II | .各 論 |
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| .国と地方
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| | (1
| )基本的考え方 国と地方の関係については、「地方にできることは地方で」の原則の下、地方公共団体の自立を基本とした新たな関係の確立が求められており、そのためには、地方公共団体の自己決定の下に自助努力と自己責任による行財政運営を実現することが重要である。その場合、国と地方の役割分担の見直し、国の関与の縮減や行政サービスの水準の見直しに応じて、補助金や地方交付税により財源を手当てする歳出の範囲・水準を見直すこと等により、地方財政における受益と負担の関係を明確化し、地方歳出の効率化・合理化を図っていくことが必要である。 平成16年度の地方財政を巡る状況は、引き続き厳しい状況にあるものと考えられる一方、国の財政事情は、極めて危機的な状況にあることに変わりはない。したがって、平成16年度予算編成及び地方財政計画の策定に当たっては、国と地方の財政事情を踏まえつつ、以下に述べる考え方に沿って、両者が健全な財政運営を目指していくことが求められている。
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| | (2
| )地方交付税
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| 昭和29年度に導入された地方交付税制度は、かつて高度成長期には、経済成長に伴う果実を全国に配分することを通じて国土の均衡ある発展に寄与してきた。しかしながら、多くの分野でナショナル・ミニマムが達成されたと考えられる今日では、地方交付税の仕組みは、地方歳出の財源保障を通じ、地方公共団体のコスト感覚を弱め、地方歳出を増加させてきた1。その結果、地方が国に財政的に依存する状況を作り出すとともに、地方交付税総額の膨張を招き、地方交付税が国の財政の大きな圧迫要因となるという問題を生じている。
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| このように、国が地方歳出に関与する一方で、地方交付税が地方財政計画の歳出の財源を保障する仕組みは、増加する地方歳出の裏付けとなり、地方公共団体の自主性を弱めている。したがって、(1)に述べた基本的考え方に沿って地方公共団体の自助努力と自己責任による行財政運営を実現するには、地方交付税制度について、引き続き「自立支援型」の改革を進めていく必要がある。
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| このため、まず、地方財政計画の今後の方向として、歳出を抑制し、歳入は自立自助の観点から増加させる努力を重ねていくことが何より重要である。したがって、地方歳出については、平成16年度以降も引き続き国の歳出の見直しと歩調を合わせ、歳出の各項目にわたって徹底した見直しを行い、これを交付税総額の抑制につなげていくことが必要である。 また、地方の財政運営にモラルハザードをもたらしている交付税の財源保障機能(地方の歳出面をも考慮し、歳入と歳出の差額を補てんする機能2)については、将来的には廃止し、税収の偏在に伴う財政力格差を是正する機能(財政調整機能)に限る仕組みとすることにより、地方公共団体における受益と負担の関係を明確化することが重要であり、これによって、地方公共団体に財政規律のインセンティブを与えられることとなる。したがって、この方向での見直しが必要である。このためには、自助努力・自己責任による地方公共団体の財政運営を促す観点から、歳出削減や課税自主権の強化といった歳入歳出両面の自助努力を促す仕組みを工夫していくことを求めたい。 さらに、地方交付税の算定方法についても、簡素化を図るとともに、引き続き事業費補正や段階補正を見直していくことが重要である。
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| 平成15年度予算においては、地方税収の大幅な落ち込み、通常収支に係る交付税特別会計の新規借入金解消に伴う一般会計特例加算の増加といった大幅な地方交付税の増加要因が見込まれた。そのような状況の中で、地方歳出の徹底した見直しにより、地方財政計画の規模を2年連続で大幅なマイナスとすることにより、地方交付税の総額を抑制したことは、地方財政の効率化に向けた取り組みと評価できる。 また、通常収支に係る交付税特別会計の新規借入金を解消し、平成13年度からの財源不足対策の見直し措置を完了したことは、通常収支の財源不足についての責任を一層明確化し、地方財政の効率化と地方交付税の改革を進める観点から、評価できる。 平成16年度には、上に述べた考え方に沿って、引き続き、地方歳出の抑制を通じて交付税総額の抑制など地方財政の効率化に向けた取り組みを行うことを求めたい。
