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特集 新たな国家安全保障戦略等の策定と 令和5年度防衛関係予算について


主計局主計官 渡辺 公徳

0.はじめに
令和4年12月に策定された「国家安全保障戦略(以下「安保戦略」という。)」、「国家防衛戦略(以下「防衛戦略」という。)」、「防衛力整備計画(以下「整備計画」という。)」により構成される「三文書」の策定、そして、年末の令和5年度予算編成における防衛関係費の取扱いは、我が国の安全保障や国防の在り方を大きく変える歴史的な転換点になったと言われる。
筆者自身、担当主計官として、これまで、有識者の方々から幅広く意見を伺いつつ、防衛省や国家安全保障局(NSS)を中心とする関係省庁と議論を積み重ねてきた。その際、必ずや後世の検証に遭うことを意識し、先人から託された過去の教訓に学び、今を生きる世代と将来世代の双方に対して責任ある議論を進めるべく取り組んできた。
結果的に大幅な増額となった防衛費の取扱いや、これを裏付ける財源に関する政府の決定について、より説明が必要といった声もあると承知している。本稿では、これまで、政府において、どのような議論が行われ、決定し、国会等を通して国民の方々に説明してきたか、改めて整理したい。


1.安保戦略等の見直しの経緯
(1)「三文書」見直しの開始
我が国の防衛関係費について、これまで「GDP1%枠」により抑制されていたという見方があるが、必ずしもこれは正確でない。実際に政府として枠を設定したのは、昭和51年の三木内閣における「GNP1%」枠である。この枠は昭和61年12月、中曽根内閣により撤廃された。
それ以降の防衛力整備は、長期的な防衛力水準の在り方を示す「防衛計画の大綱(以下「防衛大綱」という。)」の下で、5年間にわたる主要装備品を含む防衛力の整備計画を示す「中期防衛力整備計画(以下「中期防」という。)」に沿って継続的・計画的に実施されてきた。
令和元年度から令和4年度予算までは、平成30年12月に策定された中期防に基づき、防衛関係費が編成された。この中期防は、令和5年度までの計画であった。しかし、北朝鮮の弾道ミサイルの発射、周辺国の一方的な現状変更の試みの深刻化など、我が国周辺の安全保障環境が急速に厳しさを増す中、令和3年10月8日、国会での岸田総理所信表明演説において、1年前倒しで「三文書」の改定に向けた議論を始めることが示された。これ以降、国家安全保障会議四大臣会合(出席者は基本的に、総理大臣、官房長官、外務大臣、防衛大臣、財務大臣。)を中心に「三文書」改定に向けた論点整理が進められた。
さらに、同年12月6日の国会での総理の所信表明演説では、「あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化」することや、「三文書」を概ね一年かけて策定することが明言された。
こうした表明を受け、同月の国会においても中長期的な防衛費の在り方について議論がなされ、総理からは、「何よりも大事なことは、国民の命や暮らしを守るために必要なものは何なのか、こうした現実的な議論をしっかりと突き詰めていくこと。防衛費についても、金額あるいは結論ありきではなく、現実的な議論の結果として、必要なものを計上していく」旨説明している。

(2)令和4年度予算編成とロシアによる
ウクライナ侵略
「三文書」改定の議論と同時並行で進められた令和4年度予算編成では、中期防対象経費として5.2兆円(SACO*1・米軍再編関係経費*2を含めた防衛関係予算は5.4兆円)を確保し、令和3年度補正予算(7,738億円)と合わせて、従来領域における防衛態勢・装備品の整備のほか、ミサイル防衛、南西地域の防衛力強化等に必要な予算を計上した。
令和4年2月24日、ロシアによるウクライナ侵略が開始され、ウクライナの近隣諸国を中心に軍事力強化の流れが強まる中、国内外で安全保障の専門家を中心に軍事動向のみならず、防衛費や戦費に関する様々な分析や評価もなされた。その中で注目を集めたものの一つが、ロシアがウクライナ侵略に向けて軍事面だけではなく、財政・金融面で着々と準備を進めていたのではないか、との分析である。すなわち、ロシアは平成26年のクリミア危機以降、外貨準備を増加させつつ、ドルへの依存を低減し、新型コロナの流行前までは政府債務残高(対GDP比)が減少傾向であることが確認されている。
令和4年4月26日、ロシアによるウクライナ侵略などの影響もあり、世界的に原油価格や物価の高騰が進む中、日本国内では原油価格・物価高騰等総合緊急対策が決定された。その際、総理は、記者会見において、「国民の命や暮らしを守るために何が必要なのか、これをしっかり具体的に現実的に議論をし、そして、それをしっかり積み上げていく。その結果、必要とされるものの裏づけとして予算をしっかり用意しなければならない。こうした物の考え方の順番で予算のしっかりとした確保を考えていきたい」旨言及し、数字ありきではなく、必要な事業を積み上げ、その裏付けとなる予算を確保することが改めて強調された。

