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我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム-金融危機対応措置(預金保険法102条スキーム)について-


東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1


1.はじめに
我が国では戦後、銀行を破綻させないことを目的に、いわゆる護送船団方式が敷かれていましたが、1990年代に不良債権問題が深刻化する中で多くの金融機関が破綻しました。当時の政府は時限立法を設けることでこれに対処しましたが、この経験を踏まえ、2000年に預金保険法が改正され、現在の破綻処理制度(預金保険法102条スキーム)が確立しました。筆者が記載した「金融機関の破綻処理制度及び預金保険入門」(服部, 2023b)では預金保険の機能について説明した後、金融機関の破綻処理について議論を始めましたが、紙面の関係上、「預金等定額保護」に焦点を当てました。本稿では、1990年代の不良債権問題を経て確立された預金保険法102条、およびそれが実際に適用された事例を取り上げます。
本稿の特徴は、特に破綻処理や公的資金注入に絞り、預金保険法102条が適用されたりそな銀行の事例を詳細に取り上げる点です。服部(2023b)では日本振興銀行の事例を紹介しましたが、破綻処理のイメージを掴むためには実態の破綻処理の事例を学ぶ必要があると考えます。もっとも筆者の知る限り、どのように公的資金が注入されたかや、その返済計画などの経緯について整理した文献は少ないといえます。そこで本稿では、破綻処理にかかる経緯をできるだけ具体的に取り上げます。
なお、本稿では筆者が記載した服部(2023b)を前提に議論を進めるため、必要に応じて同論文をご参照ください。基礎的な知識の確認が必要な読者は「バーゼル規制入門」(服部, 2022)など筆者が執筆してきた一連の文献をご一読ください。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。


2.預金保険法102条スキーム
2.1 日本の破綻処理制度における「金融危機対応措置」
服部(2023b)で強調したとおり、日本の破綻処理制度は3つの枠組みに分かれています。具体的には、(1)「預金等定額保護」、(2)「金融危機対応措置」、(3)「秩序ある処理」です(この関係は下記の図表1. 預金保険法に基づく金融機関等の破綻処理制度の概要に示されています)。歴史的には、我が国では、1960年代に預金保険制度が生まれ、1980年中頃、資金援助方式が導入されることで、(1)「預金等定額保護」が確立しました(その詳細は服部(2023b)に譲ります)。その後、1990年代に不良債権問題が深刻化し、それに対処するため暫定的に生まれた法律が恒久化する形で、2000年に(2)「金融危機対応措置」が確立します。そして、2008年の金融危機を経て、「大きすぎて潰せない(Too big to fail, TBTF)」問題を防ぐための議論が進みます。TBTFの問題についてはすでに服部(2023a)で取り上げましたが、我が国では預金保険法の改正により、(3)「秩序ある処理」の制度が成立しました。

2.2 預金保険法102条スキームの概要
冒頭で記載したとおり、そもそも我が国では、戦後、金融機関が破綻しない(破綻させない)ことを前提としていたため、1990年代まで破綻処理制度が確立していませんでした。そのような中、1980年代のバブル崩壊とともに銀行が不良債権を抱えることとなり、1990年代に多くの金融機関が破綻しました。特に、1997年に山一証券や拓殖銀行などの大手金融機関が破綻するなどの金融危機がありました。それを受けて1998年に「金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律」(以下「旧安定化法」)、と「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」(以下「早期健全化法」)が成立し、暫定的な資金注入スキームが生まれました。預金保険機構は、これらの改革の中で、破綻金融機関の金融整理管財人や承継銀行(ブリッジバンク)の設立、資本増強など、新たなツールを有することになりました(金融整理管財人や承継銀行については服部(2023b)を参照してください)。
もっとも、当時の法整備は時限的なものであり、恒久化されることとなったのは2000年の預金保険法の改正(預金保険法102条)後です(以下では「預金保険法102条スキーム」と記載します)。中曽(2022)が指摘するとおり、預金保険法102条スキームは、1990年代に発動されてきた金融危機対策をベースとして作られています*3。その意味で、時限立法の成立を含む経緯についての理解も重要といえますが、この経緯については既に膨大に文献があるため、本稿では紙面の関係上、他の文献に譲ります(池尾(2009)、柳澤(2021)や中曽(2022)などをご参照いただければ幸いです)。
預金保険法102条によるスキームは、具体的には、第一号措置から第三号措置に分かれ、その概要は下記の通りです。
第一号措置:資本増強(過小資本時)
第二号措置:資金援助(破綻または債務超過時)
第三号措置:一時国有化(破綻かつ債務超過時)
図表2. 預金保険法102条における金融危機対応措置のイメージ*6はこのスキームを説明する際によく用いられる図ですが、第一号措置から第三号措置のどれが発動されるかで、政府が活用できるツールも変わってきます。重要な特徴は、第一号措置が発動されるツールは、いわゆる公的資金注入を意味する「資本増強」*4のみという点です。その一方、第二号措置の場合、預金保険機構によって、保険金支払いコストを超える資金援助を行い、これにより預金等の全額保護が可能になる措置です*5。さらに、第三号措置の場合、実質国有化というツールを用いることができます。直感的には、十分な資金援助により預金の保護をする第二号措置に対し(通常の破綻処理は日本振興銀行のようにペイオフ*7を発動する点に注意)、第三号措置は、国または地域の信用秩序に配慮するため、一時国有化しつつ経営を継続するという手段になります*8。とはいえ、これだけだと抽象的ですので、後ほど、りそな銀行の事例を取り上げながらその仕組みについて説明します(足利銀行については紙面の関係上、次回の論文で取り上げます)。
図表2にあるとおり、第一号措置から第三号措置のどれが使われるかは、当該銀行の資本がどれくらいであるかに依存します。具体的には、債務超過でない場合(過小資本の場合)、第一号措置がとられる一方、債務超過と判断されれば、第二号措置あるいは第三号措置が適用されます。五味(2015)では、どれを適用するかについて政策的な判断が入り込む余地はなく、債務超過であるかどうかに完全に依存している、としています*9。