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| | (3
| )補助金の改革等
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| 政府においては、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定:以下、「基本方針2002」)に基づき、国と地方の三位一体の改革案をとりまとめることとしている3が、国庫補助負担金については、(1)に述べた基本的考え方に基づき、まず国と地方の役割分担に応じて事務事業の在り方を見直し4、国の関与を縮減するとともに、国・地方を通じた行政のスリム化・財政の健全化を実現する観点から、改革を行うことが必要である。 即ち、国の関与を縮減し、地方の裁量を拡大する観点から、国庫補助負担金の廃止、縮減、交付金化、統合補助金化等の改革を進めることにより、国庫補助負担金の交付に伴う種々の義務付けを廃止・縮減し、地方における住民ニーズに即した効率的な事業の実施を確保することが重要である。 また、行政が担うべきサービスの範囲・水準を見直し、国・地方を通じた行政のスリム化・財政の健全化を実現する観点から、国庫補助負担金の廃止・縮減を推進する必要がある。特に、急速な高齢化の進展に伴い、制度の持続可能性に不安が生じている社会保障の改革に取り組み、給付抑制等により、国庫補助負担金と地方負担の増加を抑制することが重要である。 以上の観点から、各行政分野にわたる国庫補助負担金について、その在り方を抜本的に見直すとともに、「基本方針2002」を踏まえ、数兆円規模を目指して国庫補助負担金の改革に取り組んでいくことが求められている。
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| 平成15年度予算においては、義務教育費国庫負担金の共済費長期給付等の一般財源化、国庫補助金の量的縮減をはじめとする国庫補助負担金の整理合理化(5,625億円削減)が図られた。平成16年度予算においては、上記の改革案を踏まえつつ、以下の方針の下、国庫補助負担金の積極的な整理合理化を推進することが求められる。
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| 税源配分の見直しについては、「15年度建議」でも指摘したように、国庫補助負担金及び交付税の抜本的改革とともに検討していくこととなるが、その際には、国と地方それぞれの財政事情、税源移譲に伴う債務残高の調整、地方の課税自主権発揮の状況、国税が巨額の国債の貴重な償還財源であること、税源移譲に伴う税収偏在の拡大傾向、財政構造改革との整合性などを踏まえた検討が必要である。 特に、この場合において、地方公共団体が超過課税の実施など課税自主権を発揮すること、即ち地方公共団体が自らの行政サービスの拡充を自らの負担の増加により賄うことは、受益と負担の関係の明確化という地方自治の基本的考え方からも重要であることに留意すべきである。
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| 2
| .社会保障 平成16年度の社会保障関係費については、「平成15年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(平成15年2月財務省)によれば、対前年度9千億円の増が見込まれている。また、長期推計(「社会保障の給付と負担の見通し」(平成14年5月厚生労働省))では、今後、さらに、急速な少子高齢化の進展に伴い、経済の伸びを大きく上回って給付と負担が増大していくことが見込まれており、現行制度のままでは、2025年度には国民負担率(財政赤字を含む。)が60%を超える見込みとなっている。現在の公的社会保障給付の水準は持続可能ではなく、このまま放置すれば国民の将来不安を惹起し、我が国の経済社会に重大な影響を及ぼしかねない。 したがって、社会保障制度については、経済の伸びと均衡がとれ、プライマリーバランスの黒字化達成といった財政規律とも整合性のとれたものに再構築する必要がある。そのためには、国民負担率については、臨時行政調査会、財政構造改革会議等と累次にわたって議論され、掲げられた水準(50%)程度に抑制することを目指して、公的給付の伸びを抑制すること等が最重要の課題である。 特に、給付の伸びは高齢者向けにおいて著しく、これを支える現役世代・将来世代の負担が過重なものとなっている。健康寿命が伸張し、働き続ける人も多くなり、また、経済実態も平均的には現役世代と遜色のないものになるなど今日の高齢者像が転換している中で、給付と負担の関係における世代間の不公平は制度に対する信頼を揺るがしている社会保障制度共通の構造問題である。改革に当たっては、年金、医療、介護その他の福祉について制度横断的かつ一体的に、高齢者の給付と負担の在り方を見直し、高齢者に対して制度の持続性回復に積極的な貢献を求めていく必要がある。 社会保障関係費は年々増加し、一般歳出の約4割を占めるに至っており、その抑制を図ることは、我が国財政上、最大の構造問題である。