(3)日米首脳共同声明と防衛財源を巡る議論
令和4年5月23日には、東京の迎賓館赤坂離宮において、日米首脳会談が開催された。その共同声明において、「岸田総理は、日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、バイデン大統領は、これを強く支持した。」との記載が盛り込まれた。
日米首脳共同声明において、日本の防衛費の増額について言及されることは極めて稀である。当時開会中であった国会においても、この声明を受けて、防衛費の増額ありきではないか、財源はどうするのか、といった観点から、様々な議論がなされた。こうした中で、総理からは、「(防衛力強化の)内容と、規模と、そして財源と3点セットでこれからしっかりと議論を行っていく」ことが明言された。
国会では、財務省に対しても防衛費や財源の在り方について問われ、鈴木財務大臣からは、「昨今のウクライナ情勢について、これを対岸の火事としてではなく、我がこととして考えれば、軍事的緊張は、経済・金融・財政に甚大な影響を与え得るものであり、国家の資金や物資の調達能力の脆弱性は、安全保障上のリスクに直結する問題」と述べた上で、財政制度等審議会の議論を紹介し、防衛力を強化することと、有事に十分に耐えられる経済・金融・財政を構築すべく、マクロ経済を運営することを両立させ、持続的に進めることが重要である旨説明された。

(4)骨太方針2022
令和4年6月7日に閣議決定した「骨太方針2022」においては「国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を5年以内に抜本的に強化する」とした上で、「本年末に改定する「国家安全保障戦略」及び「防衛計画の大綱」を踏まえて策定される新たな「中期防衛力整備計画」の初年度に当たる令和5年度予算については、同計画に係る議論を経て結論を得る必要があることから予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」こととされた。その上で、同日の経済財政諮問会議では、総理から、改めて、「内容、規模、財源の3点セットで議論を行っていく」ことが強調された。

(5)防衛省による概算要求
令和4年8月末、防衛省から財務省に対して令和5年度概算要求が提出された。防衛省は、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力、持続性・強靱性等を重点分野に定め、要求金額を定めない事項だけの要求もなされた。

(6)国力としての防衛力を総合的に考える
有識者会議
令和4年9月には、総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方を主なテーマとして、内閣総理大臣が開催する「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議(以下「有識者会議」という。)」が設置された(この有識者会議とは別に、NSS・外務省・防衛省等の関係者は、同年1月から17回にわたり、政府外の有識者との意見交換を実施。)。
有識者会議では計4回にわたる議論を経て、同年11月22日に報告書が取りまとめられ、佐々江賢一郎座長から総理に手交された。
報告書では、研究開発、公共インフラ、サイバー安全保障、国際的協力の分野において、あらゆる能力を、国力としての防衛力という観点で総合的・一体的に利活用すべきであり、防衛力の抜本的な強化とそれを補完する総合的な防衛体制の強化の適切な連携が確保されるようにすべき、と指摘している。
また、「海外依存度が高いわが国経済にとっては、エネルギー等の資源確保とともに、国際的な金融市場の信認を確保することが死活的に重要」であり、「有事における我が国経済の安定を維持できる経済力と財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない点にも留意が必要であり、その意味で、防衛力の抜本的強化を図るには、経済情勢や国民生活の実態に配慮しつつ財政基盤を強化することが重要である」と提言している。
具体的な財源については、まずは歳出改革により財源を捻出していくことを優先的に検討すべきであり、なお足らざる部分については、国民全体で負担することを視野に入れ、国債発行を前提とせず、負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要なことを明確にして、理解を得る努力を行うべき、と指摘された。