2.3 システミック・リスクの認定について
図表2をご覧いただきたいのですが、公的資金注入を含む「金融危機対応措置」が発動されるのは、システミック・リスクのおそれがある場合に限られる点です。システミック・リスクを認定する際に必要な条件は、「措置が講ぜられなければ、国または地域の信用秩序維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められるとき」とされています。見方を変えれば、金融機関が債務超過あるいは債務超過に近い場合、システミック・リスクがなければ、救済措置は取られることはなく破綻処理がなされます。
その意味で公的資金注入を含む「金融危機対応措置」が発動されるかどうかの判定が大切になりますが、現在の仕組みは、金融危機対応会議でその意思決定がなされます。具体的には、内閣総理大臣が同会議の議長を務め、官房長官や金融担当大臣、財務大臣、日銀総裁、金融庁長官などが参加することで、システミック・リスクがあるかどうかの認定を行います。そのうえで、仮に、ある預金取扱機関が破綻し、国または地域の信用秩序などへのシステミック・リスクの恐れがあると認定された場合、預金保険法102条スキームが発動されます。その一方、もしシステミック・リスクの可能性がないと判断されれば、すでに説明した(1)「預金等定額保護」のプロセスにすすみます*10。服部(2023b)では、日本振興銀行についてシステミック・リスクの認定がなされず、ペイオフが発動された事例を詳細に取り上げました。
仮にシステミック・リスクの認定がなされたとしましょう。図表2の上にあるように、過小資本(資産超過)である場合、第一号措置が取られ、公的資金の注入により資本増強がなされます。一方、債務超過になっている場合、第二号措置あるいは第三号措置になりますが、この場合、まずは第二号措置による破綻処理及び資金援助が検討されます。しかし、国または地域の信用秩序に配慮する必要があると判断される場合、第三号措置という一時国有化の手段が取られます。すなわち、資本の状況やシステミック・リスクの重要度合いによって、「第一号措置」→「第二号措置」→「第三号措置」という順番で検討がすすみます。これまで102条スキームが用いられた事例は、第一号措置のりそな銀行と第三号措置の足利銀行のみです。
気を付けていただきたい点は、ここでのシステミック・リスクは「システム上重要な銀行」を定義するうえで用いられるシステミック・リスクとは定義が異なる点です。服部(2023a)では「システム上重要な銀行」について詳細に説明しましたが、バーゼル規制における「システム上重要な銀行」は、あくまで国際統一基準行を対象としており、我が国における対象行は限定的です。102条スキームにおける「国または地域の信用秩序維持に極めて重大な支障の恐れ」をもたらす銀行は国際統一基準行だけでなく、国内基準行ももちろん含むため、対象となる金融機関がより多い点に注意してください(国際統一基準行および国内基準行の概念は、筆者が記載した「バーゼル規制入門」(服部, 2022)を参照してください)。
なお、我が国では上述のように公的資金を注入する仕組みが残されていますが、例えば米国では、ドット・フラック法以降、公的資金注入のハードルが高くなっています。詳細はアーマー等(2020)を参照してください*11。

