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平成16年度予算編成の基本的考え方について(はじめに、総論)/財政制度等審議会

じめに

 平成16年度予算編成は、我が国財政の将来を占う上で極めて重要な意味を持つと考えられる。年金改革、国と地方の改革といった大きな課題を抱えた平成16年度予算編成は、今後の財政の在り方、国の役割、受益と負担の関係等、国の在り方に対する根本的な考え方を国民に問い直すことになろう。我が国財政は、平成15年度末の公債残高が約450兆円にも達する見込みであるなど、主要先進国中最悪の危機的状況に陥っており、それが国民の将来不安につながっている。このような状況の下、将来の国民生活に真に安心感を与え、経済の活力を回復するためにも、財政健全化に向け不退転の決意で諸改革を進めていく必要がある。
 財政制度等審議会財政制度分科会は、このような認識の下、平成16年度予算編成に対する基本的な考え方について取りまとめた。今や従来のような右肩上がりの経済成長が望めず、また少子高齢化が進展していく中、将来世代の負担を考えれば、我々が採りうる選択肢は自ずと厳しいものとならざるを得ない。厳しい改革を行っていくためには、国民の理解と協力が不可欠であり、この「基本的考え方」が、平成16年度予算編成に向けた様々な課題について一つの方向性を提示し、国民各層の議論に資することを期待する。



I



.総 論

 


1.持続可能な財政構造の確立


 政府は、中期的な財政運営の在り方について、「改革と展望-2002年度改定」(平成15年1月24日閣議決定)において、「2010年代初頭におけるプライマリーバランスの黒字化を目指す」とし、プライマリーバランスの黒字化を中期的な財政運営目標として明確に位置付けた。我が国の国・地方の長期債務残高対GDP比は、平成15年度末で137.6%にも達すると見込まれている。こうした中、プライマリーバランスの黒字化は、債務残高対GDP比が上昇しないという水準を示しているに過ぎないのであって、それ自体が最終的な目標ではないことに留意が必要であるが、まずはその目標達成に向け全力で取り組んでいかなければならない。しかし、平成15年度のプライマリーバランスは▲5.4%(対GDP比)と見込まれ、足下ではむしろ悪化していることを踏まえると、その達成すら容易なことではなく、持続可能な財政構造の確立に向け、様々な制度改革、歳出改革努力を積み重ねていく必要がある。
 平成15年度予算は、「改革断行予算」と位置付けた平成14年度予算の基本路線を継承し、国庫補助負担金の整理合理化や雇用保険制度の抜本的見直しなど、歳出面で様々な改革努力が重ねられた。しかしながら、景気の悪化や減税の先行実施等による歳入の落ち込みもあり、公債発行額は36.4兆円にものぼり、公債依存度は44.6%と過去最悪の状況となった。
 財政赤字の累積は、財政の硬直化や世代間の不公平の拡大をもたらすばかりでなく、制度の持続可能性への疑問から国民に将来不安をもたらし、活力ある経済社会の実現に大きな足かせとなる。このため、公債発行額については、極力その抑制に努めなければならない。なお、現在の低金利下においては累増する公債残高の影響が過小評価されがちであるが、仮に将来金利が上昇した場合には、国債費が財政を大きく圧迫する要因となることを忘れてはならない。
 「構造改革と経済財政の中期展望」(平成14年1月25日閣議決定:以下、「改革と展望」)においては「政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は現在の水準を上回らない程度とすることを目指す」とされており、これを踏まえ、平成15年度予算は一般会計歳出及び一般歳出ともに実質的に平成14年度の水準を下回るものとなった。上記のような財政の状況に鑑みれば、平成16年度予算編成においても、昨年度同様の歳出改革路線を堅持していくことが重要である。


2.歳出見直しの基本的考え方

 持続可能な財政構造の確立のためには、諸制度の根幹に立ち返り、義務的な経費、裁量的な経費を問わず、聖域なく歳出内容を徹底して見直すことが不可欠である。
 当審議会では、昨年11月に取りまとめた「平成15年度予算編成等に関する建議」(平成14年11月20日:以下「15年度建議」)において、構造改革に伴う様々な制度改革の方向性を「『保護・救済型』から『自立支援型』の制度への転換」と位置付けた。平成16年度予算編成においても、引き続きこの考え方に沿った改革が進められなければならない。特に年金改革をはじめとする社会保障制度改革や国と地方の改革については、こうした観点から抜本的な制度の再構築が必要である。これらの制度見直しは、今後の国の在り方を決める重要な課題であり、是非とも国民的な議論を経て改革が行われることを望みたい。
 また、総額(量)を厳しく抑制する中では、特に予算の内容(質)については予算配分の重点化、効率化(メリハリ付け)の実現を図ることが重要な課題である。逐年この課題に取り組んできたところであるが、平成16年度予算においても真に効果の高い施策に重点化対象を絞り込むなど不断の努力を重ねるべきである。同時に、厳しい財政事情の中、財政規律を維持しながらメリハリの効いた予算とするためには、優先順位の低い予算について、思い切った削減が必要となる。社会経済情勢の変化によって重要性が低下していないか、民間の活力を活用することができないか等、既存のあらゆる施策について、様々な角度から徹底した見直しを行い、歳出の合理化を図っていく必要がある。また、単価の見直しによるコスト縮減等、歳出の効率化に向けた努力を継続するとともに、民間における厳しい情勢等に鑑み、総人件費の抑制にも努めなければならない。独立行政法人については、明確な目標設定と厳格な評価及び歳出の効率化を求めたい。
 さらに、当審議会では、歳出合理化部会の下に特別会計小委員会を設け、本年4月より特別会計の事務事業の見直しや特別会計の歳出の効率化・合理化等についての検討に着手したところであり、この審議の動向も踏まえつつ予算編成を行っていく必要がある。


3.予算編成における事後評価の充実

 財政当局は、予算を編成(PLAN)するだけでなく、「PLAN(編成)-DO(執行)-SEE(評価・検証)」のプロセスのうち、特に「SEE」の充実を図り、「SEE」から「PLAN」へのフィードバック(事後評価の予算への反映、即ちチェック・アクション)を今後さらに充実させていかなければならない。そのためには実効性のある事後評価手法の確立が重要であるが、行政の施策は客観的、定量的な評価が難しい分野も多く、また政策目標の達成と具体的施策との間の因果関係を明確にすることも容易ではないと考えられる。当面は試行錯誤を重ねていく必要があると思われるが、政策評価の活用を図るとともに、諸外国の取り組みも参考にしながら「SEE」の充実に努めるべきである。
 財政当局によるこうした取り組みの一環として、昨年度43の事業について予算執行調査が実施された。本年度は、一般会計に加え特別会計の事業に重点を置き、調査体制の充実・強化を図りつつ51事業について実施しており、その結果を予算編成に的確に反映させていく必要がある。
 また、「SEE」の充実を図るに当たっては、行政の説明責任やディスクロージャーを徹底させることが重要であり、当審議会においても、法制・公会計部会の下に新たに公会計基本小委員会を設け、公会計に関する基本的考え方について総合的な検討を行っている。今後もその検討結果を踏まえつつ、さらに公会計制度の充実に取り組んでいく必要がある。
   


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