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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~ 19

ウズベキスタン共和国への知的支援*1

財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 企画調整係長 金城 貴裕/同 前研究員 田中 祥司/研究員 大川 隼人/同 係員 岩嵜 智亮


財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)では、1997年以降、ウズベキスタン共和国(以下、「ウズベキスタン」)の発展を担う人材の育成を目的とした知的支援を実施しています。今回のPRI Open Campusでは、これまでの財務総研の同国向け支援の歴史や、約3年8ヶ月振りとなった財務総研訪問団によるウズベキスタン出張を含めた最近の支援実績等についてご紹介します。
(1)はじめに-財務総研国際交流課の取組の意義-
開発途上国の社会・経済の開発を支援するため、日本政府や国際機関、NGO、民間企業など様々な組織や団体が、経済協力を行っており、これらの経済協力のうち、政府が開発途上国に行う資金や技術の協力を政府開発援助(Official Development Assistance:ODA)といいます*2。ODAには様々な種類があり、その中には、日本の知識・技術・経験を活かし、途上国・地域の社会・経済の開発の担い手となる人材の育成を行う「技術協力」があります*3。財務総研の国際交流課が実施する知的支援は、まさにこの「技術協力」に当たります。
国際交流課では、その前身である国際交流室発足(1992年)以降、現地大使館や現地のJICA専門家等を経由して寄せられる開発途上国の政府等の関係者からの要請に応える形で、それらの国々の人材育成を目的とし、財政・経済分野に係る我が国の知識や経験、ノウハウを提供してきました。また、こうした活動を通じて得られる開発途上国との人的ネットワークを維持・強化していくことは、我が国が財政経済分野における様々な国際協力を円滑に推進していくことにも資するものと考えています。

(2)財務総研によるウズベキスタンへの支援の歴史等
財務総研は、ウズベキスタン政府からの要請を受け、同国の人材育成に対する知的支援活動の一環として、1996年に設立された金融財政アカデミー(Banking and Finance Academy:BFA)に対し、その設立当初から、BFA(名誉)第一副院長(非常勤)*4の派遣を続けているほか、これまで218名のBFA学生を日本でのセミナーに受け入れるなど、約26年におよぶ様々な支援を行っています。
BFAは、同国の財政金融分野の政策立案・運営能力を国際的水準に引き上げることを目的として、1996年5月の大統領令に基づき同年10月に設立された大学院相当の教育機関で、ウズベキスタン政府や金融機関等より選抜された幹部候補生が専門家育成プログラムを受講し学んでいます。財務総研では、BFAの設立以来8名の(名誉)第一副院長を派遣しており、現在は、財務総研の小野副所長がその任に就き(2022年12月~)、財務総研とBFAの支援・協力関係に関する総合的な調整等に従事しています。
財務総研では、主に途上国の財務省等職員を日本に受け入れ、我が国の財政・経済に関する知識・経験の提供を通じて、参加各国の人材育成を支援することを目的としたセミナーも実施しています。そのうち、BFAの学生を対象としたものの一つが中央アジア・コーカサスセミナーです。このセミナーは、BFAの学生のみを対象としたBFA夏期セミナー(1997年開始)を改組*5し、2006年以降は、BFAの学生(毎年約10人)のみならず中央アジア・コーカサス諸国*6の財務省等の若手幹部候補生(各国概ね1名程度)にまで対象を拡大、今日まで継続しています。新型コロナウイルス感染症拡大の影響による中止(2020年)やオンライン開催(2021、2022年)を挟み、本年(2023年夏)に、4年ぶりに対面で開催する予定です。
写真1: BFAホシモフ院長をはじめとしたBFA首脳陣と財務総研訪問団(2023年2月)