(7)財政制度等審議会建議
令和4年11月29日に公表された、財政制度等審議会の「令和5年度予算編成等に関する建議」は、「とりわけ「中期防衛力整備計画」は向こう5年間の装備品取得計画を含むことから、特に財政面に与える影響が大きい」と指摘した上で、以下の論点について議論を尽くし、結果を明らかにする必要がある、としている。
・アメリカを中心とした同盟国・同志国との連携を前提としているか
・防衛力の抜本的強化に向け、各重点分野間の縦割りを排除し、具体的な効果及び効果の最大化が見込めるか
・具体的な事態を想定し、費用対効果の高い装備品・研究開発等を優先しているか
・地元調整を含め現実的に「5年以内」に配備可能か
・研究開発事業は、緊要性・優先度を考慮しているか
・防衛技術・産業基盤について、世界で通用する強みを追求した持続的な発展に向かっているか
・国力としての総合的な防衛力を強化するため、防衛省のみならず関係省庁の施策・資源を活かしているか
・既存事業の見直しを含め、防衛省自身が十分に効率化・合理化を図っているか
財政当局としては、これらの指摘についても的確に反映すべく所要の調整を図った。

(8)財務大臣・防衛大臣協議と総理指示
有識者会議の報告書が総理に手交されたのと同日、政府与党政策懇談会が開催された。この会議において、総理から、防衛力の抜本的強化に向け、関係大臣間で調整を加速する旨の発言があったことを受け、財務大臣と浜田防衛大臣が直接面会し、協議が行われた。
両大臣の協議では、財務大臣から、
・ 安全保障環境が厳しさを増す中、防衛力の5年以内の抜本的強化は我が国にとって極めて重要であること、
・ 次期中期防の内容について実効性や実現可能性の観点から精査していく必要があること、
・ 防衛力の抜本的強化を前提に、必要となる国民負担は出来る限り小さくなることが望ましいこと
といった点を伝えた上で、今後、防衛大臣とよく調整していきたい旨発言した。
これに対し、防衛大臣からは、「将来にわたり我が国を守り抜くため、防衛力を抜本的に強化することと防衛力整備計画の総額をどの程度確保できるかが極めて重要であることについて、国民に分かりやすく丁寧な説明ができるような防衛力整備計画としたい。今後、防衛力の抜本的強化に必要な予算の確保に向けて、財務省と調整を加速していきたい」旨応答した。
このような大臣レベルでの協議を経て、令和4年11月28日、総理大臣が財務大臣と防衛大臣を官邸に呼び、以下の指示がなされた。
1.現下の安全保障環境を踏まえ、防衛力を抜本的に強化する。中核となる防衛費については、5年内に緊急的にその強化を進める必要がある。そのための予算は、財源がないからできないということではなく、様々な工夫をしたうえで、必要な内容を迅速に、しっかり確保する。
2.令和9年度において、防衛費とそれを補完する取組をあわせ、現在のGDPの2%に達するよう、予算措置を講ずる。
3.他方、抜本的に強化された防衛力は、令和9年度以降も将来にわたり、維持・強化していく必要がある。国家の責任として、まずは歳出改革に最大限努力するとしても、これを安定的に支えるためのしっかりした財源措置は不可欠。
4.このため、年末に、
(1)緊急的に整備すべき5年間の中期防衛力整備計画の規模
(2)将来にわたり、強化された防衛力を安定的に維持するための、9年度に向けての歳出・歳入両面での財源確保の措置
を、一体的に決定する。
こうした原則の下で、与党との協議を進めて、政治決着する。
重ねて、同年12月5日には、総理から、財務大臣と防衛大臣に対し、以下の指示が下った。
1.調整中の次期5年間の中期防の規模については、抜本的強化を進めるための必要な内容をしっかり確保するため、与党とも協議しつつ積み上げで約43兆円とすること。
2.令和9年度以降、防衛力を安定的に維持するための財源、及び、5~9年度の中期防を賄う財源の確保について、歳出改革、剰余金や税外収入の活用、税制措置など、歳出・歳入両面の具体的措置について、年末に一体的に決定すべく、調整を進めること。
「三文書」の策定に向けた政府内での具体的な議論は、令和3年末から合計18回にわたり開催された国家安全保障会議四大臣会合が中心であるが、これに加え、これまで振り返ったとおり、外部有識者との議論、閣僚級協議などを経た上で、総理から指示が出され、政府としての方針の具体化が進められた。

