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税関発足150周年事業「大学生フォーラム」を開催~国際物流と貿易の未来を考える~

関税局税関調査室


2023年3月7日、財務省関税局は、税関発足150周年事業である「大学生フォーラム」(共催:日本通関業連合会・東京通関業会、協力:日本貿易会)を東京税関(東京都江東区)において開催しました。
2022年11月28日、税関発足150周年を機に、あらためて、税関の役割や意義に係る認知度・理解度の向上を図るため、財務省関税局・税関は、様々な広報事業を実施してきました。
本フォーラムは、大学生を対象とした広報事業として、「日本経済を発展させ、日本国民の生活を豊かにする貿易とは何か~昨今の国際貿易、国際物流に関する環境変化を踏まえて~」をテーマとしました。
大学生フォーラムは、我々として初めて実施する事業であり、当初は手探りでしたが、関係団体との協働、関税局若手職員の参加、大学の協力、オンラインでの学生への説明会・相談会の開催など、1つ1つ積み重ね、全6校から16チーム(55名)の学生に参加をいただき、成功裏に終えることができました。

1. 開催まで
(1)企画の着想(2021年12月~)
税関発足150周年事業を担当する財務省関税局税関調査室は、全国各地で、様々な世代に向けた広報事業を企画し開催してきました。そのなかで、大学生向けの事業として、フォーラムを開催することを着想し、「参加型」「双方向性」を土台に、日本の未来を担う若者に税関の役割と意義について考えてもらうことをコンセプトとした「研究発表会」を開催することにしました。また、税関を取り巻く現下の課題について学生に考えてもらうことで、その発想が、我々財務省職員の気づきや刺激になるとも考え、「研究発表会」を柱にしつつ、より充実したものとするため、税関の業務を体感する「職場見学」と関税政策に従事する「職員との交流会」を実施することとしました。

(2)関係団体との共催・協力
税関発足150周年事業が多くの者の記憶に残り、意義あるものとなるには、広く外部と協力しながら一緒に取り組む事業としていくべき、という考えがありました。税関は、迅速通関や貿易円滑化などの推進に、通関業を始めとした企業や団体とともに取り組んでいます。こうした観点から、国際物流と貿易の未来を考える本フォーラムの開催を日本通関業連合会、東京通関業会へご案内したところ、共催していただけることとなりました。
両団体によるご尽力により、物流センターや通関業者の積極的な参画が得られ、海外からの貨物の到着から、通関手続き、税関検査及び輸入許可までの流れを網羅した、中身の濃い職場見学を企画することができました。
また、外国との間で貨物を輸出入する側として、国際貿易・物流の重要なプレイヤーである荷主の視点も加えたいと考え、日本貿易会にも、協力団体として本フォーラムに加わっていただくことになりました。

(3)関税局若手職員の参加
学生の関心にマッチした内容とするため、学生と近い世代である関税局の若手メンバーで構成される「かもめプロジェクトメンバー」(ファイナンス令和4年8月号参照)にも参加してもらい、「学生に対して関税局や税関のことをわかりやすく伝えるには、どうすれば良いのか」を考えながら事業を企画しました。
結果として、関税局若手職員が当日の運営にも加わり、学生からの反響を体感したことで、若手職員にとって、改めて自らが所属する組織の役割、意義を再確認する大変良い機会となりました。
写真: 「かもめプロジェクトメンバー」

(4)内容の決定(2022年8月~)
学生の関心を惹くとともに、学生自身にもメリットのある事業とするため、フォーラムの内容について大学教員から助言をいただくこととしました。
財務省税関研修所の客員講師である中央大学の長谷川聰哲名誉教授に相談したところ、「1日がかりでも充実したプログラムであれば学生は参加する」、「発表内容について審査し、表彰することで学生のモチベーションがあがる」、「実施時期は春休みである3月が適当」、「国際経済学を専攻する学生のゼミ活動として呼びかけることで参加者の確保が可能ではないか」などの助言とともに、「大変面白い企画。是非実現したい」との言葉を頂きました。
頂いた助言を踏まえ、開催時期・場所、職場見学先、フォーラムのテーマ、発表内容に対する賞の授与なども検討し、事業全体像を決定しました。