このため、平成16年度の具体的な予算編成に当たっては、現行の制度、給付水準、単価などを前提とした社会保障関係の自然増を放置することは許されず、概算要求段階から制度改革による公的給付の抑制により削減を図ることが必要である。 改革の内容は厳しいものとならざるを得ないが、社会保障制度は、国民の生涯設計の基礎となるものである。したがって、頻繁な制度改正を必要としない、将来にわたり持続可能な制度に再構築すること、即ち改革の先送りは許されず言わば最終改革とする決意で行うことが国民の信頼を取り戻す途であると考える。 また、公的給付を抑制する一方で、社会保障分野における国民の様々なニーズに的確に対応できるよう、多様で質の高いサービスを効率的に実現し、併せて経済活性化、雇用創出にも資するとの観点から、保育、介護、医療等の分野における規制改革の推進、民間保険の思い切った活用等を図っていくことが重要である。
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| | (1
| )年金 年金については、予想を超えるスピードでの少子高齢化の進展、経済の低成長、低インフレ化など経済構造の変化、高齢者像の転換など、制度が前提としていた経済、社会の諸条件が大きく変化している。2010年代初頭には、これまで年金を支えてきたいわゆる「団塊の世代」が年金受給世代にまわる。現在の年金制度は、既に実質的には積立金の取り崩しが始まっており、改革を行わずに現行の給付水準を維持し、保険料も現行のままとすれば、積立金が2020年頃に枯渇し、その後は保険料で給付を賄うことができなくなり、年金改革は、待ったなしの状況である。その改革に当たっては、経済・社会情勢の大きな変化を踏まえ、21世紀を支える国民の視点に立った改革を行い、将来世代が支えられる制度とする必要がある。 これまで年金制度は、確定給付の考え方の下、将来段階的に保険料を引き上げることを前提に給付水準を設定してきている。このため、前回の財政再計算で算出された平成11年度末時点における給付債務をみると、過去の保険料納付期間に応じた給付債務のうち、将来の保険料の引上げにより賄うこととされている部分が、厚生年金では455兆円、国民年金では40兆円となっている。また、世代間の給付と負担の格差も無視し得ない状況である。持続可能な年金制度を構築するため、この現行の保険料では賄うことのできない給付債務をどのように処理し、給付と負担の均衡を図るかが重要な課題となる。 現在、この処理に当たって、現行制度の賦課方式のまま将来世代の負担増(給付抑制を含む)に拠るのか、あるいは、将来世代の負担増にのみ負わせるのではなく、既裁定年金を含め過去期間の給付債務を削減するのか、いずれの方向を選択するのか決断しなければならない。当審議会としては、これから日本を支える現役世代に対し、将来への安心感を与えることが重要と考えている。したがって、年金制度の給付設計については、
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| | | ということを検討すべきと考える。 給付の見直しに当たっては、年金改革の出発点として物価スライドについて現在停止されている▲1.7%の引き下げを法律どおり完全実施することがまず必要である。さらに、厚生年金・国民年金の水準についても、はじめに現在の給付水準ありきではなく、共働き世帯を標準として適正な水準を考えるとともに、高齢者の消費実態を踏まえた給付水準の引下げ6、労働力人口の減少等を踏まえた年金改定率(スライド率)の抑制、生涯現役社会にふさわしい支給開始年齢の見直し、高収入の者に対する給付水準の見直し等、取り組むべき課題は山積している。 保険料については、引上げ凍結を解除し、給付と負担のバランスの確保という観点から国民の合意を得て引き上げる必要がある。 また、女性のライフスタイルの多様化、就業形態の多様化等を踏まえ、短時間労働者に対する社会保険(厚生年金・健康保険)の適用を拡大するとともに、3号被保険者に関する給付と負担の在り方についてさらに検討する必要がある。 国民年金の収納率が大幅に低下していることは、年金制度を賦課方式により支えるという観点からは極めて深刻な問題である。現在の滞納者への対応は不十分であり、滞納処分を早急に実施する必要がある。これにより年金制度に対する不公平感の除去に努める必要がある。 基礎年金国庫負担については、平成12年改正法附則に「基礎年金については、給付水準及び財政方式を含めてその在り方を幅広く検討し、当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の2分の1への引上げを図るものとする。」と規定されている。したがって、この問題については、給付水準等をはじめ、年金制度の在り方そのものについて検討を進めることがまず必要である。また、具体的に多額の安定財源(平成16年度で2.7兆円。高齢化の進展に従い、所要額はさらに拡大)が確保されることが検討の大前提である。国庫負担の在り方については、財政資金の配分の在り方として薄く広く調達する資金を基礎年金給付に一律に一定割合投入するのではなく、必要なところに重点的に投入するという考え方も念頭において検討する必要がある。 |
