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特集 Future TALK ○○さんと日本の未来とイマを考える

石田 健さん(The HEADLINE編集長)編


はじめに

原田広報室長 皆さんどうぞよろしくお願いします。本企画では、財政や税の役割とその現状等について、読者のみなさまにわかりやすく伝えられるよう、様々な分野の方をお招きして、財務省の所管する行政に触れながら、未来やイマについてトークをしてもらいます。
第二回として、「複雑なニュースを、一歩深く理解する」ウェブメディア、The HEADLINE編集長の石田健さんをお招きして、財務省の主計局・小川補佐、主税局・櫻井補佐と対談をしてもらいます。
石田さんは、テレビのコメンテーターとしても、社会問題等をわかりやすく解説されておりますが、本日はそうした立場からも情報を伝える目線を伝授いただければと思います。
それでは、石田さん、よろしくお願いいたします。

石田健さん よろしくお願いいたします。税金として集められ、公共サービスとして還元される財政や税の話は、本当は身近だけれど市民にとって遠い話になってしまっています。それらについて、メディアの立場や、テレビでコメンテーターをしている立場、そしてお二人と近い世代の者として、一緒に考えることができればと思っています。

写真1 左から二人目が石田健さん


予算編成・税制改正とは

石田健さん 自分の認識で言えば、世間からみた「財務省」のイメージは、かつては、「エリート」というイメージと2000年代前後くらいから出てきた「財務省が悪いんじゃないか」という批判的なイメージが混在していました。ですが、2010年代の政治主導の流れの中で、財務省も含めて省庁の存在感が薄れていっているように感じています。
こうした中で、予算編成や税制改正といった国家のグランドデザインの内容やその議論について、一般の方々まで届いておらず、議論も行われていないと考えています。
まずこの点について、政府の中にいるお二人はどのように思われているのでしょうか。

櫻井補佐 主税局の櫻井です。小川と私は主計局・主税局のバックオフィス部門として、予算や税に関して局内横断的に全体的な調整を行っています。
予算や税は、様々なプロセスを経て国会で決定いただくものですが、その前提となる情報や中身が伝わっていない点については、私たちも考えていく必要があると思っています。
一方で、財政については、オープンな場で積極的に議論していくこと自体が難しい空気もあり、非常に悩ましく思っています。というのも、財政状況がここまで悪化している中で、健全化していくために取り得る選択肢は、基本的には「支出を減らすか、収入を増やすか」しかないのですが、いずれも誰かしらに不都合が生じるものだからです。

小川補佐 主計局の小川です。こうした空気感については、財政状況だけでなく、日本が成長できていないことが大きな要因だと思っています。成長過程においては、増えた富をどこに投下するかという前向きな議論になりますが、成長していない時には、まずどこを削るかという議論になりがちであるためです。
こうした空気を変えていくために、成長に向けて、どこにお金を出していくかという議論も重要だと考えています。

石田健さん もちろん省庁から「こうすべき」という主張が出ることはないと思いますが、議論を喚起するために、選択肢を提示するというのは、ひとつ大きな役割ではないかと認識しています。
また、成長に向けた議論については、日本でも始まっていると思いますが、財務省はそうした議論の中でどういった役割を果たしているのでしょうか。そして、こうした議論について、どのように国民に発信しているのでしょうか。

小川補佐 まず成長に向けた戦略についてですが、これは政権の重要課題でもあり、大筋の方針は官邸や内閣官房が取りまとめをしつつ、それぞれの施策については、所管する省庁が中心に議論しており、そこに財務省が加わり、二人三脚で進めています。
具体的には、ファイナンスの目線で、その政策の費用対効果等の観点から中身の議論について参画していくとともに、マーケットを含めた経済状況も見ながら財政の全体像をまとめていく立場にあります。そういう意味では、企業の財務部門と同じ役割と言えるかと思います。
次に情報発信の部分については、個別の施策そのものの広報は担当省庁が取り組んでいます。財務省に求められるのは、その政策の実施可否をみなさんに判断してもらうため、国のお財布事情だったり、負担の在り方だったりをしっかりと説明していくことだと思っています。
「国がやります」といったときに、「第三者的な存在である国」がやってくれるのだと誤解されることがありますが、「国」とは国民のみなさんの集合体であり、財政もみなさんのお財布の集合体なんです。国と家庭は同一視できないので適切な例ではないかもしれないですが、例えば家庭の例で考えてみましょう。お父さんがローンを組んで車を買って来たときに、お父さんの収入が減ってきて、食費を切り詰める必要が出てきたり、息子さんも返済のお手伝いをしないといけなくなるかもしれない。お父さんが車を買ってくれるから嬉しいなと思っていたら、話が変わってくるかもしれない。ローンを組むこと自体は悪いことではありませんが、車を買うと決めた際にそういった先のことまで含めて家族会議をしておくことが大事だと思います。
「お財布の状況はこうなっています」「このように負担して頂いています」というのを説明していくのが財務省の責務だと思います。

