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税制メールマガジン第166号 2023年9月11日

【税制メールマガジン第166号】
 2023年9月11日

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◆目次
1 はじめに
2 税制をめぐる最近の動き
3 国際課税への誘い~ポストBEPSプロジェクトの新潮流(第1回)~
4 今月は何税の月?「9月:シャウプ勧告 」
5 広報係長ご挨拶
6 編集後記

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1 はじめに

 夏休みも終わり、9月となりましたが、まだ暑い日が続いております。皆様いかがお過ごしでしょうか?
 前回号でご紹介した学研キッズネットとのコラボ企画「税金の自由研究」特集は、文部科学省(フォロワー約43.6万)のX(ツイッター)アカウントにもRepost頂いたおかげもあり、4.7万件の表示を達成できました(2023年8月末時点)。より多くの方々にご覧頂き、夏の自由研究に活用頂けたのであれば、嬉しい限りです。
 また、同じく前回号でご紹介した毎日新聞のうんこ税金ドリルに関するインタビュー記事も反響が大きく、他紙からも追加取材を頂き記事化されました。また、複数のラジオ番組でも朝刊の注目記事を取り上げるコーナー等でご紹介いただいたようです。ニッポン放送『垣花正 あなたとハッピー』では、出演された有名な経済アナリストが「うんこ税金ドリルに対抗して、私は新たに○○○税金ドリルを作る!」と力説されておられました。租税教育の歴史にまた新たな1ページが刻まれるかもしれません。
 なお、8月末に各省庁から税制改正要望が提出されました。これから年末に向けて、税制に関する熱い議論の日々が始まります。

財務省主税局総務課 企画官 境吉隆

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2 税制をめぐる最近の動き  

HP掲載日 内容
8月1日
令和5年度 6月末租税及び印紙収入、収入額調

(1)租税及び印紙収入、収入額調
令和5年度 6月末の租税及び印紙収入、収入額調を財務省ホームページで公開いたしました。

下記リンクから内容をご覧いただけます。
令和5年度 6月末租税及び印紙収入、収入額調


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3 コラム・国際課税への誘い~ポストBEPSプロジェクトの新潮流(第1回)~

突然ですが、法律の世界の「共通言語」って何でしょうか。
大多数の法律家にとって、その答えはほぼ間違いなく「条文」でしょう。もちろん、税の世界も例外ではなく、「租税法律主義」のもとで、法律がそれぞれの制度の基礎を形作っています。
一方、税の世界の中でも、いわゆる「国際課税」といわれる分野は、法律のほかにも「共通言語」を持つものの1つと言うことができそうです。
現在の国際課税の分野では、パリに本部を置くOECD(経済協力開発機構)が主導的な役割を担っていて、各国が外国との間で租税条約を締結する際に参照するOECDモデル租税条約の策定など、各国の行う制度等の整備に当たって重要な貢献を果たしています。
 「国際」課税といっても、各国にはそれぞれの国内法がありますので、例えば、ある個人が外国で得た所得について、その外国と自分の住んでいる国の両方から課税を受ける(二重課税が生じる)ことが起こります。こうした二重課税の調整などを目的に国家間で租税条約が締結されることになりますが、OECDが作成しているOECDモデル租税条約は、この租税条約を策定・締結する際の拠り所としての機能を担うものです。その意味で、国際課税の分野では、各国が定める国内法があり、それを租税条約が一部修正するという構造になっています。そして、各国が国内法や租税条約を始めとした国際課税分野の各制度を定めるに当たっては、国際的な議論の結果として定められた国際課税ルールを参照する場面が多く見られます。
OECD等における国際的な議論の結果として出来上がった国際課税ルールは、各国が自分の国の制度などを定める際に参考にされる点で、各国の間の「共通言語」であるとともに、各国の専門家が、住んでいる国や地域、言語や法体系が異なる場合でも、同じ国際的なルールを前提に議論ができるという意味で、「共通言語」と言えるのではないかと思うのです。
 国際課税分野における最近の大きな動きとして、「BEPSプロジェクト」以降の動向を挙げることができます。「BEPSプロジェクト」は、近年のグローバルな経済活動の構造的な変化に各国の税制や既存の国際課税ルールが追いつかず、多国籍企業の活動実態とルールの間にずれが生じているという問題意識の下、多国籍企業がこのような「ずれ」を利用することで行う課税逃れに国際的に対処すべく進められてきたものです。2015年には、国際課税ルールを経済活動の実態に即したものとすべく15の行動計画と各国への勧告等を含んだ「BEPSプロジェクト最終報告書」が取りまとめられ、現在はOECD加盟国だけでなく、多くの開発途上国等も加わった「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)」の下で、各国が最終報告書で勧告された内容を実施するフェーズに入っています(※)。