(3)最近の財務総研によるウズベキスタン支援と交流の動向
●コロナ禍を経て新たな支援を開始
2021年7月、新型コロナウイルスが猛威を振るい続ける中、財務総研は、BFA、ウズベキスタン経済財務省*7の3者間で今後の支援関係に関する協力覚書を締結しました。3者はこの覚書に基づき、ウズベキスタンが抱える個別課題の解決に資する日本の知見を提供することを目的とした合同セミナーを新たに開始することとし、ウズベキスタン側との緊密な意見交換等を経て、2022年8月8日(月)及び9日(火)に、オンライン方式にて第1回PRI-経済財務省-BFA合同セミナー(以下、「合同セミナー」)を開催しました。初回の合同セミナーでは、経済財務省職員及びBFA学生等に対し、経済や政策に関連した講義を3本実施し、約200名のBFA学生や政府職員の参加を得ました。
さらに、2023年2月14日(火)及び15日(水)には、第2回目の合同セミナーを開催し、現地(首都タシュケント)において、小野財務総研副所長兼BFA名誉第一副院長が開会挨拶を行いました。第2回目のセミナーにおいても、ウズベキスタン側の関心事項に基づいた講義を3本実施し、第1回目と同じく約200名の参加者を得て、参加者の間で活発な議論が行われました。
写真2: 第1回合同セミナー開会の様子
写真3: 第2回合同セミナー 小野BFA名誉第一副院長・財務総研副所長開会挨拶の様子
写真4: 第2回合同セミナーの様子
●財務総研スタッフによる現地出張、今後の取組等
第2回の合同セミナー開催のタイミングに合わせ、財務総研スタッフが、2019年を最後に、新型コロナウイルス感染症拡大以降訪問できていなかった、ウズベキスタンを3年8ヶ月ぶりに訪問しました。
財務総研の支援先であるBFAや経済財務省との協議においては、合同セミナーの立ち上げやこれまでの支援に対する感謝の意を伝えられるとともに、今後の支援に関し、ウズベキスタン側の関心分野の提示などがあり、双方の代表者同士で率直な意見交換が行われました(写真5)。
また、現地滞在中、Uzbekistan MTRK TV(ウズベキスタン国営放送)からインタビューの打診があり、財務総研が実施する対ウズベキスタン支援内容などを中心に説明を行いました。
今回のウズベキスタン出張では、1996年から続く財務総研の知的支援だけでなく、他の日本からの支援についても多数の感謝の言葉を掛けられました。今回の訪問時においては、これまで築いた人的ネットワークの維持を目的として、過去に財務総研が実施したセミナーに参加した経験のある方々との意見交換会も開催しました。その中において、2019年中央アジア・コーカサスセミナー参加者であるAktom Umaraliev氏からは「JICAの水質改善プロジェクトには感謝している。また、セミナーへの参加のため日本に滞在した際、日本の文化や教育のすばらしさを学んだため、(自分の)子どもには日本の素晴らしさを教えていきたい。」との言葉を頂きました。我々の知的支援も含め、こうした日本からの支援を通じて、ウズベキスタンは勿論、世界中に日本のファンを増やしていくことは非常に重要な任務であると感じました。
上述の通り、財務総研国際交流課では、本年8月から9月にかけて4年ぶりとなる対面形式での中央アジア・コーカサスセミナーの開催をすることとしております。過去2年(2021、22年)はオンライン方式による開催となりましたが、強固な人的ネットワークを構築するためには、お互いの顔が直接見える形で交流を深め、また、日本の知見・経験を伝えるのみならず、日本現地において、直接日本の文化等を肌で感じてもらう事も非常に重要な要素だと考えています。同セミナーにおいては、より活発かつ有意義な人的交流が実施できるよう準備を進めて参ります。
写真5: BFAとの協議の様子

(4)結び
財務総研国際交流課としては、これまでの26年に渡るウズベキスタン支援の歴史を大切にしつつ、ウズベキスタンが直面する課題を迅速に把握し、今後もウズベキスタン当局と緊密な連携を取りながら適切な支援を提供してきたいと考えています。今後とも日々創意工夫を重ねながら、より良い国際交流を目指して参ります。

