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コラム 経済トレンド107

日本におけるeスポーツの発展のために

大臣官房総合政策課 調査第一係係員 寺井  理子/林  風子


本稿では、近年国内外で存在感を増しつつある「eスポーツ」について考察を行う。
eスポーツとは
「eスポーツ(eSports・エレクトロニック・スポーツ)」とは、広義には電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指し、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えるものである。eスポーツのジャンルは7種類に分類される(図表1. eスポーツのジャンル)。
2022年には、日本で世界大会に繋がる次大会出場権をかけたトーナメント大会が開催され、入場者数は国内大会最多の2.6万人、観戦動画視聴者数は同時接続で50万人に達した。大会には8社のスポンサー企業が参加し、優勝チームは優勝賞金の100万円と世界大会に繋がる次大会への出場権を獲得した(図表2. 主要な国内eスポーツ大会)。
eスポーツは、こういった大会やゲーム会社、選手、選手の所属チーム、スポンサー企業、そしてファンを通じて市場を形成している(図表3. eスポーツを巡るお金の動き)。
また、2021年の日本のeスポーツ市場は78.4億円で、世界のeスポーツ市場1,188億円※に対して約6.3%程度と小さな規模にとどまっているが、2024年には日本及び全体の市場規模は約1.5倍膨れる見込みであり(図表4. 世界のeスポーツ市場規模)、経済効果の観点でも今後が期待される市場でもある。
(※)世界の市場規模は2021年の平均為替レート(110円)で換算。
(出所)日本経済新聞「図解でわかるeスポーツ(2019年11月24日)」、VALORANT 2022 CHAMPIONS TOUR HP、RAGE HP、日本eスポーツ連合HP、NewZoo「Global Market Report2021」
eスポーツがもたらす社会的意義
eスポーツの経済効果は、インターネット上やゲームシステム上にとどまらず、スポンサーによる宣伝やグッズ・チケット販売、さらにはデバイス販売、大会会場整備など、多岐にわたる(図表5. eスポーツの経済効果と社会的意義)。
さらに、eスポーツには、経済効果にとどまらない社会的意義がある。eスポーツには、年齢や性別・国籍・障がい等の壁を超えて、誰もが参加することができる。また、他のスポーツであればコストのかかる会場設備などが必要ないため、多くの人を、低いコストで集めることができる。このため、eスポーツを医療・福祉や地域活性化、教育・国際交流に活用する動きが全国に広がっている(図表6. 地域による取組み例)。
(出所)経済産業省、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「eスポーツによる地域活性化の現状」、NTTデータ経営研究所「eスポーツがもたらす可能性と社会的意義~コロナ禍を踏まえたダイバーシティ時代の新スポーツについて~」、熊本日日新聞、マタギスナイパーズHP、一般社団法人日本作業療法士協会HP、富山県HP、横須賀市HP、柳井グランドホテルHP
eスポーツ発展の課題(1)
経済効果と社会的意義を合わせ持つeスポーツだが、日本での今後の成長には「ファンの拡大」「ゲームタイトルの国内開発」「サポーター企業の更なる参入」という3つの課題を乗り越える必要がある。
1点目の「ファンの拡大」のためにはeスポーツの認知度の向上が必須であるが、eスポーツを知っている人の割合は、2023年2月時点で36.0%に留まり、認知度は高いとは言えない状況にある(図表7. eスポーツに関するアンケート調査)。さらに、今後のeスポーツへの接触意向がある人の割合は全体で21%で、男性10~30代の割合は高いものの(図表8. 今後のeスポーツへの接触意向)、観戦者・ファンの幅広い世代の増加には壁がある。企業による魅力ある大会の開催や、インフルエンサーによるeスポーツゲームのプレイ配信等により、eスポーツへの接触機会をこれまで以上に提供し、若年層のファンの拡大を図ることが重要である。また、子どもとのゲームプレイを通じ、40~50代の親世代がeスポーツに接触するといった効果も期待できる。
2点目の「ゲームタイトルの国内開発」について、日本では家庭用ゲームで世界を席巻してきたが、eスポーツ競技でプレイされるゲームタイトルの開発が遅れている。現在eスポーツ競技で主流であるゲームタイトルは、賞金の累計額で見ても、米国や中国のものが上位を占めている(図表9. 賞金総額ランキング(累計))。eスポーツ市場の世界的拡大が見込まれる中、日本企業には、国内外で広くプレイされるeスポーツ専用ゲームタイトルの開発が求められる。
(出所)「Gaming’s Live-Streaming Audience Will Hit One Billion Next Year & 1.4 Billion by 2025」、株式会社マイボイスコム「eスポーツに関するアンケート調査(第3回)」、Esports Earnings、ロイヤリティマーケティング「10代から60代に聞いたeスポーツに関する調査(2022年9月)」
eスポーツ発展の課題(2)
3点目の「サポーターの更なる参入」について、イベント開催やスポンサー協賛など、eスポーツの成長には企業による支えが重要(図表10. 日本のeスポーツ市場の内訳)であるが、日本ではファン層が薄いことから、企業の参画も限定的であった。
しかし、世界的なeスポーツ市場の拡大と認知度上昇を通じて企業にとっても魅力ある市場になりつつある(図表11. 世界のeスポーツファン)。例えば、eスポーツ選手やチームを通じてスポンサー企業の名前を知ったことがある人は9割以上、スポンサー企業の商品・サービスを購入したことがある人は6割以上で(図表12. eスポーツのスポンサー企業への効果)、企業側には、特にeスポーツの選手や観戦者の多い若年層への宣伝・広告効果を得られるメリットがある。さらに、近年世界のスポンサー契約件数は増加傾向にあり(図表13. スポンサー契約件数)、日本においても多様な業種からの参入がみられる(図表14. スポンサー企業の例)。今後、さらに参入数を増やすためには、これらのメリットを幅広い企業に認知してもらう必要がある。
eスポーツに参入する企業がファン増加のための取り組みを実施し、ファンの増加によって市場がさらに拡大することで参入する企業が増えるといった、ファンと企業の好循環によるeスポーツ市場の成長が、今後の日本において実現していくことを期待したい。
(出所)株式会社XENOZ「eスポーツのスポンサー効果に関する実態調査」、Nielsen「THE ESPORTS PLAYBOOK:ASIA」、Nielsen「ファンがゲームチェンジャーになる」、日本eスポーツ連合HP、日清食品ホールディングスHP、KDDIHP、角川アスキー総合研究所「日本eスポーツ白書2022」、NewZoo「Global Market Report2021」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。