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平成16年度予算編成の基本的考え方について(各論2)/財政制度等審議会

.公共事業

 


(1


)我が国の社会資本は概ね整備されつつあり、投資の限界的な効果は一般的に低減していくと考えられる。したがって、厳しい財政事情を踏まえ、既存ストックの有効活用を重視するとともに、新たな投資は、整備効果の高い事業に絞って重点的に実施していく必要がある。「改革と展望」においても、景気対策のための大幅な追加が行われていた以前の水準を目安に、公共投資の重点化・効率化を図っていくとの方針が示されている。

 


(2


)このような観点から、厳しい経済情勢の中ではあるが、引き続き国・地方を通じて公共投資の水準を着実に抑制し、受益と負担の明確な関係の下で、既存ストックの有効活用、事業の選別と集中投資、建設・管理コストの縮減等社会資本整備の質的改善を進める必要がある。

  


1


 既存ストックの有効活用

 費用対効果を踏まえ、政策目標を最も効果的・効率的に達成する観点から、道路整備と交通規制や料金の多様化、空港・港湾整備と24時間オープン化や手続の迅速化、河川等整備と災害情報の提供や避難訓練など、諸施策の適切な組み合わせにより、既存ストックの効果を引き出し、あるいは補完することが重要である。

  


2


 長期計画における成果目標の妥当性等

 長期計画については、成果重視への転換や計画の一本化を図る方針が決められている。今後、具体的に計画を策定するに当たっては、その趣旨を踏まえ、追求すべき成果が妥当か、投資の抑制方針と整合的か等の点を十分に吟味するとともに、事前評価を積極的に活用しつつ、既存ストックの有効活用や事業間の連携を促すものとする必要がある。

  


3


 国・地方を通じた投資の重点化・スリム化

 国の役割の重点化及び受益と負担の関係の明確化を進め、国・地方を通じた投資の重点化・スリム化を図ることが重要である。
 国の役割は、国家的・広域的な政策課題への対応に重点化していく必要がある。特に、生活関連社会資本など受益の範囲が狭いものについては、国庫補助負担金の廃止・大幅縮減を図り、ナショナル・ミニマムの達成のため全国レベルでの資源配分が必要な場合や、新たなニーズに緊急に対応する必要がある場合、国の利害に重大な関係のある場合等に国庫補助負担事業を限定すべきである。また、整備後の単純な維持更新は、地方公共団体に委ねることを基本とすべきである。
 国民経済計算における一般政府の総固定資本形成24.3兆円(平成13年度実績)のうち、地方政府は19.3兆円と中央政府(4.9兆円)の4倍の規模に達しており、その動向が国・地方を通じた投資規模に与える影響は大きい。社会資本整備が概ね整備されつつある中で、投資の中身は基礎的なものから選択的なものへと変化していくことから、厳しい「選択と集中」の姿勢でスリム化に取り組む必要がある。したがって、地方の実質的負担の軽減が投資の重点化・スリム化を鈍らせることのないよう、受益と負担の関係の一層の明確化を図ることが重要であり、引き続き、補助制度や地方財政措置(事業費補正等)の仕組みについて見直すべきである。

  


4


 分野別の見直し

 以上のような重点化の考え方を踏まえ、上水道、小規模下水道、大規模ダム、地方空港、地方港湾など「平成14年度予算編成の基本方針」(平成13年12月4日閣議決定)及び「平成15年度予算編成の基本方針」(平成14年11月29日閣議決定)における「厳しい見直しを行うべき分野」については、引き続き一段と厳しく抑制すべきである。また、農林水産関係分野の公共事業については、引き続き、公共事業から公共事業以外の政策手段への転換を進める必要がある。
 他方、大都市圏拠点空港の整備等国際競争力の向上、都市機能の高度化等による都市の再生、公共空間のバリアフリー化、リサイクルの推進等の施策については、分野横断的に、引き続き重点的に取り組む必要がある。

  


5


 コスト縮減

 平成9年度以降、公共工事のコスト縮減に努めてきたところであるが、民間事業と比較すれば規格や単価が高いという指摘があり、実態を踏まえ、引き続き、合理的なコスト縮減に格段の努力を払う必要がある。
 こうした観点から、規格の見直しのほか、維持管理コスト、時間的コストを含む総合的なコストの縮減(コスト構造改革)に取り組み、その実施状況を毎年度点検し公表することが重要である。また、民間資金等活用事業(PFI)の推進等民間活力の一層の活用、入札・契約における競争性、透明性の向上に引き続き努める必要がある。