2.4 一般勘定と危機対応勘定*12
預金保険機構における公的資金注入のスキームを確認します。そもそも預金保険機構には様々な勘定があり、区分経理がなされています(預金保険機構の貸借対照表等をみると、それぞれの勘定ごとに計上されていることがわかります)。例えば、通常の預金保険は、「一般勘定」と呼ばれる勘定で取引がなされています。一般勘定では、主に銀行から受け取る預金保険料が原資であり、ペイオフの際はこの勘定から支出されます。例えば、日本振興銀行への資金援助は、一般勘定から支出がなされています*13。
預金保険機構において勘定が複数存在することが、預金保険機構の財務の理解を難しくしているわけですが(事実、預金保険機構(2007)もそのように指摘しています*14)、区分経理がされている理由は、各勘定を分けて経理することが法律により義務付けられているためです。したがって、各勘定を理解するには、その勘定を設立した背景を知る必要があるということになります。
現在、預金保険機構には10の勘定があります。それぞれの詳細は預金保険機構のディスクロージャー誌等に譲りますが、預金保険法102条という観点からみた際、特に重要な勘定は「危機対応勘定」です。危機対応勘定は、預金保険法が改正され102条スキームが設立したタイミングで生まれました*15。図表3. 一般勘定と危機対応勘定の関係にあるとおり、第一号措置(資本増強)についてはその措置に要する資金の全て、第二号措置(預金等全額保護)及び第三号措置(一時国有化)についてはペイオフを超える資金を経理する勘定であり、りそな銀行への公的資金注入ではこの勘定が用いられました(一方、足利銀行については処理に要した資金がペイオフコストにおさまったため、一般勘定のみが用いられました。この点は今後の論文で説明します)。危機対応勘定では、主に事後的に預金取扱機関に納付が求められており、負担金と呼ばれています。もっとも、仮に負担金のみに依存すると、「金融機関の財務の状況を著しく悪化させ、我が国の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められる場合に限り」*16、預金保険機構は負担金の範囲を超えて政府から補助を受けることが可能です。

2.5 公的資金注入の意味合い*17
第一号措置による資本増強について公的資金注入という表現がしばしば用いられます。もっとも、この表現をみると、政府が銀行に税金を注入しているような印象をもつ読者もいるかもしれませんが、そうではない点に注意が必要です。詳細は次節で議論しますが、第一号措置による資本増強とは、預金保険機構が政府保証を受けて資金調達したうえで、優先株式等を購入することを意味しており、しばしばメディアなどで表現される「公的資金注入」はこの行為を意味しています。また、必要となる資金については、102条スキームを経理する勘定である危機対応勘定の残高および借入金で賄います。前述のとおり、万一損失が生じた場合には、事後的に金融業界から徴求することが原則とされている点にも留意してください。
また、預金保険機構を通じて購入された優先株式等は(注入がなされた)当該銀行によって買い直されること等を通じて、将来返済されることが想定されています。この流れについては具体的な事例を用いて議論したほうがイメージしやすいと考えるため、次節でりそな銀行の事例を用いて確認します。なお、服部(2023b)ではアーマー等(2020)を参照しながら、ベイルアウトについて3つの定義を紹介しているため、ベイルアウトの定義に関心がある読者は服部(2023b)を参照してください。


3.預金保険法102条第一号措置の事例:りそな銀行
3.1 りそな銀行のスキーム
ここからりそな銀行を事例として取り上げることで、預金保険法102条スキームにおける第一号措置の理解を深めます。1990年代は、不良債権問題により、多くの邦銀が破綻の危機にさらされる中で、2003年に繰延税金資産が認められないことなどを理由に、りそな銀行の自己資本比率が国内基準行の健全性基準である4%を下回ることとなりました。これを受けて、りそな銀行に対して預金保険法102条第一号措置が発動されました。五味(2012)によれば、この時、日本振興銀行のようなペイオフではなく、102条スキームが採用された理由として、「銀行の規模が非常に大きく、関西地域を中心に中小企業向け融資の額が大きいことが、公的資金による資本増強の決め手となった」(p.107)と指摘しています。
預金保険法102条第一号措置が適用されたことにより、株価がゼロにならなかったという意味で(足利銀行に比べ)株主責任が取られなかったという見方がある点も重要です(足利銀行の株価はゼロ*18になりましたが、足利銀行については次回の論文で取り上げます)。五味(2012)はその批判を理解しつつ、当時、りそな銀行は債務超過になかったため、「その条項で求められているステップを淡々と実行して危機を回避した」(p.109)、「外部から見ると、第一号措置、第三号措置のどちらを適用するのか金融庁は随分悩んでいるように見えたかもしれないが、悩んでいたのは債務超過であるかどうかの見極めだ」(p.123)としています。りそな銀行のケースにおいて、なぜ第三号措置ではなく、第一号措置が採られたかについては膨大な議論があり、当時の判断について否定的な議論もあります(例えば池尾(2009)などを参照してください)。しかし、本稿ではその点は他の書籍に譲り、公的資金注入のスキームや返済方法に焦点を当てます。