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| )医療 年平均4%で伸びていく医療費と国民経済のギャップ(2025年度で約25兆円との試算)を解消し、医療の発展と低成長・低インフレ下の保険運営が両立できる制度を再構築することが最大の課題である。特に、高齢者医療費について、現在の水準・伸びを放置した場合、2025年度には国民医療費の6割7を占め、これを支える現役世代の負担が過重なものとなることから、その伸びの抑制と、世代間・世代内負担の公平を図ることが重要である。 このため、以下のような観点から、「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」(平成15年3月28日閣議決定)の内容を具体化するとともに、公的保険の対象範囲の抜本的見直し、公的医療費の伸びの抑制策等、「基本方針」に盛り込まれていない諸課題に早急に取り組み、医療制度の改革を進める必要がある。
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| 公的保険がカバーする範囲の抜本的見直し 医療需要の増大と多様化に対応しつつ、公的保険を持続的に保つため、公的保険がカバーする範囲を根本的に見直す。
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| 高齢者医療コスト等の縮減 医療コスト(特に高齢者医療コスト)を縮減し、公的医療費の伸びを経済・財政とバランスのとれたものに抑制する。 このため、入院医療全般の診療報酬を早期に包括払い化するとともに、高齢者医療費の伸びと経済の伸びの整合性を確保するための仕組みを検討する。包括払い化に当たっては、社会的入院や過剰診療の解消につながる仕組みとする必要がある。 また、診療報酬・薬価については、物価・賃金動向、経済・財政とのバランス等を踏まえたものとする必要がある。
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| 地域・保険者の医療費適正化への取り組み 都道府県単位での保険者の再編・統合を推進するとともに、医療費の地域差部分の適正化を促す仕組みの導入、保険者機能の抜本的強化(レセプト点検の強化、保険者と医療機関の直接契約の推進等)、医療のIT化(電子カルテ、レセプト電算化等)の推進など、地域・保険者の医療費適正化への取り組みを強化する。
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| 世代間・世代内の保険料負担の適正化 高齢者医療制度の見直しとあわせて、若年者との保険料負担の均衡の確保、所得や資産等に応じた負担の観点から、高齢者の保険料の具体的水準や賦課方法を見直す。
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| 医療提供体制の再構築・効率化 診療所のかかりつけ医機能の強化、地域における病院と診療所の機能分担の明確化・連携強化を図る。特に、病院について、過剰病床の削減など提供体制の効率化を図るとともに、その機能を急性期・高度医療に特化し、外来患者の大病院シフトを是正する必要がある。
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| | (3
| )介護 介護保険については、これまでは制度立上げ期として、「保険あってサービスなし」との批判も踏まえたサービス基盤整備などを積極的に推進してきた結果もあいまって、制度として国民の間に定着してきたところである。 しかしながら、介護給付費は厚生労働省の長期推計によれば、2025(平成37)年度までに、金額で4倍(5兆円⇒20兆円)、対国民所得比で3.5倍に増加し、国民経済とのギャップが拡大するものと見込まれている。最近までの動向をみても、要介護認定について、特に軽度を中心に発現率に地域差がみられるとともに発現率が上昇を続けていることによる利用者の増加等を理由に保険給付が急増を続けている。また、介護保険では、地域の判断でサービス供給と保険料水準を決めるという仕組みとなっているが、地域によっては他と比して保険料が高水準の地域もあるほか、財政安定化基金からの借入を行っている保険者も少なくない。 介護保険法附則では法施行後5年を目途とした見直しを行うこととされている。この見直しに当たっては、我が国全体としても、また、地方公共団体としても、現行制度を存続し続ければ、今後の保険料・公費負担の増大により持続困難な制度となりかねない分岐点に立たされていることを踏まえて検討する必要がある。 したがって、平成16年度から、サービス提供体制の見直し、介護サービスの効率化、公的保険給付の在り方の見直しなど、以下に示すような介護保険制度の抜本的な再設計を行い、公的介護保険給付の伸びを大幅に抑制することにより、将来にわたり持続可能な制度へと切り替えることが必要である。