(9)政府・与党における議論
与党では、「外交安全保障に関する与党協議会」が令和4年10月から開催され、同協議会の下に設置された実務者による「与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム」で「三文書」の改定に向けた議論が行われた。
そして同年12月8日、与党幹部と総理を始めとする関係閣僚が参加する政府与党政策懇談会が開催された。
懇談会では、「与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム」の協議状況等について議論が行われた上で、総理から、次のように述べている。
我が国を取り巻く安全保障環境が急速に厳しさを増す中、我が国の領土、領海、領空を断固として守り抜くため、抑止力と対処力を強化することは最優先の使命です。中核となる防衛費については、5年以内に緊急的にその強化を進める必要があります。このため、この防衛力整備計画の規模については、防衛力の抜本的強化に必要な内容を積み上げ、43兆円程度といたします。その結果、令和9年度には防衛費とそれを補完する取組を合わせ、現在の国内総生産(GDP)の2パーセントに達するよう予算措置を講じます。
抜本的に強化された防衛力は、令和9年度以降も将来にわたり維持強化していく必要があり、国家の責任としてこれを安定的に支えるためのしっかりした財源措置が不可欠です。令和9年度以降、防衛力を安定的に維持するためには、毎年度約4兆円の追加財源の確保が必要となります。その約4分の3については、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設など、様々な工夫を行うことにより賄うことといたします。その上で、様々な御議論がありましたが、残り約4分の1の約1兆円強については、国民の税制で御協力をお願いしなければならないと考えております。ただし、その際、現下の家計を取り巻く状況に配慮し、個人の所得税の負担が増加するような措置は行わないことといたします。
また、令和5年度から9年度までの間の新たな防衛力整備計画43兆円の財源についても同様の考え方で確保いたします。まずは歳出改革や特別会計からの受入れ、コロナ対策予算の不用分の返納、国有財産売却などの工夫を先行して始めることとし、来年度からの国民の負担増は行わず、令和9年度に向けて複数年かけて段階的な実施を検討いたします。
こうした考え方の下、引き続き政府与党で緊密に連携して、防衛力強化に係る歳出歳入両面での財源確保の具体的内容を年末に一体的に決定いたします。税制部分については、与党税制調査会において税目、方式等、施行時期を含めて検討いただくようお願いいたします。
この後、与党において、国防関係の会議、税制調査会を中心に、「三文書」の内容や財源の在り方が集中的に議論され、自民党・公明党のそれぞれの党内プロセスを経て「三文書」が了承された。
これを受け、政府内でも国家安全保障会議と閣議において「三文書」が決定された。


2.新たな「三文書」等のポイント
(1)「三文書」の体系の見直し
「三文書」の体系は、これまで、安保戦略の下に、10年程度の期間を念頭に保有すべき防衛力の水準としての自衛隊の体制を規定した防衛大綱、そして、5年間の経費総額と主要装備の整備数量を示した中期防、という整理であった。
この体系では、国防のための戦略文書がないといった問題意識から、今回の改定に合わせて、安保戦略の下、防衛の目標を設定し、達成するための方法と手段を示す防衛戦略と、概ね5年後と10年後に保有すべき防衛力の水準と5年間の経費総額・主要装備品の整備数量の両方を示した整備計画を策定することとなった。また、安保戦略については、従来の外交、防衛に加え、経済安保、技術、サイバー、情報等の安保戦略に関連する政策を含めて戦略的指針を定めている。(図表1:新たな「三文書」と年度予算の関係)