3.2 りそな銀行に対する公的資金注入
ここからりそな銀行への公的資金注入のスキームのイメージを具体的に説明します。前述のとおり、預金保険法102条スキームを発動するためには、内閣総理大臣が議長を務める金融危機対応会議にて内閣総理大臣が意思決定を行う必要があります。りそな銀行については、2003年5月17日に緊急の金融危機対応会議が開かれ、その意思決定がなされました(竹中(2006)は当時の金融担当相の観点からこの前後のイベントを細かく説明しているので、関心がある読者は同書をご参照ください)。
まず大枠の整理ですが、当時のりそな銀行は、債務超過には陥っていないものの、自己資本が薄かったために、りそな銀行が普通株式や優先株式を発行し、それを預金保険機構が購入することで資本増強しました(図表4. 預金保険第102条1号措置のスキーム図の下側)。公的資金を申請するにあたり、政府に収益改善策を含む経営健全化計画の提出が求められます*19。一方、預金保険機構は、機構債の発行や借入を通して、りそな銀行が発行する普通株式や優先株式を購入するための資金を調達しますが、この調達に際し、政府から保証をうけます(この点は後述します)。
日本振興銀行(ペイオフ)や次回取り上げる足利銀行(102条スキーム第三号措置)の場合、良い資産と悪い資産を峻別し、悪い資産を整理回収機構が買い取るというプロセスを踏みます。ですが、預金保険法102条第一号措置では公的資金注入がいわば唯一のツールなので、整理回収機構による資産買取りなどのプロセスがない点に注意してください。

3.3 預金保険機構による普通株式および優先株式の引き受け
りそな銀行に対する公的資金注入は約3兆円になりますが、ここではその内訳を確認します。まず、第一号措置の発動により発行された株式の内訳は、普通株式2,964億円に加え、議決権付きの3種類の優先株式1兆6,636億円*20であり、総額約1兆9,600億円の普通株式・優先株式を預金保険機構が購入することで公的資金注入がなされました(これにより国の議決権はおおよそ70%超*21になりました)。前述のとおり、公的資金注入のための資金は危機対応勘定から拠出されている点に注意してください。
また、りそな銀行は複数の銀行が合併して生まれた銀行であり、これらの銀行に対し、すでに優先株式*22として合計8,680億円、劣後ローンとして3,000億円*23が公的資金として注入されていました(この詳細はBOXを参照してください)。この部分の返済も当然求められるため、預金保険法102条スキームによる公的資金注入後、公的資金の残高は合計3兆1,280億円となりました*24。この3兆円という数字は、2000年代のりそなホールディングス(HD)の利益が2000億円前後であったことを考えると、その規模は巨額であることが分かります*25。
図表5. りそな銀行への公的資金の注入:普通株式と優先株式の概要は公的資金注入のために発行された普通株式と優先株式の概要になります。優先株式というと議決権が制限される代わりに配当が高いという設計が典型的ですが、りそな銀行が公的資金注入に際して発行した優先株式については、配当率が低く抑えられている点が特徴です。これは再建期間におけるキャッシュアウトを防ぐことが一因と考えられますが、配当が低い代わりに、普通株式への転換権に加え、満期は永久、かつ、普通株式と同等の議決権が付与されています。本来は、優先株式としてその信用力に見合った高い配当率が求められるところ、株価が値上がりすればキャピタルゲインが獲得できる転換権を付与することで、その見合いとして、配当率が低く抑えられた設計となっています(この観点では転換社債と一定の類似性を有するとも解釈できます*26)。*27
なお、公的資金は、2003年6月に、預金保険機構がりそな銀行の株式を購入するという形で注入されていますが*28、2003年8月にりそな銀行とりそなHDの株式交換を経て、りそなHDに対して公的資金注入がなされる形がとられます(そのため、本稿では公的資金注入のタイミングではりそな銀行、その後の流れについてはりそなHDと整理した書きぶりになっています)*29。ちなみに、大和銀行、近畿大阪銀行、奈良銀行という3行が合併する中で、2001年に大和銀HDが設立され、2002年にあさひ銀行が経営統合する中で、その名称が変わり、りそなHDとなりました(次回取り上げる足利HDは一時国有化された後、再民営化する中で設立されている点に違いがあるとみることもできます)。

3.4 預金保険機構の資金調達に対する政府保証
前述のとおり、預金保険機構は、約2兆円のりそな銀行の株式を引き受ける(購入する)という形で公的資金を注入していますが、預金保険機構はその資金調達にあたり、銀行からの借り入れや債券(預金保険機構債)の発行をしています。重要な点は、この資金調達にあたり、政府保証がなされている点です。仮にりそな銀行が破綻し、預金保険機構から調達した資金が返済できないことになれば、まずは業界に事後徴収を求めます。しかし、その負担が過大だということになれば、その保証をしている政府に損失が計上される可能性があります。
このように預金保険機構は政府保証により資金調達をし、りそなHDの株式を保有するという財務構造を有しますが、この関係をバランスシート(BS)で確認します。図表6. 危機対応勘定の貸借対照表および損益計算書(平成17年度)が平成17年度における危機対応勘定のBSを示していますが、資産側にりそなHDの株式が2兆円計上される一方、負債側については(政府保証が付された)債券と借入がそれぞれ1.6兆円と0.3兆円計上されていることが分かります。図表6の下段に危機対応勘定の損益計算書が記載されていますが、りそなHDの株式から配当金を得る一方、借入と債券の金利負担から費用が計上されており、その差が当期利益金になります。