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| 適正かつ公正で利用者本位の介護サービスの提供
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| 在宅重視、地域ケア重視のサービス体系の再構築
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| 保険者の在り方の見直し
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| 介護サービスの効率化
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| 公的保険給付の在り方の見直し
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| | (4
| )生活保護 近年、高齢化の進展や経済活動の低迷等を受けて生活保護受給者が急増してきている。 生活保護は国民生活の最後のセーフティネットとしての機能を有するものであり、真に困窮した自立不可能な者に最低限度の生活を保障することを目的とするものである。しかしながら、受給者に一定の収入を保障するものであるが故に、保障水準やその執行状況によっては、モラルハザードが生じかねず、かえって被保護者の自立を阻害しかねないという面も指摘される。このため、制度・運営面について、以下の観点から、しっかりとした点検と見直しが必要である。 まず、生活保護の地域別の被保護率をみると、地域における社会経済・雇用情勢の差異に留意する必要があるが、地域によって20倍近い差があることを踏まえると、その執行の適正化とそのための地方公共団体の積極的な取り組みの促進が必要と考えられる。 また、近年の物価・賃金動向等の社会経済情勢の変化を踏まえるとともに年金制度改革における給付水準の見直しとも一体的に検討すれば、生活扶助基準・加算の引下げ・廃止、各種扶助の在り方の見直し、扶助の実施についての定期的な見直し・期限の設定など制度・運営の両面にわたり多角的かつ抜本的な検討が必要である。 特に、原則70歳以上の高齢者に上乗せされる老齢加算(17,930円1級地-1)は福祉年金創設との関係から昭和35年に創設されたが、年金制度改革の議論と一体的に考えると、70歳未満受給者との公平性、高齢者の消費は加齢に伴い減少する傾向にあること等からみて、廃止に向けた検討が必要であると考えられる。また、母子家庭についてみた場合、一般の母子世帯の平均の所得金額(21.1万円、世帯人員平均2.64人)と被保護母子世帯の最低生活費(22.1万円、世帯人員平均2.91人)を比較した場合、母子加算も同様であると考えられる。 さらに医療保険と同様、長期入院患者等の入院解消やレセプト点検等により医療扶助の適正化を図ることが重要である。
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| | (5
| )雇用 雇用対策については、雇用失業情勢を踏まえ、今後とも適切に対応していく必要がある。その際には、既存の施策の実績・効果についての十分な検証を行うことが重要であり、その結果を踏まえ、施策の重点化・合理化を図るなど、引き続きメリハリある見直しに取り組むこと等により、雇用対策の費用対効果の向上に努めていく必要がある。 具体的には、経済・産業構造の変化、ライフスタイルに対する国民の意識の変化、雇用慣行の変化等の構造変化を踏まえ、多様な働き方や円滑な労働移動等の実現による就業機会の確保を図るため、労働市場の構造改革や雇用対策の重点化の基本的な方向として、 雇用維持支援から労働移動支援へ 雇入れ助成からミスマッチ解消へ 生活支援から早期再就職支援(自立支援)へ 等への取り組みをさらに進めていく必要がある。 また、再就職支援や能力開発等に係るサービス水準の向上・多様化、施策の効果的・効率的実施の観点から、 民間のノウハウの積極的活用(官から民へ) 地域の実態を踏まえた施策の実施(国から地方へ) 等に取り組む必要がある。 さらに、雇用対策を検討するに当たっては、モラルハザードの防止、費用対効果に十分に配慮する必要がある。働き方の多様化の進展等により、失業者の実態も様々であり、再就職や能力開発等に対する公的支援の必要性も一律ではない。したがって、自助努力を適切に求めつつ、再就職や能力開発等に対する公的な支援が真に必要な者への適切な施策となるような制度設計に努めるべきである。 なお、雇用保険制度については、「15年度建議」で指摘した方向に沿った制度改正が行われたところであり、その円滑な執行を図ることにより、雇用保険制度の安定的運営を図り、雇用のセーフティネットに対する国民の信頼の確保に努めるべきである。
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