(5)募集活動(2022年10月~)
事業の全体像が固まったところで、参加者の募集活動に着手しました。
税関発足150周年事業の特設HPや税関公式SNSで発信するとともに、貿易や物流関連を専攻する大学の先生へアプローチし、参加学生を募集する活動も行いました。
募集活動の結果、愛知大学法学部、中央大学経済学部、津田塾大学総合政策学部、富山高等専門学校国際ビジネス学科、明治大学商学部、早稲田大学商学部から全16チーム(55名)が参加することになりました。
写真: 作成した募集チラシ

(6)フォーラムに関する説明会の開催
(2022年12月~)
フォーラムの内容や今後の予定などを説明するため、随時、オンライン説明会を開催しました。
また、学生が説明会に参加しやすいよう、12月に入ってからは「オープン・オンライン説明会」と称し、月・水・金曜日の午後5時に開始する定期的な説明会を設けることとしました。
職員と対話する機会を設け、また、気軽な雰囲気を作ることに努めたことが功を奏したか、参加する学生の心理的な垣根を取り除くことができたと感じました。
また、学生との会話において、税関の認知度、業務内容、役割について聞いてみたところ、認知が必ずしも高くないことを再認識し、税関について理解してもらえるフォーラムにしようと改めて決意しました。
写真: オンライン説明会の様子

(7)研究内容に関する相談会の開催
学生にとって税関は必ずしも身近な存在ではないため、税関の業務内容や意義・役割について理解を深めたいがよく分からず、研究テーマの設定について相談したいという学生の声を受け、オンラインの相談会についても、随時、開催することとしました。
学生からの質問は様々でした。
通関の流れや手続き、税関による経済安全保障の対策、模倣品に対する検査体制、越境電子商取引の現状、経済連携協定(EPA)による税額の決定方法、先端技術の導入事例、貿易統計の検索方法などの税関業務に関するものや、関税法の体系、輸出規制に関連する法律などの法令面に関するものもありました。
印象的なものとして、「税関職員の業務量増加を背景とした検査の効率化を提案したいが、こうした考えはどうか」、「全ての輸出貨物を検査することで不正輸出を阻止できるかもしれないが、その反面、円滑な物流を阻害してしまう。解決の糸口を見つけるため、このように考えたがどうか」といった質問では、思わず共に考える場面もありました。
相談会という空間で、関税政策を担う職員の生の声を聞く機会は、学生にとって「新しい気づき」となり、研究意欲が高まっていったように感じました。
また、フォーラムの準備を担当する税関調査室だけでは、高度で専門的な学生の質問に対応できない場面もあったため、関税局の各課室と連携しながら対応しました。
こういった学生と職員との直接のキャッチボールは、税関の取組み、社会的な意義、通関の実態を正しく理解してもらう上で効果が高く、学生との信頼関係が強くなっていくのも実感しました。
写真: 学生の要望によりプレゼンテーションの練習も実施


2. フォーラム当日(2023年3月7日)
(1)職場見学(午前)
東京税関に集合した学生は、玄関ロビーでチーム毎に色分けした名札を身に着け、フォーラム会場に集合し、オリエンテーションを受けた後、バスで職場見学会場である東京税関コンテナ検査センターと東京港青海コンテナふ頭内にあるワールド物流センターに向かいました。
東京税関コンテナ検査センターでは、大型X線検査装置と麻薬探知犬のデモンストレーションを見学してもらい、効果的・効率的な検査による密輸取締や迅速通関への取組みを紹介しました。
ワールド物流センターでは、コンテナふ頭の全景を屋上から望みながら、海上コンテナの流れや通関手続きについて説明し、物流の実態や通関士の役割について紹介しました。
税関や通関業の現場を初めて見た学生は、職員に対し積極的に質問するなど、関心の高さが窺えました。
職場見学に関する事後のアンケートでは、「税関が国の安全を守る重要な役割を担っていると実感した」、「貿易円滑化の必要性を実感できていなかったが、今回体感して理解することができた」、「通関業は日本の貿易発展に欠かせない存在であることがわかった」、「民間の企業と税関が連携していることを知らなかったので、今回、両方の話を聞けて大変勉強になった」などが寄せられました。