(2)安保戦略のポイント
財政面から見て、安保戦略の最大のポイントは、「2027年度において、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組をあわせ、そのための予算水準が現在の国内総生産(GDP)の2%に達するよう、所要の措置を講ずる」と決定したことである。
これは、数字ありきではなく、安全保障環境が一層厳しさを増す中、必要とされる防衛力の内容を積み上げた上で、同盟国・同志国等との連携を踏まえ、国際比較のための指標も考慮し、我が国自身の判断として導き出された。
具体的には、「三文書」の検討の中で、整備計画の対象となる経費に加え、安保戦略において総合的な防衛体制を強化するための取組とした、(1)研究開発、(2)公共インフラ、(3)サイバー安全保障、(4)我が国及び同志国の抑止力の向上等のための国際協力の四つの分野を、防衛力の抜本的強化を補完する取組の中核をなすものとして新たに位置づけることとなった。その上で、歴代の政権で、これまでNATO定義を参考にしつつ、安全保障に関連する経費として仮に試算してきた際に含めてきたSACO・米軍再編関係経費、海上保安庁予算、PKO関連経費等に加え、四つの分野に関する経費についても、「補完する取組」として計上されることとなった。
また、経済財政基盤の強化についても触れられ、「我が国の経済は海外依存度が高いことから、有事の際の資源や防衛装備品等の確保に伴う財政需要の大幅な拡大に対応するため、国際的な市場の信認を維持し、必要な資金を調達する財政余力が極めて重要であり、わが国の安全保障の礎である経済・金融・財政の基盤強化に不断に取り組む」ことを示した。
有事であっても日本の信用や国民生活が損なわれないようにし、平時から財政余力を維持・強化しておくことは不可欠であり、安保戦略では、初めて、安全保障の観点からの経済・金融・財政に関する政府としての方針を示すことになった。

(3)防衛戦略のポイント
防衛戦略においては、防衛力の抜本的強化を、「我が国への侵攻を我が国が主たる責任をもって阻止・排除し得る能力」を持つこととし、そのために重視する能力として以下の7分野を位置付けた。
(1)スタンド・オフ防衛能力(国産ミサイルの開発・量産、トマホーク等の外国製ミサイルの取得等)
(2)統合防空ミサイル防衛能力(イージス・システム搭載艦、迎撃ミサイルの整備等)
(3)無人アセット防衛能力(各種無人機の取得、調査、研究等)
(4)領域横断作戦能力(宇宙・サイバー・電磁波の能力強化、陸海空の統合運用等)
(5)指揮統制・情報関連機能(防衛省/自衛隊システムのサイバー強化、情報分析・対処強化等)
(6)機動展開能力・国民保護(輸送力強化、空港・港湾施設等の利用拡大、住民避難への活用等)
(7)持続性・強靱性(弾薬・誘導弾・燃料の保有、装備品の可動率向上、施設の老朽化対策等)
また、装備品の生産・技術基盤をいわば防衛力そのものと位置づけ、持続可能な防衛産業の構築、リスク対処、販路拡大等に取り組んでいくとしている。具体的には、防衛産業が適正な利益を確保するための新たな利益率算定方式の導入、下請け企業を含むサプライチェーン全体のサイバー等の基盤強化、他に手段がない場合に国が製造設備等を保有する形態の検討などが挙げられた。
加えて、防衛装備移転円滑化のため、防衛装備移転三原則等の制度の見直しの検討、基金を創設し、必要に応じた企業支援を行うこととしている。

