかじめ、独立行政法人評価委員会に意見を聴くものとされているところである。
ここで、主務大臣が承認するのは被監査独立行政法人がその責任において作成した財務諸表であり、独立行政法人評価委員会も主務大臣の当該財務諸表の承認について意見を述べるものであって、会計監査人の付した意見自体は、それらの直接の対象とはされていない。
しかしながら、会計監査人による監査が公正に行われ、独立行政法人評価委員会が当該独立行政法人の業務を客観的に評価し得るものとなるためには、次のような点に留意することが必要と考えられる。
会計監査人が、独立行政法人評価委員会の委員に就いた場合について、通則法第38条第3項による主務大臣の意見聴取に際し、独立行政法人評価委員会が当該独立行政法人の財務諸表に係る事項を審議するとき、当該財務諸表に意見を付した会計監査人である当該評価委員の意見について、その公正性・客観性に疑念を持たれる可能性は否定できない。
したがって、被監査独立行政法人の会計監査人である委員が、被監査独立行政法人に係る通則法第38条第3項の主務大臣の意見聴取において、議事に加わることは、独立行政法人制度上も独立行政法人評価委員会の委員の外観的な公正性・客観性の観点において問題があると解される。
また、被監査独立行政法人が、独立行政法人評価委員会の委員としての地位と監査契約の相手方としての地位との関係において、当該会計監査人の公正性・客観性について疑念を持つ可能性も否定できない。この場合において、被監査独立行政法人の監査に実際に関与する公認会計士が、独立行政法人評価委員会の委員に就くことは問題であると解される。なお、被監査独立行政法人の会計監査人たる監査法人の社員(監査に関与する社員を除く。)が、独立行政法人評価委員会の委員に就く場合においても、当該委員は個人の人格・識見により任命されたものではあるが、被監査独立行政法人が当該会計監査人の監査に対して疑念を持つことのないよう、会計監査人の側で必要な措置が講じられることが必要である。

第4節 監査責任者の交替について

企業会計の監査ルールでは、大会社等に対する会計監査には、会計監査人の独立性及び監査の品質管理の一層の厳格化が求められることから、監査責任者の交替のルールが定められている。また、平成15年6月の公認会計士法(昭和23年法律第49号)の改正により、同様の趣旨が法定されることとなった。
このような観点は、公的な主体である独立行政法人の会計監査においても同様であり、同一の者が、長期間に亘って同一独立行政法人の会計監査を担当することは適切ではないことから、監査責任者の交替ルールを定める必要がある。
独立行政法人の会計監査は公認会計士又は監査法人により行われることから、監査責任者の交替ルールは、原則として改正された公認会計士法が規定するルールに準拠することが適当であるが、他方、独立行政法人の基本的な制度である中期目標及び中期計画期間との関連を踏まえたものとする必要がある。
具体的には、通則法上、中期目標期間が3年以上5年以下とされていることにかんがみ、独立行政法人の連続する5事業年度又は中期目標期間の全ての事業年度において会計監査における監査責任者となった者は、その後、会計監査人の独立性及び監査の品質確保の観点から適当と認められる期間は、原則として、当該独立行政法人の会計監査における監査責任者となることができないという監査責任者の交替ルールを確立することが適切であると考える。



第5章 会計監査人の地位(職務、権限、義務、責任)

第1節 会計監査人の職務


(1)


会計監査人と被監査独立行政法人との関係について
会計監査人は、通則法第40条の規定により主務大臣に選任され、被監査独立行政法人と会計監査契約を締結し、当該会計監査契約に基づき監査を実施するものである。会計監査人が被監査独立行政法人と会計監査契約を締結する際、当該被監査独立行政法人の機関で会計監査人の相手方となる者は、当該被監査独立行政法人の代表機関であり、通常は独立行政法人の長である。
また、中央省庁等改革の推進に関する方針III18.(2)の趣旨を踏まえ、被監査独立行政法人の監査における会計監査人と監事の各々の監査業務を円滑に遂行する観点から、独立行政法人の長は、当該会計監査契約を締結しようとするときは、監事の意見を聴くことが必要である。
独立行政法人の財務諸表等の作成の最終的な責任と権限は、当該独立行政法人の長に属するものである。したがって、被監査独立行政法人において、会計監査人が監査報告書等を提出する相手方は、当該独立行政法人の長である。
また、会計監査人との連携の確保による監事の職務遂行の効率化の観点から、会計監査人は、監査報告書等を独立行政法人の長に提出する際には、当該監査報告書等を監事に対しても提出すべき旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。