(2)研究発表会(午後)
研究発表会を開始するにあたり、諏訪園関税局長から、共催団体を代表して、「大学生フォーラムは学生の皆さんとともに国際物流と貿易の未来を考える場として企画。学校の垣根を越えて学生同士の交流を深めていただき、皆さんにとって有意義で思い出に残るフォーラムにしてほしい」との挨拶がありました。
続いて、審査員長の長谷川名誉教授のほか、岡藤日本通関業連合会会長を始めとする審査員に挨拶を頂きました。
研究発表の時間は10分間。各チームは、予め用意したプレゼンテーション資料をスクリーンに投影し、工夫を凝らした発表を行いました。
各チームの発表テーマは実に多彩でした。
貿易活性化への改善策、自由貿易協定を締結すべき国について提案するチームや、効率的な水際取締り、税関検査への先端技術の導入について発表するチームもありました。
時節柄、経済安全保障の問題は注目度が高いテーマであり、不正輸出の防止策、国際的な連携による物資の安定供給についての発表がありました。日本の優れた技術が外国で軍事転用されないよう規制を厳しくし、世界全体となって対策できるよう日本が不正輸出対策における先駆者になるべきと強調するチームもありました。
審査員長や審査員からの質問には、臆することなく回答し、テーマに込めた思いや、研究結果に対する自信が感じられ、レベルが高いものとなりました。

写真: 諏訪園関税局長による挨拶
写真: 岡藤日本通関業連合会会長による挨拶
写真: 学生による研究発表
写真: 審査員長及び審査員による質問 長谷川中央大学名誉教授
写真: 岡藤日本通関業連合会会長
写真: 河西関税局総務課長
写真: 関本東京通関業会通関士部会委員長
写真: 小河原双日株式会社法務部貿易管理担当部長(日本貿易会)

(3)職員との交流会
学生による発表終了後、プログラムは学生と関税局若手職員との交流会へと移りました。
学生からの事前のアンケートに基づき、関税局の業務内容、仕事のやりがい、学生から社会人になってからの変化、国家公務員の生活など、学生に関心がある事柄を中心に意見交換を行いました。

(4)結果発表
職員との交流会で雰囲気が温まった会場は結果発表に入ると一瞬にして緊張ムードになりましたが、税関のイメージキャラクター「カスタム君」が会場に登場し、ステージの低い段差を登るのも一苦労な愛くるしい姿が場を和ませました。
審査の結果、最優秀賞に輝いたのは「国際物流効率化を促進する新たな取り組みの可能性」をテーマに発表した明治大学商学部のチーム。続いて、「文化的財の輸出と訪日外国人数の関係-クールジャパン戦略の有効性-」をテーマにした中央大学経済学部のチーム、「貿易プラットフォームと貿易円滑化」をテーマにした中央大学経済学部のチーム、「半導体産業と経済安全保障」をテーマにした津田塾大学総合政策学部のチームが優秀賞に輝きました。
特別賞は、「伏木富山港を利用した貿易活性化」をテーマに、地元愛に溢れる発表を行った富山高等専門学校国際ビジネス学科のチームとなりました。
各チームへ賞を授与した後、審査員長である長谷川名誉教授から「皆さんが一所懸命に準備され、現在の日本が抱えている課題を皆さんなりに取り上げ、それをうまく料理されました。発表内容にとても感心し、楽しませてもらいました」との講評を頂き、大学生フォーラムは幕を閉じました。
写真: 講評を述べる長谷川名誉教授


3. 入賞チームの発表内容
最優秀賞
明治大学商学部(チーム名「一兵団」)
真贋判定が難しいいわゆる「スーパーコピー」と呼ばれている知的財産侵害物品がネット販売などで流通している問題をテーマに発表。ブランド品の製造元でICタグを装着し、通関時に税関がリーダーで商品情報を読み取ることで効率的に通関が行える仕組みを紹介。
箱を開けずに内容物を確認でき、物流業界でも在庫管理が容易になり、サプライチェーン全体の効率化に繋がることから、日本主導でスタンダードを作り上げ、世界に展開することを提案。

優秀賞
中央大学経済学部(チーム名「阿部ゼミ3」)
文化的財の輸出により訪日外国人数が増加した国を導き出し、輸出の有効性が相手国によって異なることを報告。文化的財の輸出は、国を絞ってアプローチすることが有効であるとの結論付け。
中央大学経済学部(チーム名「雪組」)
世界における貿易プラットフォームの現状を調査。
貿易業務の電子化を図り、日本発のプラットフォームの国際的地位を上昇させ、日本が主体となって官民が連携しながら貿易円滑化に取り組むことを提唱。
津田塾大学総合政策学部
(チーム名「半導体貿易と経済安全保障」)
「日本の半導体が世界のサプライチェーンの中で価値を発揮するためにはどのような国家戦略が必要なのか」を課題として挙げ、日本の高い技術力を使った次世代パワー半導体の生産力を高める改善策を提案。