(※)「租税条約」や「BEPSプロジェクト」については、以下のウェブサイト上で概要をご覧いただけます

このBEPSプロジェクト最終報告書を踏まえて、我が国でも税制改正を行ってきました。本来なら1つ1つ紹介したいところではありますが、紙幅の関係もありますので、このコラムでは、次回以降で主として、最終報告書公表後の最も大きな動きと言うべき「経済のデジタル化に伴う課税上の問題への対応」と呼ばれるプロジェクトを紹介しようと思います。

余談ですが、最後に少しだけ私自身の経験について触れさせてもらおうと思います。
私にも、ささやかな数ではあるものの、海外で税の分野の専門家として働いている外国人の友人たちがいます。その中には多くの南米の出身者がいて、地理的にはるかに日本から離れていることを思えば、私が、そして彼らが留学に行く機会に恵まれなければ、互いに友人関係を築くチャンスはなかったかもしれません。そんな彼らと留学先でともに勉強したのが、まさに「国際課税」でした。
留学から帰ってからもう随分と時間が経ちますが、今でも、国際課税分野に大きな動きがあるたびに、SNSなどを通じて情報のやりとりをしています。もちろん、こういった交流は何も国際課税の分野に限った話ではありませんが、これもある意味では、互いの国籍を離れた「共通言語」を持つこと故の幸運かもしれません。

国際課税の分野は、税の世界の中でもとりわけ難解と思われる向きもあるようです。日々そんな条文や制度と向き合って頭が疲れてきたときには、ときどき、そんな友人たちのことを考えています。

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4 今月は何税の月「9月:シャウプ勧告」

 今回から、もう一つ新たなコラム「今月は何税の月」を開始致します。過去その月に起きた大きな税関連の出来事を取り上げて、紹介していきたいと思います。
 9月といえば、なんと言っても「シャウプ勧告」が日本税制上の一大事項になります。シャウプ勧告には、1949年(昭和24年)9月15日に公表された「シャウプ使節団第一次日本税制報告書」と1950年(昭和25年)9月21日に公表された「シャウプ使節団第二次日本税制報告書」がありますが、戦後の混乱期において、恒久的・安定的な税制を確立し、直接税を中心に据えつつ、申告納税制度を柱とした近代的な税制を構築することを目指したシャウプ勧告は、まさに戦後日本税制の礎となりました。シャウプ勧告の概要については、政府税制調査会・中期答申p22~25「第二次世界大戦と戦後の税制」にまとめられていますので、中期答申を是非ご覧下さい。
 本コラムで着目したいのは、シャウプ使節団が非常に多くの日本人と税制に関する議論を行い、その中に多くの市井の人々も含まれていたという点です。来日後、シャウプ使節団は日本各地を視察し、2ヶ月を費やして実地調査を行いました。
 1972年に再び来日したシャウプ博士は講演の中で、「地方旅行の際に、わたしどもはあちらこちらに長い車の列を止めまして、たとえば、日本の農村でお百姓さんが働いていると、そこで農民の方々にじかに日本の税をどう思うかとよく聞いたものです。私どもは、こういうことをしながら、いわば直接の、なまで、じかの国民の声を聞こうというふうに努めたわけであります。こういうことによって、日本の税制のかかえている問題点というものに対して、何らかの本質的な直感と申しますか、そういうものを得ることができたように思います。」と述べられています(大蔵省広報誌『ファイナンス』1972年12月号)。

また、横浜国立大学付属図書館が所蔵する“カール・シャウプコレクション”には、シャウプ博士が所蔵していた書籍・雑誌・文書類が保管されています。その中には、シャウプ使節団が来日した時にやり取りした書簡類(手紙)も多く含まれており、その書簡類を整理した調査によると、多くの手紙のやり取りをした上位者の中には、ダグラス・マッカーサー連合国最高司令官(12件)、平田敬一郎・大蔵主税局局長(13件)、原純夫・大蔵省主税局国税第一課長(11件)とともに、千葉県在住農民・君塚Y氏(8件)といった名前も含まれています。国税庁HPには、福岡の商店主と税金について語るシャウプ博士の写真が掲載されています(下記URL参照)。なお、余談では「私(平田)もシャウプさん一行が東北に行った時に山形までいったことがあるのだが、温泉に一緒に入ったところが入口は違うのだけれど、男女混浴なんだね。びっくりして、「たいへん面白い」と言ったというような話もありました。(笑)」とのこと。(大蔵省広報誌『ファイナンス』1966年1月号「シャウプ税制を語る」平田敬一郎氏)