石田健さん 成長していればいいけれど、成長していなければ野放図に政策・投資はできないよね、という当たり前の議論については、誰もやりたくないものだと思います。国家公務員は政治家とは別の立場でエビデンスに基づいた意見や議論の喚起ができるのではないでしょうか。

櫻井補佐 当然、社会のために言わなければならないことは言っていく必要があるという意識はありますが、社会的に合意しづらい話をどのように議論していくかは悩ましい問題と感じています。

小川補佐 経済政策の成果を測定するのが難しい、あるいはデータを得るのに時間が掛かるため、リアルタイムで分析することが困難であるのも論点だと思っています。その結果、わかりやすいものとして予算の規模が取り上げられることがありますが、なにがいい政策なのか事後的に検証することが課題だと思います。

石田健さん そうした状況について非常に理解できる部分が多いですし、メディアの立場としても、足下抱える課題などを考えると、それに立ち向かう財務省の業務の困難さや大変さは推測でき、理解できます。
一方で、国民全体の目線で見たときに、財務省の仕事の重要性ややりがい、あるいは難しさなどについて、どういった点をお話しすると理解してもらえるとお二人はお考えですか。

櫻井補佐 税の仕事でいうと、例えば、重要政策を実施するために新たな財源が必要な場合、どのようにすれば、国民の一定の納得感も得ながら所定の金額を確保できるのか、という非常に複雑かつ多量の連立方程式を解いていくことになります。こうした方程式を解いていくこと、そしてその解のメリット・デメリットを整理して提示することが自分たちの重要な役割であり、やりがいがあることだと思っています。
しかし、財政は上手くいって当たり前で、正直、国民の皆さんに、日常生活の中で滅多に出てこない「財政」を扱う財務省の仕事についてイメージしてもらうことは難しいと思っています。
普段の皆さんの生活の中で紐づけられる財務省の見せ方はないのでしょうか。石田さんはどう思われますか。

石田健さん 連立方程式のお話は、繰り返しになりますが事情を知るメディアなどからすると非常に面白いですし、大変なのだろうなと理解できます。
財務省の見せ方という質問にお答えできているかわかりませんが、国民も「成長していないのでお金が足りない」ということは理解、また不安も感じているのに、そこに対して誰も方針・メッセージを出してくれていない状況なのだと推察しています。そのため、まず国民が知りたいのは、今の財政状況を踏まえたとき、財政について「中の人」が正直どう考えているのかだと思います。

写真2 石田 健さん(The HEADLINE編集長)
写真3 主税局調査課課長補佐 櫻井 とおる


国民の知りたいことについて

石田健さん 例えば、ロシアによるウクライナへの侵攻が起こった際、イギリス国防省は、SNSでウクライナ侵攻にかかる毎日のサマリーを公開し、メディア界隈でも非常に話題になっていました。
こうした反応をみるに、議論や政策決定の過程に関する情報が少しでも出てくることで安心感を生むなどの効果があると思います。
例えば防衛費で言うと、増税で賄うこととされた1兆円がどのように決まったのかという過程のブラックボックスとされている部分について、少しでもロジカルに説明があると納得感や透明性が実感できるのだと思います。
予算編成、税制改正のプロセスの話に戻れば、夏に要求・要望があり、間の議論は表に出ず、年末に予算案、税制改正大綱という形で、「今年のグランドデザインはこれです!」と成果物がでます。
こうした過程の議論こそ国民が知りたいところで、そこのアカウンタビリティは政府に持ってほしいと個人的には思います。
当然、概算要求と予算案を比較すれば差異はわかりますが、その理由に推測が生まれてしまうので、それを避けるためにも、「ここが減ったのはこのような理由です」という説明があるといいのではないでしょうか。

小川補佐 日本政府も例えば、行政事業レビューなど量でいえばかなりの情報を出していると思いますが、求められている見え方やフォーマットに合っていないのだと認識しました。

石田健さん これは個人的な問題意識として伺いたいのですが、例えば「年金未納」みたいな強烈なメッセージを出して社会的なインパクトを与えてでも、社会を動かし、変化させていく必要があると思いますか。