(2)


会計監査人と監事の関係について
独立行政法人の監事については、通則法第19条第4項に独立行政法人の業務を監査する旨定められている。一方、会計監査人については、同法第39条に独立行政法人の財務諸表等を監査する旨定められている。
この同法第19条第4項に定める監事の職務及び権限は、独立行政法人の財務諸表等の監査を包含するものであり、その監査の対象の範囲は、当該独立行政法人が、同法第39条に基づく会計監査人の監査を受けるか否かにより変化するものではない。
したがって、当該独立行政法人が同法第39条に基づく会計監査人の監査を受ける場合であっても、監事は、会計監査人が監査を行う前述の財務諸表等についても、会計監査人の監査とは別にその職務と権限に基づき監査を行い、同法第38条第2項の規定に基づき、当該独立行政法人が、事業年度の終了後に当該財務諸表を主務大臣に提出するときは、会計監査人の意見と併せて自らの監査意見を付すものとされており、この場合において会計監査人の監査と監事の監査が併存するものと解される。
ただし、監事は、財務諸表等の監査においては、会計監査人が会計の職業的専門家として財務諸表等の監査を行うものであることを前提とし、会計監査人の行った監査の方法とその結果の相当性を自らの責任で判断した上で、当該会計監査人の監査の結果を利用し自らの意見を述べることができる。
このため、前述の会計監査契約の締結に当たっては、監事の会計監査人に対する、会計監査人が作成した監査報告書についての説明要求、会計監査人の監査に関する報告聴取に係る権限が明確に定められることが必要である。


(3)


会計監査人と主務大臣等との関係について
会計監査人と主務大臣、主務省に置かれる独立行政法人評価委員会及び総務省に置かれる政策評価・独立行政法人評価委員会(以下「主務大臣等」という。)との関係について、会計監査人は、通則法第40条の規定に基づき、主務大臣に選任されるものであるが、いわゆる上級庁-下級庁の関係に立つものではなく、主務大臣等は、会計監査人に対して報告を要求する権限を有してはいない。
この場合、会計監査人が業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を主務大臣等に提供することについて、公認会計士の守秘義務を定めた公認会計士法第27条の正当な理由に該当するかどうかが問題となる。正当な理由に該当するかどうかの判断は、情報提供により失われる当該法人の利益と、主務大臣等に情報が提供されることにより得られる利益を比較衡量するべきものと解されている。この点については、

 


1


株式会社の場合、原則として定時総会で財務諸表の承認を得ることとされているが、商法特例法第17条第2項の規定に基づき定時総会の決議があったときは、会計監査人は、定時総会に出席して意見を述べなければならない。この場合、公認会計士の守秘義務は解除されるものと解されている。独立行政法人においても、主務大臣から財務諸表の承認を受けることとされており、その際に主務大臣は独立行政法人評価委員会の意見を聴くこととされている。また、会計監査人は、株式会社では株主総会で選任されるのに対し、独立行政法人では主務大臣が選任することとされている。
したがって、少なくとも財務諸表の承認に関しては、会計監査人が主務大臣等に対して情報提供を行うことに正当な理由があると解するべきである。

 


2


独立行政法人制度は、法人に対する国の事前関与を最小限にする一方、各府省に置かれる独立行政法人評価委員会及び総務省に置かれる政策評価・独立行政法人評価委員会による事後チェックが極めて重要なものと位置付けられている。また、独立行政法人はいわゆる公法人であり、その情報を外部へ開示する必要性が民間と比べて高い。
したがって、会計監査人が主務大臣等に対して情報を提供することにつき正当な理由があると考えられる範囲は、財務諸表の承認にとどまらず、法令の規定による事後チェック等のために必要なことにも及ぶと解することが適当である。

 