 このような一般市民との対話を重視するシャウプ博士の姿勢について、1972年再来日の際に随行した渡辺幸則・主税局課長補佐(当時)は手記の中で、「(シャウプ)博士の頭の中には、税制は合理的なものでない限り決して納税者を説得できない、同時に納税者は、民主主義国家においては合理的な税制を受け入れ、支持すべきだ、という固い信念があったように見受けられた。」と述べており、このような博士の信念は租税制度の基本原則にもつながるものがあります。
 一方で、シャウプ博士は「日本という国は、一体合理的な税制を敷いて合格点のとれる税務行政を行えるのかどうか、国民の納税レベルが、そこまで行けるものなのかどうか」を、一般市民との対話で確認していた、という点も指摘されています。(大蔵省広報誌『ファイナンス』1966年1月号「シャウプ税制を語る」原純夫氏)
 その証左として、シャウプ第1次勧告の序文には、次の一節があります。
『この長期の計画自体は、二者の中のいずれかのものになりうるものであった。すなわち、われわれは、周到に保存された資料および困難な問題の聡明な分析によらないで、所得、富および事業活動の外形標準に依存する多少幼稚な租税制度を勧告することもできたのであるが、かかる租税制度によって必要な収入は確保することができるとしても、それは納税者間の甚しい不公平を永続せしめ、公民の責任感を鈍化し、地方団体をして不安な国家財政依存を継続せしめ、ひいては生産および分配に好ましからざる経済的影響をもたらすものである。加えるに、われわれは、租税法規の公平且つ能率的な施行および日本の納税者の高度な納税に対する協力を得るための困難は必ずしも不可避なものでないとの確信を得たのである。従って、われわれの目的は、商工業者および相当な生計を営むすべての納税者が記帳を励行し、公平に関連するかなり複雑な問題を慎重に論究することを辞さないということに依存する近代的な制度を勧告するにある。』

 まさに国の税制は、国民の理解とモラルに支えられていることを表す一文です。日本人の税制に対する理解とモラルに確信を抱いたシャウプ博士たちによる勧告が、戦後日本税制の礎となり、後に高度経済成長期を迎えることとなります。1972年に再来日時にシャウプ博士は次のような言葉を残しています。「二十二年ぶりの日本は、驚異の一語に尽きます。もっとも1949年当時においても日本がいずれ復興し、その経済力を回復するという方向にあることはわかっておりました。ただその変化の大きさと速度とは、私どもの予想を隔絶したものでした。たとえば、シャウプ勧告には揮発油税や自動車税のことはほとんど何も書いてありません。自動車がなかったので、触れる必要がなかったのです。……その代わり1949年の東京の空は、今より少し綺麗だったかも知れません。……」
 

  • 国税庁HP「シャウプ勧告と税制改正・商店主と税金について語るシャウプ博士」
   https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/shiryou/library/19/01.htm


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5 広報係長 ご挨拶

 7月より主税局総務課広報係長に着任いたしました、中村と申します。これまでは財務省で政府系金融機関による融資制度に関する業務、九州財務局で南九州の経済調査業務などに携わってまいりました。今回主税局での業務は初めてではありますが、税について一から学び、皆様に発信していきたいと思います。
 前職の経済調査業務で地域企業の方々とお話しする中で、「どれだけ良い制度が存在しても、それが正しく伝わらなければ意味がない」ということを強く実感しました。税制についても、皆様に正しく「伝わる」ことを目指し、誠心誠意広報活動に努めてまいります。
どうぞよろしくお願いいたします。
                                                                                                
財務省主税局総務課 広報係 中村

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6 編集後記

9月を迎え、そろそろ秋服に衣替えしようと考えていましたが、今月いっぱいは、全国的に厳しい残暑が続く見込みだそうです。秋服の出番はもう少し先になりそうですね…。
さて、今回の税制メルマガから新たな連載コラム「国際課税への誘い~ポストBEPSプロジェクトの新潮流」と「今月は何税の月?」がスタートしました
「国際課税」に関するコラムでは、「BEPSプロジェクト」についてご紹介しております。国籍が離れていても「国際課税」という共通言語を通じ、繋がり合っている関係性、とても素敵だなと思いました。
また、「今月は何税の月?」では、第一弾として、「シャウプ勧告」の記事をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。今日においても税制度の基盤であるといわれているシャウプ勧告ですが、シャウプ博士が自ら直接市民と対話をしながら、日本の税制に関する調査を行っていたという歴史に驚きました。引き続き、税に関する歴史を皆様にお届けいたしますので、お楽しみいただければと思います。
 今月も最後までお付き合いいただきありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いいたします。

財務省主税局総務課 広報係 高木


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