(4)整備計画のポイント
整備計画では、令和5年度から令和9年度までの5年間における防衛力整備の水準に係る金額を43兆円程度、新たに必要となる事業に係る契約額(物件費のみ)を43.5兆円程度とした。(図表2:整備計画の概要、図表3:整備計画の内訳)
その上で、計画期間の下で実施される各年度の予算の編成に伴う防衛関係費を40.5兆円程度(令和9年度は、8.9兆円程度)とし、その前提として以下の措置をとることとしている。
・自衛隊施設等の整備の更なる加速化を事業の進捗状況等を踏まえつつ機動的・弾力的に行うこと(1.6兆円程度)。
・一般会計の決算剰余金が想定よりも増加した場合にこれを活用すること(9,000億円程度)。
なお、格段に厳しさを増す財政事情と国民生活に関わる他の予算の重要性等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ、防衛力整備の一層の効率化・合理化を徹底し、重要度の低下した装備品の運用停止、費用対効果の低いプロジェクトの見直し、徹底したコスト管理・抑制や長期契約を含む装備品の効率的な取得等の装備調達の最適化、その他の収入の確保等を行うこととし、上記剰余金が増加しない場合にあっては、この取組を通じて実質的な財源確保を図ることとしている。
また、各年度の予算編成においては、情勢の変化等の不測の事態にも対応できるよう配意するとともに、各事業の進捗状況、実効性、実現可能性を精査し、必要に応じてその見直しを柔軟に行うこととされている。
さらに、本計画期間中、令和5年度から令和9年度までの5年間において、装備品の取得・維持整備、施設整備、研究開発、システム整備等を集中的に実施するため、その後の整備計画においては、これを適正に勘案した内容とし、令和9年度の水準を基に安定的かつ持続可能な防衛力整備を進めるものとしている。
その上で、令和9年度以降、防衛力を安定的に維持するための財源、及び、令和5年度から令和9年度までの本計画を賄う財源の確保については、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設、税制措置等、歳出・歳入両面において所要の措置を講ずることとしている。

(5)与党税制改正大綱のポイント
与党税制調査会では防衛力強化に係る財源確保のための税制措置に関する議論が行われ、最終的に取りまとめられた与党税制改正大綱では、税制措置について、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度においては1兆円強を確保することとされた。具体的な税目については、法人税、所得税、たばこ税が対象とされ、措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とされた。


3.令和5年度予算の概要
(1)防衛関係予算(防衛省所管)
令和5年度の整備計画対象経費については、整備計画初年度から可能な限り事業を開始するため、歳出ベースで6兆6,001億円(対前年度+1兆4,213億円)、さらに、契約ベースでは8兆9,525億円(対前年度+5兆4,546億円)を確保し、歳出額以上に増加した。
その内容については、装備品等の購入や研究開発だけでなく、装備品等の可動数向上のための維持整備、弾薬の取得、庁舎・隊舎の老朽化対策を含む施設整備についても大幅な伸びとなっている。(図表4:令和5年度整備計画対象経費の内訳)
この整備計画対象経費にSACO関係経費及び米軍再編関係経費を加え、システム関係経費のうちデジタル庁計上分を含む令和5年度の防衛関係予算は、歳出ベースで6兆8,219億円(対前年度+1兆4,214億円)、契約ベースで9兆5,768億円(対前年度+5兆5,054億円)となっている*2。
前述のとおり、整備計画においては、防衛力整備の一層の効率化・合理化の徹底等の取組を通じて実質的な財源確保を図ることとしているところ、令和5年度においては、重要度の低下した装備品の運用停止や、長期契約の活用、原価の精査等による調達の最適化などを図ることにより、▲2,572億円の縮減効果を実現している。

(2)防衛財源の確保
抜本的に強化される防衛力は、将来に亘って維持・強化していかねばならず、これを安定的に支えるためには、しっかりとした財源を確保することが不可欠である。
即ち、令和9年度の整備計画対象経費を8.9兆円としている中、令和4年度の同経費5.2兆円との差額である約4兆円に対して、裏付けとなるしっかりとした財源が毎年度必要となる。
その財源確保に当たっては、国民のご負担をできるだけ抑えるため、あらゆる工夫を検討した結果、(1)歳出改革、(2)決算剰余金の活用、そして、(3)様々な取組により確保した税外収入等を防衛力整備に計画的・安定的に充てるための新たな資金制度「防衛力強化資金」の創設により、必要な財源の約4分の3を確保することとしている。
それでも足りない約4分の1については、総理から、「将来世代に先送りすることなく、令和9年度に向けて、今を生きる我々の将来世代への責任として対応すべきもの」として、「税制措置での協力をお願いしたい」旨表明された*3。(図表5:令和9年度に向けて新たに必要となる防衛費をまかなう財源)
その上で、令和4年度の中期防対象経費(5.2兆円)から令和5年度の整備計画対象経費(6.6兆円)への増額(1.4兆円程度)の財源については、歳出改革(0.2兆円程度)と税外収入(1.2兆円程度)により確保している。
また、令和5年度に防衛力強化のための財源として確保した税外収入の総額は4.6兆円程度であり、このうち、前述の1.2兆円程度を超える分(3.4兆円程度)は防衛力強化資金に繰り入れ、令和6年度以降の財源として活用することとしている。(図表6:令和5年度予算における防衛力強化のための対応に係る税外収入(全体像))