3.5 りそなHDによる公的資金返済の流れ
りそな銀行は公的資金の注入を受けた後、前述のとおり、その返済が求められました。その元手は、経営改善をする中で計上した利益に加え、公募増資により得た資金をベースとしており、前述の普通株式や優先株式を買い取るなどして返済しました。りそな銀行は、経営陣を刷新した後、2003年9月中間決算で約1.8兆円の赤字を計上*30し、不良債権を大幅に処理しましたが(与信関連費用として、10,647億円を計上)、細谷(2013)は、これにより不良債権比率は11%から2003年度末に6%台になり、国内景気の回復とともに収益力が高まっていったとしています。図表7. りそなHDによる公的資金返済の流れが公的資金残高の推移になりますが、段階的に返済がなされていき、2015年6月に完済されています*31(りそなHDは、公的注入後15年での返済計画であったところ、12年間で前倒し返済しています)。
りそなHDの公的資金返済にあたっては株式の発行(増資)も看過できません。りそな銀行は、2010年に、「りそな資本再構築プラン」を発表し、増資と剰余金により公的資金の返済を大幅に行うとともに、残る公的資金についても5年後をめどに完済を目指すとしました。また、同プランでは、公的資金で増えていた優先株式を返済し、普通株式中心の資本構成にするとしています*32。図表7をみると、2011年に預金保険機構が保有する優先株式が大幅に減っていることがわかります。この際、りそなHDは6,000億円の株式を発行して資金調達し、それまで積み上げてきた利益と共に、優先株式を購入することで大幅に公的資金を返済しています。
早期健全化法優先株式(2本分)については、特別優先配当により、640億円の返済をしている点も特徴です(早期健全化法についてはBOXを参照してください)*33。これはあおぞら銀行による返済の事例を参照としたものと解されますが、この特別優先配当により、当該優先株式の帳簿価額を1,600億円から960億円に低下させるとともに*34、2015年6月に2本まとめて、処分価額960億円で、自己株式取得(売買)で買い戻して、これで最大おおよそ3兆円あった公的資金を完済しています。ちなみに、公的資金にかかる優先株式等については、その処分に際して、適正な価格を決定するうえで、学識経験者による処分価格審査会を経ることになっています(詳細は預金保険機構によるディスクロージャー誌などを参照してください)。
このように、りそなHDへの公的資金はリストラ等により収益の増強を図るとともに、適時増資することで返済がなされたと解釈できます*35。このようにしてみると、りそな銀行による公的資金返済は順調に思われる読者もいるかもしれません。もっとも、りそな銀行の返済の道のりが困難であったという声も少なくありません。例えば、預金保険機構がりそなの株式を購入して損失を計上せずに売却するには、直感的には購入した時の単価を、売却時の単価が上回る必要があります。しかし、図表8. りそなHDの株価の推移を見てわかるとおり、りそなHDの株価は2005年以降、低下傾向にあり、当初の単価を上回る形で優先株式を購入して返済することは困難でした*36。
なお、りそな銀行の事例では、株価がゼロにならなかったため、株主責任がとられなかったという議論がなされることが少なくありません。もっとも、前述の通り、普通株式及び優先株式の増資により、既存の普通株主は相応の規模の希薄化を受けており、株価がゼロにならなければ株主責任を問わないという考え方に異論もあります。りそな銀行のケースでは、議決権については、無配により株主総会の議決権が復活した早期健全化法優先株式も含めて7割以上の議決権を取得しましたし、株式配当については、普通株式は2006年3月期、優先株式については2005年3月期になるまで無配でした。