 


(3


)平成10年度から段階的に実施されてきた事業評価の導入は、平成15年度の事後評価の本格実施により、一応の完了を見ることとなる。事業評価は、各事業主体の責任の下で実施されるものであるが、社会資本整備を成果重視に転換する観点も踏まえ、今後とも、その改善を図り、積極的に活用していくべきである。その際、第三者による検証が可能となるよう、評価に関する情報の開示を進める必要がある。また、「SEE」機能の発揮の観点から、事業中の再評価及び事業完了後の事後評価を重視し、所期の成果が達成されているかについての検証と、事業実施の成果に関する各事業主体の説明責任を徹底することが重要である。

  


1


 事前評価

 客観評価において中心的役割を果たす費用便益分析は、現時点では精度や信頼性に限界があること等から、費用が便益を上回る事業を排除するための活用にとどまっている。今後、成果重視の社会資本整備を進めていくためには、個々の事業によって得られる成果を適切に評価し、比較する視点が欠かせない。このような観点から、国民に信頼され得る事業評価制度の構築を図り、これを積極的に活用することにより、透明性を確保しつつ優先順位の高い事業への集中投資を進める必要がある。その際、自然環境への影響など事業のマイナス面も十分踏まえる必要がある。

  


2


 再評価・事後評価

 事前評価には限界があること、採択後の社会経済情勢等の変化に適時適切に対応する必要があることから、再評価を積極的に実施し、その結果に応じて、事業の中止・縮小など必要な見直しを行うことが重要である。また、事業終了後には事後評価を厳格に実施するとともに、事前評価の結果と比較検証し、評価手法等の改善を図るべきである。





.文教・科学技術

 


(1


) 文教予算

  


1


 初等中等教育
 初等中等教育については、近年、少子化により児童・生徒数が減少していく中で、児童・生徒一人当たりの公教育予算を大きく拡大させてきているが、他方で、学力低下への懸念や全国画一的な教育への批判等が年々高まってきている。こうした状況下、今後においては、児童・生徒一人当たりの公教育予算の拡大ということではなく、限られた資源を最大限有効活用し公教育の質の向上を図ることが何よりも重要である。
 このため、各地方公共団体が自ら創意工夫を通じて、地域社会の特色を活かした教育を実現するとの観点から、引き続き、義務教育費国庫負担制度について負担対象の見直し、定額化・交付金化等の改革を着実に進めることが重要である。さらに、学校経営や教員評価に経営的発想や能力・成果重視の考え方を導入し、教員給与の一律優遇制度や教職員定数改善計画の見直しなど既存施策の徹底した見直しを行う必要がある。併せて、受益者負担等の観点から義務教育教科書の有償化が課題である。

  


2


 高等教育
 高等教育に対する公的支援については、国立大学に対する財政措置や私学助成等の既存の支援策を見直し、国公私を通じた競争原理に基づく支援へシフトさせる必要がある。
また、平成16年4月に予定されている国立大学の法人化に当たっては、いわゆる「PLAN-DO-SEE」の考え方を十分踏まえつつ、市場原理・競争原理の下で、各大学が自らの経営判断に基づいて自律的運営ができるようにするとともに、客観的かつ厳格な事後評価により重点的な支援が可能となるような制度設計を行うべきである。こうした考え方を踏まえ、学生納付金については、学部別授業料を含め各大学の自主的な判断に基づく設定を可能とすべきであり、運営費交付金の算定の基礎となる学生納付金の水準に関しては、受益者負担の徹底、自己収入確保の努力を踏まえて設定する必要がある。

  


3


 文化
 文化予算については、近年重点的な予算措置を行ってきたが、官と民及び国と地方の役割分担の観点からの支援範囲の見直しを行うとともに、費用対効果の観点からの評価の実施を通じて支援の重点化を行う必要がある。

 