(3)建設公債の発行対象
財政法において、国の歳出は租税等によって賄うという、いわゆる「非募債主義」を定めつつ、公共事業費等の財源に限って公債(建設公債)の発行を認めている。建設公債の発行が開始された昭和40年代は、財源不足が限定的であったため、公債発行は建設公債にとどまり、かつ、その発行対象も制限的に対応していた。昭和41年には、福田大蔵大臣(当時)が、防衛費は消耗的な性格を持ち、建設公債発行の対象としない旨の答弁をしていた。
他方、昭和40年代後半以降、公債発行対象経費の範囲は徐々に拡大し、また、昭和50年度以降、財政状況の悪化に伴い、一般会計の歳入不足を補うため、建設公債に加えて特例公債も発行された。
これ以降、一部の期間を除けば、現在に至るまで、防衛関係費を含めた歳出全体に対して不足する歳入を公債発行収入によって賄う状況が継続している。また、国際的な基準を見ても、例えば、国民経済計算(SNA)における軍事関連費用の取扱いについて、防衛施設整備や装備品取得の一部についても総固定資本形成と整理されるよう変化してきている。
こうした中、新たな安保戦略等において、防衛力の抜本的な強化を補完する取組として、防衛省と海上保安庁との連携や公共インフラ整備等が位置付けられた。
そこで、令和5年度予算では、海上保安庁の船舶や空港・港湾等の公共インフラ整備が建設公債の発行対象であることを踏まえ、安全保障に係る経費全体で整合的な考え方をとる観点から、防衛省・自衛隊の施設整備に係る経費2,454億円、艦船建造に係る経費1,888億円、合計4,343億円について建設公債の発行対象として整理することとしている。
上述のとおり、防衛関係費の増額に必要となる財源は、国債発行に拠らずに確保することとしているため、予算全体の中で発行され得る赤字国債の一部を、防衛省・自衛隊の施設整備などに相当する分、建設公債に振り替えることになる。


4.今後の課題
昨年12月に策定された「三文書」は反撃能力の保有の明記や、防衛関係費の大幅な増加など、歴史的な転換と言われる戦略・計画となった。
安全保障の観点から見た経済・金融・財政の在り方や財源確保の必要性についても言及されており、令和9年度に向けて、そして、令和10年度以降も見据えて必要な財源をしっかりと確保し、有事に備えた財政余力を維持・強化することが重要である。
また、上述のとおり、整備計画においては、各年度の予算編成において、各事業の進捗状況、実効性、実現可能性を精査し、必要に応じてその見直しを柔軟に行うこととされている。財政当局として、予算編成等を通じ、引き続き各事業の内容を精査しつつ、実効的な防衛体制の確立に貢献していくこととしたい。

*1) SACO関係経費とは、沖縄に関する特別行動委員会(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告(平成8年12月2日)に盛り込まれた措置を実施するために必要な経費を指す。
*2) 米軍再編関係経費とは、「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」(平成18年5月30日閣議決定)及び「平成22年5月28日に日米安全保障協議委員会において承認された事項に関する当面の政府の取組について」(平成22年5月28日閣議決定)に基づく再編関連措置のうち、地元の負担軽減に資する措置を実施するために必要な経費を指す。
*3) 令和4年12月23日に閣議決定された政府の令和5年度税制改正大綱においては、前述の与党税制改正大綱と同様の内容が盛り込まれた。