BOX 大和銀行、あさひ銀行、近畿大阪銀行に対する公的資金注入
旧安定化法
1998年に旧安定化法が成立し、金融システムの安定化のため、2001年3月までの時限措置として30兆円(うち、17兆円が金融機関の破綻処理財源、13兆円が金融機関に対する資本注入の財源*37)の資金が用意されました*38。これに伴い、政府は大手行に対して、1.8兆円の公的資金を注入しました*39。公的資金注入のため、預金保険機構の勘定として「金融危機管理勘定」と破綻処理のための「特例業務勘定」という二つの時限的な勘定が作られました*40。
本稿では、2003年に公的資金注入を受ける以前に、りそな銀行に対しては既に公的資金注入がなされていたと指摘しましたが、りそな銀行の前身の大和銀行とあさひ銀行に対しては、このタイミングで公的資金注入がなされました(そのスキームが図表9. 旧安定化法による資本増強措置の枠組み*41の通りです)。まず、金融機関は公的資金注入を受けるにあたり、「経営の健全性の確保のための計画」を金融危機管理審査委員会へ提出します。金融危機管理審査委員会とは、「公的資金の注入を決定する主体」であり、同委員会は、大蔵大臣、日銀総裁、預金保険機構理事長、3名の民間委員(国会承認人事)で構成されています(佐々波氏が委員長になったため、佐々波委員会と呼ばれます)。公的資金の注入に際しては、公的資金が必要な銀行が申請し、同委員会で承認します。その後、預金保険機構は、政府保証で資金を調達し、整理回収機構に資金を貸し付けます。公的資金を申請した金融機関は、劣後債や劣後ローンなどの形で、整理回収機構から資金提供を受けます。図表5の(4)には旧安定化法として大和銀行とあさひ銀行にそれぞれ劣後ローンが1,000億円と記載されていますが、この公的資金はこのようなスキームで注入がなされました。

早期健全化法
旧安定化法は1回目の公的資金注入のスキームでしたが、もともと注入金額も少なく(各行1,000億円で横並び)、劣後債権であったことから資本性が市場で評価されなかったことなど、その対応が不十分であったことから、1998年10月に早期健全化法が成立し、2回目の公的資金注入のスキームが生まれました。前述のとおり、旧安定化法は30兆円の枠組みでしたが、早期健全化法の成立に伴い、その規模は2倍の60兆円に引き上げられました(そのうち、17兆円が破綻処理の損失の穴埋め、18兆円が国有化の処理、25兆円が資金注入に割り当てられています*42)。そのスキームを示したものが図表10. 早期健全化法による資本増強措置の枠組み*44ですが、まず、該当金融機関は「経営健全化計画」を、政府直下の金融再生委員会に提出します。中曽(2022)では、金融再生委員会は「金融機関の破綻処理から公的資本注入までの危機管理を一元的に行う行政機関」(p.112)であり、「金融監督庁の上位機関として金融機関の監督ならびに検査を行う権能が与えられていた」(p.112)と整理しています*43。
早期健全化法では、金融再生委員会で承認された銀行に対して、預金保険機構は政府保証で資金を借り入れることで、整理回収機構を経由し、金融機関に対して優先株式や劣後ローンなどの形で資金注入します。図表5の(3)と(4)では、大和銀行、あさひ銀行、近畿大阪銀行にそれぞれどのような条件で資金注入されたかが記載されています。
なお、旧安定化法および早期健全化法前後の経緯は現在の破綻処理制度を考えるうえで非常に重要ですが、中曽(2022)および柳澤(2021)など確立した文献があります。本稿では紙面の関係でこの経緯を省略するため、その詳細を知りたい読者は同書をご参照ください。

4.おわりに
本稿では預金保険法102条スキームの全体像に加え、公的資金注入の事例としてりそな銀行の事例を取り上げました。本稿で取り上げられなかった論点は今後の論文で取り上げます。また、リーマン・ブラザーズの破綻など、2008年の世界金融危機を受け、TBTF問題を解決するべく、巨大な金融機関の秩序ある破綻が議論なされました。それを受けて、我が国では破綻処理制度が改正され、預金保険法126条の二が追加されました。同スキームについては次回の論文で取り上げることを予定しています。
参考文献
[1].池尾和人(2009)「不良債権と金融危機」慶應義塾大学出版会
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[4].服部孝洋(2022)「バーゼル規制入門―自己資本比率規制を中心に―」『ファイナンス』、28-39.
[5].服部孝洋(2023a)「システム上重要な銀行入門-「大きすぎて潰せない(TBTF)」問題について-」『ファイナンス』、40-51.
[6].服部孝洋(2023b)「金融機関の破綻処理及び預金保険入門」『ファイナンス』、50-60.
[7].細谷英二(2013)「日経ビジネス経営教室 どんな会社も生まれ変わる」日経BP
[8].中曽宏(2022)「最後の防衛線 危機と日本銀行」日経BP
[9].中野瑞彦(2016)「金融機関への公的資金投入と 金融システムの安定化問題」『桃山学院大学経済経営論集』第57巻第3号
[10].柳澤伯夫(2021)「平成金融危機 初代金融再生委員長の回顧」日本経済新聞出版
[11].預金保険機構(2007)「平成金融危機への対応 預金保険はいかに機能したか」金融財政事情
[12].りそなHD・りそな銀行(2003)「経営の健全化のための計画~りそな再生のための集中再生期間における計画~(預金保険法第105条及び金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律第5条)」
[13].ジョン・アーマー、ダン・オーレイ、ポール・デイヴィス、ルカ・エンリケス、ジェフリー・ゴードン、コリン・メイヤー、ジェニファー・ペイン(2020)「金融規制の原則」きんざい