(2


) 科学技術

 科学技術予算については、近年大幅に拡充されてきており、その結果、政府研究開発投資の対GDP比でみると、「第2期科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定)が目指す欧米主要国並みの水準は既に達成されている。我が国の極めて厳しい財政事情に鑑みれば、科学技術といえども聖域扱いされるべきものではなく、むしろ量的拡大から一層の質的向上へと軸足を移すべきである。
 このため、科学技術予算について、硬直的な資源配分に陥ることのないよう、専門的知見を有する総合科学技術会議と十分連携しつつ、施策の優先順位の明確化等により、科学技術の重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)への更なる重点化、原子力・宇宙・海洋等その他の分野における一層の効率化・合理化等を図り、科学技術分野での「選択と集中」を強化していく必要がある。
 その際、資金の効率的利用を一層促進するため、科学技術分野全般にわたり、「PLAN-DO-SEE」の考え方を踏まえ、厳正な研究評価の徹底とその結果の反映を通じて、スクラップ・アンド・ビルドの原則に基づく新規プロジェクトの厳選及び既存プロジェクトの中止・見直しを図っていく必要がある。とりわけ、いわゆるビッグ・プロジェクトについては、後年度負担が大きいこと等に鑑みれば、費用対効果等を十分精査の上、一層厳格な絞込みを行う必要がある。なお、その際には、専門的視点に基づいた評価のみならず、タックスペイヤーの視点も十分踏まえる必要がある。
 併せて、競争的研究資金について制度メニューの大括り化や研究資金の配分における若手研究者の取扱いの改善などのシステム改革を進めるとともに、官民の適切な役割分担に基づいた産学官連携を推進する必要がある。





.防 衛

 


(1


)防衛関係費については、現在の国際情勢に鑑み、国民の安全・安心の確保に対する重要性を増しているが、歳出化経費及び人件・糧食費の占める割合が8割を越えており、依然として予算の硬直化という構造問題を抱えている。深刻な財政事情を踏まえると、各種の多様な事態に対応するためにも、一層強力に防衛関係費の合理化・効率化に取り組むことが必要である。

 


(2


)こうした観点から、新規の正面装備については、長期にわたって歳出化による後年度負担を招き、関連する後方経費の増加をもたらすものであり、経済財政事情、国際情勢等を踏まえ、必要性、優先度を十分に精査するとともに、費用対効果分析の手法を検討しつつ、引き続き、その抑制を図るべきである。また、我が国を取り巻く国際情勢等の変化に対応するため装備内容を見直す場合であっても、既存の装備体系のうち必要性の低下しているものについては縮減を図るべきである。
 さらに、人件・糧食費については、組織定員の抑制を図るとともに、諸手当等の人件費の基礎となる諸制度の見直しに引き続き取り組む必要がある。また、一般物件費については、平成15年度の予算執行調査(生活物品の単価、装備品における民生品・汎用品の活用、基地周辺対策事業、他)の結果を的確に反映し単価減を図るなど、あらゆる経費、施策にわたって、執行状況等を十分精査する中で、調達取得改革等を踏まえ、その合理化・効率化を行う必要がある。





.政府開発援助(ODA)

 政府開発援助(ODA)については、かつて他の先進国を上回る経済成長や経常収支黒字の累積といった観点から、著しく増大したが、我が国が極めて厳しい経済・財政状況に直面する中、戦略性、機動性、透明性、効率性の一層の確保を図り、これまで以上に量的制約の中での効果の最大化に努めることが必要となっている。また、ODAへの国民の支持を得るためにも、我が国としてのODAの基本理念を明確化することが求められている。
 こうした状況も踏まえ、現在、本年中頃を目途に結論を得るべく、ODA大綱の見直しが進んでいる。見直しの基本方針としては、

  


1


 人道的見地や国際社会の相互依存関係等の普遍的価値とともに、我が国にとっての安全と繁栄等をODAの基本理念に加えること、

  


2


 ODAの重点地域を引き続きアジア地域とするとともに、平和構築分野(平和の定着及び国造り)や人間の安全保障等を重点分野としていくこと、

  


3


 国別援助計画に則った一貫性あるODAの実施や、被援助国との政策協議の強化、評価・監査の強化等、ODAの効率的・効果的実施の必要性、

  


4


 広報・情報公開等、ODAについての情報発信の強化の必要性、

 


等が掲げられている。
 平成16年度予算においては、こうした新しいODA大綱の考え方も踏まえつつ、援助対象分野や対象国・地域の一層の重点化・戦略化を図り、国民の支持の前提となる効率性・透明性の向上、国民各層の幅広い参加に向けた取り組みを継続・強化していく必要がある。そして、量重視の考え方から質重視への転換を進めることで国際情勢に応じた我が国の国際的責任は果たしつつ、引き続きODAの量的規模の縮減を図っていくべきである。





.農林水産

 