以上を踏まえると、会計監査人は、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報について、財務諸表の承認や業務実績に対する事後評価等に関し主務大臣等に情報提供を行うことができることとすることが適切である。
ただし、独立行政法人制度上、法人に対する国の事前関与は最小限とされており、主務大臣等への報告事項も法令に限定されていることから、主務大臣等が情報提供を求めるのは、法令に規定された権限の行使に関連した事項に限るべきである。主務大臣等が会計監査人に対し情報提供を求める際は、その情報が、どういう権限の行使のために必要と考えられるかに関し法令上の根拠を示す必要がある。
独立行政法人制度においては、商法特例法第17条に相当する規定が存在しないため、法令の解釈に関する無用のリスクを回避する観点から、上記の趣旨を踏まえて、会計監査契約において予め合意をしておく必要がある。具体的には、主務大臣等から法令に規定された権限の行使のために必要があるとして求められた場合、又はこの監査基準において主務大臣に報告すべきことが求められている場合には、会計監査人が主務大臣等に対し業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供することについて、包括的に同意しておくべきである。
他方、会計監査人は、主務大臣等が法令上規定する権限の行使に伴い必要とされる場合には、主務大臣等に対して適時かつ適切に情報の提供を行うことが期待される。
なお、会計監査人が被監査独立行政法人の同意を得て、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供した場合であっても、会計監査人が当該行為により第三者に損害を与えた場合は、被監査独立行政法人の同意を得ていることをもって、会計監査人は、当該第三者に対する不法行為責任等を当然に免れるものではない。


第2節 会計監査人の権限

独立行政法人の会計監査人の権限に関する法令上の具体的な定めはない。
独立行政法人に対する会計監査を適切かつ円滑に遂行するためには、中央省庁等改革の推進に関する方針III18.(3)に記載されたように、「会計監査人は、何時でも、独立行政法人の会計の帳簿及び書類の閲覧もしくは謄写をし、又は長その他の役員(監事を除く。)及び職員に対して会計に関する報告を求めることができる」とすべきである。
また、連結財務諸表監査における会計監査人による特定関連会社及び関連会社の監査は、連結財務諸表の適正性を保証する上で必要な監査手続であることから、独立行政法人の長は特定関連会社及び関連会社が監査に協力するよう措置すべきである。なお、特定関連会社及び関連会社の協力が得られないことにより、会計監査人が監査意見表明のための合理的基礎が得られない場合の責任は、独立行政法人の長にある。
上記の目的を達成するために、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、会計監査人の権限及び独立行政法人の長の責任の範囲が明確に定められることが必要である。

第3節 会計監査人の義務

独立行政法人の会計監査人の義務に関する法令上の具体的な定めはない。
独立行政法人に対する会計監査を適切かつ円滑に遂行するために、本報告書第6章の記載中、会計監査人の義務に相当する内容については、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、会計監査人の義務の範囲として明確に定められることが必要である。
また、会計監査人は、財務諸表等に重要な影響を与えない不正及び誤謬並びに違法行為について積極的にその発見に努める義務を負うものではないが、その権限を行使し会計監査を行う過程で当該事実を発見した場合は、独立行政法人の公共的性格にかんがみ当該事実を被監査独立行政法人の長に報告することを要する。なお、被監査独立行政法人の長は、会計監査人から当該事実の報告を受けた場合は、適切な是正措置を講じるべきである。
さらに、監事の職務遂行の効率化の観点から、会計監査人は、当該事実を被監査独立行政法人の長に報告したときは、被監査独立行政法人の監事に対しても、当該事実を報告すべき旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。
なお、公認会計士法に定めのある公認会計士及び監査法人の義務は、それぞれ会計監査人である公認会計士及び監査法人に適用されることは当然である。

第4節 会計監査人の責任

独立行政法人の会計監査人の責任については、法令上、会計監査人に特別の責任を課す定めはない。
したがって、民事責任について、会計監査人と被監査独立行政法人とは、準委任の関係に立ち、会計監査人は、善良なる管理者の地位をもって職務を行う義務を負うことから、会計監査人が、当該義務に違反した場合には、被監査独立行政法人に対して債務不履行の責任を負うことになる。ただし、会計監査人の責に帰すべき事由がなければ、その限りではない。