櫻井補佐 個人的には、たとえ社会的な摩擦を伴うような強烈な内容であったとしても発信して、社会全体で議論していくべきだと思います。

石田健さん 私もこうした強烈なファクトやメッセージは定期的に出してほしいと思っています。予算編成や税制改正について言えば、その時点で過程がブラックボックスであることは当然理解できます。ただ、数年後でいいので、こういった政策メニューでこのような議論がなされたと公表しておいてもらえれば、メディアも検証ができます。
これはメディアの問題であるとも考えていますが、政策の決定過程がブラックボックスであることも、良いか悪いかの二択の規範的な議論や評価しかできない原因になっていると思っています。これが公開されれば、様々な問題について社会的な議論が進むと思っています。

小川補佐 おっしゃる通り、物事を決めるその瞬間では出せないものもあるのは事実である一方、事後で公開して検証可能性を保つことは大切ですし、可能だと思います。事後の政策決定プロセスの公開の例を挙げると、今も日本銀行の金融政策決定会合などで10年後に議事録が公開されています。

写真4 主計局調査課課長補佐 小川 鉄平


財務省の広報について

石田健さん 組織の広報の在り方と透明性については表裏一体であると考えています。
世間では「テレビが面白くなくなった」という議論がされて、答えは「ネットが出てきたから」と言われていますが自分は違う考えを持っています。
具体的には、「ネットでやるような議論がテレビではできなくなったから」ということに尽き、生身の語りと生身のコンテンツに勝るものはなく、そうしたコンテンツが、テレビで生まれづらい要因が大きいのではないでしょうか。そのため、広報のために作るコンテンツも、外向きに作られた情報だけでなく、少しでも生身の情報を盛り込むということを意識すると良いかもしれません。

小川補佐 自分の経験でいえば、新しいお札の顔(図柄)を選ぶ政策決定過程は非常に面白い話が多く、当然、偽造防止の観点などから公開できない部分はありますが、オープンに話せることもあるのにお伝えする機会が思いのほかありません。そういった課題はあると思います。

石田健さん 出せない部分について、今のお札の話は「偽造防止の観点」という理由がありわかりやすいですね。また、安全保障など外交関係の理由なども、直ちに公開できない理由としてよくわかる話です。
こうした出せない理由についても、しっかりと公表していくことで、「何かやましいことをしているから出せないわけではない」ということを認識してもらうことも重要ではないでしょうか。
私が編集長を務めているThe HEADLINEでもセンシティブな情報を扱った記事を公開することもあるのですが、こうしたときには「出す理由」を多角的な観点から丁寧に説明し、記事としました。こうした説明は好評で、出した理由について納得をいただけたと思います。
そのため、説明責任をしっかりと果たしたうえで様々な情報を出していくことが一番強い広報だと考えており、こうしたコミュニケーションが政府にもあると一国民としてはエキサイティングだし、納得感にもつながると思います。例えば、財政の例ですと、単に「財政が悪化しています」という資料だけではなく「なぜ財政が悪化し、それに対してどのように対応してきたのか」という歴史的な検証資料を出して貰えると非常にインパクトがあると思います。

原田広報室長 最後に、財務省がわかりやすい発信をしていくために必要なことについて、アドバイスをいただければと思います。

石田健さん まとめ的な話になりますが、広報を行っていく際には、わかりやすいコンテンツや手段にこだわることなく、多少複雑でも、中の人の声や問題意識から抽出されたものを、ブラックボックスから少しでも出していけると関心を呼ぶと思います。
そして、その関心を持ってもらった人やメディアから周囲に広がり、国民の安心感につながるなど広報的な意味でインパクトもあると思います。

原田広報室長 個別的な話として、広報を考える際、どこまでわかりやすくすれば伝わるのかという情報の粒度と、正確性や伝える情報量などのトレードオフに悩む時があります。
また、その情報がどの程度伝わって、どのような効果を生み出しているのかというインパクトの部分が測れない部分にも悩ましさを感じています。

石田健さん 必ずしも広く国民に伝えるという部分やわかりやすさという部分にこだわる必要はなく、影響力がある人に影響を与えるということも重要だと思います。国民に広く遍く伝えることが大事な場面もありますが、そうするとどうしてもメッセージが平たく抽象的な話になってしまいます。例えば、財務省のカウンターパートである金融機関や投資家といった、専門知識がある方々が関心を持つコンテンツを公開できれば、そうした人たちから波及していくという情報拡散が期待できるのではないでしょうか。
広報戦略を考えるうえでも、そうした波及効果を想定した発信を考えていくことが重要ですし、むしろこうしたコンテンツの方が財務省の強みを出せるのではないかと思います。


おわりに

原田広報室長 本日はお集まりいただきありがとうございました。国民の目線で見た予算編成や税制改正の見え方や、未来に向けた事後検証ができる体制の構築など広報を起点に様々なお話が聞けました。また次回、違った切り口で財務省に関するお話を聞ければと思います。

写真5 右側が石田健さん