コラム1:ウズベキスタンを訪れて(2023年2月)
ウズベキスタンは年間降水量が約200mmと雨が降ることが珍しい国ですが、到着した日の天候は雨でした。2023年の初めにはウズベキスタンを寒波が襲い、首都タシュケントの気温がマイナス20度となる日もあったそうで、出張した職員の中には冬の寒さの厳しい地域を想像し、気候を不安に思っていた者もいました。しかし現地到着時(夜)の気温は6℃と東京都と同程度で、滞在中も日本と大きく変わらない気候の下で過ごすことができました。
今回の出張では、ホシモフBFA院長からBFA敷地の一角に植えられている桜について、「この桜は、初代のBFA第一副院長(1996年~2004年)を務めた北村 歳治氏(当時、財政金融研究所*8次長)が、日本から取り寄せて植樹したもので、財務総研とBFAの信頼と友情のシンボルです。次回は是非開花した美しい桜を、お見せしたい。」とご紹介頂きました。今回の出張は2月中旬でしたので、桜の花は咲いていませんでしたが、出張後の3月中旬に、BFAスタッフから、満開に咲き誇る桜の写真が送られてきました(写真6)。筆者(岩﨑)は、植樹時の桜の苗木を想像しながら、この大きく成長した桜を目の前にして、財務総研とBFAの間の長い歴史に思いを巡らせました。
写真6: BFAの桜(BFAスタッフより提供)

コラム2:ウズベキスタン郷土料理の味を日本で再現 
―俺たちのプロフ―
〈はじめに〉
財務総研国際交流課のウズベキスタン担当としてよりウズベキスタンを身近に感じられるよう、ウズベキスタンの郷土料理「プロフ(PILOV, PALOV)」*9を、筆者一同の手で再現することとしました。プロフは油で炒めたニンジンやタマネギ、羊肉等を具に使ったスパイシーな中央アジア風の炊き込みご飯で、「ピラフ」の語源とも言われており、ウズベキスタンでは家庭や市場はもちろんのこと、結婚式などのお祝いの席にも欠かせない伝統料理です。調理にあたっては、地域や時代を超えて多くの人々に愛され、受け継がれるプロフの本場の味の再現を目指すこととしました。

〈プロフ調理本番〉
今回は本場の味の再現にこだわったことから、BFAスタッフ(Ms. Dinara Djumaeva氏)の監修のもと、神戸からマッタライスを取り寄せるこだわりを見せたのですが、使用する肉に関しては、本来使用予定であった羊肉の入手が叶わず、やむなく代替品としてスーパーで購入した牛肉の切り落とし(和牛)を使用しました。全体の調理については、下準備も含め40分程かかりましたが、お米をフライパンで炊く経験が少ない中でも、予想以上に手軽に調理することができました(食材及び作り方の概要は下記参照(図表3. プロフ調理に用いた食材(目安分量)*10,図表4. プロフ調理の調理法))。

〈プロフ実食、レビュー〉
実際に調理したプロフを試食したところ、クミンシードやコリアンダーのスパイシーな風味と食欲をそそるニンニクの香ばしい香りなどはほぼ再現できており、短時間で完食に至りました。使用した肉が現地で食したもの(羊肉)と異なったことやマッタライスにやや固さが残るなど、筆者らがウズベキスタン出張時に現地で食したプロフの完全再現には至りませんでしたが、調理を通じて筆者らにとっては、ウズベキスタンの心をより身近に感じる貴重な機会となりました。
完全再現失敗の事実を監修者(Ms. Djumaeva)に直接伝えたところ、「プロフはウズベキスタンの国民食ですが、地域や家庭によっても様々な調理法があり、多様な料理です(なので心配いりません)。」との温かいコメントを頂きました。
この温かいコメントを踏まえ筆者一同は、今回の作品を「プロフの新たな多様性の1ページ」と無理矢理整理することに決め、次のステップとして、この多様性を更に広げることを目指し、日本人の口にあう日本風プロフのレシピ開発を目指すこととします。
ウズベキスタンの歴史ある料理が持つ多様性という心の広さを知るにつれ、プロフが「ピラフ」の語源と言われていることについて改めて深く納得しつつ、本コラム「俺たちのプロフ」の結びとします。
写真7: プロフ調理本番の様子(調理する田中と岩﨑)
写真8: 完成したプロフと、ウズベクのドライフルーツ)とMs. Dinara Djumaeva氏