*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、堀岡弘二氏、匿名の有識者など、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 下記をご参照ください。
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*3) 中曽(2021)では、「これらの措置は、いずれも1990年代の金融危機への実際の対応の中で開発されてきたものだ。例えば、公的資金注入については、1998年の旧『金融機能安定化緊急措置法』の下での金融危機管理審査委員会による資本注入や、翌1999年の『金融機能早期健全化法』に基づく大手邦銀に対する資本注入の事例がある」(p.133)としています。
*4) 「当該金融機関の自己資本の充実のために行う機構による当該金融機関に対する株式等の引受け等又は当該金融機関を子会社とする銀行持株会社等が発行する株式の引受け」を指します。これは預金保険法126条の二の特定第一号措置において流動性供給など他のツールがある点と大きな違いですが、この点は次回の論文で説明します。
*5) 預金保険機構のウェブサイトでは、「保険金支払コスト(「保険金支払コスト」参照)を超える資金援助を実施することができます。これにより、預金等の全額保護が可能となり、この場合、金融庁長官は、金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を行うこととなります」と説明しています。
*6) https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/kyousouseisaku/dainikai_files/fsa.pdf
*7) 服部(2023b)で説明しているとおり、ペイオフには二つの定義があり、ここでは広義の定義を用いている点に注意してください。詳細は服部(2023b)を参照してください。
*8) 五味(2012)では、「債務超過だと第一号措置は使えず、第二号あるいは第三号措置を適用することになる。どちらも預金を全額保護したうえで、二号は金融整理管財人を派遣して通常の破綻処理、三号は銀行を一時国有化して経営を継続するものだ」(p.118)としています。
*9) 同書p.122を参照。
*10) 過小資本で、かつ、システミック・リスクがない場合、金融機能強化法による資本参加という措置があります。
*11) アーマー等(2020)では例えば「米国では、ドッド・フランク法は、同法のもとで機能する政府機関がシステム上重要な銀行およびその他の金融機関をベイル・アウトするために財源を使うことを禁止する多数の条項を盛り込んでいる。(中略)危機において銀行が破綻することを許容してこなかった米国の歴史を考えると、これらの条項は、おそらく、まったくベイル・アウトを行わないというより、ベイル・アウトが遅くなる(そして、余計にコストがかかる可能性がある)、ということを意味するように思われる」(p.517-518)としています。
*12) この節は特に断りがない限り、預金保険機構(2007)の5章を参照にしています。
*13) 日本経済新聞(2011/4/15)「振興銀の破綻処理費用3500億円に 預金保険機構」
*14) 預金保険機構(2007)では「『預金保険機構の財務は複雑』と受止められる最大の原因は、勘定が七つ存在するためと思われる」(p.257)としており、その背景を説明しています。詳細は同書を参照してください。
*15) 厳密にいえば、1996年に預金等の全額保護の特例措置が導入され、5年間の時限措置として特別勘定が作られるなど、危機対応勘定以前にも、一般勘定以外の勘定が作られています。詳細は預金保険機構(2007)を参照してください。
*16) この表現は預金保険機構のディスクロージャー誌を用いています。
*17) https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000147.html
*18) 持株会社で上場会社であった足利HDは資産超過であり、株価ゼロではなく、いくらか残余財産の配当があったとされています。
*19) りそな銀行は、行員の年収の三割カットや人員削減などのリストラ策を発表しました。日本経済新聞(2003/05/31)「りそな健全化計画発表、収益増強リストラ頼み、来年度復配は微妙」などを参照。
*20) この優先株式は、第1種第一回優先株式(5,500億円)、第2種第一回優先株式(5,636億円)、第3種第一回優先株式(5,500億円)で構成されます。
https://www.fsa.go.jp/kenzenka/k_h221105/resona_hd_b.pdf
*21) この数字は金融庁「競争政策と公的再生支援の在り方に関する研究 競争政策と公的再生支援の在り方に関する研究会」の資料を参照しています。
https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/kyousouseisaku/dainikai_files/fsa.pdf
*22) この優先株式は、乙種第一回優先株式(4,080億円、大和銀行発行)、丙種第一回優先株式(600億円、近畿大阪銀行発行)、戊種第一回優先株式(3,000億円、あさひ銀行発行)、己種第一回優先株式(1,000億円、あさひ銀行発行)で構成されます。
*23) 金融機能安定化法による劣後ローンを大和銀行とあさひ銀行がそれぞれ1,000億円、早期健全化法による劣後ローンをあさひ銀行が1,000億円借り入れをしています。