特別賞
富山高等専門学校国際ビジネス学科
(チーム名「ますのすし」)
貿易により富山県を活性化させる改善策を報告。環日本海の中央部に位置し、中国、韓国、ロシアとの海上輸送上の距離が短い伏木富山港の優位性について報告し、東南アジアやシベリア鉄道を利用した欧州向けの貨物輸送の拡大を提案。


4. 最優秀賞を受賞した明治大学商学部のチーム「一兵団」へのインタビュー
受賞の感想をお聞かせください。
驚きとともに大きな喜びを感じています。
最後までやり遂げられたのは、数ヶ月間、一緒に頑張ってくれたチームのメンバーや指導しながら育てて頂いた先生のおかげです。税関発足150周年を記念したフォーラムという貴重な機会に参加させていただけたことを有難く思っていますが、賞までいただくことができて一生の思い出になりました。
本当にありがとうございます。
研究や発表で難しかったことは何ですか。
研究を進める中で、「アイデアベースの意見」ではなく、「収益性のある意見」を追求していくことに難しさを感じました。費用対効果などを分析した上でアイデアを提案しなければならず、初めての経験で苦労しました。
また、税関のみならず、メーカーや消費者の協力ありきでの施策だったので、そこに納得感を持たせる内容にし、更にそれを10分間で会場にいる多くの人に伝えるところが難しかったです。スライドの構成、画像や動画を用いるなどの工夫をしましたが、自身の頭の中では分かっていても、それを相手に伝える難しさを体感することができました。
フォーラムに参加した感想もお聞かせください。
物流センター、検査センターの見学や他大学のチームによる様々な角度からの研究発表を聞いて、今後の自身の糧となる多くのことを学びました。税関で働いている方々のお話しなどを通じ、税関業務の社会的意義について深く学ぶことが出来て、非常に有意義な時間となりました。また、今まであまり意識したことがなかった「通関」に関してフォーカスして考えるのが楽しく、ただ税を徴収するだけではない奥の深い世界だと感じました。食料のほとんどを輸入に頼っている日本において、関税局や通関の現場で働かれている皆様はまさしく「縁の下の力持ち」だなと痛感しました。
最後に一言お願いします。
研究テーマを決める段階から発表当日までの数ヶ月間は非常に濃く充実しており、一生忘れない思い出になりました。このメンバーと一緒に取り組んできたことを嬉しく思っており、心から感謝しています。
このような素敵な機会を設けてくださった関税局や関係者の皆様、審査員の方々、見学先で説明いただいた方々に深く御礼申し上げます。


5. おわりに
フォーラム終了後のアンケートでは、「税関が重要な役割を果たしていることを理解した」、「今後、税関の取締りのニュースが流れた時の印象が変わるだろう」、「税関が民間企業と連携していることが印象的だった」などの感想が寄せられ、事業の目的である税関の役割・意義についての理解を深めることができました。
参加学生からは「職員の皆さんが明るく、雰囲気が良かった」、「質問に真摯に答えてくださり、このような方々と職場で働けたら素敵だと感じた」、「フォーラムが続いてゆけば国と学生との良い交わりの場になる」などの感想がありました。ゼミ生を引率した大学の先生からは、「税関の仕組みを含め、学生なりに意見やアイデアを出す場として重要である」などの次回開催を望む声もあり、企画した当初の予想を上回る反響がありました。
財務省関税局として初めて実施する事業でしたが、着想から開催までのプロセスにおいて得た経験は大きく、今後の関税・税関行政の企画立案に活かしていきたいと考えています。
税関発足150周年記念事業として開催した大学生フォーラムは、共催・協力団体だけではなく、審査員、学生、学校関係者の皆さんの協力なくしては実現できず、全員で作り上げ、職員と関係者の皆さんの記憶に残るフォーラムとなりました。
本誌をお借りし、フォーラムの開催に尽力いただいた関係者や参加いただいた皆さんに深く感謝申し上げます。