(参考文献)
・日本語文献
財務省(2020)財務総研国際交流課 平野俊文・櫻井健二・平野慎二 ファイナンス「ウズベキスタンに対する知的支援について-政治・経済を眺めながら-」 財務省広報誌「ファイナンス」令和2年2月号(https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f04_17.pdf)(2023年3月15日閲覧)
外務省(2020)「中央アジア・コーカサスと日本 さらに深化したパートナーシップに向けて」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ca_c/page25_000761.html)(2023年3月15日閲覧)
外務省(2022a)「政府開発援助(ODA)国別データ集2021」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/press/shiryo/page2w_000003.html)(2023年3月15日閲覧)
国土交通省(2022)「令和4年版 日本の水資源の現況」(https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000039.html)(2023年3月15日閲覧)
中山 恭子(2005)「ウズベキスタンの桜」
財務総合政策研究所(2005)「財務総合政策研究所 二十年史」
産経新聞(2022年12月23日)「麻生氏 中央アジア5外相と普遍的価値観の共有確認」

・英語文献
UNESCO(2016)「Intangible Heritage Palov culture and tradition」(https://ich.unesco.org/en/RL/palov-culture-and-tradition-01166)(2023年3月15日閲覧)
The Government portal of the Republic of Uzbekistan「State management bodies-MINISTRIES」(https://www.gov.uz/en/organizations/kind/admin)(2023年3月15日閲覧)
The Food and Agriculture Organization(2019)「AQUASTAT database」(https://tableau.apps.fao.org/views/ReviewDashboard-v1/country_dashboard?%3Aembed=y&%3AisGuestRedirectFromVizportal=y)(2023年3月15日閲覧)

プロフィール
財務総合政策研究所 国際交流課 企画調整係長 
金城 貴裕
2019年に財務省入省後、2022年7月から財務総合政策研究所の現職です。

財務総合政策研究所 国際交流課前研究員 
田中 祥司
2017年にリベラ株式会社へ入社し、総務部へ配属。2020年4月より、財務総研の研究員を務めています。2023年4月からリベラ株式会社に帰任しております。

財務総合政策研究所 総務研究部研究員 
大川 隼人
2015年に野村證券株式会社へ入社、鹿児島支店、成城支店での営業を経て、2022年10月より、財務総研の研究員を務めています。

財務総合政策研究所 国際交流課係員 
岩﨑 智亮
地方公務員を経て、2018年に東京税関に入関。2021年7月より、財務総研に勤務しています。


財務総合政策研究所は5月25日(木)(調査統計部は6月20日(火))に、財務省本庁舎から中央合同庁舎4号館2Fに移転いたします。
電話番号、住所に変更はありません。
財務省図書館は引き続きこれまでの場所にございます。

財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

図表1. 第1回合同セミナーの概要
図表2. 第2回合同セミナーの概要

*1) 本稿の執筆にあたっては、外務省欧州局 中央アジア・コーカサス室の三瓶 麗子氏及びウズベキスタンBFAのMs. Dinara Djumaeva氏からは貴重なご意見を頂いたことへの感謝をここに記します。なお、本稿の内容は全て執筆者の個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
*2) JICAのODA見える化サイト(https://www.jica.go.jp/oda/allsearch/index.html)での定義より。
*3) ODAは、贈与と政府貸付等に分けることができるほか、開発途上地域を直接支援する二国間援助や国際機関等に対して拠出する多国間援助もあります。財務総研国際交流課で行っている技術協力は二国間援助の贈与にあたるものです。ODAについては外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/)等をご参照ください。
*4) BFAの名誉職(無報酬)であり、財務総研の推薦に基づきBFAにより任命されます。原則として現地には駐在しません。
*5) 旧ソ連から1991年に独立し、市場経済化に取り組んでいるという共通点を有する中央アジア・コーカサス諸国を対象とすることにより参加国相互間の議論を通じた相乗効果が期待できるほか、今後の地域協力の基礎となる財政政策当局間のネットワーク形成に資すると考えられたことから改組が行われました。
*6) アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、ジョージア、タジキスタン、トルクメニスタン。
*7) 2023年1月の組織再編以前の名称はウズベキスタン財務省(Ministry of Finance)
*8) 2000年7月の機構改正以前の財務総研の名称
*9) プロフの文化・伝統については、2016年12月ユネスコの人類無形文化遺産に登録され、老若男女に受け継がれ調理されています。UNESCOの公表(抜粋)に、It is a dish that is cooked by men and women regardless of age or social status等と紹介されています。
*10) インドやスリランカなどで食べられるお米。日本のお米と比べて、やや赤ないし褐色であることから、赤米と呼ばれることもあるようです。