*24) りそなHD・りそな銀行(2003)によれば、優先株式については、「株式移転または株式交換により、りそなホールディングスが発行する下記の優先株式」(p.33)、劣後ローン(劣後特約付借入)については、「債権者をりそなホールディングスに変更することによって、公的資金として導入している優先株式および劣後債務の償還・利払いのための財源を、りそなホールディングスにおいて統一的に管理する体制」(p.34)としました。
*25) 中野(2013)は、「投入された公的資金が経営規模に比較して巨額であったということである。既述したとおり公的資金返済の原資となるりそなHDの税引前当期純利益は単年度で2千億円前後であり、単純計算でも公的資金の全額返済までに15年程度を要する額が投入されていた。」(p.110)と指摘しています。
*26) 我が国における転換社債の利率は典型的にはゼロ%ですが、転換社債の保有者は利率がゼロ%の代わりに価格が上がったら株式に転換できるオプションを有しています。
*27) ここの資料は、りそなホールディングス・銀行銀行「『経営の健全化のための計画』の概要」を参照しています。詳細は下記を参照してください。なお、52円は、株式併合・分割の結果、現状の520円に相当します。
https://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/f-20040916-2/siryou/473-482.pdf
*28) 日本経済新聞(2003/12/09)「金融庁、公的資金新制度の資金枠、2兆円で調整」などを参照。
*29) なお、株式交換は当初から予定されていたとされています。
*30) 細谷(2013)では「私は何としてもバランスシート改革を断行すると決めていましたので、竹中氏とも相談し、2003年9月中間期決算で1兆7700億円の過去最大の赤字を計上しました」(p.44)としています。
*31) 日本経済新聞(2015/6/26)「りそなHDの東社長『歴史忘れず挑む』、公的資金完済を発表」
*32) 日本経済新聞(2010/11/6)「りそな、公的資金9000億円返済へ 公募増資6000億円発表」では「細谷英二会長は『現在のように(普通株式に転換される可能性のある)大量の優先株を抱えたままでは投資家がりそな株を買いづらい』と指摘。「普通株式中心のわかりやすい資本構成に変える」ことで低迷が続く株価の引き上げを目指す方針を示した」としています。
*33) https://www.dic.go.jp/katsudo/page_001226.html
*34) この際、その他資本剰余金勘定を財源にした点が特徴ですが、「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」については下記を参照してください。
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/haitou.pdf
*35) りそなHDの返済計画についてはりそなHDの下記のサイトで、完済に至るまでの返済実績を詳細に開示しています。
https://www.resona-gr.co.jp/holdings/investors/faq/capital.html
*36) 例えば、中野(2016)は「リーマン・ショックによって銀行業の株価が全般的に急落し、りそなHDもその例に漏れなかった。この結果、公的資金投入単価を上回る価格での優先株式の第三者への譲渡あるいは普通株式への転換・譲渡という公的資金返済への道が閉ざされた」と指摘しています。
*37) 中曽(2022)は、「破綻処理財源の17兆円は預金保険機構に設置された『特例業務勘定』で経理され、内訳として7兆円が交付国債で、10兆円が同勘定の政府保証借入枠として計上された。一方、資本注入財源として用意された13兆円については、新たに預金保険機構に設置された『金融危機管理勘定』で経理され、3兆円が交付国債、残りの10兆円が同勘定の政府保証借入枠という形で計上された」(p.94-95)と整理しています。ここでは中曽(2022)を引用しましたが、柳澤(2021)も参照してください。
*38) 中曽(2022)のp.94を参照。
*39) 当時の公的資金注入は申請主義であり、銀行は公的資金注入が不名誉(スティグマ)になりえることから、申請が困難でした。柳澤(2021)は当時、最も傷が浅いとされていた三菱東京銀行が声を上げ、主要行は皆受け入れるのが良いという形で注入がなされたとしています。柳澤(2021)のp.129-130を参照してください。
*40) 中曽(2022)のp.95を参照。
*41) https://report.jbaudit.go.jp/org/h15/2003-h15-0752-0.htm
*42) 中曽(2022)のp.113を参照。なお、区分経理については、「損失補填に割り当てられた17兆円は以前から存在した『特例業務勘定』で経理され、このうち7兆円の交付国債もそのまま残った。残りの10兆円が政府保証枠の形態となった。国有化銀行などを処理する18兆円は、預金保険機構に新たに設置された『金融再生勘定』で経理され、全額が政府保証枠だった。資本注入財源の25兆円は、同様に新たに設置された『金融機能早期健全化勘定』において経理され、やはり全額政府保証枠だった」(p.113)としています。
*43) 柳澤(2021)では「所期の効果を上げ得なかったにもかかわらず、大蔵省-預金保険機構-金融危機管理審査委員会のラインの維持」(p.135)に批判的な声があったことから、「総理府に所属する金融再生委員会が主導する形になった」(p.136)と指摘しています。
*44) https://report.jbaudit.go.jp/org/h15/2003-h15-0752-0.htm