(1


)農業分野においては、効率的かつ安定的な経営体(担い手)が生産の相当部分を担う農業構造を確立するため、構造改革を推進することが必要である。このため、農業者全体を対象とした一律的施策について見直しを行い、担い手への施策の集中化を進めることが重要な課題である。また、構造改革の推進とあわせ、国と地方の適切な役割分担を踏まえた地方分権を進めるべきであり、とりわけ、農業委員会や普及事業については、国の関与の縮減、組織のスリム化に向けた改革を積極的に進めるべきである。

 


(2


)米政策について、平成14年12月に策定された「米政策改革大綱」に基づき、国の関与の縮減を基本とした改革を着実に進展させていくことが重要である。例えば、米の生産調整に関しては、需要予測の客観性を高めるとともに、農業者・農業者団体の自主的・主体的取り組みを強化していくことが必要である。さらに、米に係る助成措置については、平成16年度からの見直しにおいて、市場重視、担い手重視の観点から効率化・重点化を図るべきである。

 


(3


)食糧管理特別会計は、平成13年度末より繰越損失を計上しており、早急に健全化を図る必要がある。特会の収支を改善するため、米政策改革を着実に進展させつつ、米の備蓄水準の適正化を図るとともに、麦の輸入等の食糧管理業務全般について一層の効率化を進めるべきである。





.エネルギー対策

 エネルギー対策については、エネルギーの安定供給の確保や温室効果ガスの排出抑制等による環境保全などの重要課題に適切に対応しつつ、その資金の執行状況を踏まえ、施策の効率化・重点化をさらに推進していくことが重要な課題である。
 その際、省エネルギー・新エネルギー対策関係予算については、既存事業の効果を検証しつつ徹底的な見直しを行うとともに、新規事業については、公的支援の水準・範囲等を一層精査し、官と民の適切な役割分担を図るべきである。
 エネルギーの安定供給の確保については、我が国にとって重要な政策課題であることに鑑み、施策の効果を十分に見極めつつ、原子力、天然ガス等のエネルギー源の多様化を推進していくべきである。他方、石油の備蓄事業については事業が国に移管されたことをも踏まえ、より一層の効率化を進めるとともに、開発事業については開発業務が石油公団から独立行政法人に移管されることも踏まえ、真に必要なプロジェクトに支援を限定し、石油対策全体として予算の縮減を図っていくことが必要である。





.中小企業対策

 中小企業対策については、中小企業を一律に弱者と位置付け無差別に保護・支援を図るのではなく規制緩和など中小企業等の起業や経営革新に資する環境整備を推進しつつ、やる気と能力のある中小企業の前向きな自助努力への支援等に施策を重点化し、中小企業の構造改革を促進していくことが重要である。
 また、中小企業金融は現下の厳しい経営環境の下、中小企業に対する円滑な資金供給を確保する上で重要な機能を有しているが、その機能が市場原理を歪めることのないよう制度を不断に見直していくことが必要である。このため、政府系金融機関による中小企業金融については、引き続きリスクに見合った適切な金利の設定など必要な制度改善を行うとともに、信用保証による信用補完についても、引き続き収支改善に向けて所要の対応を図っていくことが必要である。



10



.司法制度改革

 裁判の迅速化、公的刑事弁護の拡充、司法ネットの構築等の司法機能の充実・強化に当たっては、限られた財政資金の効率的使用の観点から、最高裁判所による検証、公的資金の投入にふさわしい透明性・説明責任の確保、関連機関との連携等に配意し、合理的かつ機能的な制度・仕組みを構築していくことが必要である。
 また、司法制度改革を進める中で、「15年度建議」でも述べたとおり司法修習生の給費制は早期に廃止し貸与制への切替を行うべきであり、公務員給与の在り方についての見直しも踏まえ、裁判官・検察官の給与の在り方についても見直しに取り組んでいくべきである。

   

(以上)


 「一般政府の総固定資本形成」とは、一般政府(中央政府、地方政府及び社会保障基金)が新規に購入した有形(建物、道路等)または無形(コンピューターソフトウェア等)等の資産。
 児童生徒数が減少する中で、一人当たりの公教育費及び義務教育費国庫負担金は大幅に拡大。
    (小中学校児童生徒一人当たり公教育費)
     平成元年61万円 → 平成12年90万円(+47%増)
    (公立小中学校児童生徒一人当たり義務教育費国庫負担金予算額)
     平成元年度14.8万円 → 平成15年度26.2万円(+77%増)

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